3 / 22
馴れない時間
しおりを挟む
「男の子がいない…」
目を見開き、周りを探してみるが、少年はいない。
「男!」
メグは素っ頓狂な声を上げると、あたしの前に踊り出た。
「男って…あん!あんたが、男に見取れていたというの!う、うそ!睦美が!誰よ!誰よ!何組の子なのよ!」
捲し立てるメグを見て、あたしは首を横に振り、力なく笑った。
「違うよ。学生服着てたから、うちの子じゃないよ」
「違う学生の子が、いたの!?」
「う、うん…」
呟いた自分の声が、耳から遠ざかる。
夢…幻…幻覚…妄想…雨粒…水溜まり…夕陽…赤…黒…学生服…男の子…微笑み…夢…幻…。
同じ言葉が、何度も何度も繰り返し、消えていく中で、彼の表情だけがいつまでも、あたしの中で浮かんでいた。
「ーったく、嫌になるよね。この辺りってさ…何もないだよなあ~!そう言えば…学校もないんだよね。一番近いのが、優女で…向こうの土手をずっと先にいったところに、南高があるぐらいだよね。」
メグはため息をつき、首を横に振った。
「だからか知らないけど、うちってさ!同じ学校でできちゃうのが、多いのよね。他校とのコンパなんてきいたことないよ!嫌だ、嫌だ!近場ですましちゃうって!」
メグと2人で並んで帰る道…。都市の中心部から離れた住宅街。そのさらに奥まで広がる田畑を、横切るように流れる川の土手を越えたところに、ひっそりと建っている川西高校。
あたしの通う高校。
校門を出て左に曲がり、真っ直ぐに三百メートル歩いて、やっと駅に着く。
緩やかな登り坂の為、帰りは…少し足取りが遅い。
「でもさ…」
メグが、あたしの顔を覗き込んだ。
「高橋くんは別よ」
夢見る少女いっぱいの表情で、メグは両腕を組み、うんうんと頷いた。
「高橋くん…?」
名前を言われても、全然顔が浮かばない。
メグは驚いたように、目を丸くした。
「ええ!知らないの!サッカー部のエースの高橋くんよ」
「あ…さっきの…」
ボールを蹴る高橋の姿をやっと思い出した。
「さっきって何よ!」
メグが、あたしに詰め寄ってくる。
あたしは少したじろいでしまった。
「帰りに、校庭で練習するサッカー部をちょっと見てただけよ」
「なんで!あんたがサッカー部なんて見てるのよ!サッカーなんて、興味ないって言ってたじゃない!まさか、睦美!あんた…高橋くんのこと」
「そんな訳ないでしょ!メグが気に入ってる人を」
「本当!本当に興味ないの?」
詰め寄るメグを、両手で押し返す。
「本当だって、信じなさい」
「本当に…?」
まだ疑いの眼差しを向けてくるメグに、あたしはため息で返した。
そして、メグを早足で追い越した。
「ちょっと、ちょっと!睦美!ゴメン、怒らないでよ!」
メグは慌てると、あたしの前に出た。
「睦美って、自分じゃ知らないでしょうけど、結構人気あるんだよ。だから、あんたがライバルだと…ちょっと分が悪いかな」
また追い抜こうとするあたしに、メグは声を荒げた。
「こら!こっちがしたでに出てると思って!かわいいとまで言ってるのに、無視か!」
なんか馬鹿らしくなってきて、あたしは足を止めた。
「まったく、メグには負ける」
「あとで、ジュース奢るからね」
メグは、ペロッと舌を出した。
前方の踏切が閉まった。これを渡れば、改札がある。
「ほら、これ見て」
踏切の前で立ち止まりながら、メグは鞄の中から一枚の写真を取り出した。
「高橋くんの写真!この前の試合の時、なんとか撮ることができたの!いいでしょ!これを中学の友達に見せたら、かっこいいって言われたの!」
騒ぎまくるメグの嬉しそうな表情に、半分呆れながら、あたしは訊いた。
「その友達に写真を見せた時、何と言ってみせたのよ」
「もちろん!あ・た・し・の・か・れ・し☆」
ウインクまで投げ掛けてくるメグに、あたしは頭を抱えてしまう。
「あんたは、幸せだわ」
踏切がやっと上がった。次々に、車や自転車があたし達の横をすり抜けていく。
「さようなら」
微かだが、耳許で少し低く力強い声が、聞こえてきた。振り返る間もなく、その声の主は、あたしの横を通り過ぎていった。
そして、彼は追い抜いた自転車から振り返った。
「た、高橋くんだあ!」
メグが声を上げた。
ほんの一瞬だった。高橋くんはすぐに前を向き、力いっぱい自転車をこいだ。
(あたしに言った?)
