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第23話 お礼

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「ミーナさん、ありがとうございました」
「え……? なんのことだい……?」

 俺が書店に行って金を渡すと、ミーナさんはきょとんとした顔で俺を出迎えた。
 どうもぴんときていないようだ。

「なにって、魔導書の借りですよ。出世払いっていうやつ」
「いやいやいや……まだあれから何日も経ってないだろ?」
「でも、払えるようになったので……」

 たしかに俺がここで本を買ったのは、ほんの一週間前のことだ。
 ミーナさんのいう出世払いは、もっと数年単位というニュアンスだったのかもしれない。
 まあ俺も、こんなにはやく恩を返せるとは思ってもみなかった。

「じゃあ、ありがたくうけとるけどさ……。ショウキチ、この金どこかで盗んだんじゃないだろうね?」
「そ、そんなわけないじゃないですか! ちゃんとクエストを受けて、その報酬でもらったお金ですよ」
「クエストって……まだ魔法も使えないのにかい?」
「え……? 魔法なら、もう使えますけど……」
「…………?」
「…………?」

 話がかみ合わずに、俺たちはしばらく顔を見合わせて困惑してしまう。

「まさか、一週間であの魔導書を……!?」
「はい、そうです」
「ショウキチ……魔術の天才だったのかい……!?」
「いやぁ……どうなんでしょう。たまたまですよ……」

 まあ魔法に関するイメージは、他の人よりしやすいのかもしれない。
 俺以外がどのくらいで魔法を習得するのかがわからないから、なんともいえないけど。

「そっか……私はとんでもない男に魔導書を売ってしまったのかもしれないね」
「そんな、大げさな……」
「とにかく、よかったじゃないか。金が手に入って」
「はい、ミーナさんのおかげです! ありがとうございます。それで……」

 俺は勇気を出して切り出した。
 下心がないにしても、女性を食事に誘うのは緊張する。

「お、俺とこのあと食事でもどうですか……? ごちそうするので」
「まさか私を口説こうっていうのかい? けっこうダイタンなんだねぇショウキチ」
「い、いや……! ただお礼がしたいだけですって!」
「ま、私はどっちでもいいけどね。じゃあ、エスコートしてくれる?」
「はい!」

 俺はミーナさんと手をつないで、食事のできる店に向かった。
 今回は金もあるので、まるねこ食堂は使わない。
 それに、せっかくのデートだから、ちょっと高級な店を選んだ。
 異世界での料理はどれもおいしかったが、大衆的なものしかまだ食べたことがない。
 こっちの高級料理がどんなものなのか、純粋に楽しみでもあった。
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