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教師1年目
昼食時の拷問
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「さぁ、たんと食べてね!」
「「いただきます!」」
昼食の時間になり、いわゆる家庭料理が机の上に並ぶ。
「おいしいかい?」
「美味しいです!」
「(……コクリ)」
概ね好評のようだ。
ライヤも久しぶりの実家での食事である。
「これはなんて言う料理ですか?」
「これは肉じゃがって言ってね、『おふくろの味』として知られてるね!」
「『おふくろの味』?」
デラロサが見たことない料理に質問するが、もはや彼らにとっては今目の前にある料理はほとんど知らないものである。
全ての料理を聞いていくつもりだろうか。
「『おふくろの味』ってのはね、簡単に言えばその家庭の味さね。肉じゃがなんていい例だけど、各家庭によって味付けだけじゃなくて中に入ってる材料も違ったりするんだよ。ちなみにうちの肉じゃがの売りはそのこんにゃくさ」
糸こんにゃくなんてものは無く、でかいままのこんにゃくだがそれがまたカサン家特有のものである。
「ライヤもさ、これ食べたら帰ってきたって感じがするだろう?」
「うん、おかわり」
「はいはい」
何を隠そう、一番熱心に食べているのはライヤである。
平民の家庭料理を勉強して作ってくれるフィオナという存在はいるが、やはり家の味とは違う。
優劣などはないのだが、久しぶりに食べれば自然と箸も進むというものだ。
「あのー、お母様。そろそろ先生のお話を……」
和気あいあいと食事をしていたところにウィルが爆弾を放り込む。
ウィルにとってはこの話を聞くことがむしろ本命であったので当然の試みではあるのだが。
ライヤにすれば心穏やかでないことこの上ない。
「あぁ、じゃあ話そうかね。何が知りたいんだい?」
「先生がどういうお子さんだったのかとか!」
「夫から聞いたんじゃないのかい?」
「お母様の意見も聞いておきたいので……」
各々目的は違うが、ライヤが自分たちくらいの年の時にどんな人だったのかは気になるので誰も止めない。
「そうねぇ……。手のかからない子って感じかねぇ。そりゃ産むときはお腹を痛めたもんだったけどねぇ!」
豪快に笑うサラ。
「だって、その辺に本と一緒に置いておけば勝手に読んでいるんだよ? 外に連れ出そうとしても全然出ようとしないし、頭を悩ませたもんだったけどねぇ!」
その節は心配をおかけしました。
「ま、途中で気付いたけどね。ライヤはあたしや夫なんかと違うってね」
ライヤのただでさえぼさぼさな髪を更にくしゃくしゃと撫でながらサラは笑う。
ライヤからは見えないが、頭を撫でるその顔はライヤに対する慈愛に満ちていて、生徒たちは息をのむ。
「放任ってわけじゃないけどね。ろくに学のないあたしたちが出来るのはこの子に学ぶ環境を用意してあげることだけだとすぐに気づいたよ」
「お父様は随分と勉強が出来たとお聞きしましたが……」
「座学はねぇ。でも、勉強ってそれだけじゃないだろう? 学園でも勉強だけじゃなくて体育とかもするんじゃないかい? 他にも、それこそ魔法さ」
「あたしたちは2人とも魔法に関しては中級ですらない。自分の事すらままならないのに子供に教えることなんてできなかったさ。でも、この子は売り物から勝手に本を見つけてきて読んでるんだよ。何度怒ったかわからないけど、そのうち諦めたね。そうやってる時が一番楽しそうだったから」
「少し大きくなってからは自分から本を求めるようになってね。5歳くらいかい? 家の手伝いをするから欲しい本を買ってくれと言い出したのは」
「……そのくらいだったかも」
「そんな感じで、可愛げのない子どもだったさ。可愛かったけどね」
ライヤにとっては拷問である。
