最弱Sランク冒険者は引退したい~仲間が強すぎるせいでなぜか僕が陰の実力者だと勘違いされているんだが?

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中

文字の大きさ
13 / 48

第12話 最弱のSランク(2)

しおりを挟む

 僕たちはモンスターを蹴散らしながら、当てもなく森の中をさまよい歩く。
 うーん、いったい遭難した冒険者たちはどこにいるのだろう。
 そもそも、まだ生きているのだろうか。
 生きているといいけど……。
 その場合、なにか狼煙でもなんでも、合図を出してくれていれば、こちらとしても救助しやすいんだけどな。
 なにか手がかりがほしいところだった。
 このまま当てもなく歩いていても、こんどはこっちが遭難しかねない。
 木乃伊取りが木乃伊になるのはごめんだ。

「ねえ、そもそもなんでAランクパーティーともあろう人たちが、こんなところで遭難したのかしらね」

 歩きながら、エリーが口を開く。
 それもそうだと、僕も同意する。
 さっきから、出てくるモンスターは強力だ。
 だが、Aランクパーティーで歯が立たないようなレベルではない。
 十分に訓練されたAランクパーティーが、こんな森で遭難するとは考えずらい。

「なにか不測の事態があったのでしょうね……。怪我をしたりだとか……もしくは、イレギュラーだとか……」

 マリアが言ったイレギュラーというのは、イレギュラーモンスターのことだ。
 通常のダンジョンの難易度からは逸脱した、未確認のモンスター。
 ここクオーツク大森林はAランク指定のダンジョンだが、まれに、Sランク以上のモンスターも現れる可能性がある、ということだ。
 僕らはそれを、イレギュラーと呼んでいる。

「イレギュラーか……だとすると、かなり厄介だぜ」

 ロランがそう言う。
 Aランクのダンジョンに現れるイレギュラーとなれば、Sランクのモンスターということになる。
 一応は、S級オークをも倒した僕たちだけれども、やはりSランクモンスターとの戦闘となると、それなりの苦戦が予想される。

「ま、なんとかなるでしょ! どんなモンスターが現れようと、私の焔魔法で焼き尽くすだけよ!」
「ま、そうだな。エリーに任せておけば大丈夫だな! それに、うちには閃光のノエルもいることだしな!」
「そうよ! ノエルがついているもの!」

 いや、僕になにかを期待されても無駄なんですけど……。
 イレギュラーモンスターなんかが現れた日には、僕なんか真っ先に逃げる腹積もりだ。
 と、そのときだった。
 僕たちの身体に、緊張が走る。
 なにか、モンスターの気配を、みないちように察知した。

「なにか……来る……!」

 ――ゴォ!

 ものすごい突風が、森の中に吹き荒れる。
 そして木々が揺れ、葉がこぼれ落ち、僕たちの前に、それが現れた。

「ガルルルルル……」

 それは、大きくて真っ白な、狼だった。
 僕たちは息をのんだ。
 なにも、言葉を話すことができなかった。
 まるで身体が凍り付いたように動かない。
 さすがの僕も、逃げる気にすらなれなかった。
 動いたら、やられる……。

「ガルルルルル……」

 狼の視線が、僕たちを逃がさない。
 一ミリたりとも、動くことができなかった。
 そこにいたのは、ただのイレギュラーモンスターではない。

「フェン……リル……」

 そう、ロランがこぼした名前、それは伝説上のモンスターの名前だった。
 SSS級モンスター、フェンリル・シルバーファング。
 なぜ、そのようなモンスターが目の前にいるのかはわからない。
 とにかく、僕たちは今、SSS級のイレギュラーモンスターに睨まれているということだった。

「うそ……こんなの……きいてないわよ……」

 さすがのエリーも、冷や汗を垂らして、動けずにいるようだった。
 だって、異常すぎる。
 通常、Aランクのダンジョンで出るイレギュラーといえば、せいぜがA+かSのモンスターというところだ。
 だが、どうだ。目の前にいるのは、SSS級。
 しかもその中でも伝説とされるフェンリルが、実際に目の前にいる。
 今の僕たちでは、なすすべもない相手だ。
 いくら破竹の勢いでここまで勝ち進んできた僕たち【霧雨の森羅】といっても、こんな異常事態、対処できるはずもなかった。

 なるほど、おそらく、遭難したAランクパーティーも、こいつにやられたのだろう。
 まだ死んでいるとは限らないが、いずれにせよ、こいつのせいで帰ることができない状況に追い込まれたに違いない。
 これは、思わぬ誤算だ。
 SSS級ともなれば、僕らですらどうしようもできない。
 それこそ、SSS級の冒険者パーティー、伝説の国家クラスの冒険者パーティーでないと、こんなの救助することができないじゃないか。

 どうしたものか……僕は、こんなところでは死にたくない。
 くそ、やっぱりこんなSランクパーティーにいたら、命がいくつあっても足りないじゃないか。
 もっとさっさと、強引にでも引退しておくべきだった。

 この際、救助はもうあきらめるしかないだろう。
 せめて、僕たちだけでも、逃げてこのことをギルドに報告しないと……。
 そうじゃないと、また僕たちまで遭難してしまったら、さらに被害が増えてしまう。

「ど、どうする……?」

 ロランがおそるおそる、僕のほうを振り向き、支持を仰ぐ。
 しかし、どうするったって、僕にはどうしようもできない。
 閃光のノエルなんてのは、ロランが勝手に決めた名前で、実際の僕にはなんの能力もないのだから。
 僕らはただじっとして、フェンリルが去るのを待つしかないのだ。
 幸いなことに、フェンリルはまだ襲い掛かってきているわけではない。
 僕らのことを見定めるように、じっとみつめている。

「がる……」

 動いた。
 フェンリルが、ゆっくりと僕のほうに近づいてくる。
 そして、僕の頬をそのあたたかな舌でぺろっとなめた。

「死ぬぅ…………!」

 生きた心地がしなかった。
 なめるときに、フェンリルのするどい牙が僕の目の前で見え隠れする。
 そして、ついに僕がガブリと頭から丸のみされるのか……。

 フェンリルが僕に顔を近づける。
 僕は恐ろしさのあまり、目を瞑った。

「やめてぇ…………!」

 僕は死ぬ覚悟を決めた。
 フェンリルさんよ、もう一思いにガブリといっちゃってくれ。
 できれば、あまり痛くはしないでね……!

「あれ…………?」

 しかし、なにも起こらない。
 フェンリルは、僕のことを食べはしなかった。
 僕はなにが起きたのか、恐る恐る目を開けた。
 すると、フェンリルは僕の頬に、自分の頬をくっつけている。
 うわぁ。なんかもふもふして気持ちいい。
 フェンリルは「くぅん」と可愛らしい声を出すと、次は僕の前に跪いた。

「え…………?」

 これ、なに……?
 フェンリルは僕の靴の臭いをかぐ。
 そして、前足をひとつ上にあげた。
 なんだこれ……?
 僕はためしに、自分の手のひらを差し出してみる。
 すると、フェンリルは僕の手のひらの上に、自分の前足を置いた。
 俗にいう、お手である。
 あれ、なんでだ……?
 なんでフェンリルが僕にお手をしているんだ……?

「フェンリル……さん……?」
「くぅん……?」

 僕がフェンリルの目をみると、そこには一切の敵意は映っていなかった。
 それどころか、お手をしたことを褒めてもらいたいのか、物欲しげな可愛い目で、僕のほうを見つめている。
 尻尾を振って、舌を出して、はぁはぁ言っている。
 まさか……これ、僕に懐いているのか……?
 僕は、ためしに、恐る恐るフェンリルの頭を撫でてみる。
 すると。

「くぅん……♪」

 フェンリルは嬉しそうに僕に寄ってきた。
 あれぇ……?
 なんか、フェンリルさん懐いてるぅ……。
 どうしてぇ……?

 しばらくフェンリルと戯れていると、ようやく状況を察したのか、ロランが口を開いた。

「うぉ……!? すっげぇなぁ……! さすがはノエルだぜ! あのSSS級モンスターのフェンリルを手懐けちまったぁ……!」

 エリーはまだフェンリルに怯え、状況を理解していないのか、口をぽかんと開けて立っている。
 マリアはさっそく僕の横から、フェンリルを撫でている。

「うわぁ……ふかふかもふもふで、かわいいですねぇ」
 
 な、なんでフェンリルが僕に懐いているんだ……。
 でも、とにかく命だけは助かったのかな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゴブリンしか召喚出来なくても最強になる方法 ~無能とののしられて追放された宮廷召喚士、ボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティーで無双する~

石矢天
ファンタジー
「ラキス・トライク。貴様は今日限りでクビだ」 「ゴブリンしか召喚できない無能」 「平民あがりのクズ」  強大で希少なモンスターを召喚できるエリート貴族が集まる宮廷召喚士の中で、ゴブリンしか召喚できない平民出身のラキスはついに宮廷をクビになる。  ラキスはクビになったことは気にしていない。  宮廷で働けば楽な暮らしが出来ると聞いていたのに、政治だ派閥だといつも騒がしいばかりだったから良い機会だ。  だが無能だとかクズだとか言われたことは根に持っていた。  自分をクビにした宮廷召喚士長の企みを邪魔しようと思ったら、なぜか国の第二王女を暗殺計画から救ってしまった。 「ボクを助けた責任を取って」 「いくら払える?」 「……ではらう」 「なに?」 「対価はボクのカラダで払うって言ったんだ!!」  ただ楽な生活をして生きていたいラキスは、本人が望まないままボクっ娘王女と二人きりの冒険者パーティで無双し、なぜか国まで救ってしまうことになる。 本作品は三人称一元視点です。 「なろうRawi」でタイトルとあらすじを磨いてみました。 タイトル:S スコア9156 あらすじ:S スコア9175

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...