新・俺と蛙さんの異世界放浪記

くずもち

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とある野望の話

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 かつて栄華を極めた者の夢の跡は乱れた世には珍しくも無く、転がっている。打ち捨てられた城は威圧感のみを残し、滅びを待つ定めであった。

 立派な建物だからこそこもった思いも大きく、寂れて壊れていればなおさら、目を背けてしまうしまうのだろう。

 誰もが目を背け。そこに何が居たとしても――誰も気が付かない。



 床に無造作にぶちまけてあるのは、金銀に彩られた装飾品や、宝石の数々。

 魔法に長けた者ならば、その中に強力な魔法の品がある事がわかるだろう。

 魔石やそれそのものに魔法の施された秘宝は、かつて最も魔法が栄えていた時代の欠片だと言われている。

「ふむ。よくもまぁここまで集めたものだ」

 逞しい体つきの吸血鬼が真っ赤な瞳で、光り輝く山を眺めて頷く。

 巨漢の吸血鬼を見上げ、床に不機嫌そうに胡坐をかいた細身の少年はその背に生やした黒い翼を相手との間を遮る様に広げて、ふくれっ面をした。

 堕ちた天使のなれの果て、堕天使。存在するかどうかも疑問視される種族だが、しかしその絶大な力は広く地上に知れ渡っている。

 どちらも人に近い形をしているが、比べるべくもないほどに強大な存在であることに変わりない。

「まぁね……僕にかかればこんなものさ」

「ふん。よく言う。一人でやったわけでもあるまいに」

「……なんだと?」

「ふん。やはり失敗の後ともなればご機嫌斜めか小僧。堕天使といえど、子供の反応と変わらんな」

「失敗じゃない! ここにある財宝のほとんどは僕が集めたんだぞ!」

「だが悪魔の書とやらは手に入れそこなったのだろうが」

「ふん! あんなもの大したことないさ。……そう言うあんたこそ、逃げ帰ってきた時はひどい有様だったようじゃないか? どうやったらあんなに徹底的に殺されるのか、そのやられっぷりはみごとだったよ」

「む。……まぁな。情けない話だが、俺は負けた、そこは否定すまい。だがあの天使は強かった。お前と違ってな」

「な、なんだと? ……おい、吸血鬼! お前調子に乗っているだろう?」

「なんだ堕天使……。やると言うなら遠慮なくかかってくるがいい。そちらの方がよほどわかりやすいわ」

 大きく違う身長差で睨み合う二人。

 吸血鬼の身体から血が霞みが立ち上り、堕天使は黒い翼を広げる。

 同時ににじみ出る濃い魔力の渦は、城そのものを震えさせている様だった。

「やめなさい。同盟を結んだ意味がないでしょう?」

 だが彼らがぶつかり合う寸前、彼らを止める声は突然現れた。

 吸血鬼と堕天使の魔力はさらに強力な魔力で吹き散らされ、彼らは静かに声の主に視線を送る。

 現れたのは女である。

 黒い布で素顔を隠し、全身を真黒な装束に包んでいたが、滲み出る魔力は高位の存在であることの証明だった。

 彼女は目についた椅子を持ち出し、腰を掛けると二人に問いかけた。

「それで、首尾はどうだった?」

 まずそれに応えたのは吸血鬼だ。

「我が能力にて、魔王の管理下にある魔獣も問題なく管理下に置けると確認した」

 ドンと熱い胸板を叩く吸血鬼に女は軽く頷く。

「ふぅん……ご苦労だったわ。それで資金調達の方は?」

 この問に胸を張って答えたのは堕天使の少年である。

 彼は財宝の山を手で示した。

「見ての通りさ。やはり物を集めるのは人間がうまいね。奴らはまるでアリみたいに一気に広がってそこら中から物を集めてくる。心を支配して、こんなに面白い生き物はいない」

「だけど悪魔の書を見つけておきながら、放棄したのはいただけないわ」

 しかしすぐに水を差されて、堕天使は口ごもった。

「う! それは! 変な蛙に邪魔されて! どう考えても異常な奴だったんだ!」

「蛙? 亜人か?」

 吸血鬼は反応し片眉を上げる。

 すると堕天使は首をひねって自信なさ気に言葉を濁した。

「そうだと思う……たぶんだけどな。強力な悪魔を使い魔にしていたから、かなりの魔法使いなんだろうよ」

「ほほう、お前がそこまで言うとは。面白い」

 吸血鬼は身ぶるいし、堕天使を下したと言う魔法使いに思いを馳せるが、女は続いて吸血鬼に尋ねた。

「お前が遭遇した奴はどうなの? 吸血鬼をあそこまで壊すのだから並の相手ではないでしょう?」

 だがこの質問に、今度は吸血鬼が複雑な顔をした。

「ああ……あれはなんというか常軌を逸していた。見たこともない武器を使って私の肉体を簡単に破壊してきた。それともう一人、気になったのが妖精なのだが……多分あれはピクシーかフェアリーだ」

「なにそれ? 冗談のつもり?」

 しかもどうにもトンチンカンな事を言い出すものだから堕天使と女は不審に思う。

 吸血鬼は、おおざっぱな男だが冗談を言うような性格ではない。

 ここに来て嘘の報告を、しかも自分の評価を貶める様な嘘を言う意味がなかったからだ。

「何だ? ピクシーにやられたのかよ? 吸血鬼のくせに」

「まあな。どんな奴と言うのは……口では説明し辛いが、強力な魔法アイテムを駆使して闘うのだ。アレに勝てる奴は……まぁいいか」

 自分で言っていて訳が分からなくなってきたのだろう、吸血鬼もそれ以上何か言うのはやめる。

 堕天使と、吸血鬼の報告に不明瞭な所はあったものの、目的はしっかり達成してきた彼らに、女はいったん仕切りなおして、ねぎらいの言葉をかけた。

「なんにせよ、よくやったわ。でもまだまだ足りない。そういう事よね?」

 そして同時に女は戒める。

 予想の出来ない事態は何時でも起こることはある。

 だが失敗のできない偉業を成そうとするのだから、少しでも失敗の芽は摘んでおくべきだろう。

 女は自分は運に恵まれているとそう思っていた。

 これだけ強力な存在達を部下としている事からもそう、手に入れつつある力も規格外の物を多く発見できている。

「私達は力を手に入れつつあるわ。何者をも凌駕出来る力を。人間の国で見つけた指輪も、なかなかのものだったのよ?」

 女は手に入れて来た氷の指輪を眺め、椅子の肘掛けを掴むと、椅子は一瞬で凍り付いた。

 本気になればこの辺り一帯、魔法の氷で埋め尽くすことさえできる。

 これもまた彼女達が集めている力の片鱗だ。

 黒い布を自ら取り、女は素顔を露わにする。

 女の髪は白く。その瞳は血の様に赤い。

 そして額に光っている青い宝石は、彼女の種族が生まれながらに持つ者だった。

「私達の野望は大きい。力を集めすぎて多すぎるという事は決してないわ。まだもう少し地盤は固める必要があるでしょう。我らが目指すは唯一一つ」

 吸血鬼は女の言葉に腕を組み応える。

「魔王の打倒」

 吸血鬼は不敵に笑い。

「我が力を世に示す」

 堕天使も笑みを浮かべてこう続けた。

「そして世界の覇権を握る」

 女は立ち上がり、高ぶる魔力で自ら座っていた氷の椅子を粉々に砕いた。

 舞い散る氷の欠片の中、拳を握り、女は怒りに燃える瞳で忌々しげに言い捨てる。

「今の軟弱な魔王を引きずりおろし、この私こそが真の魔王となる。この魔人族の血にかけて」

 女の言葉に吸血鬼と堕天使は跪き、女は声高に宣言した。

「この世を治めるのは私達であるべきなのよ。魔王は大いなる魔力ですべての魔族を導く存在でなくてはならない。世界を本来あるべき姿に正すことができるのは私しかいない。先代魔王の直系たる、この私しかね」

 彼女達の野望はまだ始まったばかりであった。
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