7 / 22
急ぐ時
しおりを挟む
次の日。
いつも通り学校に行き、いつも通りの慌ただしい教室の中で、あっという間に時は過ぎ、帰り支度をしていると、メグがあたしの前にやって来て、いきなり両手を合わした。
「ごめん!睦美!今日は、先に帰って」
あたしは目を丸くした。
「ど、どうしたの?またサッカー部の見学?」
「ち、違うの!今日は、サッカー部の練習はお休みです!」
あたしは心の中で、はっとした。
(あっ!そっか!確か、来週は中間テストだもんね)
あたしは、メグに詰め寄った。
「じゃあ、どおしてよお。お目当てのサッカー部が休みとあらば、一目散に家に帰るあんたが!一体、何があるのよ!」
すると、メグはむちゃくちゃ嬉しそうに、顔を歪めた。 その笑みの不気味さに、少したじろいでしまった。
「あるわよ!何かあったわよ!大有りよお!」
キャッと身をよじるメグ。
(び、病気か…)
「し、知りたいでしょ!その気持ちわかるわ~あ!いいわ!教えてあげる。あなただけに、と・く・べ・つ・に」
と言うと、あたしの腕を取り教室を出ると、廊下の隅の方に連れていく。
「他の女に知られると、嫉妬されるからさ」
誰か聞いているやつはいないかと、辺りを伺った後、あたしに思い切り抱きついてきた。
「あのねえ、睦美!聞いてよ!あたし、高橋くんに今日!いっしょに帰ろって!は、話があるんだって!」
メグはあたしをぎゅっと抱き締め、身を捩った。
「誘われちゃったあ!」
「さ、誘われたあ!」
思わず声をあらげたあたしの口を、メグは慌てて塞ぎ、
「あんた、声がでかいんだよ」
あたしはメグの手を外した。
「誘われたって、どういうことよ?」
「それにねえ~」
突然、ぼおっとメグは顔を赤めながら、少しふらつきだした。
「今さっき…言われたのよおねえ~。今日帰ろうって。あたしがトイレにいこうとしたら後ろから…あっ、相沢さんって、あのクールな声で、突然…申し訳ないんだけど、今日時間あいてるかな?いっしょに帰りたいんだけどって」
ここで、メグは少し我に返り、あたしを見た。
「でも!どうして、高橋くん…あたしの名前を知ってるんだ?前から、あたしのこと気にしてたのかな!」
嬉しそうにはしゃぐメグを見ながら、あたしはため息をついた。
そりゃ…毎日、部活を見に行って、試合の時にはプレゼントを持参するやつを、いやでも覚えるだろが。
きゃって1人興奮しているメグを、帰宅していく生徒がじろじろと横目で見ていく。
気持ち悪そうに。
「という訳で、今日はごめん!今度、埋め合わせするからさ!あたしの幸せ話で!」
鞄を抱え、生徒達をかき分けながら、メグは走りだした。
1人残されたあたしは、窓にもたれかかり、軽く息を吐いた。
これから、どうしょう。
夢見心地のメグと違い、あたしには現実があった。
テスト前…。
いつもなら、軽い現実逃避をして、お好み焼きでも食べに行くんだけど…女一人では恥ずかしい。
仕方がない。
今日は図書室にでも寄って、勉強でもするかな。
でも、その前に…。
あたしは、学校の裏門前のコンビニに行った。一応、テスト前でも大会が近い部は、練習してるみたいで、何人かユニホーム姿の生徒がたむろしていた。
あたしは弁当達の前に立ち、じっと眺めるが…迷った時のおにぎりがない。
愕然とするあたしの目の前には、お好み焼に焼きそば、オムライスに、パスタ。
(あたしを太らす気か!おのれ~え!炭水化物が!)
棚の前で構える…あたし。
でも、コンビニのメニューなんて、たかがしれている。
仕方なく、端に目をやると、サンドイッチが一つ残っていた。
あとは、得体の知れない…新製品のパンだけだ。
あたしは、サンドイッチに駆け寄り引っ掴むと、残された中からおいしいだろうと、長年の勘が告げるパンを手に取った。最後に、コーヒー牛乳を買うことにした。
お金を払うと、コンビニを出て、学校の中庭にあるテラスもどきのスペースに一目散に向かい、ベンチに腰かけた。
さっさと食べようと、サンドイッチに手をつけ…何となく、ふっとあたしは前を見た。
道を挟んだ向こう側に、町子達3人が座っていた。何か楽しそうに、談笑している。 訝しげにその様子を見ていると、3人のうち1人があたしに気づいた。
確か…サッカー部のマネージャーだ。名前は、北村。
3人の会話が止まり、町子もこちらを見た。
あたしはサンドイッチを置くと、軽く頭を下げた。
町子も頭を下げた。
だけど、口元が少し笑っているように見えた。
「?」
あたしが少し眉を寄せると、3人は席を立ち、中庭から消えていった。
なんだか、感じが悪い。
3人の姿が見えなくなると、あたしはサンドイッチではなく、別のパンをを掴み、口に運んだ。
そして、勘が外れたことに肩を落としたのであった。
パンとの悲しい別れを経験した後、訪れた静かな図書室は少し、居心地が悪かった。
さすがにテスト一週間前ということもあり、ほとんどの席が埋まっていた。みんな手に手を取り合い、ノートの貸し合い、写し合い、話し合いをしている。
それも、皆一応ひそひそ声で話しているものだから、何と言うか…虫がごそごそて蠢いているような感じを受けた。
あたし…町中の人混みも嫌いだし…人がたくさんいるっていうのが、どうも苦手だ。
これで、世間の荒波を乗り越えていけるのだろうか。
自分で不安だ。
いかん、いかん。
気を取り直し、鞄を開けた。
頬杖をついて、歴史の教科書をぼんやり眺めていると、突然後ろから声をかけられた。
「竹内さん」
少し甲高い声に、聞き覚えがあると振り返ると、同じクラスの太田と森山がいた。
「あのさ…竹内さんって、英語得意だったよね?」
森山が、少し顔を近づけてきた。
「ええ…」
あたしは少したじろいだ。
森山は確か…陸上部に入っていて、結構速いって噂のスプリンター。
太田は手芸部で、おとなしくってかわいい子…守ってあげたいタイプって感じで、男子に人気があったはず。
どちらも、典型的な体育会系、文科系なのに…この正反対な2人が親友っていうことで、何かと話題に上がっている。
「まあ…比較的得意といえば、得意かな…」
あたしが返事すると、森山の目が輝いた。
「よかったら、教えてくれない?あたし達、英語ってまるっきり駄目なんだ」
森山は腕を組んだ。
「大体、英語を習っても、日本人って、全然しゃべれないじゃん!あたし達は、無駄な知識だけを与えられてるのよ!」
拳を握りしめ、図書館の真ん中で力説する森山を、ため息混じりで、太田がなだめながら、口を挟んだ。
「まるっきり駄目って、きょうちゃんだけじゃないの?あたしは別に…」
きょうちゃん…森山の名前は、京子だった。
そうそう太田は、学年でもトップクラスの優等生だ。
「あ、あんた!あたしだけ、バカっていいたいのか!ああ、嫌だ!嫌だ!これだから、頭のいいやつは!」
ケッと吐き捨てるように言う森山を完全無視して、太田があたしに微笑みかけた。
「竹内さん。ここは図書館ですので、他の人達に迷惑になりそうですから、足腰筋肉バカはほっておいて、優等生同士。奥で、勉強でもしませんか?」
にこにこしながらも、どこか刺がある太田は、あたしの腕を取ると、強引に席から立たそうとする。
その力の強さと表情のギャップに、あたしはやっと…この2人が親友である意味を理解した。
「あっ!て、てめえ!竹内さんを、どこに連れていくつもりだ!」
「あなたと離れたところよ」