なぜこんな話を自分が聞かなければいけないのか。
「それからこの子のことを心配したことはあんまりないよ。もちろん間違いもするだろうし、ミスもするだろう。だけど、それをなかったことにするような子じゃないと信じてるからね」
「先生のことを心配したときとは、具体的にいつなのでしょう」
「ゲイル君って言ったかい? そりゃあれさ。この子が戦争に行くってなった時さね」
生徒たちの表情が硬くなる。
「あれ、これって言ってよかったのかい? ライヤ?」
「……一応、もう伝えてる」
「そうかい、なら話そうかね」
恥ずかしさで机に突っ伏したままのライヤのライフは既にゼロである。
「そりゃ自分ちの子が戦争に行くなんて言ったら反対するさ。ただでさえ当時は学生だったからね。帝国との確執があったのは承知の上だけど、まさかライヤが招集されるなんて思ってもみなかった。貴族でもないしねぇ」
「ライヤのことを一番怒ったのはあの時かね。皆さんには気を悪くしないで欲しいんだけどね、S級の皆さんとは違う。B級もS級にとっては吹けば飛ぶような存在だ」
「で、でも先生は当時から凄い方だったと……」
「だからなんだい?」
「!」
ティムはウィルの護衛だ。
実力のある者が働かないというのは想像がつかないのだろう。
「そりゃ学園長から直々にお話はあったよ。学生の中で誰が生き残ると聞かれればライヤと答えるとね。でも、そんなの関係ないだろう? なんせ、全員死ぬかもしれないんだ」
「ま、このバカ息子はやめてくれなかったけどね。『自分が守らなきゃいけない奴がいるんだ』って言ってね」
それを聞いたウィルの胸の奥がズキンと痛む。
「昔から頑固な子だったけど、あんなに断言してたのは初めてだったかねぇ」
「……もういいだろ! な!? みんなも話聞いても俺が強くなった理由とかわかんないって!」
ライヤの必死の抵抗によって拷問は終わりを迎えた。
「ま、そのあたりを踏まえて。ライヤが過ごした部屋でも見に行ってみる?」
「「行きたいです!」」
「まだ続くのか!?」
「「いただきます!」」
昼食の時間になり、いわゆる家庭料理が机の上に並ぶ。
「おいしいかい?」
「美味しいです!」
「(……コクリ)」
概ね好評のようだ。
ライヤも久しぶりの実家での食事である。
「これはなんて言う料理ですか?」
「これは肉じゃがって言ってね、『おふくろの味』として知られてるね!」
「『おふくろの味』?」
デラロサが見たことない料理に質問するが、もはや彼らにとっては今目の前にある料理はほとんど知らないものである。
全ての料理を聞いていくつもりだろうか。
「『おふくろの味』ってのはね、簡単に言えばその家庭の味さね。肉じゃがなんていい例だけど、各家庭によって味付けだけじゃなくて中に入ってる材料も違ったりするんだよ。ちなみにうちの肉じゃがの売りはそのこんにゃくさ」
糸こんにゃくなんてものは無く、でかいままのこんにゃくだがそれがまたカサン家特有のものである。
「ライヤもさ、これ食べたら帰ってきたって感じがするだろう?」
「うん、おかわり」
「はいはい」
何を隠そう、一番熱心に食べているのはライヤである。
平民の家庭料理を勉強して作ってくれるフィオナという存在はいるが、やはり家の味とは違う。
優劣などはないのだが、久しぶりに食べれば自然と箸も進むというものだ。
「あのー、お母様。そろそろ先生のお話を……」
和気あいあいと食事をしていたところにウィルが爆弾を放り込む。
ウィルにとってはこの話を聞くことがむしろ本命であったので当然の試みではあるのだが。
ライヤにすれば心穏やかでないことこの上ない。
「あぁ、じゃあ話そうかね。何が知りたいんだい?」
「先生がどういうお子さんだったのかとか!」
「夫から聞いたんじゃないのかい?」
「お母様の意見も聞いておきたいので……」
各々目的は違うが、ライヤが自分たちくらいの年の時にどんな人だったのかは気になるので誰も止めない。