また再び踏切が鳴り出した。
忙しく人々が走り出す。
もう高橋くんの姿は見えない…。
「えっ?何、今の!高橋くん…今、あんたの方を見てなかった?ねえ、ねえ…」
詰め寄ってくるメグの顔を見ずに、あたしは改札に定期を通した。
「ねえ、睦美!」
メグは後ろから、あたしの腕を掴もうとした。
その瞬間、ガタンと音をたてて、改札が閉まった。
「わっ!」
うるさく鳴り響く改札の音と、人々の冷たい視線に焦りながら、メグは鞄から定期を探す。
そんなメグを見て、あたしは深いため息をついた。
「あたしは、高橋くんと話したこともないし、な~んの関係もございませんので、あしからず」
「…だって、あんたの方を見て、笑顔で」
やっと定期を取り出し、改めて改札に通す。
「あたしの方じゃなくって、あんたの方を見てたんじゃないの?隣にいたんだから、わかるって」
「そうかな?」
首を傾げるあたしを見て、メグの顔がぱっと明るくなり、駆け寄ってくる。
(まったく…わかりやすい女だ)
「実はあの笑顔は、あたしに向けられたものって…最初からわかっていたのよねえ…」
嬉しくてたまらないというように、話し続けるメグの声を聞きながらも、あたしは電車に乗り込んだ。
都市の中心地から離れた一本線の為、ほとんどの場合席は空いており、座ることができる。会社帰りのサラリーマンが乗ってくるのも、三つ程向こうの駅からである。
「やっぱり、高橋くんはあたしに惚れてるかもね」
まだまだ話し続けるメグ。妄想の類いにはいっている。
あたしが座った向こうの窓から、夜の闇が見えた。もう夕陽はない。
(闇は嫌いじゃない。でも、切なさが足りない)
軽く小刻みに揺れる電車に座りながら、あたしはただただ景色の向こうを見つめていた。
この向こうの下側はまだ、夕陽なのだろうか。
なぜか、ため息が一つ出た。
「ねえ、睦美」
メグの声で、はっと我に返った。
「え?何」
「あんた、聞いてなかったの…ったく、昨日から来てる教育実習生の話よ」
少し怒った顔で、メグがあたしを見ている。
「あっあっ…そう言えば、4人じゃなくて、5人来てたよね」
「そうよ。女4人に、男1人!逆ならよかったのにね」
電車が一つ目の駅に滑り込んだ。
窓から見えるホーム上の人々は一人一人服装が違うのに関わらず、まるで一つの塊のように見えた。
ぞろぞろと中に入ってくる。今日はいつもより、人が多い。
そんなことをぼおっと考えている頭の中に、今日の授業風景がよみがえった。
色がないモノトーンの風景の中…教壇に立つ1人の教師の姿を見つけたが、顔が思い付かない。
(あっ。教師の顔なんて、見たくないものね)
教師になんて興味がない。
見渡すと、同級生の顔も浮かばない。
ただ白い制服だけが、妙に明るくイメージされている。
制服。
没個性的だと言われる制服が、実は一番…彼女達にとって個性的なんじゃないのだろうか。制服を着ることで、やっと…学生として認めてもらっている。
そんな現実。
「睦美って、ホント無頓着よね。クラスの子ら、噂してたよ。なかなかかっこいいってさ」
メグの制服を、ちらっとあたしは見た。
「でもね。あたしはちょっとパスなんだけね。なんか暗そうじゃない?ちょっとオタクはいってる感じで」
ぼおっとしているあたしの顔に、メグの顔が近づいてきた。
えっと、あたしがびっくりした表情で驚くと、メグは耳許で囁いた。
「あんたってホント、無防備よね。あたしが男だったら、あんたの唇を奪ってるわよ」
あまりに色っぽく言うから、あたしは困惑してしまう。
そんなあたしに呆れたのか、さっと顔を遠ざけると、メグは深々と席に座り直した。
「無頓着で無防備で、ちょっと抜けているところがあるくせに、どこか冷静でさめたところがあるのよねえ」
メグは腕を、頭の後ろにやりながら、視線をあたしの髪に向けた。
「あんたって、普通のごくありふれた髪型だもんねえ」
ストレートで癖一つない黒髪。
「だって…邪魔くさいじゃない。巻くのとか」
あたしの言葉に、メグは半分呆れながら、話を続けた。
「邪魔くさくても、みんないろいろやってるの!昔からだもんね…この髪型。まあ綺麗なストレートは、羨ましくはあるけど…。流行りを追わないっていうか…おしゃれしないというか…」
「お、おしゃれは、あたしもしたいよ!でも、今の流行りは好きじゃない」
「好きじゃなくて、いいのよ!かわいく、かわいく!それが、女子高生ってもんよ」
「そんなの…」
何を言っていいのかわからないけど、あたしはメグに言い返そうとした。
ガタン。電車が激しく揺れて、駅へと滑り込んだ。
体も少し揺れて、会話を止めてしまう。
「長原駅…長原駅」
車内に無機質や車掌の声が、響き渡る。
よいしょっと、メグが助走をつけて立ち上がった。
「まあいいわ。あたし、そんな睦美のこと嫌いじゃないし。むしろ、結構好き方だし」
「…」
あたしは何も言えなくなった。
「だから、親友として、もうちょっとおしゃれに気を使った方が、彼氏の1人や2人できるかなと思っただけ」
「彼氏なんて…」
ぞろぞろと忙しなく、人々がドアへと向かっていく。
「でも、高橋くんは駄目よ」
メグは笑顔で軽く手を振りながら、人混みの中に消えていった。
あたしも手を振り、メグの後ろ姿を見送った。だけど、すぐに乗り込んでくる人混みによって見えなくなった。
そして、いつのまにか、あたしの周りは見知らぬ人々で溢れ返っていた。
少し息を吐くと…静かに電車は動きだし、その揺れを感じながら、あたしは目を瞑り、眠ることにした。
目を見開き、周りを探してみるが、少年はいない。
「男!」
メグは素っ頓狂な声を上げると、あたしの前に踊り出た。
「男って…あん!あんたが、男に見取れていたというの!う、うそ!睦美が!誰よ!誰よ!何組の子なのよ!」
捲し立てるメグを見て、あたしは首を横に振り、力なく笑った。
「違うよ。学生服着てたから、うちの子じゃないよ」
「違う学生の子が、いたの!?」
「う、うん…」
呟いた自分の声が、耳から遠ざかる。
夢…幻…幻覚…妄想…雨粒…水溜まり…夕陽…赤…黒…学生服…男の子…微笑み…夢…幻…。
同じ言葉が、何度も何度も繰り返し、消えていく中で、彼の表情だけがいつまでも、あたしの中で浮かんでいた。
「ーったく、嫌になるよね。この辺りってさ…何もないだよなあ~!そう言えば…学校もないんだよね。一番近いのが、優女で…向こうの土手をずっと先にいったところに、南高があるぐらいだよね。」
メグはため息をつき、首を横に振った。
「だからか知らないけど、うちってさ!同じ学校でできちゃうのが、多いのよね。他校とのコンパなんてきいたことないよ!嫌だ、嫌だ!近場ですましちゃうって!」
メグと2人で並んで帰る道…。都市の中心部から離れた住宅街。そのさらに奥まで広がる田畑を、横切るように流れる川の土手を越えたところに、ひっそりと建っている川西高校。
あたしの通う高校。
校門を出て左に曲がり、真っ直ぐに三百メートル歩いて、やっと駅に着く。
緩やかな登り坂の為、帰りは…少し足取りが遅い。
「でもさ…」
メグが、あたしの顔を覗き込んだ。
「高橋くんは別よ」
夢見る少女いっぱいの表情で、メグは両腕を組み、うんうんと頷いた。
「高橋くん…?」
名前を言われても、全然顔が浮かばない。
メグは驚いたように、目を丸くした。
「ええ!知らないの!サッカー部のエースの高橋くんよ」
「あ…さっきの…」
ボールを蹴る高橋の姿をやっと思い出した。
「さっきって何よ!」
メグが、あたしに詰め寄ってくる。
あたしは少したじろいでしまった。
「帰りに、校庭で練習するサッカー部をちょっと見てただけよ」
「なんで!あんたがサッカー部なんて見てるのよ!サッカーなんて、興味ないって言ってたじゃない!まさか、睦美!あんた…高橋くんのこと」
「そんな訳ないでしょ!メグが気に入ってる人を」
「本当!本当に興味ないの?」
詰め寄るメグを、両手で押し返す。
「本当だって、信じなさい」
「本当に…?」
まだ疑いの眼差しを向けてくるメグに、あたしはため息で返した。
そして、メグを早足で追い越した。
「ちょっと、ちょっと!睦美!ゴメン、怒らないでよ!」
メグは慌てると、あたしの前に出た。
「睦美って、自分じゃ知らないでしょうけど、結構人気あるんだよ。だから、あんたがライバルだと…ちょっと分が悪いかな」
また追い抜こうとするあたしに、メグは声を荒げた。
「こら!こっちがしたでに出てると思って!かわいいとまで言ってるのに、無視か!」
なんか馬鹿らしくなってきて、あたしは足を止めた。
「まったく、メグには負ける」
「あとで、ジュース奢るからね」
メグは、ペロッと舌を出した。
前方の踏切が閉まった。これを渡れば、改札がある。
「ほら、これ見て」
踏切の前で立ち止まりながら、メグは鞄の中から一枚の写真を取り出した。
「高橋くんの写真!この前の試合の時、なんとか撮ることができたの!いいでしょ!これを中学の友達に見せたら、かっこいいって言われたの!」
騒ぎまくるメグの嬉しそうな表情に、半分呆れながら、あたしは訊いた。
「その友達に写真を見せた時、何と言ってみせたのよ」
「もちろん!あ・た・し・の・か・れ・し☆」
ウインクまで投げ掛けてくるメグに、あたしは頭を抱えてしまう。
「あんたは、幸せだわ」
踏切がやっと上がった。次々に、車や自転車があたし達の横をすり抜けていく。
「さようなら」
微かだが、耳許で少し低く力強い声が、聞こえてきた。振り返る間もなく、その声の主は、あたしの横を通り過ぎていった。
そして、彼は追い抜いた自転車から振り返った。
「た、高橋くんだあ!」
メグが声を上げた。
ほんの一瞬だった。高橋くんはすぐに前を向き、力いっぱい自転車をこいだ。
(あたしに言った?)
また再び踏切が鳴り出した。
忙しく人々が走り出す。
もう高橋くんの姿は見えない…。
「えっ?何、今の!高橋くん…今、あんたの方を見てなかった?ねえ、ねえ…」
詰め寄ってくるメグの顔を見ずに、あたしは改札に定期を通した。
「ねえ、睦美!」
メグは後ろから、あたしの腕を掴もうとした。
その瞬間、ガタンと音をたてて、改札が閉まった。
「わっ!」
うるさく鳴り響く改札の音と、人々の冷たい視線に焦りながら、メグは鞄から定期を探す。
そんなメグを見て、あたしは深いため息をついた。
「あたしは、高橋くんと話したこともないし、な~んの関係もございませんので、あしからず」
「…だって、あんたの方を見て、笑顔で」
やっと定期を取り出し、改めて改札に通す。
「あたしの方じゃなくって、あんたの方を見てたんじゃないの?隣にいたんだから、わかるって」
「そうかな?」
首を傾げるあたしを見て、メグの顔がぱっと明るくなり、駆け寄ってくる。
(まったく…わかりやすい女だ)
「実はあの笑顔は、あたしに向けられたものって…最初からわかっていたのよねえ…」
嬉しくてたまらないというように、話し続けるメグの声を聞きながらも、あたしは電車に乗り込んだ。
都市の中心地から離れた一本線の為、ほとんどの場合席は空いており、座ることができる。会社帰りのサラリーマンが乗ってくるのも、三つ程向こうの駅からである。
「やっぱり、高橋くんはあたしに惚れてるかもね」
まだまだ話し続けるメグ。妄想の類いにはいっている。
あたしが座った向こうの窓から、夜の闇が見えた。もう夕陽はない。
(闇は嫌いじゃない。でも、切なさが足りない)
軽く小刻みに揺れる電車に座りながら、あたしはただただ景色の向こうを見つめていた。
この向こうの下側はまだ、夕陽なのだろうか。
なぜか、ため息が一つ出た。
「ねえ、睦美」
メグの声で、はっと我に返った。
「え?何」
「あんた、聞いてなかったの…ったく、昨日から来てる教育実習生の話よ」
少し怒った顔で、メグがあたしを見ている。
「あっあっ…そう言えば、4人じゃなくて、5人来てたよね」
「そうよ。女4人に、男1人!逆ならよかったのにね」
電車が一つ目の駅に滑り込んだ。
窓から見えるホーム上の人々は一人一人服装が違うのに関わらず、まるで一つの塊のように見えた。
ぞろぞろと中に入ってくる。今日はいつもより、人が多い。
そんなことをぼおっと考えている頭の中に、今日の授業風景がよみがえった。
色がないモノトーンの風景の中…教壇に立つ1人の教師の姿を見つけたが、顔が思い付かない。
(あっ。教師の顔なんて、見たくないものね)
教師になんて興味がない。
見渡すと、同級生の顔も浮かばない。
ただ白い制服だけが、妙に明るくイメージされている。
制服。
没個性的だと言われる制服が、実は一番…彼女達にとって個性的なんじゃないのだろうか。制服を着ることで、やっと…学生として認めてもらっている。
そんな現実。
「睦美って、ホント無頓着よね。クラスの子ら、噂してたよ。なかなかかっこいいってさ」
メグの制服を、ちらっとあたしは見た。
「でもね。あたしはちょっとパスなんだけね。なんか暗そうじゃない?ちょっとオタクはいってる感じで」
ぼおっとしているあたしの顔に、メグの顔が近づいてきた。
えっと、あたしがびっくりした表情で驚くと、メグは耳許で囁いた。
「あんたってホント、無防備よね。あたしが男だったら、あんたの唇を奪ってるわよ」
あまりに色っぽく言うから、あたしは困惑してしまう。
そんなあたしに呆れたのか、さっと顔を遠ざけると、メグは深々と席に座り直した。
「無頓着で無防備で、ちょっと抜けているところがあるくせに、どこか冷静でさめたところがあるのよねえ」
メグは腕を、頭の後ろにやりながら、視線をあたしの髪に向けた。
「あんたって、普通のごくありふれた髪型だもんねえ」
ストレートで癖一つない黒髪。
「だって…邪魔くさいじゃない。巻くのとか」
あたしの言葉に、メグは半分呆れながら、話を続けた。
「邪魔くさくても、みんないろいろやってるの!昔からだもんね…この髪型。まあ綺麗なストレートは、羨ましくはあるけど…。流行りを追わないっていうか…おしゃれしないというか…」
「お、おしゃれは、あたしもしたいよ!でも、今の流行りは好きじゃない」
「好きじゃなくて、いいのよ!かわいく、かわいく!それが、女子高生ってもんよ」
「そんなの…」
何を言っていいのかわからないけど、あたしはメグに言い返そうとした。
ガタン。電車が激しく揺れて、駅へと滑り込んだ。
体も少し揺れて、会話を止めてしまう。
「長原駅…長原駅」
車内に無機質や車掌の声が、響き渡る。
よいしょっと、メグが助走をつけて立ち上がった。
「まあいいわ。あたし、そんな睦美のこと嫌いじゃないし。むしろ、結構好き方だし」
「…」
あたしは何も言えなくなった。
「だから、親友として、もうちょっとおしゃれに気を使った方が、彼氏の1人や2人できるかなと思っただけ」
「彼氏なんて…」
ぞろぞろと忙しなく、人々がドアへと向かっていく。
「でも、高橋くんは駄目よ」
メグは笑顔で軽く手を振りながら、人混みの中に消えていった。
あたしも手を振り、メグの後ろ姿を見送った。だけど、すぐに乗り込んでくる人混みによって見えなくなった。
そして、いつのまにか、あたしの周りは見知らぬ人々で溢れ返っていた。
少し息を吐くと…静かに電車は動きだし、その揺れを感じながら、あたしは目を瞑り、眠ることにした。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる