241 / 328
教師2年目
バレンタインデー特番
しおりを挟む
「さて、ライヤの居ぬ間になんとやらよ」
「いや、居ぬ間にというか、さっきすぐそこで追い出してませんでした……?」
第何回目かもはや定かではないカサン家家族会議が行われていた。
ただし、家長であるライヤの姿はそこにはない。
「それで、何の集まりです?」
「ヨルは知らないわよね。ライヤへのプレゼントをどうするかという話よ」
「? ライヤさんの誕生日って……」
「誕生日じゃないわ。バレンタインデーよ」
「「??」」
ヨルだけでなく、ウィルの頭の上にもはてなマークが浮かぶ。
「ライヤが言ってたのよ。どこかの国でこの日は女の子が男の子に甘いものを作ってプレゼントする日らしいわ」
「恐らくですけど、この大陸じゃないですよね? ライヤさんはどうやってそれを知ったんでしょうか?」
「知らないわ。ライヤのおかしな知識なんて今に始まったことじゃないでしょ」
「おかしだけにね~」
空気が凍るが、その空気を生み出したフィオナは我関せずといった様子。
「……それで、折角同士がいるのだから協力しましょうって話よ」
「協力と言っても、私にはフィオナさんみたいな料理スキルはないですし……」
「私もです……」
落ち込む2人をアンが慰める。
「気にしないことよ。私も出来ないから」
「そんなに胸を張ることでしょうか……」
「いいのよ。今年はフィオナが味方だから」
「教えてあげるよ~」
「「是非っ!」」
こうして女性陣の共闘が決まった。
「ちなみにですけど。去年までのバレンタインデー? はどうしてたんですか?」
「……がんばった結果マシなのを何個か……」
「あんまり休まないライヤが学校を休む数少ない機会だったよね~」
「ちょっと! それは言わないって……!」
「というわけで、買い出しに行くわよ」
「今からですか!?」
「? 当然でしょ?」
「なら、ライヤさんを外に放り出さなくて良かったんじゃ……」
「今頃外で震えてるかもしれませんね」
「可哀想~」
「な、何かやることくらいあるでしょ。ほら、早く行くわよ!」
ライヤを自作お菓子で体調不良に追いやっていたというのが判明してからアンの立場がすこぶる弱い。
彼女たちの間に上下関係がないその証左とも言えるだろうか。
「まず、前提としてライヤはあんまり甘いのが好きじゃないから、砂糖は入れ過ぎないようにね~」
フィオナによるお菓子づくり講座だ。
「皆作るものは違うけど、私が書いた通りにやればまず失敗はないから、ちゃんと守るようにね~」
「こっちの方がおいしそうとか思っても?」
「それで今まで失敗してきたのを忘れたのかな~?」
「わ、わかった。ちゃんとやるわ」
買い出しをしながらアン、ウィル、ヨルがそれぞれ作ろうと思ったもののレシピを即興でフィオナが書き起こした。
料理の才能に溢れすぎである。
「あのー、この湯煎というのは……」
「あ~、それはね~……」
それぞれがフィオナに質問をしながら順調にお菓子作りは進んでいく。
「そう言えば、フィオナさんは作らなくていいんですか? 私たちのフォローばかりで何も作っていないように見えるんですけど……」
「そうだね~。でも、心配しなくても大丈夫だよ~。私はもう作ってあるからね~。というか、当日に買い出しから作るのまでやる方がおかしいと思うよ~」
グサッ。
アンに何かが突き刺さる幻聴をその場にいる全員が聞いた。
「そんなだから今まで失敗してきたんだろうね~」
グササッ!
もうやめて、とっくにアンのライフはゼロよ!