太田は冷たい視線を、森山に向けた。
「愛花!ま、まさか…よりによって、テスト前に、おれを見捨てる気か!」
あたし達に向かって、手を伸ばす森山を相手にしないで、太田はあたしだけを見て、
「あたし…場をわきまえないやつが、嫌いなんです」
微笑んだ。
(こ、こえ…)
逆らってはいけないと、本能が告げた。あたしは、目の前の教科書を片付けはじめた。
すると、慌てて森山があたしと太田の間に割って入り、手を合わせて謝りだした。
「ご、ごめん!愛花様!あなたがいないと、おれは生きていけません!せ、せめて、一週間のお慈悲を…反省しておりますので」
その様子を、横目でチラッと確認すると、少し考えるような仕草をしてから、太田はため息とともに言った。
「仕方ないわね。今回だけは、許してあげる」
「ありがとうございます」
森山は頭を下げた。
太田はあたしに顔を向け、微笑んだ。
「竹内さん。ここは、3人で座れませんから、奥にいきましょう。あたし達の荷物も、そこにありますので」
さっと奥へ歩き出す太田と、その背中に向かって舌を出す森山の対比が、あたしにはおかしかった。
森山は、太田の背中を軽く睨みながら、あたしに向かって呟いた。
「あんにゃろう~!いつも、テスト前になると、えらそうになるんだよ。まったく!テスト終わったら、絶対復讐してやるからな」
日も暮れだした頃、あたし達三人は、図書室を出た。
「今日は、勉強した!した!本当にしたぜえ!」
森山は大きく背伸びした。
「そうねえ…。あたしはただ、教えただけで… 何もできなかったけど」
ため息とともに、太田が呟くように言った。
森山はちらりと太田を見ると、あたしに近づき、耳打ちした。
「―ったく、嫌味な女だぜ」
確かに…。あたしは、心の中で頷いた。だって、太田はまじ恐い。
そんなあたし達の様子に気づいたのか、太田はこちらに顔を向け、ゆっくりと微笑んだ。くりっとした大きな目に、小さな口元。かわいいだけに、余計に恐い。
「ごめんなさいね。竹内さん…。今日は、邪魔して」
「別にいいよ。あたしも不得意な社会を教えてもらったし…すごく楽しかったし」
「そう言って貰ってよかった。あまり教室でも話したことないのに、図々しいとは思ったんだけど」
「そうなんだよ!いつも話しかけようと思ってたんだけど…」
話に、森山が入ってきて、顔をしかめた。
「あの馬鹿が、いつも!竹内さんのそばに、あの馬鹿がいたから」
三人は、校門を通りすぎ、駅を目指していた。
森山は、道端の石を軽く蹴った。
「あの馬鹿って…」
1人しかいない。
「相沢恵美!」
吐き捨てるように言うと、さらに蹴った石目掛けて、走り出した。
「ごめんなさい。あの子…相沢さんのこと嫌いなの」
「メグのことが?」
石は森山に蹴られて、さらに遠く飛んでいった。
「あの女、うるさいんだよ!いつもいつもグラウンドで、サッカー部の練習見ながら、きゃきゃっとはしゃぎやがって!おれはさあ!男の尻を追いかけてる女が、大嫌いなんだよ!」
森山は、あたしの顔を見ると、
「だから、竹内さんと話したいとずっと思ってたんだけど…なかなか声をかけれなくって」
頭をかき、笑顔を向けた。
「今日は1人みたいだから、絶対声をかけようと思ったんだ」
どうしてと、あたしがきこうとしたら、それより先に、森山がはにかむように、言葉を続けた。
「おれ…かわいい女の子が好きなんだ」
顔を赤らめて、あたしをじっと見つめ…そう言いましたとさ……じゃない。
ゲ。あたしがたじろぐと、森山は少し視線を逸らした。
その様子に、身の危険を感じたあたしの肩を、太田がぽんと叩いた。
「大丈夫。この子…そっち系じゃないから」
そして、 にこっと、あたしに微笑んだ。
不気味…。
「でも、キスは女としか経験してないみたいだけど…」
「はあ?」
意味深な言葉を残し、太田はあたしの横を通りすぎた。
太田はくすっと笑うと、振り返り、
「じゃあ、竹内さん。あたし達、駅とは反対方向だから…。ここでさよならしましょ」
微笑みながら、頭を下げた。
「あっ!愛花!」
慌てて歩きだそうとして、森山は足を止めた。
「明日から、京子でいいから!またあしたな!気をつけて、帰れよな」
太田がこっちを見てないことを確認した後、森山は投げキスをしてきた。
「…」
1人…取り残されたあたしは、しばらく2人の後ろ姿を見送った。
世界は広い。世の中、まだまだ…あたしの理解できないことがあると、悪寒を通り越して、軽い目眩を感じた。
いつも通り学校に行き、いつも通りの慌ただしい教室の中で、あっという間に時は過ぎ、帰り支度をしていると、メグがあたしの前にやって来て、いきなり両手を合わした。
「ごめん!睦美!今日は、先に帰って」
あたしは目を丸くした。
「ど、どうしたの?またサッカー部の見学?」
「ち、違うの!今日は、サッカー部の練習はお休みです!」
あたしは心の中で、はっとした。
(あっ!そっか!確か、来週は中間テストだもんね)
あたしは、メグに詰め寄った。
「じゃあ、どおしてよお。お目当てのサッカー部が休みとあらば、一目散に家に帰るあんたが!一体、何があるのよ!」
すると、メグはむちゃくちゃ嬉しそうに、顔を歪めた。 その笑みの不気味さに、少したじろいでしまった。
「あるわよ!何かあったわよ!大有りよお!」
キャッと身をよじるメグ。
(び、病気か…)
「し、知りたいでしょ!その気持ちわかるわ~あ!いいわ!教えてあげる。あなただけに、と・く・べ・つ・に」
と言うと、あたしの腕を取り教室を出ると、廊下の隅の方に連れていく。
「他の女に知られると、嫉妬されるからさ」
誰か聞いているやつはいないかと、辺りを伺った後、あたしに思い切り抱きついてきた。
「あのねえ、睦美!聞いてよ!あたし、高橋くんに今日!いっしょに帰ろって!は、話があるんだって!」
メグはあたしをぎゅっと抱き締め、身を捩った。
「誘われちゃったあ!」
「さ、誘われたあ!」
思わず声をあらげたあたしの口を、メグは慌てて塞ぎ、
「あんた、声がでかいんだよ」
あたしはメグの手を外した。
「誘われたって、どういうことよ?」
「それにねえ~」
突然、ぼおっとメグは顔を赤めながら、少しふらつきだした。
「今さっき…言われたのよおねえ~。今日帰ろうって。あたしがトイレにいこうとしたら後ろから…あっ、相沢さんって、あのクールな声で、突然…申し訳ないんだけど、今日時間あいてるかな?いっしょに帰りたいんだけどって」
ここで、メグは少し我に返り、あたしを見た。
「でも!どうして、高橋くん…あたしの名前を知ってるんだ?前から、あたしのこと気にしてたのかな!」
嬉しそうにはしゃぐメグを見ながら、あたしはため息をついた。
そりゃ…毎日、部活を見に行って、試合の時にはプレゼントを持参するやつを、いやでも覚えるだろが。
きゃって1人興奮しているメグを、帰宅していく生徒がじろじろと横目で見ていく。
気持ち悪そうに。
「という訳で、今日はごめん!今度、埋め合わせするからさ!あたしの幸せ話で!」
鞄を抱え、生徒達をかき分けながら、メグは走りだした。
1人残されたあたしは、窓にもたれかかり、軽く息を吐いた。
これから、どうしょう。
夢見心地のメグと違い、あたしには現実があった。
テスト前…。
いつもなら、軽い現実逃避をして、お好み焼きでも食べに行くんだけど…女一人では恥ずかしい。
仕方がない。
今日は図書室にでも寄って、勉強でもするかな。
でも、その前に…。
あたしは、学校の裏門前のコンビニに行った。一応、テスト前でも大会が近い部は、練習してるみたいで、何人かユニホーム姿の生徒がたむろしていた。
あたしは弁当達の前に立ち、じっと眺めるが…迷った時のおにぎりがない。
愕然とするあたしの目の前には、お好み焼に焼きそば、オムライスに、パスタ。
(あたしを太らす気か!おのれ~え!炭水化物が!)
