始龍の賢者〜生まれた直後に森に捨てられたけど、最強種のドラゴンに拾われ溺愛されて最強になった~

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中

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第21話 採点不能

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 筆記試験が終了し、教師たちは採点の準備を始めていた。
 ひとりの教師が今日あったことを、皆に話す。

「そういえば、変わった受験者がいたんですよ」
「ほう、それはどんな?」
「ものの14分ほどで全部に解答し、抜けていったんですよ」
「ははは、それは無茶でしょう。我々が解いても、軽く1時間はかかります。舐めた生徒もいたもんですな」
「それが……ちらっと見た限りでは、そこそこ合っているんですよね……」
「はは……まさか。さて、じゃあそいつから採点してみますかね」

 そんなやりとりを交わしたあと、彼らはレルギアの解答用紙に目を通す。
 まずは魔力に関する基本的な知識の問題からだ。

「こ、これは……どれも大学院レベルじゃないと知っていないはずの知識にまで言及している……!?」
「問題で問われていない箇所まで、きっちりと回答してあるぞ……!?」

 レルギアの魔法適正は誰よりも優れている。そのため、魔法の知識や構造も、誰よりも体感で会得しているのだった。
 現代の魔法技術は、何百年も語り継がれ、形を変えてきた、いわば応用魔術だ。
 しかしアイリがレルギアに教えたのは、数百年前の理論。つまり魔法の根本的な原理そのものなのだ。
 今ではあまりに難しく、その道の専門家でしかわからないような知識を、レルギアは自然と会得していた。

「これは……正直我々でも合っているかどうかわからない部分もありますな……」
「そうですね。古代魔法学を学んでる先生に、確認をとりましょう」

 レルギアの採点は難航した。
 やっているうちに、他の教師たちもなんだなんだと集まってきて、みんなで採点に関して議論が行われた。
 そのくらい、彼の回答は複雑で、普通の教師には理解すら難しいほどだった。
 みなそれぞれの専門分野の知識を持ち合わせて、レルギアの記述の正当性を確認していく。

「これは……どういうことだ……!?」

 次に、教師たちが採点を始めたのはアイテムや武器に関する知識を問うた問題。
 大魔境で過ごしてきたレルギアにとっては、どれも簡単すぎた問題ばかりだ。

「我々でも知らないことまで書いてあるぞ……」
「こんなの、実物を知らないとわからないですよね……?」
「はは、まさか……」

 そのまさかである。問題に出てくるアーティファクトや伝説の魔獣などは、どれもレルギアにとっては身近なものばかりだ。

「これは、さらに調査が必要ですね。まだ未発見の動物の生態や、植物に関しても言及されている……。これなんかは、最近の調査で明らかになった新種の薬草ですよ!? 学会でもまだ未発表なのに、なぜこれほど詳しく知っているんだ……」
「いったいこの知識量……彼はなにものなんでしょう……」
「さあ、ローゼンベルク王のお墨付きだということしか、情報はありません……」
「ローゼンベルクが大魔境から拾ってきたという大賢者の噂……あれはまさか……」
「ははは……さすがにあれは噂でしょう。まさか……そんな、ねぇ?」

 教師たちはまるで夢でも見ているようだった。
 そのくらい、レルギアの回答は現実離れしていた。

「これは、ここに書かれていることが事実なら、学会がひっくり返りますね……」
「もはや解答の域を超えている……。まるで論文だ。しかもどれも歴史に残るような価値のある……」
「まるでこの世の心理の書を読んでいるようだ……」

 教師たちはみな、元は大学で魔法や魔物の生態について学んだ、好奇心のあるものばかりだ。
 レルギアの回答を読んでいるうちに、みなそれに魅了されていった。
 そのくらい、彼の回答は興味深いものだった。
 ひとしきり知的好奇心を刺激されたあと、ついに採点は魔法陣のページに差し掛かった。

「こ、これは……!?」
「な、なんだこれは……!?」

 魔法陣のページを見た教師たちは、期待に反してがっかりしてしまう。
 なぜなら、そこに描かれていたものは、まったくの意味不明だったからだ。

「こんなの、さすがにデタラメすぎる……」
「彼はあれだけの知識量がありながら、魔法陣に関しては素人なのか?」

 レルギアの解答用紙に魅せられて、なかば崇拝すらしつつあった彼らも、さすがに不信感を覚えてしまう。
 そのくらい、レルギアの魔法陣は理解しがたかった。

「まあたしかに、これでも点はあげられなくはないですが……ねぇ?」
「そうですねぇ。これは破綻していますよ。机上の空論というやつですな」

 レルギアの描いた魔法陣は、いわば離れ業をやろうとしていたのだ。
 魔法の威力を上げようとして、失敗しているように・・・見えてしまっている。
 魔法陣というのは、バランスが大事だ。
 威力を上げようとすれば、自然とそれに伴って破綻する。
 ここまでの威力を魔法陣で達成しようというのは、誰がどうみても理論上不可能だった。
 しかし一人の教師が、あることに気づく。古代魔法の専門の教師だ。

「あれ? ちょっと待ってください。この魔法陣は、古代魔法の理論に似ていますね……」
「だ、だとしても、この威力の設定はおかしいですよ。こんなのでは、いくら古代魔法の術式を使ったからと言って、発動するわけがない」

 そう言って、教師は試しに魔法陣に魔力を流し込んでみることにした。
 彼の中では、この魔法陣が発動するわけがないと確信があったからだ。
 しかし――。

「ほらね、発動し――」

 ――ズドーン!!!!
 ――ズガドシャアアアア!!!!

 採点していた教師たちの机に、大きな穴が開いた。
 そして下の階にまで貫通し、いくつかの空き教室を破壊した。

「ま、まさか……そんな……」
「彼はほんとうに、何者なんだ……」

 幸いなことに、採点する教師はみんな同じ部屋に集まっていたし、筆記試験は終わって実技のために、受験者はみんな外に出ている。そのため、けが人は出なかった。
 しかし、レルギアの魔法陣を疑って起動させてしまった教師は、停職処分になったという。
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