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第12話 最弱のSランク(2)
しおりを挟む僕たちはモンスターを蹴散らしながら、当てもなく森の中をさまよい歩く。
うーん、いったい遭難した冒険者たちはどこにいるのだろう。
そもそも、まだ生きているのだろうか。
生きているといいけど……。
その場合、なにか狼煙でもなんでも、合図を出してくれていれば、こちらとしても救助しやすいんだけどな。
なにか手がかりがほしいところだった。
このまま当てもなく歩いていても、こんどはこっちが遭難しかねない。
木乃伊取りが木乃伊になるのはごめんだ。
「ねえ、そもそもなんでAランクパーティーともあろう人たちが、こんなところで遭難したのかしらね」
歩きながら、エリーが口を開く。
それもそうだと、僕も同意する。
さっきから、出てくるモンスターは強力だ。
だが、Aランクパーティーで歯が立たないようなレベルではない。
十分に訓練されたAランクパーティーが、こんな森で遭難するとは考えずらい。
「なにか不測の事態があったのでしょうね……。怪我をしたりだとか……もしくは、イレギュラーだとか……」
マリアが言ったイレギュラーというのは、イレギュラーモンスターのことだ。
通常のダンジョンの難易度からは逸脱した、未確認のモンスター。
ここクオーツク大森林はAランク指定のダンジョンだが、まれに、Sランク以上のモンスターも現れる可能性がある、ということだ。
僕らはそれを、イレギュラーと呼んでいる。
「イレギュラーか……だとすると、かなり厄介だぜ」
ロランがそう言う。
Aランクのダンジョンに現れるイレギュラーとなれば、Sランクのモンスターということになる。
一応は、S級オークをも倒した僕たちだけれども、やはりSランクモンスターとの戦闘となると、それなりの苦戦が予想される。
「ま、なんとかなるでしょ! どんなモンスターが現れようと、私の焔魔法で焼き尽くすだけよ!」
「ま、そうだな。エリーに任せておけば大丈夫だな! それに、うちには閃光のノエルもいることだしな!」
「そうよ! ノエルがついているもの!」
いや、僕になにかを期待されても無駄なんですけど……。
イレギュラーモンスターなんかが現れた日には、僕なんか真っ先に逃げる腹積もりだ。
と、そのときだった。
僕たちの身体に、緊張が走る。
なにか、モンスターの気配を、みないちように察知した。
「なにか……来る……!」
――ゴォ!
ものすごい突風が、森の中に吹き荒れる。
そして木々が揺れ、葉がこぼれ落ち、僕たちの前に、それが現れた。
「ガルルルルル……」
それは、大きくて真っ白な、狼だった。
僕たちは息をのんだ。
なにも、言葉を話すことができなかった。
まるで身体が凍り付いたように動かない。
さすがの僕も、逃げる気にすらなれなかった。
動いたら、やられる……。
「ガルルルルル……」
狼の視線が、僕たちを逃がさない。
一ミリたりとも、動くことができなかった。
そこにいたのは、ただのイレギュラーモンスターではない。
「フェン……リル……」
そう、ロランがこぼした名前、それは伝説上のモンスターの名前だった。
SSS級モンスター、フェンリル・シルバーファング。
なぜ、そのようなモンスターが目の前にいるのかはわからない。
とにかく、僕たちは今、SSS級のイレギュラーモンスターに睨まれているということだった。
「うそ……こんなの……きいてないわよ……」
さすがのエリーも、冷や汗を垂らして、動けずにいるようだった。
だって、異常すぎる。
通常、Aランクのダンジョンで出るイレギュラーといえば、せいぜがA+かSのモンスターというところだ。
だが、どうだ。目の前にいるのは、SSS級。
しかもその中でも伝説とされるフェンリルが、実際に目の前にいる。
今の僕たちでは、なすすべもない相手だ。
いくら破竹の勢いでここまで勝ち進んできた僕たち【霧雨の森羅】といっても、こんな異常事態、対処できるはずもなかった。
なるほど、おそらく、遭難したAランクパーティーも、こいつにやられたのだろう。
まだ死んでいるとは限らないが、いずれにせよ、こいつのせいで帰ることができない状況に追い込まれたに違いない。
これは、思わぬ誤算だ。
SSS級ともなれば、僕らですらどうしようもできない。
それこそ、SSS級の冒険者パーティー、伝説の国家クラスの冒険者パーティーでないと、こんなの救助することができないじゃないか。
どうしたものか……僕は、こんなところでは死にたくない。
くそ、やっぱりこんなSランクパーティーにいたら、命がいくつあっても足りないじゃないか。
もっとさっさと、強引にでも引退しておくべきだった。
この際、救助はもうあきらめるしかないだろう。
せめて、僕たちだけでも、逃げてこのことをギルドに報告しないと……。
そうじゃないと、また僕たちまで遭難してしまったら、さらに被害が増えてしまう。
「ど、どうする……?」
ロランがおそるおそる、僕のほうを振り向き、支持を仰ぐ。
しかし、どうするったって、僕にはどうしようもできない。
閃光のノエルなんてのは、ロランが勝手に決めた名前で、実際の僕にはなんの能力もないのだから。
僕らはただじっとして、フェンリルが去るのを待つしかないのだ。
幸いなことに、フェンリルはまだ襲い掛かってきているわけではない。
僕らのことを見定めるように、じっとみつめている。
「がる……」
動いた。
フェンリルが、ゆっくりと僕のほうに近づいてくる。
そして、僕の頬をそのあたたかな舌でぺろっとなめた。
「死ぬぅ…………!」
生きた心地がしなかった。
なめるときに、フェンリルのするどい牙が僕の目の前で見え隠れする。
そして、ついに僕がガブリと頭から丸のみされるのか……。
フェンリルが僕に顔を近づける。
僕は恐ろしさのあまり、目を瞑った。
「やめてぇ…………!」
僕は死ぬ覚悟を決めた。
フェンリルさんよ、もう一思いにガブリといっちゃってくれ。
できれば、あまり痛くはしないでね……!
「あれ…………?」
しかし、なにも起こらない。
フェンリルは、僕のことを食べはしなかった。
僕はなにが起きたのか、恐る恐る目を開けた。
すると、フェンリルは僕の頬に、自分の頬をくっつけている。
うわぁ。なんかもふもふして気持ちいい。
フェンリルは「くぅん」と可愛らしい声を出すと、次は僕の前に跪いた。
「え…………?」
これ、なに……?
フェンリルは僕の靴の臭いをかぐ。
そして、前足をひとつ上にあげた。
なんだこれ……?
僕はためしに、自分の手のひらを差し出してみる。
すると、フェンリルは僕の手のひらの上に、自分の前足を置いた。
俗にいう、お手である。
あれ、なんでだ……?
なんでフェンリルが僕にお手をしているんだ……?
「フェンリル……さん……?」
「くぅん……?」
僕がフェンリルの目をみると、そこには一切の敵意は映っていなかった。
それどころか、お手をしたことを褒めてもらいたいのか、物欲しげな可愛い目で、僕のほうを見つめている。
尻尾を振って、舌を出して、はぁはぁ言っている。
まさか……これ、僕に懐いているのか……?
僕は、ためしに、恐る恐るフェンリルの頭を撫でてみる。
すると。
「くぅん……♪」
フェンリルは嬉しそうに僕に寄ってきた。
あれぇ……?
なんか、フェンリルさん懐いてるぅ……。
どうしてぇ……?
しばらくフェンリルと戯れていると、ようやく状況を察したのか、ロランが口を開いた。
「うぉ……!? すっげぇなぁ……! さすがはノエルだぜ! あのSSS級モンスターのフェンリルを手懐けちまったぁ……!」
エリーはまだフェンリルに怯え、状況を理解していないのか、口をぽかんと開けて立っている。
マリアはさっそく僕の横から、フェンリルを撫でている。
「うわぁ……ふかふかもふもふで、かわいいですねぇ」
な、なんでフェンリルが僕に懐いているんだ……。
でも、とにかく命だけは助かったのかな。
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