216 / 328
教師2年目
忙しさ増す
しおりを挟む
「……生きてた……?」
口もまともに動かず、瞼もちょっとしか開かないが生きてた。
「負けたわね」
狭い視界でぼやけてはいるが、誰かがこちらをのぞき込んでいるのがわかる。
察するに、今俺の頭はアンの膝の上にある。
「生きてただけ儲けもんかなぁ……」
「そんなことでいいのか?」
向こうから王様の声が聞こえる。
「あ、ライヤさん起きました? まだ修復中なので待ってくださいね~」
そしてその近くからヨルの声も。
「……俺の顔どうなってる?」
「ひしゃげてるわね」
「顔に使う表現じゃないな……」
ここに鏡が無くて良かった。
「ヨルがとりあえず元に戻るのが確約されているところまで治してくれてるから心配しなくてもいいわ」
「で、王様に移ったのか」
「怪我の具合はお父様の方がヤバいもの。でも、そこはヨルが譲らなかったの」
喜んでいいのか悪いのか。
「勝負は引き分けってことにしておいてやる」
全快したらしい王様がのしっとこちらに歩いてくるのを感じる。
「だから、アンはともかく。ウィルは『現状維持』だ。ライヤ、お前も10歳かそこらの子供に手を出すような鬼畜じゃないだろう?」
「まぁ、そこは」
ヨルが横に来て回復魔法をかける。
顔が少し暖かくなり、徐々に視界も開けてきてしゃべりやすくもなる。
「1対2だから俺の勝ちだと言うと思ってましたけど」
「決闘ならな。だが、アンが介入した時点で決闘ではない。それに、お前の嫁に命を助けられていながら無下にも出来んだろう」
ヨルってつくづく便利キャラだな。
「ヨルがそっちについてれば負けてた可能性も高いしな。これ以上俺が言うと、アンが本気で国外に亡命しそうだ」
背を向け、去っていく王様。
「ウィルが成長するまでには俺くらいには勝てるようになっておけ」
「俺くらいには勝てるようになっておけって言ってたけどさ」
「うん」
「あの人が王国最強だよな?」
「そうね」
無理があるだろ……。
「今回もだったけど、何もライヤだけでって話じゃないんじゃない? お父様は個人の強さとかよりも部隊単位での強さを重視してるから。だから、ライヤも認められてるのよ」
戦争で部隊単位の重要性をわかっているからなのだろうか。
個人では大したことのないライヤにとってはプラスではある。
「あ~、負けたか~」
ライヤも負けるつもりであの場に立ったわけではない。
勝算があるだろうと踏んだから挑んだのだ。
引き分けとは言っていたが、ライヤ個人としては一発で意識が吹っ飛ぶほどのやられ方をしたのだ。
あまりにも一瞬で痛みはほとんどなかったのが救いか。
「私がいれば勝ってましたよ!」
先ほどまでは落ち着いていたが、憤りを感じる口調でヨルが話す。
「いやー、それはどうだろうな? 確かに俺たちはやりやすかったかもしれないけど、最初にヨルが狙われてたかもだぞ?」
「あ、そうか、それもありますね……」
「もちろん、フィオナがいたら誰かをヨルの護衛に回すのもアリだけどな。それこそ、ウィルが成長した後ならウィルも戦力に数えられるだろうし。俺の考え方だけど、家族そろえば大抵の困難は乗り越えられるっていうのが理想だと思うんだ。精神論にしろ、な。だから家族の絆ってものは大事だと思う」
ライヤは一呼吸置く。
「だけど、精神論だけでいいような立場じゃないのも確かだ。俺だって爵位をもらうし、アンとウィルに至っては王族だ。政争とか、それこそまた戦争に関わることもあるだろう。そんな時に家族がそろえば戦力としてまとまるっていうのは理想だ」
それこそ王様に勝てれば大抵の相手には負けないだろう。
「だから、目標は王様撃破にしよう。目標があった方が張り合いがあるだろ?」
「それで、住む場所はどうするの?」
「あ、やっぱり今のままじゃダメか?」
「一応あそこは独身寮でしょ? それに私とウィルをあんなとこに住まわせてたらそれこそ文句が出るわよ」
「でもお金が……」
給料も平民価格だったので薄給だったのだ。
今度から貴族になって給料も上がるだろうが、家を買えるようになるまでには何年かかるか。
「わたしの別宅があるけど~。どうする~?」
「それ貰ってもいいやつなのか?」
「私の嫁入りにあたってストラス家から出せるのなんてそんなもんだからね~。むしろ貰ってもらえなかったら困っちゃうかも~」
「そんなもんか」
貴族の嫁入り事情はわからん。
「十分に広いし、いいと思うけどね~」
「見てみてから決めるか。他にやらなきゃいけないことってあるか?」
「国への申請はあるわね。私は王族だからいらないし、ウィルも同じね。フィオナとヨルは必要だと思うわ」
婚姻届みたいなものか。
「じゃあ、明日……」
「ライヤさん、明日は学校ですよ?」
「そうだった……」
「ふふ、少しこそばゆいですね……」
家ではウィルはライヤのことをライヤさんと呼ぶことに決めたようだ。
学校でボロが出ないことを祈るばかりである。
