141 / 328
教師1年目
テスト終了!
しおりを挟む
結果は歴然であった。
「な、なにも出来なかった……(パタリ)」
精神的に叩きのめされた8人が床に転がる様は異様である。
学生の証である黒ローブの小さな子たちがそこらに転がっているのだから、外部の人が見たらそれはもう虐待が行われていると判断するだろう。
この場に限ってはあながち間違ってはいないが。
「まぁ、ヨルさんのテスト自体は行えたので良しとしましょう」
この惨状を作った本人はというと、すっきりした顔でわざとらしくそんな批評を行っている。
明らかに物言いがテスト以外の動機があったと言っている。
「ほんとに加減しないのな……」
「あら、ライヤ先生。私たちが加減しなければ2秒で終わるでしょう? できる限り加減しましたよね?」
「2秒はマジで相手を消し炭にすること前提だろ。物騒すぎるわ」
「ただ、ヨルさんは流石ですね」
「無理やり話を……。だが、それは同感だ」
流石に21歳で回復魔法のエキスパートだけあってその行動に迷いがない。
複数人が怪我をしていても並行的な回復で間に合うのか優先順位をつけるのか、そういった判断まで行えていた。
生徒たちがそれなりの手練れだったとしたら悪夢のような状況だっただろう。
一向に敵の人数が減らないのだから。
「先生! 私を過労死させる気ですか!?」
「いや、俺にはまったくそんな意図はない」
「もちろん私にもありませんよ?」
実際アンネ先生がウィルを執拗に狙い、その回復に追われていたので別にヨルを狙っているわけではないのだ。
「……流石アン姉さまですね。ライヤ先生との連携の素晴らしさは及ぶべくもありません」
「そうでしょ! 私たちに勝てるやつなんていないんだから!」
「え……?」
「あ……」
「ふふ……、やはりそうでしたか」
まんまと乗せられたアンの返答に驚く生徒たち。
「1年か……。まぁ、もった方か……?」
ライヤはしたり顔をしているウィルと、その顔が確信の基である「やってしまった」という顔をしているアンを見る。
1年はもったが、そもそもアンがアンネ先生として学園に姿を見せていたことなど両手の指の数より少し多いくらいではなかろうか。
それで見破られるのはセンスがないとしか言いようがない。
潜入ミッションは絶対にやらせてはならないと心に書き留める。
そもそも王女が潜入などすることなどないだろうが。
「ま、いいか。別にばれて困ることじゃないし」
そう言って光魔法による変装を解くアン。
「やっぱりアン姉さまでしたか」
「そうよ。あなたたちは変装魔法を既に使用している私にも負けたってことね」
「ぐっ……」
変装魔法の難易度は高い。
全身に光魔法を使用し、どの角度から見ても不自然でないように偽装する必要があるためだ。
今回の変装は髪色や瞳の色などを変えてメガネを付けただけなの比較的易しいとはいえ、技量が問われる魔法であることに変わりはない。
「ウィル、あなた私のライヤに婚約を申し込んだそうね」
ギラリとウィルを睨み、殺気を放つアンに生徒たちは硬直する。
「……! はい、申し込みました」
それでも、ウィルは引かない。
ここまでくればライヤでも確信を持つ。
少なくとも、アンの殺気を正面から受けられる程度の覚悟を持った発言だったという事が。
「ふぅん、冗談ではなさそうね」
アンは、意外だった。
ウィルはもっと自己主張が弱く、体育祭での宣言でもかなり驚いていたのに。
こんなにも早く行動に移すとは。
ライヤのことだから、というのもあるだろう。
焦る理由は十分にある。
自分の存在だ。
既にほぼ恋仲の自分がいては一刻も早く行動に移さなくてはと考えるのも納得だ。
譲歩するかは別の話だが。
「でも、わかってるの? 国を分ける戦いになるわよ?」
「かもしれませんね」
「おいぃ!?」
国を分かつほどの諍いを視野に入れている2人に対し、ライヤにそんな覚悟はない。
「賢いあんたのことだから、自分がついていけないところに行く前に言っておこうと思ったんでしょうけど」
「……」
他の生徒がいる手前明言はしないが、言うまでもなく戦争である。
学生が動員されるとしてもウィルは1年生であり、実力も足りない。
まず、あり得ない。
「その気概は認めるわ。その上で、姉として、王女としての言葉よ。終わるまでは待ちなさい」
「え……?」
突き放されると思っていたウィルは予想外の言葉に顔を上げる。
「少なくとも今はその時じゃないわ」
「終わってからなら良いと?」
「選ばれるのは私だもの。それにライバルを退けて堂々と自分のものにしないと、気持ちが良くないでしょう?」
自分が負けるなど微塵も思っていない言葉である。
「現状、ライヤの隣は私。文句ある?」
ギュッとライヤの腕を抱き寄せてアンは胸を張る。
ライヤの腕越しではあるが。
そんな様子に男子生徒たちはティムまでも含め、唖然とするのであった。
「ライヤ先生ってモテるんだな……」
「な、なにも出来なかった……(パタリ)」
