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一章
5話 清鷹side
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時が経ち清鷹は非の打ち所がない青年に育った。爺は中学生に上がる頃には引退してしまって少し寂しかったし、やはり要所要所で母親のサポートがないのはきつかったが常に周りや環境に感謝しぐれずにやっていた。結果的に清鷹にはもう3人異夫兄弟が増えていて、5人の真性の弟達の兄となっていた。母親の一言があってから笑みを見せる事は少なくなっていて凛々しい顔立ちから怖がられることもあったが、話してみれば誤解は解けた。
元来割と人懐こい性格だった為、友人も多い。勉強の楽しさを覚え、学業によく励み成績は優秀である。清鷹にとって学校は大好きで大切な居場所となった。スポーツも清鷹の精神安定に一役買った。小学校の中学年からテニスを始め、それなりの大会でも優秀な成績を収めてきた。随分体躯が良くなってしまったが、父親の遺伝だろう。
母と疎遠な清鷹は親戚以外で他の産胎とも接する機会は滅多になく完全なる真性の社会で育ってきた。
この社会では真性男子と産胎男子の教育は完全に別で行われる。共学は存在しない。
大方の真性男子が大学まで進学するのに比べて良家の産胎でも小学校を卒業すれば直ぐに花嫁教育が始まる。産胎専門の高等教育学校へ進学するものもいるが、特に何か極めたい分野があるか結婚後に見識を広めたい場合に学ぶ程度である。
そうなると初婚年齢はどうして真性と産胎では離れてしまうのである。
父親は特に清鷹に政略結婚などはさせる気はないようだったが大学生の辺りから、度々産胎達との交流を進めて来るようになった。
「何事も会ってみなくては始まらない」
父に言われそれもそうか、と思い親族の案内で産胎との交流の場に参加した。
サロンでのティーパーティだったがやはり若干真性男子が多い。皆必死に産胎たちの気を惹こうとするなか、初めて参加した清鷹は産胎たちの注目を掻っ攫っていた。初婚前の産胎達は皆清鷹の元に集まって可愛らしく囀っていた。
(思いの外幼さが目立つな…直ぐに気が移ろいそうな連中だ)
産胎は大事にされるがあまり多少わがままだ。目の前の産胎達は子供っぽさが存外目立つ。
他の真性からのやっかみの視線も刺さっているし、あからさまに気を惹こうとアピールする産胎の少年達を持て余した。
気持ちを切り替え20代前半の落ち着いた雰囲気の産胎と話してみて、この人とは会話が合うと思った清鷹だったが、
「私はもう2人夫がいて、今日は気晴らしに参加してみました。」
と言われ、わかっていたことではあったがいざ目の前の人には既に関係性の確立された真性の相手が2人もいるのだと思うと幼い頃に父と母の関係に思いを馳せた苦い日を思い出さずにはいられなかった。きっとこの人の落ち着いた雰囲気やそつのない話術は2人の夫と育んだものに違いない。
帰って父に母に関わる部分は伏せて大方正直に気持ちを話すと父はまじまじと
「清鷹、真性は選ぶ方ではない、選ばれる方だ。それに正夫として初めての夫となるのは名誉なことだがそれにこだわることはない。気の合う方と仲良くやっていくのは幸せなことだ。それに先にいる夫達には敵わないなんて一緒に暮らしてみないではわからないじゃないか。」
と清鷹を諌めた。尤もである。
母の第二夫が父を凌いだように、関係性はどうなるかはわからない。けれど、自分の相手が他の夫に想いを馳せているのをみたとき清鷹は己の鬱屈した思いが溢れ出すのではないかと憂いていた。
清鷹も我ながら面倒な性格になったものだ、自嘲するのだった。
初めての交流の場にいた産胎達からは漏れなく縁談の持ちかけがあったし、その後も別の交流に参加する度に話が持ち上がった。
けれど初めて会った時の印象がパッとしないのもあって釣書が届く前にそれとない理由をつけて断ってもらっていた。父は咎めることもなかったが何か言いたそうにいつも言葉を飲み込んでいた。そうこうしている間に清鷹も20代後半に差しかかっていた。
父の会社に入社して若くして役員就任。これは全て自分の実力ではなく父のコネによるものだと清鷹自身は思っている。格好は悪いが与えてもらった居場所で頑張ってどう恩返ししていくかが清鷹に託された本分だ。
清鷹はもっぱら仕事に全力を尽くしていた。
もう結婚しなくてもいいか、などと現実逃避し始めた矢先に父から縁談を持ちかけられた。
「相手は取引先のひとつの笹川造船の社長令息だ。いいか、これは命令だ、清鷹。断るなんて絶対許さないぞ。」
珍しく父が強く言い含める。笹川造船、昔ながらの名の知れた企業である。清鷹自信も充分好き勝手したしいいか、という境地になっていた。
釣書をみると10以上も歳が離れている。
写真に目を落とすと不思議な感覚に陥る。まだあどけなさの塊なのに、内に媚びる色気を感じる。何だか魅了されるような…。
「見合いには母様も出席するからな。」
(あの人も来るのか…)
清鷹は内心晴天の霹靂であった。
当日、実際にあった和泉美琴は絵物語の仙女のようであった。
彼の周りだけキラキラと発光しているかのような奇妙な錯覚に陥った。
清鷹は生まれて初めてのぼせ上がるような感覚を味わった。
何か妖狐の類なのではないかと疑うほどに美琴は美しくみえる。
それでいて話し方は慎ましく恥じらい儚げだ。美琴の一挙一動に夢中になる。清鷹はこういうのが一目惚れというのかも知れないと思った。
無事に見合いが終わり、美琴達を見送った。
父は仲人夫婦と話をしている。ぼんやりと美琴達が今し方去った方を見つめていた清鷹は見合いの最中に思わず美琴に夢中な心中を吐露してしまった自分に戸惑いを感じていた。
「あなたのような方の正夫になれるならば私は…」
自分は一体何を言おうとしたのか。
(正夫か…正夫になっても愛されないのならば…)
「清鷹…」
母親が後ろから徐に清鷹に声をかけてきた。
「……」
母親も随分と小さくなったものだ、朧げに冷たい印象が残っていたが今の清鷹は母に臆することはなかった。
「和泉さんの奥さんは、僕の母校の後輩で昔から親しい方なんだ。僕の顔を潰さないでおくれよ?」
「はい」
この縁談はもしかしたら母がもたらしたものかも知れない。だとしたら、父があそこまで強い言葉を使ったのも納得できる、と清鷹は思った。
だとしても、美琴に会ってしまった今はもうあの高嶺の花をどうしても手に入れたいと思うのだった。
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いや、思い切り名前間違えたまま投稿してたw
元来割と人懐こい性格だった為、友人も多い。勉強の楽しさを覚え、学業によく励み成績は優秀である。清鷹にとって学校は大好きで大切な居場所となった。スポーツも清鷹の精神安定に一役買った。小学校の中学年からテニスを始め、それなりの大会でも優秀な成績を収めてきた。随分体躯が良くなってしまったが、父親の遺伝だろう。
母と疎遠な清鷹は親戚以外で他の産胎とも接する機会は滅多になく完全なる真性の社会で育ってきた。
この社会では真性男子と産胎男子の教育は完全に別で行われる。共学は存在しない。
大方の真性男子が大学まで進学するのに比べて良家の産胎でも小学校を卒業すれば直ぐに花嫁教育が始まる。産胎専門の高等教育学校へ進学するものもいるが、特に何か極めたい分野があるか結婚後に見識を広めたい場合に学ぶ程度である。
そうなると初婚年齢はどうして真性と産胎では離れてしまうのである。
父親は特に清鷹に政略結婚などはさせる気はないようだったが大学生の辺りから、度々産胎達との交流を進めて来るようになった。
「何事も会ってみなくては始まらない」
父に言われそれもそうか、と思い親族の案内で産胎との交流の場に参加した。
サロンでのティーパーティだったがやはり若干真性男子が多い。皆必死に産胎たちの気を惹こうとするなか、初めて参加した清鷹は産胎たちの注目を掻っ攫っていた。初婚前の産胎達は皆清鷹の元に集まって可愛らしく囀っていた。
(思いの外幼さが目立つな…直ぐに気が移ろいそうな連中だ)
産胎は大事にされるがあまり多少わがままだ。目の前の産胎達は子供っぽさが存外目立つ。
他の真性からのやっかみの視線も刺さっているし、あからさまに気を惹こうとアピールする産胎の少年達を持て余した。
気持ちを切り替え20代前半の落ち着いた雰囲気の産胎と話してみて、この人とは会話が合うと思った清鷹だったが、
「私はもう2人夫がいて、今日は気晴らしに参加してみました。」
と言われ、わかっていたことではあったがいざ目の前の人には既に関係性の確立された真性の相手が2人もいるのだと思うと幼い頃に父と母の関係に思いを馳せた苦い日を思い出さずにはいられなかった。きっとこの人の落ち着いた雰囲気やそつのない話術は2人の夫と育んだものに違いない。
帰って父に母に関わる部分は伏せて大方正直に気持ちを話すと父はまじまじと
「清鷹、真性は選ぶ方ではない、選ばれる方だ。それに正夫として初めての夫となるのは名誉なことだがそれにこだわることはない。気の合う方と仲良くやっていくのは幸せなことだ。それに先にいる夫達には敵わないなんて一緒に暮らしてみないではわからないじゃないか。」
と清鷹を諌めた。尤もである。
母の第二夫が父を凌いだように、関係性はどうなるかはわからない。けれど、自分の相手が他の夫に想いを馳せているのをみたとき清鷹は己の鬱屈した思いが溢れ出すのではないかと憂いていた。
清鷹も我ながら面倒な性格になったものだ、自嘲するのだった。
初めての交流の場にいた産胎達からは漏れなく縁談の持ちかけがあったし、その後も別の交流に参加する度に話が持ち上がった。
けれど初めて会った時の印象がパッとしないのもあって釣書が届く前にそれとない理由をつけて断ってもらっていた。父は咎めることもなかったが何か言いたそうにいつも言葉を飲み込んでいた。そうこうしている間に清鷹も20代後半に差しかかっていた。
父の会社に入社して若くして役員就任。これは全て自分の実力ではなく父のコネによるものだと清鷹自身は思っている。格好は悪いが与えてもらった居場所で頑張ってどう恩返ししていくかが清鷹に託された本分だ。
清鷹はもっぱら仕事に全力を尽くしていた。
もう結婚しなくてもいいか、などと現実逃避し始めた矢先に父から縁談を持ちかけられた。
「相手は取引先のひとつの笹川造船の社長令息だ。いいか、これは命令だ、清鷹。断るなんて絶対許さないぞ。」
珍しく父が強く言い含める。笹川造船、昔ながらの名の知れた企業である。清鷹自信も充分好き勝手したしいいか、という境地になっていた。
釣書をみると10以上も歳が離れている。
写真に目を落とすと不思議な感覚に陥る。まだあどけなさの塊なのに、内に媚びる色気を感じる。何だか魅了されるような…。
「見合いには母様も出席するからな。」
(あの人も来るのか…)
清鷹は内心晴天の霹靂であった。
当日、実際にあった和泉美琴は絵物語の仙女のようであった。
彼の周りだけキラキラと発光しているかのような奇妙な錯覚に陥った。
清鷹は生まれて初めてのぼせ上がるような感覚を味わった。
何か妖狐の類なのではないかと疑うほどに美琴は美しくみえる。
それでいて話し方は慎ましく恥じらい儚げだ。美琴の一挙一動に夢中になる。清鷹はこういうのが一目惚れというのかも知れないと思った。
無事に見合いが終わり、美琴達を見送った。
父は仲人夫婦と話をしている。ぼんやりと美琴達が今し方去った方を見つめていた清鷹は見合いの最中に思わず美琴に夢中な心中を吐露してしまった自分に戸惑いを感じていた。
「あなたのような方の正夫になれるならば私は…」
自分は一体何を言おうとしたのか。
(正夫か…正夫になっても愛されないのならば…)
「清鷹…」
母親が後ろから徐に清鷹に声をかけてきた。
「……」
母親も随分と小さくなったものだ、朧げに冷たい印象が残っていたが今の清鷹は母に臆することはなかった。
「和泉さんの奥さんは、僕の母校の後輩で昔から親しい方なんだ。僕の顔を潰さないでおくれよ?」
「はい」
この縁談はもしかしたら母がもたらしたものかも知れない。だとしたら、父があそこまで強い言葉を使ったのも納得できる、と清鷹は思った。
だとしても、美琴に会ってしまった今はもうあの高嶺の花をどうしても手に入れたいと思うのだった。
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