棚の前で構える…あたし。
でも、コンビニのメニューなんて、たかがしれている。
仕方なく、端に目をやると、サンドイッチが一つ残っていた。
あとは、得体の知れない…新製品のパンだけだ。
あたしは、サンドイッチに駆け寄り引っ掴むと、残された中からおいしいだろうと、長年の勘が告げるパンを手に取った。最後に、コーヒー牛乳を買うことにした。
お金を払うと、コンビニを出て、学校の中庭にあるテラスもどきのスペースに一目散に向かい、ベンチに腰かけた。
さっさと食べようと、サンドイッチに手をつけ…何となく、ふっとあたしは前を見た。
道を挟んだ向こう側に、町子達3人が座っていた。何か楽しそうに、談笑している。 訝しげにその様子を見ていると、3人のうち1人があたしに気づいた。
確か…サッカー部のマネージャーだ。名前は、北村。
3人の会話が止まり、町子もこちらを見た。
あたしはサンドイッチを置くと、軽く頭を下げた。
町子も頭を下げた。
だけど、口元が少し笑っているように見えた。
「?」
あたしが少し眉を寄せると、3人は席を立ち、中庭から消えていった。
なんだか、感じが悪い。
3人の姿が見えなくなると、あたしはサンドイッチではなく、別のパンをを掴み、口に運んだ。
そして、勘が外れたことに肩を落としたのであった。
パンとの悲しい別れを経験した後、訪れた静かな図書室は少し、居心地が悪かった。
さすがにテスト一週間前ということもあり、ほとんどの席が埋まっていた。みんな手に手を取り合い、ノートの貸し合い、写し合い、話し合いをしている。
それも、皆一応ひそひそ声で話しているものだから、何と言うか…虫がごそごそて蠢いているような感じを受けた。
あたし…町中の人混みも嫌いだし…人がたくさんいるっていうのが、どうも苦手だ。
これで、世間の荒波を乗り越えていけるのだろうか。
自分で不安だ。
いかん、いかん。
気を取り直し、鞄を開けた。
頬杖をついて、歴史の教科書をぼんやり眺めていると、突然後ろから声をかけられた。
「竹内さん」
少し甲高い声に、聞き覚えがあると振り返ると、同じクラスの太田と森山がいた。
「あのさ…竹内さんって、英語得意だったよね?」
森山が、少し顔を近づけてきた。
「ええ…」
あたしは少したじろいだ。
森山は確か…陸上部に入っていて、結構速いって噂のスプリンター。
太田は手芸部で、おとなしくってかわいい子…守ってあげたいタイプって感じで、男子に人気があったはず。
どちらも、典型的な体育会系、文科系なのに…この正反対な2人が親友っていうことで、何かと話題に上がっている。
「まあ…比較的得意といえば、得意かな…」
あたしが返事すると、森山の目が輝いた。
「よかったら、教えてくれない?あたし達、英語ってまるっきり駄目なんだ」
森山は腕を組んだ。
「大体、英語を習っても、日本人って、全然しゃべれないじゃん!あたし達は、無駄な知識だけを与えられてるのよ!」
拳を握りしめ、図書館の真ん中で力説する森山を、ため息混じりで、太田がなだめながら、口を挟んだ。
「まるっきり駄目って、きょうちゃんだけじゃないの?あたしは別に…」
きょうちゃん…森山の名前は、京子だった。
そうそう太田は、学年でもトップクラスの優等生だ。
「あ、あんた!あたしだけ、バカっていいたいのか!ああ、嫌だ!嫌だ!これだから、頭のいいやつは!」
ケッと吐き捨てるように言う森山を完全無視して、太田があたしに微笑みかけた。
「竹内さん。ここは図書館ですので、他の人達に迷惑になりそうですから、足腰筋肉バカはほっておいて、優等生同士。奥で、勉強でもしませんか?」
にこにこしながらも、どこか刺がある太田は、あたしの腕を取ると、強引に席から立たそうとする。
その力の強さと表情のギャップに、あたしはやっと…この2人が親友である意味を理解した。
「あっ!て、てめえ!竹内さんを、どこに連れていくつもりだ!」
「あなたと離れたところよ」
太田は冷たい視線を、森山に向けた。
「愛花!ま、まさか…よりによって、テスト前に、おれを見捨てる気か!」
あたし達に向かって、手を伸ばす森山を相手にしないで、太田はあたしだけを見て、
「あたし…場をわきまえないやつが、嫌いなんです」
微笑んだ。
(こ、こえ…)