精神的に叩きのめされた8人が床に転がる様は異様である。
学生の証である黒ローブの小さな子たちがそこらに転がっているのだから、外部の人が見たらそれはもう虐待が行われていると判断するだろう。
この場に限ってはあながち間違ってはいないが。
「まぁ、ヨルさんのテスト自体は行えたので良しとしましょう」
この惨状を作った本人はというと、すっきりした顔でわざとらしくそんな批評を行っている。
明らかに物言いがテスト以外の動機があったと言っている。
「ほんとに加減しないのな……」
「あら、ライヤ先生。私たちが加減しなければ2秒で終わるでしょう? できる限り加減しましたよね?」
「2秒はマジで相手を消し炭にすること前提だろ。物騒すぎるわ」
「ただ、ヨルさんは流石ですね」
「無理やり話を……。だが、それは同感だ」
流石に21歳で回復魔法のエキスパートだけあってその行動に迷いがない。
複数人が怪我をしていても並行的な回復で間に合うのか優先順位をつけるのか、そういった判断まで行えていた。
生徒たちがそれなりの手練れだったとしたら悪夢のような状況だっただろう。
一向に敵の人数が減らないのだから。
「先生! 私を過労死させる気ですか!?」
「いや、俺にはまったくそんな意図はない」
「もちろん私にもありませんよ?」
実際アンネ先生がウィルを執拗に狙い、その回復に追われていたので別にヨルを狙っているわけではないのだ。
「……流石アン姉さまですね。ライヤ先生との連携の素晴らしさは及ぶべくもありません」
「そうでしょ! 私たちに勝てるやつなんていないんだから!」
「え……?」
「あ……」
「ふふ……、やはりそうでしたか」
まんまと乗せられたアンの返答に驚く生徒たち。
「1年か……。まぁ、もった方か……?」
ライヤはしたり顔をしているウィルと、その顔が確信の基である「やってしまった」という顔をしているアンを見る。
1年はもったが、そもそもアンがアンネ先生として学園に姿を見せていたことなど両手の指の数より少し多いくらいではなかろうか。
それで見破られるのはセンスがないとしか言いようがない。
潜入ミッションは絶対にやらせてはならないと心に書き留める。
そもそも王女が潜入などすることなどないだろうが。
「ま、いいか。別にばれて困ることじゃないし」
そう言って光魔法による変装を解くアン。
「やっぱりアン姉さまでしたか」
「そうよ。あなたたちは変装魔法を既に使用している私にも負けたってことね」
「ぐっ……」
変装魔法の難易度は高い。
全身に光魔法を使用し、どの角度から見ても不自然でないように偽装する必要があるためだ。
今回の変装は髪色や瞳の色などを変えてメガネを付けただけなの比較的易しいとはいえ、技量が問われる魔法であることに変わりはない。
「ウィル、あなた私のライヤに婚約を申し込んだそうね」
ギラリとウィルを睨み、殺気を放つアンに生徒たちは硬直する。
「……! はい、申し込みました」
それでも、ウィルは引かない。
ここまでくればライヤでも確信を持つ。
少なくとも、アンの殺気を正面から受けられる程度の覚悟を持った発言だったという事が。
「ふぅん、冗談ではなさそうね」
アンは、意外だった。
ウィルはもっと自己主張が弱く、体育祭での宣言でもかなり驚いていたのに。
こんなにも早く行動に移すとは。
ライヤのことだから、というのもあるだろう。
焦る理由は十分にある。
自分の存在だ。
既にほぼ恋仲の自分がいては一刻も早く行動に移さなくてはと考えるのも納得だ。
譲歩するかは別の話だが。
「でも、わかってるの? 国を分ける戦いになるわよ?」
「かもしれませんね」
「おいぃ!?」
国を分かつほどの諍いを視野に入れている2人に対し、ライヤにそんな覚悟はない。
「賢いあんたのことだから、自分がついていけないところに行く前に言っておこうと思ったんでしょうけど」
「……」
他の生徒がいる手前明言はしないが、言うまでもなく戦争である。
学生が動員されるとしてもウィルは1年生であり、実力も足りない。
まず、あり得ない。
「その気概は認めるわ。その上で、姉として、王女としての言葉よ。終わるまでは待ちなさい」
「え……?」
突き放されると思っていたウィルは予想外の言葉に顔を上げる。
「少なくとも今はその時じゃないわ」
「終わってからなら良いと?」
「選ばれるのは私だもの。それにライバルを退けて堂々と自分のものにしないと、気持ちが良くないでしょう?」
自分が負けるなど微塵も思っていない言葉である。
「現状、ライヤの隣は私。文句ある?」
ギュッとライヤの腕を抱き寄せてアンは胸を張る。
ライヤの腕越しではあるが。
そんな様子に男子生徒たちはティムまでも含め、唖然とするのであった。
「ライヤ先生ってモテるんだな……」
10
あなたにおすすめの小説
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる