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目覚め

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「くそが!」
 
向かってきたミサイルをすべて迎撃したリサは、爆風が止んだ視界の下で、小島上で大破したキラーの姿をとらえた。

「大尉!」

慌てて旋回すると、小島に向けて、オバマAB型を降下させた。






「同じ二流か」

フェーンは、雛菊の動きを見て、量産型とは違うと即座に判断した。

「だが!邪魔はさせん!」

巨大な鷹を思わす雛菊の姿に、同タイプのコアを使ったカスタム機と思い、空中戦を回避しょうと、機体が纏う炎の質力を上げた。

「オリジナルフィギュアを逃がす訳には、いかんのだよ!」

「なめるなよ!」

雛菊の中で、河村は、ファイアバードを睨んだ。

「さっきとは、機体が違うんだよ!」

雛菊の翼を羽ばたかせると、ファイアバードを包む炎をかき消した。

「あんたの武勇伝は!その機体のおかげなんだよ!」

生身を晒したファイアバードに、雛菊の足から飛び出した鉤爪を突き刺そうと、河村は機体のスピードを上げた。

「かもしれんが…」

フェーンは自嘲気味に笑った。

「我が軍から、盗んだ機体で!調子に乗るな!」

雛菊の爪が、ファイアバードに突き刺さる寸前、突然機体が目の前から消えた。

「な!」

と同時に、雛菊のボディに傷が走った。

「確かに、機体の性能のお陰かもしれん!だがな」

ファイアバードは、雛菊の真後ろに移動していた。

「これでも、もともといいパイロットだったのさ」

フェーンは口元を緩めた。

「後ろだと!」

河村は絶句した。

「貴様は、パイロットではないな!フィギュア乗りかもしれんが!バードタイプを選んだ!自分の愚かさを知れ!」

ファイアバードの機体から、ビームが放たれた。

しかし、その攻撃は、雛菊の信じられない動きで回避された。

突然、飛ぶのを止め、自然落下を始めたのだ。

「こいつは!飛行機ではない!フィギュアだ!」

雛菊は落下しながら、翼を広げ、羽ばたくと一気に上昇し、ファイアバードに真下から体当たりを敢行した。


「やはり…こいつも」

「化け物か」

ファイアバードは、その攻撃を避けると、炎を纏い、上昇した。

「逃がすか!」

雛菊が羽ばたくと、空気が揺れ、突風が発生した。



 その様子をブリッジ内で見ていた有馬は、呟くように言った。

「あれは…兵器なのか?まるで…怪獣、化け物」




二体のフィギュアが激突する中、カタパルトデッキの上で、アルテミアは瞬きをした。

「君はいったい…」

ユーテラス内で、戸惑うコウ。

言葉は続いた。

(生きる為に、貴方は力をどう使う?ここから、逃げる為か…。それとも、今ここにいるものを滅ぼす為か?われは、どちらも可能だ。われはあなたを守るもの。われは貴方の力なり。選べ…われは貴方を傷つけるものを許さない)

「そっか…」

コウは目を瞑り、思案した。


先ほどは自由になりたくて、沖縄からでようとした。

「僕は自由になりたかった。半分日本人で、半分日本人でない僕は…この国から逃げたかった。完全に日本人になることもできたけど…その為には、僕の母を、僕の母を否定しなくちゃいけない!」

コウの脳裏に、台所に立つ母の後ろ姿が浮かんだ。ブロンドの髪を後ろに束ね、料理する母の姿。

「日本人じゃなかったから、母は死んだ。おじいちゃんは、日本から出て行き!軍人だった父は、消息不明…。お金は振り込まれているから、まだ生きていると思うけど…。僕は一人ボッチだ!おじいちゃんのように、日本を捨てたかった!だけど!」

コウは拳を握り締め、ユーテラスの壁を叩いた。

「僕は、速水浩也!浩也は日本名で、母がつけた!半分は日本人で!半分はそうじゃない!それは、ここから逃げても一生変わらない!だとしたら!僕は!」

コウは目を見開き、空を見た。




「きゃ!」

突然、草薙の船体が揺れた。
 
「どうした!」

有馬が揺れの原因を探る前に、視線の下があるものをとらえた。

「オ、オリジナルフィギュア!突然、立ち上がりました!」

真理亜の声に、有馬は静かに頷いた。

目線の先に、立ちあがったアルテミアの背中があった。




「父さんが言っていた。オリジナルフィギュアには、世界を滅ぼす力も、世界を変える力もあると!」


コウは、二体のフィギュアを見つめた。

「僕だけじゃない!アキラのような人々がたくさんいる!人は、みんな違う!だけど!人間はみんな同じだ!」

コウは静かに、目を閉じた。

「僕は力がほしい。逃げる為でも、滅ぼす為でもない。自由を!前に進む為の力がほしい。その為の戦う力を!昨日まで、願うだけだった無力な僕に力を!」

かっと目を見開くと、叫んだ。

「アルテミア!」

その声に、アルテミアも目を閉じ、見開いた。

(わが愛する君の為に、われはなろう!貴方を守り、貴方の為に戦う!力に!)

次の瞬間、アルテミアはデッキを蹴り、上空に飛び上がった。




「きゃあああ!」

アルテミアのジャンプの反動で、船体が大きく揺れた。

「く」

有馬は咄嗟に近くのバーを掴むと、飛び上がるアルテミアの背中を睨んだ。

さっきまでの少女の無垢な雰囲気が、守るものを得た母の強さを備えた女の背中に変わっていた。

「河村君!」

有馬は通信機に叫んだ。

「雛菊のコアを守って!」

「え!」

上空で戦闘中だった河村の機体に、後ろから飛びついてきたものがあった。

「オリジナルフィギュア!?」

「うおおおおっ!」

アルテミアは、雛菊の翼を片手で掴むと、もう片手を振り上げた。

「あんたは邪魔だ!」

雛菊の前にいたファイアバードの羽を、アルテミアは数十メートルに伸びた爪で切り裂いた。

「な」

それは一瞬の出来事であった。

片翼を失ったファイアバードは、そのまま海面向けて落下した。巨大な水柱ができ、水面が激しく荒れた。

大波が、草薙を揺らした。

「あんたらに、話がある」

アルテミアは雛菊にしがみつきながら、短くした爪を雛菊のユーテラス辺りにつけた。

「それは、よかったわ」

まだ揺れるブリッジで、有馬は立ちあがった。

「こちらの目的と一致して」

そして、空に浮かぶ二体のフィギュアを凝視した。
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