逆らってはいけないと、本能が告げた。あたしは、目の前の教科書を片付けはじめた。
すると、慌てて森山があたしと太田の間に割って入り、手を合わせて謝りだした。
「ご、ごめん!愛花様!あなたがいないと、おれは生きていけません!せ、せめて、一週間のお慈悲を…反省しておりますので」
その様子を、横目でチラッと確認すると、少し考えるような仕草をしてから、太田はため息とともに言った。
「仕方ないわね。今回だけは、許してあげる」
「ありがとうございます」
森山は頭を下げた。
太田はあたしに顔を向け、微笑んだ。
「竹内さん。ここは、3人で座れませんから、奥にいきましょう。あたし達の荷物も、そこにありますので」
さっと奥へ歩き出す太田と、その背中に向かって舌を出す森山の対比が、あたしにはおかしかった。
森山は、太田の背中を軽く睨みながら、あたしに向かって呟いた。
「あんにゃろう~!いつも、テスト前になると、えらそうになるんだよ。まったく!テスト終わったら、絶対復讐してやるからな」
日も暮れだした頃、あたし達三人は、図書室を出た。
「今日は、勉強した!した!本当にしたぜえ!」
森山は大きく背伸びした。
「そうねえ…。あたしはただ、教えただけで… 何もできなかったけど」
ため息とともに、太田が呟くように言った。
森山はちらりと太田を見ると、あたしに近づき、耳打ちした。
「―ったく、嫌味な女だぜ」
確かに…。あたしは、心の中で頷いた。だって、太田はまじ恐い。
そんなあたし達の様子に気づいたのか、太田はこちらに顔を向け、ゆっくりと微笑んだ。くりっとした大きな目に、小さな口元。かわいいだけに、余計に恐い。
「ごめんなさいね。竹内さん…。今日は、邪魔して」
「別にいいよ。あたしも不得意な社会を教えてもらったし…すごく楽しかったし」
「そう言って貰ってよかった。あまり教室でも話したことないのに、図々しいとは思ったんだけど」
「そうなんだよ!いつも話しかけようと思ってたんだけど…」
話に、森山が入ってきて、顔をしかめた。
「あの馬鹿が、いつも!竹内さんのそばに、あの馬鹿がいたから」
三人は、校門を通りすぎ、駅を目指していた。
森山は、道端の石を軽く蹴った。
「あの馬鹿って…」
1人しかいない。
「相沢恵美!」
吐き捨てるように言うと、さらに蹴った石目掛けて、走り出した。
「ごめんなさい。あの子…相沢さんのこと嫌いなの」
「メグのことが?」
石は森山に蹴られて、さらに遠く飛んでいった。
「あの女、うるさいんだよ!いつもいつもグラウンドで、サッカー部の練習見ながら、きゃきゃっとはしゃぎやがって!おれはさあ!男の尻を追いかけてる女が、大嫌いなんだよ!」
森山は、あたしの顔を見ると、
「だから、竹内さんと話したいとずっと思ってたんだけど…なかなか声をかけれなくって」
頭をかき、笑顔を向けた。
「今日は1人みたいだから、絶対声をかけようと思ったんだ」
どうしてと、あたしがきこうとしたら、それより先に、森山がはにかむように、言葉を続けた。
「おれ…かわいい女の子が好きなんだ」
顔を赤らめて、あたしをじっと見つめ…そう言いましたとさ……じゃない。
ゲ。あたしがたじろぐと、森山は少し視線を逸らした。
その様子に、身の危険を感じたあたしの肩を、太田がぽんと叩いた。
「大丈夫。この子…そっち系じゃないから」
そして、 にこっと、あたしに微笑んだ。
不気味…。
「でも、キスは女としか経験してないみたいだけど…」
「はあ?」
意味深な言葉を残し、太田はあたしの横を通りすぎた。
太田はくすっと笑うと、振り返り、
「じゃあ、竹内さん。あたし達、駅とは反対方向だから…。ここでさよならしましょ」
微笑みながら、頭を下げた。
「あっ!愛花!」
慌てて歩きだそうとして、森山は足を止めた。
「明日から、京子でいいから!またあしたな!気をつけて、帰れよな」
太田がこっちを見てないことを確認した後、森山は投げキスをしてきた。
「…」
1人…取り残されたあたしは、しばらく2人の後ろ姿を見送った。
世界は広い。世の中、まだまだ…あたしの理解できないことがあると、悪寒を通り越して、軽い目眩を感じた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる