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教師1年目
7人目
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「気合入ってるな」
「それはもちろんです。他の方々が先生を少しでも削ってくれないかと期待していたのですけど……」
余裕そうなライヤを見て少しため息。
「そんな素振りはなさそうですね」
「そんなことは無いかもしれんぞ? それこそさっきのエウレアとは長引いたし、ちょっと張り切ってしまったからな」
「そういう言葉が出てくるという事は余裕という事では?」
そういう見方も出来なくもない。
「ま、どうこう言ってもしょうがないしな。始めるとしようか?」
「お願いします」
腰に下げた鞘から細剣を抜き、深呼吸を一つ。
ウィルが構えるのを見てライヤも用意する。
「どうぞ」
「お願いします!」
「氷原」
開幕と同時に床が凍る。
ウィルの得意とする氷魔法によるものだ。
彼女は魔法に関しては器用貧乏ではなく、氷魔法を極めるような練習の仕方をしている。
一気に色々な属性を習得しようとしても基本的には上手くいかないので当然と言えば当然なのだが、ライヤからすれば意外でもあった。
ウィルならできそうな感じだったのだ。
だが、本人の意思でそれは見送られた。
「魔力制御も上手くなってるな」
子供は新しいことに次々に手を出しがちだが、それで上手くなれるのには限界がある。
その辺りを弁えているからこそウィルは氷魔法に特化する決断をしたのだろう。
大人であっても特化型の人はいるし、心配せずともウィルなら2年になれば新しい属性に進めるだろうというライヤの言葉が背中を押したのは言うまでもないが。
「氷柱舞」
通常、氷柱は上から生える(?)ものだが、この魔法では地面から生える。
要するに、まきびしだ。
氷魔法は流動性がない代わりに固体としての強さがある。
相手方からすると、魔力制御での掌握により労力がかかるのだ。
ライヤとウィルの魔力制御に差があるとはいえ、その性質も相まって自由に動けるのは半径3メートル程か。
もちろん、動く際に各場所の氷の制御を奪っていけば安全に移動できるが、処理が大変である。
「で、ここからどうする?」
しかし、この地面の利用をさせないというのはライヤにとって痛手ではない。
このテストでも複数人相手に空中での立ち回りを見せている。
それを踏まえてウィルは作戦を考えているはずだ。
空を蹴るように迫るライヤにいつもの軽口を叩く暇もなく、矢継ぎ早にウィルは唱える。
「氷壁! 氷柱舞!」
2人の間に立ち上がる氷の壁。
そしてそこからまた氷柱が伸びる。
「いいね、よく対策できてる」
単純な話だ。
現時点でさえ魔力量に差があるのだから、魔法に限れば長期戦になれば不利なのはライヤである。
空中での移動を余儀なくされているので節約も難しい。
「ここにきて持久戦か」
「生徒側に時間制限は設けられていませんよね?」
「その通りだ」
他の級であれば時間制限もあったりする。
生徒が多いので制限をつけないと全ての生徒を見きれないかもしれないからだ。
通常、それほどに生徒が多い級は教師との差も大きいので時間制限を適用することにはまずならないが。
単純。
だが、それ故崩しにくい。
ウィルの得意魔法が氷魔法というのもここまでくればこの時のための気がしないでもない。
「ここまでは予定通り……」
ウィルが優れているのは、彼我の比較が正確なことだ。
ライヤを封じるならライヤを囲むのではなく、自らに近づけさせないようにしなければならない。
ライヤよりの場所で囲んだところで制御を奪われるのがオチだ。
「問題はここから……」
この作戦の欠点は2つ。
1つは自分よりに壁を作るので視界が悪くなること。
もう1つはその状況で主導権を渡していること。
ライヤの行動への対処を迅速に行える必要がある。
「大丈夫です、我慢は得意ですから……」
冷や汗を背中に感じながらウィルは立ち回り続ける。
ライヤを近づけさせないことに魔法を用いているのでライヤからの魔法攻撃には対処が難しいのだ。
よって動きながら避けるほうが多くなる。
体力に特別自信があるわけではないのでウィルの体力が尽きるのが先か、ライヤの魔力が尽きるのが先かといったところか。
「っ!?」
氷の壁を突き破って炎の槍がウィルの頬をかすめる。
「うっ……!」
しかし本命は開けた穴から放たれた水弾。
だが、体の痛みにウィルは手ごたえを感じる。
ライヤは今まで互いに無傷で決着をつけている。
炎槍は外しているとはいえ、腹にあたった水弾の威力はそれなりにあった。
無傷のまま勝てないと判断したという事だ。
「流石に攻撃をくらえば隙も出来るか?」
そんな手ごたえも束の間。
ライヤが壁を抜けてきていた。
空中を移動し、壁を回り込んだだけなのだが、それが意外と難しい。
急展開は誘拐から助けてもらった時に出来ることを確認しているとはいえ、こうも簡単にされると自信を無くしてしまいそうだ。
「先生!」
「……」
「私は先生のことが好きです! 婚約してください!」
「は!?」
「てぇい!!」
突然の告白に戸惑ったライヤの一瞬のスキをついて細剣を突き出す。
避けられはしたが、お腹の横あたりからピッと紅い雫が舞う。
「うっ……」
だが、そこまで。
ライヤに組み伏せられ、ウィルは敗戦を喫した。
しかし、ウィルはメンタル的には負けていない。
「一発はいりました……」
単に1年生が先生に一発当てたというだけでも快挙であった。
「それはもちろんです。他の方々が先生を少しでも削ってくれないかと期待していたのですけど……」
余裕そうなライヤを見て少しため息。
「そんな素振りはなさそうですね」
「そんなことは無いかもしれんぞ? それこそさっきのエウレアとは長引いたし、ちょっと張り切ってしまったからな」
「そういう言葉が出てくるという事は余裕という事では?」
そういう見方も出来なくもない。
「ま、どうこう言ってもしょうがないしな。始めるとしようか?」
「お願いします」
腰に下げた鞘から細剣を抜き、深呼吸を一つ。
ウィルが構えるのを見てライヤも用意する。
「どうぞ」
「お願いします!」
「氷原」
開幕と同時に床が凍る。
ウィルの得意とする氷魔法によるものだ。
彼女は魔法に関しては器用貧乏ではなく、氷魔法を極めるような練習の仕方をしている。
一気に色々な属性を習得しようとしても基本的には上手くいかないので当然と言えば当然なのだが、ライヤからすれば意外でもあった。
ウィルならできそうな感じだったのだ。
だが、本人の意思でそれは見送られた。
「魔力制御も上手くなってるな」
子供は新しいことに次々に手を出しがちだが、それで上手くなれるのには限界がある。
その辺りを弁えているからこそウィルは氷魔法に特化する決断をしたのだろう。
大人であっても特化型の人はいるし、心配せずともウィルなら2年になれば新しい属性に進めるだろうというライヤの言葉が背中を押したのは言うまでもないが。
「氷柱舞」
通常、氷柱は上から生える(?)ものだが、この魔法では地面から生える。
要するに、まきびしだ。
氷魔法は流動性がない代わりに固体としての強さがある。
相手方からすると、魔力制御での掌握により労力がかかるのだ。
ライヤとウィルの魔力制御に差があるとはいえ、その性質も相まって自由に動けるのは半径3メートル程か。
もちろん、動く際に各場所の氷の制御を奪っていけば安全に移動できるが、処理が大変である。
「で、ここからどうする?」
しかし、この地面の利用をさせないというのはライヤにとって痛手ではない。
このテストでも複数人相手に空中での立ち回りを見せている。
それを踏まえてウィルは作戦を考えているはずだ。
空を蹴るように迫るライヤにいつもの軽口を叩く暇もなく、矢継ぎ早にウィルは唱える。
「氷壁! 氷柱舞!」
2人の間に立ち上がる氷の壁。
そしてそこからまた氷柱が伸びる。
「いいね、よく対策できてる」
単純な話だ。
現時点でさえ魔力量に差があるのだから、魔法に限れば長期戦になれば不利なのはライヤである。
空中での移動を余儀なくされているので節約も難しい。
「ここにきて持久戦か」
「生徒側に時間制限は設けられていませんよね?」
「その通りだ」
他の級であれば時間制限もあったりする。
生徒が多いので制限をつけないと全ての生徒を見きれないかもしれないからだ。
通常、それほどに生徒が多い級は教師との差も大きいので時間制限を適用することにはまずならないが。
単純。
だが、それ故崩しにくい。
ウィルの得意魔法が氷魔法というのもここまでくればこの時のための気がしないでもない。
「ここまでは予定通り……」
ウィルが優れているのは、彼我の比較が正確なことだ。
ライヤを封じるならライヤを囲むのではなく、自らに近づけさせないようにしなければならない。
ライヤよりの場所で囲んだところで制御を奪われるのがオチだ。
「問題はここから……」
この作戦の欠点は2つ。
1つは自分よりに壁を作るので視界が悪くなること。
もう1つはその状況で主導権を渡していること。
ライヤの行動への対処を迅速に行える必要がある。
「大丈夫です、我慢は得意ですから……」
冷や汗を背中に感じながらウィルは立ち回り続ける。
ライヤを近づけさせないことに魔法を用いているのでライヤからの魔法攻撃には対処が難しいのだ。
よって動きながら避けるほうが多くなる。
体力に特別自信があるわけではないのでウィルの体力が尽きるのが先か、ライヤの魔力が尽きるのが先かといったところか。
「っ!?」
氷の壁を突き破って炎の槍がウィルの頬をかすめる。
「うっ……!」
しかし本命は開けた穴から放たれた水弾。
だが、体の痛みにウィルは手ごたえを感じる。
ライヤは今まで互いに無傷で決着をつけている。
炎槍は外しているとはいえ、腹にあたった水弾の威力はそれなりにあった。
無傷のまま勝てないと判断したという事だ。
「流石に攻撃をくらえば隙も出来るか?」
そんな手ごたえも束の間。
ライヤが壁を抜けてきていた。
空中を移動し、壁を回り込んだだけなのだが、それが意外と難しい。
急展開は誘拐から助けてもらった時に出来ることを確認しているとはいえ、こうも簡単にされると自信を無くしてしまいそうだ。
「先生!」
「……」
「私は先生のことが好きです! 婚約してください!」
「は!?」
「てぇい!!」
突然の告白に戸惑ったライヤの一瞬のスキをついて細剣を突き出す。
避けられはしたが、お腹の横あたりからピッと紅い雫が舞う。
「うっ……」
だが、そこまで。
ライヤに組み伏せられ、ウィルは敗戦を喫した。
しかし、ウィルはメンタル的には負けていない。
「一発はいりました……」
単に1年生が先生に一発当てたというだけでも快挙であった。
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