「そうねぇ……。手のかからない子って感じかねぇ。そりゃ産むときはお腹を痛めたもんだったけどねぇ!」
豪快に笑うサラ。
「だって、その辺に本と一緒に置いておけば勝手に読んでいるんだよ? 外に連れ出そうとしても全然出ようとしないし、頭を悩ませたもんだったけどねぇ!」
その節は心配をおかけしました。
「ま、途中で気付いたけどね。ライヤはあたしや夫なんかと違うってね」
ライヤのただでさえぼさぼさな髪を更にくしゃくしゃと撫でながらサラは笑う。
ライヤからは見えないが、頭を撫でるその顔はライヤに対する慈愛に満ちていて、生徒たちは息をのむ。
「放任ってわけじゃないけどね。ろくに学のないあたしたちが出来るのはこの子に学ぶ環境を用意してあげることだけだとすぐに気づいたよ」
「お父様は随分と勉強が出来たとお聞きしましたが……」
「座学はねぇ。でも、勉強ってそれだけじゃないだろう? 学園でも勉強だけじゃなくて体育とかもするんじゃないかい? 他にも、それこそ魔法さ」
「あたしたちは2人とも魔法に関しては中級ですらない。自分の事すらままならないのに子供に教えることなんてできなかったさ。でも、この子は売り物から勝手に本を見つけてきて読んでるんだよ。何度怒ったかわからないけど、そのうち諦めたね。そうやってる時が一番楽しそうだったから」
「少し大きくなってからは自分から本を求めるようになってね。5歳くらいかい? 家の手伝いをするから欲しい本を買ってくれと言い出したのは」
「……そのくらいだったかも」
「そんな感じで、可愛げのない子どもだったさ。可愛かったけどね」
ライヤにとっては拷問である。
なぜこんな話を自分が聞かなければいけないのか。
「それからこの子のことを心配したことはあんまりないよ。もちろん間違いもするだろうし、ミスもするだろう。だけど、それをなかったことにするような子じゃないと信じてるからね」
「先生のことを心配したときとは、具体的にいつなのでしょう」
「ゲイル君って言ったかい? そりゃあれさ。この子が戦争に行くってなった時さね」
生徒たちの表情が硬くなる。
「あれ、これって言ってよかったのかい? ライヤ?」
「……一応、もう伝えてる」
「そうかい、なら話そうかね」
恥ずかしさで机に突っ伏したままのライヤのライフは既にゼロである。
「そりゃ自分ちの子が戦争に行くなんて言ったら反対するさ。ただでさえ当時は学生だったからね。帝国との確執があったのは承知の上だけど、まさかライヤが招集されるなんて思ってもみなかった。貴族でもないしねぇ」
「ライヤのことを一番怒ったのはあの時かね。皆さんには気を悪くしないで欲しいんだけどね、S級の皆さんとは違う。B級もS級にとっては吹けば飛ぶような存在だ」
「で、でも先生は当時から凄い方だったと……」
「だからなんだい?」
「!」
ティムはウィルの護衛だ。
実力のある者が働かないというのは想像がつかないのだろう。
「そりゃ学園長から直々にお話はあったよ。学生の中で誰が生き残ると聞かれればライヤと答えるとね。でも、そんなの関係ないだろう? なんせ、全員死ぬかもしれないんだ」
「ま、このバカ息子はやめてくれなかったけどね。『自分が守らなきゃいけない奴がいるんだ』って言ってね」
それを聞いたウィルの胸の奥がズキンと痛む。
「昔から頑固な子だったけど、あんなに断言してたのは初めてだったかねぇ」
「……もういいだろ! な!? みんなも話聞いても俺が強くなった理由とかわかんないって!」
ライヤの必死の抵抗によって拷問は終わりを迎えた。
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「まだ続くのか!?」
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