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春休み
一騎打ち?
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当初の予想とは違い、2人の戦いはヨルの父に有利に進んでいた。
「お父様ってこんなに強かったんだ……」
ヨルはライヤの強さは承知している。
自分が直接相手をする機会など無かったとはいえ、学友が圧倒されるのを見ているし、アン王女から認められている。
魔法の魔力制御の精密さも知っている。
だからこそ、そんなライヤを苦しめている父に驚いている。
「何をそんなに驚いておる」
「……いえ、私は父がどれだけ強いのか知らなかったので……」
「半端な実力では自領の統治もままならんじゃろ。それに、こっちの国王の盟友らしいんじゃぞ? あの小僧とお嬢を見てもわかるが、王族クラスに目をかけられている者の実力が半端なわけがないじゃろ」
ヨルの父なら、国王の盟友ならこれくらいするだろうと語るメンデス大将の言葉になるほどと思いながらも、ヨルはやはり混乱していた。
普段の父とは全く違う顔。
これを見れただけでもここに来た意味がある。
自分の目で見なければライヤがいくら強かったと言ったとしても信じられなかっただろう。
そんな娘に見直されている父は、ライヤの感覚に感心していた。
「(相手の攻撃の何が脅威なのかを感じ取るのが上手い。現状押しているように思えるが、有効な攻撃は一撃たりとも入っていないな……)」
目の前の青年の強さに笑みがこぼれる。
「(こんな奴に気にしてもらえるなんて俺の娘は幸せもんだな。こいつが嫁に貰ってくれれば俺も安心できるんだが。アン王女がいるらしいから、それも難しいか?)」
「おっと」
防戦一方だったライヤからかまいたちが飛んでくる。
一瞬意識が逸れた瞬間を狙っての一撃必殺。
当たっていれば首が胴と離れていただろう。
「(俺が笑ったことが気に食わなかったのか、単純に隙を見つけたから撃ってきたのか。どちらにせよ、いい腕だ)」
ライヤが防戦に回っているのは魔力量に自信がなく、攻め続ければ魔力切れになることが見えているからだ。
それもわかったうえでヨルの父は攻撃を続ける。
「(いつまででも付き合ってやる。簡単には負けてやんねえぞ?)」
「(くそ強いな)」
予想通りと言うべきか、魔力量はライヤに張り合えるレベルではない。
魔力制御もかなりレベルが高く、簡単に魔法を奪えない。
年季から、近接戦もかなり分が悪いだろう。
一瞬、隙が出来たのを見てかまいたちを放ってみたが反応された。
反応速度も一級品である。
「(元々、簡単にいくとは思っていない。が、あまり時間をかけると周りから援軍が来てもおかしくない)」
ヨルの父の軍が孤立したところを叩く作戦なので、時間制限があるのはどちらかと言えば王国側である。
ライヤの方が時間に対するプレッシャーは大きい。
「ミストスモーク」
周りにある水分を利用し、霧を発生させ身を隠す。
本来なら相手の視界も奪う魔法だが、敵もさるもの引っ搔くもの。
自分の周りの霧は飛ばして最低限の視界は確保している。
「水弾」
そしてその霧の水を利用し、攻撃を仕掛けていく。
「そろそろくるのか?」
当然のように迎撃するヨルの父。
ライヤは挑発には乗らず、淡々と水弾を撃ち出していく。
「こんな一直線の攻撃は通らないぞ!」
そういった瞬間。
目の前の空間が動く気配がした。
霧の中から手に剣を握ったライヤが現れる。
風魔法を纏っているのか、かなり速いが、反応できる。
それに、自分の霧魔法が風魔法によって動くことでどこから出てくるのかがわかりやすい。
「勝負を焦ったな!」
ライヤを負かし、自分たちは押し潰されるだろう。
だが、娘の前で格好つけることは出来たと。
目の前に迫るライヤに剣を大上段から振りぬいたヨルの父。
斬った感覚はあったが、それは慣れた人を斬る感覚ではなかった。
「!?」
「俺の勝ちです」
背後からライヤの声が聞こえ、体に衝撃が走る。
雷魔法によるショックだと気付いたのは膝が崩れ、剣を落とした後だった。
