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あらざる者

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「くそ!」

雛菊はアルテミアの手刀が、自分の背中を貫いたと感じた瞬間、体内にあるユーテラスを外に吐き出した。

床に落ちたが、ユーテラス内にある液体のお陰で、中に居た河村にはダメージがなかった。慌てて這い出すと、体を包む液体は蒸発し、すぐさま立ちあがった。

「雛菊!」

手刀に貫かれた雛菊は泣いているように、河村には見えた。

アルテミアが手刀を抜くと、その手には雛菊のコアが握られていた。

「オリジナルフィギュア!」

明智が両手をアルテミアに向けると、無数の炎の蛇が発生し、襲いかかってきた。

「アルテミア!」

シンクロしているはずのコウの声を無視するかのように、アルテミアは手にした雛菊のコアを口に運んだ。

「お前を捕獲する!サイキックが使えぬうちに!」

コアを頬張るアルテミアの全身に、蛇達が絡みついた。炎が、アルテミアの肌を焼いていく。

「四肢がもげようが、再びコアに戻せば、同じこと!貴様を確保すれば!我が祖国はオリジナルを有するだけでなく!貴様の眷属を増やすことも可能!すべての量産機を、二流にできたならば!日本など!」

フェーンの赤き瞳が、アルテミアを映す。

「恐れることはない!」

炎の蛇をさらに発生させたとき、フェーンの心臓が痛みだした。

「く!」

フェーンは、ユーテラス内で胸を掴んだ。

「もう少しだけ…」

フィギュアの受けたダメージは、パイロットにシンクロされることはない。

しかし、コアが傷ついている場合、痛みはダイレクトにパイロットに伝えられた。もうすぐ、コアは活動を停止し、明智を構成している物質が崩れ落ちる。

「私の家で、好き勝手させるか!」

装甲を脱ぎ捨てた麗奈のシノビが、明智の背後に回り、ビームマシンガンの銃口を向けた。

「フッ」

フェーンは笑うと、心臓を押さえながら、右手を横凪ぎに振るった。

すると、炎の巨大な薙刀ができ、ビームマシンガンは持ったシノビの右手を切断した。

そして、明智の飛び蹴りが、シノビの腹にヒットした。軽量であるシノビは、くの字でふっ飛び、床に転がった。

「フィギュアもどきが」

明智が炎の銃をつくり、シノビにとどめを刺そうとしたとき、フェーンの背中に悪寒が走った。

 
「な、何だ!?」

格納庫内にあるブシに向かって走っていた河村は、思わず足を止めた。

炎の蛇が全身に絡みつき、動けないアルテミアの全身に、無数の血管が浮かび上がった。それは、コアが物質を侵食していくさまに、似ていた。

「河村君に、その姉妹!」

艦内に、有馬の声が鳴り響いた。

「そこから、できるだけ、離れて!」

その言葉に、麗奈のシノビは立ち上がると、攻撃のタイミングが遅れた明智の銃弾を避け、床に倒れている莉奈のシノビまで一気に走ると、機体を抱え、カタパルトデッキ上から、海に飛び込んだ。

「く!」

シノビの後を追うつもりはなかった。明智は、銃口をアルテミアに向けた。

その瞬間、アルテミアの中心にして、凄まじい突風が巻き起こり、炎の蛇を引きちぎった。

フェーンの勘が、明智を遥か上空に移動させた。

「竜巻か…」

草薙が豆粒までに小さく見えるまで、上昇したのは、アルテミアのジャンプ力を恐れた上だった。

「まさか…あれが、やつのサイキックか?」


冷や汗をかくほど、動揺した心を落ち着かせるために、息を吐いたフェーンの右腿から、肩に掛けて激痛が走った。

「な」

絶句するフェーン。





「消えた…」

船上から、瞬きの間で、忽然と消えた二体のフィギュア。

河村は反射的に、空を見上げ、目を細めた。





「そ、そんなはずが…」

明智のボディに、切り傷が走っていた。

「あ、ありえん!」

フェーンは空を見上げたのと、頭上から伸ばした爪を振りかざしたアルテミアが、落下してくるのが、同時だった。


「だが…しかし…」

明智の体が、真っ二つに裂けていく。

「これが…オリジナルか…」

アルテミアの斬撃によって、完全にコアを破壊された明智は、風船が割れるように、全身が飛び散り、四散した。





「こ、これが…」

河村の目に、太陽を背にしながら、静かに下りて来る天使の姿が映った。



「くっ!」

有馬は、そばにあるテーブルを叩いた。

「まさか、うちのフィギュアから、扉を開くなんて」

草薙の望遠カメラが捉えたアルテミアの姿を、モニター越しに睨んだ。






「どうなってる?」

コウには、何が起こったかわからなかった。

ただ全身が軽くなったようには、感じていた。



白い翼を背中から生やしたアルテミアは、ゆっくりと草薙向けって落下していった。






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