口もまともに動かず、瞼もちょっとしか開かないが生きてた。
「負けたわね」
狭い視界でぼやけてはいるが、誰かがこちらをのぞき込んでいるのがわかる。
察するに、今俺の頭はアンの膝の上にある。
「生きてただけ儲けもんかなぁ……」
「そんなことでいいのか?」
向こうから王様の声が聞こえる。
「あ、ライヤさん起きました? まだ修復中なので待ってくださいね~」
そしてその近くからヨルの声も。
「……俺の顔どうなってる?」
「ひしゃげてるわね」
「顔に使う表現じゃないな……」
ここに鏡が無くて良かった。
「ヨルがとりあえず元に戻るのが確約されているところまで治してくれてるから心配しなくてもいいわ」
「で、王様に移ったのか」
「怪我の具合はお父様の方がヤバいもの。でも、そこはヨルが譲らなかったの」
喜んでいいのか悪いのか。
「勝負は引き分けってことにしておいてやる」
全快したらしい王様がのしっとこちらに歩いてくるのを感じる。
「だから、アンはともかく。ウィルは『現状維持』だ。ライヤ、お前も10歳かそこらの子供に手を出すような鬼畜じゃないだろう?」
「まぁ、そこは」
ヨルが横に来て回復魔法をかける。
顔が少し暖かくなり、徐々に視界も開けてきてしゃべりやすくもなる。
「1対2だから俺の勝ちだと言うと思ってましたけど」
「決闘ならな。だが、アンが介入した時点で決闘ではない。それに、お前の嫁に命を助けられていながら無下にも出来んだろう」
ヨルってつくづく便利キャラだな。
「ヨルがそっちについてれば負けてた可能性も高いしな。これ以上俺が言うと、アンが本気で国外に亡命しそうだ」
背を向け、去っていく王様。
「ウィルが成長するまでには俺くらいには勝てるようになっておけ」
「俺くらいには勝てるようになっておけって言ってたけどさ」
「うん」
「あの人が王国最強だよな?」
「そうね」
無理があるだろ……。
「今回もだったけど、何もライヤだけでって話じゃないんじゃない? お父様は個人の強さとかよりも部隊単位での強さを重視してるから。だから、ライヤも認められてるのよ」
戦争で部隊単位の重要性をわかっているからなのだろうか。
個人では大したことのないライヤにとってはプラスではある。
「あ~、負けたか~」
ライヤも負けるつもりであの場に立ったわけではない。
勝算があるだろうと踏んだから挑んだのだ。
引き分けとは言っていたが、ライヤ個人としては一発で意識が吹っ飛ぶほどのやられ方をしたのだ。
あまりにも一瞬で痛みはほとんどなかったのが救いか。
「私がいれば勝ってましたよ!」
先ほどまでは落ち着いていたが、憤りを感じる口調でヨルが話す。
「いやー、それはどうだろうな? 確かに俺たちはやりやすかったかもしれないけど、最初にヨルが狙われてたかもだぞ?」
「あ、そうか、それもありますね……」
「もちろん、フィオナがいたら誰かをヨルの護衛に回すのもアリだけどな。それこそ、ウィルが成長した後ならウィルも戦力に数えられるだろうし。俺の考え方だけど、家族そろえば大抵の困難は乗り越えられるっていうのが理想だと思うんだ。精神論にしろ、な。だから家族の絆ってものは大事だと思う」
ライヤは一呼吸置く。
「だけど、精神論だけでいいような立場じゃないのも確かだ。俺だって爵位をもらうし、アンとウィルに至っては王族だ。政争とか、それこそまた戦争に関わることもあるだろう。そんな時に家族がそろえば戦力としてまとまるっていうのは理想だ」
それこそ王様に勝てれば大抵の相手には負けないだろう。
「だから、目標は王様撃破にしよう。目標があった方が張り合いがあるだろ?」
「それで、住む場所はどうするの?」
「あ、やっぱり今のままじゃダメか?」
「一応あそこは独身寮でしょ? それに私とウィルをあんなとこに住まわせてたらそれこそ文句が出るわよ」
「でもお金が……」
給料も平民価格だったので薄給だったのだ。
今度から貴族になって給料も上がるだろうが、家を買えるようになるまでには何年かかるか。
「わたしの別宅があるけど~。どうする~?」
「それ貰ってもいいやつなのか?」
「私の嫁入りにあたってストラス家から出せるのなんてそんなもんだからね~。むしろ貰ってもらえなかったら困っちゃうかも~」
「そんなもんか」
貴族の嫁入り事情はわからん。
「十分に広いし、いいと思うけどね~」
「見てみてから決めるか。他にやらなきゃいけないことってあるか?」
「国への申請はあるわね。私は王族だからいらないし、ウィルも同じね。フィオナとヨルは必要だと思うわ」
婚姻届みたいなものか。
「じゃあ、明日……」
「ライヤさん、明日は学校ですよ?」
「そうだった……」
「ふふ、少しこそばゆいですね……」
家ではウィルはライヤのことをライヤさんと呼ぶことに決めたようだ。
学校でボロが出ないことを祈るばかりである。
0
あなたにおすすめの小説
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる