受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128

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教師1年目

体育祭当日 9:30

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ワアァァァ……!

一度は静かになった会場から歓声が溢れる。
開会式が終了し、個人種目が開始されたのだろう。
早くともこの段階くらいまでにはミランダが戻ってくると思っていたのだが、そんな気配がない。
ちょうど死角部分に入ってからかなりの時間が過ぎている。
競技も始まる時間でもう会場に入る父兄の数は少ないので店の周りに違和感も生まれない。
だが、あんな目立つ格好の女性が歩いていれば多少なりとも騒ぎにもなるはずなので何かあったとして間違いないだろう。

「隊長、ここは任せていいですか」
「もちろんです、ミランダはどうかしたのですか?」
「端的に言えば、面倒ごとに巻き込まれたのかと」
「なるほど、こちらで手伝えることはありますか?」
「例年通りの警備をしていただければいいと思います。隊長たちの仕事は信頼していますので」
「失礼します!」

ライヤがミランダを探しに行こうと隊長と話しているところに他の隊の兵が訪れる。

「どうかされました?」
「はっ! こちらにライヤ・カサン殿がいると聞き……」
「……私です」

突然名前が出たことに驚きながらも名乗り出る。

「そうでしたか! では、一緒に来ていただけますか?」
「待ってください。私にも仕事があります。理由を説明していただかないと」
「それが、私も詳しいことは聞いておらず……。隊長からライヤ・カサン殿をお連れしろと……」

はて。
ここの隊以外にライヤが関わったことのある部隊などいない。
あえて言えばライヤが王城で尋問などをされる際に拘束にあたっていた部隊くらいである。
軍の部隊がライヤに用があって呼んでいるというのは考えづらいか。
となると、軍を動かせる人物、もしくは多少影響力のある人物。
具体的には貴族あたりが本命か?




「おぉ、これはライヤ殿。さしもの貴殿も軍の要請には逆らえませんかな?」

予想通り、この前ライヤとアンの関係性を消そうと学園を訪れたヘミング侯爵であった。

「そういうわけでは。しかし、どういったご用件で? ヘミング侯爵のご子息はまだ学園には通っていなかったはずでは?」
「子が通っていなければ観戦してはいけない決まりなどありますまい? なに、会場周りの警備を担当しているのが先生だとお聞きしたのでね。ご挨拶でもと思いまして」
「では、これで失礼してもよろしいですか? 仕事がありますので」

ニヤリと笑う侯爵。

「ほう、なにか問題でも起きているのですか?」
「警備は常に警戒しておくのが仕事です。問題がないことに越したことはありません」
「おっしゃる通りですな」

それだけ言い残し、会場へと入っていく貴族たち。

「なんだ……?」

ただ挨拶のためだけにライヤを呼び寄せることなんてないだろう。
メリットがなさすぎる。
ということは、ライヤをこの場所にいさせることが大事だったのだ。
嫌な予感に従って風魔法で空中へ。
今いる場所から会場の逆側に目を向けると、そこにはこそこそと行動する一団が。
コロシアム型の会場の中でも森に面している部分であり、基本的に門も存在しないため警備が少ない。
そこで何かをしようという訳だろうが、ちょうど対岸ということに誰かの意図を感じざるを得ない。

「くそっ」

ミランダのこともあるのに。
そのまま会場の上空を横切って現場へと向かう。




「はぁ、退屈ね」
「そんなこと言わないの。ウィルがいるSクラスを応援すればいいでしょう?」
「人数が少なすぎてほとんど競技に出てこないじゃない」

アンも国王夫妻に連れられて会場を訪れていた。
アン自身は乗り気ではなかったのだが、公務だと言われれば仕方がない。
アンが成人したことによって、こういった公の場に王女として出席するぞという事を印象付けるための仕事なのだ。

「せめて、ライヤをよんじゃダメ?」
「公には認めないってことになってるでしょう?」
「それでも、友達であることには違いないわ」

我儘を言うアンに王妃はため息1つ。

「アンにはアンの仕事があるようにライヤにはライヤの仕事があるでしょう。どうやら審判の仕事はしていないみたいだけれど……」
「会場周りの警備をしているみたいよ」
「先生自ら? 担任についていない先生ならあるかもしれないけれど、担任の先生が会場にいないことなんてあるの?」
「少なくとも、私は知らないわ」

王妃はアンが不機嫌な理由を察する。
ライヤが明らかにおかしい待遇を受けていることが気に入らないのだ。
王妃とてライヤのことを気に入っているという私情は置いておくとしても明らかにおかしいということはわかる。
そしてそれがライヤがBクラスであることが関係しているのだろうということも。

「ちょっとした立場くらいじゃ変わらないものねぇ」

王妃はとりあえずライヤには娘の家庭教師という立場をつけたのだから少しはましになるだろうと考えていた。
実はこれでもマシになっているのだが、元から重い嫌がらせは多少のことで消えはしない。

「体育祭が終わったら、調べるか」
「えぇ、そうしましょう」

ここで初めて国王が口を開く。
国王なりに考えていたのだろう。


「ライヤ!?」

少し物思いにふけっていた王妃はアンの大きな声に顔を上げ、そして目線の先を見る。
そこには上空をかなりにスピードで移動していく教師の白ローブに身を包んだライヤの姿があった。

「またあいつは厄介ごとに巻き込まれて……」

その姿だけでアンはライヤの身を案じるのであった。
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