「ライヤさんが勝った……?」
傍から見ていたヨルにもいつライヤが父の後ろに回っていたのかわからなかった。
剣を落とした父の首に剣を添えているライヤがいるということは、ライヤが勝ったのだろうが。
理解が追い付かない。
「……最後に、いいだろうか」
痺れが少し解消されたヨルの父が口を開く。
「部下の参考のためにも、なぜ負けたのか教えてくれるか」
「……ズルだと思われるかもしれませんが」
「構わない」
「……最初から、俺が対面してなかったんですよ」
「「???」」
全員の頭の上にはてなが浮かぶ。
「最初から、俺は姿を消していました」
「だが、霧で隠れるまで姿は……」
「光魔法による幻影です。このくらい視界が悪ければ、多少細部がおかしくても気づかれることは無い」
「声もちゃんとあったが……」
「水魔法で発生源がそこだと錯覚するようにしていました」
「はは……」
笑うしかないヨルの父。
つまりライヤは。
最初から光魔法により自分の姿を隠したうえで同様に光魔法で自らの幻影を作成、コントロール。
既に制御下に置いていた水分で声を発生源すら幻影のもとへ。
「霧を作れば誰もがそのタイミングで姿を隠したと思うでしょう。その上で、幻影の周りを風魔法で囲っておきました。感覚に優れたあなたならそれを感知して対応してくれるでしょう」
そしてそれらの対応に追われているうちに、どれだけゆっくりでも後ろに回り込んで近づくだけでいい。
「攻撃をくらってしまえば光魔法だと気づかれるかもしれないので防御にだいぶ注力してましたから、ここまで回り込むのに時間がかかりましたけどね」
自らが離れた状態の魔力制御が弱くなっている状態でもヨルの父の攻撃を防いでいた。
「まぁ、一騎打ちという枠組みではないかもしれませんが。これ、戦争なので」
「全くもってその通りだ」
晴れ晴れとした顔のヨルの父。
顔を上げれば、理解が追い付き、自分の父が死ぬことに気づいたヨルの泣き顔が映る。
「ヨル、俺にはこれくらいのことしかできなかった。出来れば、お前には幸せな人生を」
「はい。必ず……!」
その日、諸国連合を長らく支えた1人の男が人生を終えた。
「お父様ってこんなに強かったんだ……」
ヨルはライヤの強さは承知している。
自分が直接相手をする機会など無かったとはいえ、学友が圧倒されるのを見ているし、アン王女から認められている。
魔法の魔力制御の精密さも知っている。
だからこそ、そんなライヤを苦しめている父に驚いている。
「何をそんなに驚いておる」
「……いえ、私は父がどれだけ強いのか知らなかったので……」
「半端な実力では自領の統治もままならんじゃろ。それに、こっちの国王の盟友らしいんじゃぞ? あの小僧とお嬢を見てもわかるが、王族クラスに目をかけられている者の実力が半端なわけがないじゃろ」
ヨルの父なら、国王の盟友ならこれくらいするだろうと語るメンデス大将の言葉になるほどと思いながらも、ヨルはやはり混乱していた。
普段の父とは全く違う顔。
これを見れただけでもここに来た意味がある。
自分の目で見なければライヤがいくら強かったと言ったとしても信じられなかっただろう。
そんな娘に見直されている父は、ライヤの感覚に感心していた。
「(相手の攻撃の何が脅威なのかを感じ取るのが上手い。現状押しているように思えるが、有効な攻撃は一撃たりとも入っていないな……)」
目の前の青年の強さに笑みがこぼれる。
「(こんな奴に気にしてもらえるなんて俺の娘は幸せもんだな。こいつが嫁に貰ってくれれば俺も安心できるんだが。アン王女がいるらしいから、それも難しいか?)」
「おっと」
防戦一方だったライヤからかまいたちが飛んでくる。
一瞬意識が逸れた瞬間を狙っての一撃必殺。
当たっていれば首が胴と離れていただろう。
「(俺が笑ったことが気に食わなかったのか、単純に隙を見つけたから撃ってきたのか。どちらにせよ、いい腕だ)」
ライヤが防戦に回っているのは魔力量に自信がなく、攻め続ければ魔力切れになることが見えているからだ。
それもわかったうえでヨルの父は攻撃を続ける。
「(いつまででも付き合ってやる。簡単には負けてやんねえぞ?)」
「(くそ強いな)」
予想通りと言うべきか、魔力量はライヤに張り合えるレベルではない。
魔力制御もかなりレベルが高く、簡単に魔法を奪えない。
年季から、近接戦もかなり分が悪いだろう。
一瞬、隙が出来たのを見てかまいたちを放ってみたが反応された。
反応速度も一級品である。
「(元々、簡単にいくとは思っていない。が、あまり時間をかけると周りから援軍が来てもおかしくない)」
ヨルの父の軍が孤立したところを叩く作戦なので、時間制限があるのはどちらかと言えば王国側である。
ライヤの方が時間に対するプレッシャーは大きい。
「ミストスモーク」
周りにある水分を利用し、霧を発生させ身を隠す。
本来なら相手の視界も奪う魔法だが、敵もさるもの引っ搔くもの。
自分の周りの霧は飛ばして最低限の視界は確保している。
「水弾」
そしてその霧の水を利用し、攻撃を仕掛けていく。
「そろそろくるのか?」
当然のように迎撃するヨルの父。
ライヤは挑発には乗らず、淡々と水弾を撃ち出していく。
「こんな一直線の攻撃は通らないぞ!」
そういった瞬間。
目の前の空間が動く気配がした。
霧の中から手に剣を握ったライヤが現れる。
風魔法を纏っているのか、かなり速いが、反応できる。
それに、自分の霧魔法が風魔法によって動くことでどこから出てくるのかがわかりやすい。
「勝負を焦ったな!」
ライヤを負かし、自分たちは押し潰されるだろう。
だが、娘の前で格好つけることは出来たと。
目の前に迫るライヤに剣を大上段から振りぬいたヨルの父。
斬った感覚はあったが、それは慣れた人を斬る感覚ではなかった。
「!?」
「俺の勝ちです」
背後からライヤの声が聞こえ、体に衝撃が走る。
雷魔法によるショックだと気付いたのは膝が崩れ、剣を落とした後だった。
「ライヤさんが勝った……?」
傍から見ていたヨルにもいつライヤが父の後ろに回っていたのかわからなかった。
剣を落とした父の首に剣を添えているライヤがいるということは、ライヤが勝ったのだろうが。
理解が追い付かない。
「……最後に、いいだろうか」
痺れが少し解消されたヨルの父が口を開く。
「部下の参考のためにも、なぜ負けたのか教えてくれるか」
「……ズルだと思われるかもしれませんが」
「構わない」
「……最初から、俺が対面してなかったんですよ」
「「???」」
全員の頭の上にはてなが浮かぶ。
「最初から、俺は姿を消していました」
「だが、霧で隠れるまで姿は……」
「光魔法による幻影です。このくらい視界が悪ければ、多少細部がおかしくても気づかれることは無い」
「声もちゃんとあったが……」
「水魔法で発生源がそこだと錯覚するようにしていました」
「はは……」
笑うしかないヨルの父。
つまりライヤは。
最初から光魔法により自分の姿を隠したうえで同様に光魔法で自らの幻影を作成、コントロール。
既に制御下に置いていた水分で声を発生源すら幻影のもとへ。
「霧を作れば誰もがそのタイミングで姿を隠したと思うでしょう。その上で、幻影の周りを風魔法で囲っておきました。感覚に優れたあなたならそれを感知して対応してくれるでしょう」
そしてそれらの対応に追われているうちに、どれだけゆっくりでも後ろに回り込んで近づくだけでいい。
「攻撃をくらってしまえば光魔法だと気づかれるかもしれないので防御にだいぶ注力してましたから、ここまで回り込むのに時間がかかりましたけどね」
自らが離れた状態の魔力制御が弱くなっている状態でもヨルの父の攻撃を防いでいた。
「まぁ、一騎打ちという枠組みではないかもしれませんが。これ、戦争なので」
「全くもってその通りだ」
晴れ晴れとした顔のヨルの父。
顔を上げれば、理解が追い付き、自分の父が死ぬことに気づいたヨルの泣き顔が映る。
「ヨル、俺にはこれくらいのことしかできなかった。出来れば、お前には幸せな人生を」
「はい。必ず……!」
その日、諸国連合を長らく支えた1人の男が人生を終えた。
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