「大事なのは愛とは言うけど、レシピを守る前提の話だよね~」
「……」
ガクリと膝をつくアン。
ニコニコと笑いながらなお追撃をやめないフィオナにウィルとヨルは戦慄する。
あ、この人敵に回したらダメな人だ……。
「それで、その恰好は?」
朝一番に放り出されたライヤが帰宅を許されたのはもう日も落ちる頃。
「プレゼントは私よ、的な~?」
4人ともがメイド姿で頭にリボンをつけている。
「止めろよ、アン」
「今私の立場は弱いのよ……」
真っ赤になっているアンに苦言を呈するが、謎の理由により聞き入れてもらえない。
何があったのか。
「「ご主人様、何でもお申し付けください」」
「じゃあ寝かせてくれ」
「「それは無理です」」
結局、普段と変わりはないかもしれない特別な1日だった。
「いや、居ぬ間にというか、さっきすぐそこで追い出してませんでした……?」
第何回目かもはや定かではないカサン家家族会議が行われていた。
ただし、家長であるライヤの姿はそこにはない。
「それで、何の集まりです?」
「ヨルは知らないわよね。ライヤへのプレゼントをどうするかという話よ」
「? ライヤさんの誕生日って……」
「誕生日じゃないわ。バレンタインデーよ」
「「??」」
ヨルだけでなく、ウィルの頭の上にもはてなマークが浮かぶ。
「ライヤが言ってたのよ。どこかの国でこの日は女の子が男の子に甘いものを作ってプレゼントする日らしいわ」
「恐らくですけど、この大陸じゃないですよね? ライヤさんはどうやってそれを知ったんでしょうか?」
「知らないわ。ライヤのおかしな知識なんて今に始まったことじゃないでしょ」
「おかしだけにね~」
空気が凍るが、その空気を生み出したフィオナは我関せずといった様子。
「……それで、折角同士がいるのだから協力しましょうって話よ」
「協力と言っても、私にはフィオナさんみたいな料理スキルはないですし……」
「私もです……」
落ち込む2人をアンが慰める。
「気にしないことよ。私も出来ないから」
「そんなに胸を張ることでしょうか……」
「いいのよ。今年はフィオナが味方だから」
「教えてあげるよ~」
「「是非っ!」」
こうして女性陣の共闘が決まった。
「ちなみにですけど。去年までのバレンタインデー? はどうしてたんですか?」
「……がんばった結果マシなのを何個か……」
「あんまり休まないライヤが学校を休む数少ない機会だったよね~」
「ちょっと! それは言わないって……!」
「というわけで、買い出しに行くわよ」
「今からですか!?」
「? 当然でしょ?」
「なら、ライヤさんを外に放り出さなくて良かったんじゃ……」
「今頃外で震えてるかもしれませんね」
「可哀想~」
「な、何かやることくらいあるでしょ。ほら、早く行くわよ!」
ライヤを自作お菓子で体調不良に追いやっていたというのが判明してからアンの立場がすこぶる弱い。
彼女たちの間に上下関係がないその証左とも言えるだろうか。
「まず、前提としてライヤはあんまり甘いのが好きじゃないから、砂糖は入れ過ぎないようにね~」
フィオナによるお菓子づくり講座だ。
「皆作るものは違うけど、私が書いた通りにやればまず失敗はないから、ちゃんと守るようにね~」
「こっちの方がおいしそうとか思っても?」
「それで今まで失敗してきたのを忘れたのかな~?」
「わ、わかった。ちゃんとやるわ」
買い出しをしながらアン、ウィル、ヨルがそれぞれ作ろうと思ったもののレシピを即興でフィオナが書き起こした。
料理の才能に溢れすぎである。
「あのー、この湯煎というのは……」
「あ~、それはね~……」
それぞれがフィオナに質問をしながら順調にお菓子作りは進んでいく。
「そう言えば、フィオナさんは作らなくていいんですか? 私たちのフォローばかりで何も作っていないように見えるんですけど……」
「そうだね~。でも、心配しなくても大丈夫だよ~。私はもう作ってあるからね~。というか、当日に買い出しから作るのまでやる方がおかしいと思うよ~」
グサッ。
アンに何かが突き刺さる幻聴をその場にいる全員が聞いた。
「そんなだから今まで失敗してきたんだろうね~」
グササッ!
もうやめて、とっくにアンのライフはゼロよ!
「大事なのは愛とは言うけど、レシピを守る前提の話だよね~」
「……」
ガクリと膝をつくアン。
ニコニコと笑いながらなお追撃をやめないフィオナにウィルとヨルは戦慄する。
あ、この人敵に回したらダメな人だ……。
「それで、その恰好は?」
朝一番に放り出されたライヤが帰宅を許されたのはもう日も落ちる頃。
「プレゼントは私よ、的な~?」
4人ともがメイド姿で頭にリボンをつけている。
「止めろよ、アン」
「今私の立場は弱いのよ……」
真っ赤になっているアンに苦言を呈するが、謎の理由により聞き入れてもらえない。
何があったのか。
「「ご主人様、何でもお申し付けください」」
「じゃあ寝かせてくれ」
「「それは無理です」」
結局、普段と変わりはないかもしれない特別な1日だった。
0
あなたにおすすめの小説
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる