新・俺と蛙さんの異世界放浪記

くずもち

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新進気鋭 1

 それは過去、作業中にうっかり見つかってしまった俺のミスだった。

 ニヤニヤ笑う蛙は俺の言葉を待っている。

「……!」

 目があった瞬間、考えに考えた上で、俺、紅野 太郎は最初の第一声を絞り出した。

「人は何でも混ぜてきた……一見すると無謀に見えることだろう! しかしこれなくしては文明の発展はありえない! とても重要な事だ! だから俺達は恐れず一歩を踏み出す必要がある!」

「それっぽいことを言ってごまかすのはやめた方がええぞ? 思惑ぺらっぺらなんじゃから」

「……一歩を! 踏み出す必要がある!」

「……」

 強引に説明を前に進めたのは、ここで止めたら全部止まっちゃいそうだったからだ。

 だがそれだけはできない。

 何せこのプロジェクトには沢山の光り輝く希望が詰まっているのだから!

 俺はカワズさんの視線の圧力にも屈せず、解説を断行した。

「で! 今度海に遊びに行くにあたって、重要なアイテムを製作中だったわけなんだけれども!」

「まぁそうじゃろうな」

 しかしだ。いつの間にかそれをペロンと手に持ったカワズさんに俺は悲鳴を上げた。

「やめてくれない! カクシテカクシテ!」

「やたら布面積の少ない衣装に……こいつは魔法金属か? なんじゃこの特殊な衣装は? 割と解説に興味津々なんじゃけど?」

「え? あそう? 興味あるの? 仕方ないなぁ。もう、カワズさんは~」

 ふむふむ。告げ口でもされちゃうかと思ったが、そうじゃないなら安心だった。

 俺は露骨に安心してカワズさんの脇腹を肘でつつくと、カワズさんは面倒くさそうに続きを促す。

「それで? とっととこいつの説明をしてもらいたいもんじゃな? まぁ周囲に声が漏れんようにで構わんが」

 そして細かい配慮に、俺は素直に声をひそめる他になかった。

「あ、はい。ありがとうございます……。ええ。実はですねこいつは『ビキニアーマー』という画期的な武具でして」

 そしてカワズさんが奪い取ったそれの説明をした。

 海に旅行に行くにあたっての、試作品第一号。秘密兵器である。

「なにがどう画期的なんじゃろうな?」

 なんとなくわかっているだろうにあえて説明を促すカワズさんに俺はプレゼン力を試されていた。

 そう言う事なら受けてたとう。

 これすなわち、本番に備えた予行演習をしろという事と見た。

 俺はこころもち呼吸を整え、全力で語った。

「そ、それはですね! 見てお分かりだとは思うのですが、これは女性専用武装でして。水中で使う水着という、水の抵抗を極力少なくする衣とですね? 鎧という身を守って何ぼの防具を合わせることによってです。相反する属性を併せ持ったセンセーショナルな一品に奇跡のフュージョンなわけです」

 いわゆる言い訳である。

 白い眼のカワズさんの視線が正直痛い。

「ほほう……」

「いやね! 確かにあんまり意味がないじゃないかって思うのも無理はないかなーって思うんですよ! でもですね充実した魔法を各種実装、視覚的な部分も含めて、非常に実践的なものに仕上がっていると思うんですよね!」

「声が大きいぞ。別にせめてはおらんじゃろ?」

「……失礼」

 少々興奮しすぎたようだ。

 俺は口をきゅっと引き結び、周りを確認したが幸い誰が効いているわけでもないようだ。

 そして一連のやり取りでどうやらカワズさんはすべてをくみ取ったようであった。

「ふーむ。まぁなんつうか。せめて実用性がないとあいつらは着てくれるかも怪しいからのぅ」

「そうなんだよ! だからカラーバリエーションも豊富に揃えて! フリーサイズ! お好みのカラーで夏の海をレッツエンジョイ! ってすんぽーだよ! いやいや、ビキニアーマーに至っては、全然普段使いしてもらっても構わないっていうか!」

「だから、秘密なんじゃろ? 声が大きいぞ? 興奮しすぎじゃて」

「……べ、別に興奮してねーし。勘違いだしー?」

「いいんじゃて。ホントもうそういうのいいんじゃて。それで? まぁメインターゲットはあのダークエルフなんじゃろうな。誰とは言わんが」

「ダークエルフの時点でかなり狭くない? ……な、何のことだろうな? もういいだろ? さぁそれを返すんだ。本番に備えて少しでも計画の穴は埋めておきたいんだ」

 今さらかもしれないが適当に誤魔化してみる。

 俺は和やかな口調で、ビキニアーマーを取り返そうと手を伸ばしたら、すっと避けられた。

「……カワズさんどういうつもりだい?」

「むっふっふ。いやな、せっかく面白そうな話じゃし一枚かませろ」

 そしてビキニアーマーを手にしたカワズさんは思わぬ提案をしてきた。

「おいおい、このエロガエルさんめー。こいつは普通に彼女達の事を思ってやってるんだぜー? 海に水着を持っていかない奴はいないんだぜー?」

「わかっとる、わかっとる。ならば。少しアドバイスをしてやろう。誰とは言わんがどこかのダークエルフにこのビキニアーマーとやらは有効かもしれん。単なる薄着ではだめでも、おぬしが用意した実用性のある装備となれば無下にはできまい。だが、他のメンバーには、変に奇をてらうのはよくないじゃろうのぅ」

「それはあるよね! 特にセーラー戦士にビキニアーマーなんて渡したら最後、全殺しにされちゃうんじゃないか? なら普通の水着にしてみるかな? ……ええい! こうなったら半殺し覚悟だ!」

「それでも半殺しなんじゃな。ひとまず準備に時間をかけるたのだとアピールでもしてみるか? 実際そんなもん、こっちじゃ見たこともないしのぅ」

「えーなんかー小賢しくなーい?」

「現にめちゃくちゃ時間かけとるだろう? お前?」

「さ、さぁ? 何のことだろうか?」

「まぁよいか。せいぜいがんばれ」



 などという会話はほんの些細な魔法使い的お遊びだった。

 しかし時として作り出された物は製作者の手から離れた時点で、思いもよらない使い方をされてしまう――残念ながらよくある話だった。



 魔王が姿を消した。

 その事実は知らせを出すまでもなく、魔族と呼ばれる種族に知れ渡っていた。

 魔王の強大な魔力と魔法の影響が途切れれば、彼らが受けていた恩恵のいくつかもまた失われる。

 元来、激しい気性で知られる魔族たちも突然の事態にその反応は大きく異なった。

 すぐに次の魔王の座を求め決起する者。

 これ幸いと、好き勝手に振る舞う者。

 混乱を収めようとする者。

 傍観する者。

 だがそんな魔族の中にあって、勢力を拡大した一団があった。



「さぁ蹂躙せよ同胞達! 我らの強さを世に知らしめる時ぞ!」

 プギイイイイ!!

 棍棒を振り回し、イノシシの頭と屈強な体を持つオークの一団は深い森の中を進む。

 頑丈な体躯で木々を踏み倒し、険しい森の中をまるで平野を行くがごとく踏破するその姿はとある魔法使いが見れば、戦車の様だとでも言ったかもしれない。

 赤い瞳をぎらつかせ、自らの力を世に知らしめるための生贄を探し求めていた。

「ダークエルフどもは所詮はぐれ者が集まった烏合の衆だ! 見つけ次第踏み潰せ! 魔法を撃たせるな! 弓などで怯むなよ!」

 指揮官オークは野望に燃える瞳で同胞を鼓舞する。

 彼らの目当ては、悪名名高きダークエルフであった。

 ダークエルフは大きな魔力と特殊な能力を併せ持つことも多く、単体では無類の強さを発揮する。

 しかし、その分あまり大きな集団を作らないと彼らは知っていた。

 リーダーを得て、群れとなった今のオーク達にとってまさにそれは格好の獲物である。

 オークの精鋭たちは雄叫びを上げ一匹の獣のように一塊になって突き進む。

 そして森の暗闇の中、オーク達の視線の先に炎の明かりが揺らめくと、その途端彼らのくすぶっていた闘争心が一斉に燃え上がった。

「行くぞ! 棍棒を叩き下ろせ!」

 プギャアア!

 指揮官オークの一声が、彼らを解き放つ。

 炎の先にいる獲物を我先に踏み潰すべく、身の丈3メートルはある巨体が一斉に殺到した。

 彼らのもつ武器を振り回す必要すらなく、炎の先に何者かがいればあっという間にすりつぶされただろう。


 「……まったく。どっちが烏合の衆なんだかな」


 虫の声より小さなささやきは誰の耳に届くこともなく、森の闇に溶けて消える。

 オーク達が最初に聞いた音は、無数の矢羽が風を切る音だった。

 ビギャ!

 一本二本ならば、オークの分厚い肌には大した効果はない。しかしそれが数十、数百ともなれば、話は違った。

「なんだ!」

 指揮官オークはすぐに異変に気が付いたが、全身に矢を突き立てたオークが次々に転倒。あちこちで雄叫びが上がった。

「出たか! 小賢しい真似を!」

 指揮官オークが暗い森の中に目を凝らす、と間髪入れず今度は魔法の光が周囲に浮かび上がる。

 そして、オーク達に何かする間も与えずに一斉に鋭い風を纏った矢がオークの身体に風穴を開けた。

「うおお!」

 指揮官オークはとっさに部下を盾にして身を守る。

 一撃で虫の息となった部下を無造作に放り投げると。ダークエルフの驚異的な威力の魔法に冷や汗を一筋流した。

「どういう事だ! こんな器用な戦い方をする連中ではなかったはずだ!」

 焦りは叫びとなってあたりに木霊する。

 そうしてさして間もおかず、森の中からオーク達を取り囲むように複数の気配が姿を現した。

「馬鹿言うなって。このくらいの事昔からやってたっつーの……おっほん。お前が指揮官だな? 今すぐ降伏しろ」

「?……!?……???」

 だが現れた女の姿を見て指揮官オークは絶句する。

 あまりにも無防備に指揮官オーガの前に現れたのは、正気なのかも疑わしいダークエルフの女だった。

 彼女が身に着けているのはほとんど裸に近い装束で、胸と下半身だけがかろうじて赤い装甲におおわれているだけだったのだ。

 プギィィィ!

『……やかましいぞお前達!』

 興奮する手下達を一括し、指揮官オークは目をこすったが、どうやら現実の様だ。

 例えるならドラゴンフルーツ、そうたわわなドラゴンフルーツだ。

 挑発的な赤い鎧のダークエルフは好戦的な笑みで、オーク達に向かって命令する。

「聞こえなかったか? 降伏だよ。 今すぐ手を挙げて地面に這いつくばれ」

 ダークエルフはオークのように肉体が頑強な者が少ないはずだと記憶していた指揮官オークはギリリと牙をむき出しにする。

『ぬぅぅ! なめるな!』

 指揮官オークは吼えた。

 指揮官オークは両腕に巨大な火球を作りだし、頭上に掲げ、狙いをつけた。

 両腕の中で燃え上がる炎の魔法は渦を巻き、一塊になって巨大に膨れ上がってゆく。

 彼はオークの肉体ですら一瞬で灰にするこの魔法で、オークの中で高い地位に上り詰めた。

 だが、屈強なオーク達ですら恐れおののく火球を前に、ダークエルフはにやりと笑い、手招きする。

「交渉は決裂か?」

「――!」

 この一言で指揮官オークは生意気なドラゴンフルーツを消し去るべく魔法を叩きつける。

 振り下ろした炎の魔法は、一息に薄着のダークエルフを押しつぶす――かに思われた。

「へっへっへ、そんなもんか?」

「なぁ!」

 指揮官オークは思わず声を上げていた。

 灼熱の炎の中でダークエルフは、生きていた。

 それどころか、もがき苦しむ様子もなく指揮官オークに向かって手さえ振って笑っていたのだ。

「どうなっているのだ! ええいやはり幻か! ドラゴンフルーツめ!」

「なんだドラゴンフルーツって?」

 異常な光景に恐怖を覚えた指揮官オークは、自分の両手を確認してよろめいた。

 確かに魔法を放った感触の残る手のひらから、再びダークエルフに視線を戻すと、炎がダークエルフの露出した褐色の肌を覆い隠してゆく。

 いつしか逆巻いていた炎は完全に形態を変えて、ドラゴンフルーツを覆う炎の鎧と化した。

『お前……俺の炎を!』

「ああ、奪ったのさ」

 炎の鎧を纏ったドラゴンフルーツがいつしか掲げていた炎の剣は真っ赤に燃え上がり、指揮官オークに迫った。

『ひぃ!』

 転がるように指揮官オークは何とか炎の剣から逃れ出るが、一薙ぎで木々をなぎ倒すその威力に冷や汗がとめられない。

「あー逃げたね?」

「うん。逃げたよ?」

『今度はなんだ!』

 続いて現れたのはやはり布面積の極端に少ないピンクと紫の鎧をまとったダークエルフの少女、二人組だった。

 ブヒイイイ!

『うるさい! 黙れ!』

 一斉に鳴き声を上げる手下のオークを殴りつけ、指揮官オークは慎重に様子を伺った。

 なんとなく頭の隅をよぎった、チェリーな双子。

 小柄な子供をひねり潰す事などたやすい。だが。

『ひねり潰せ!』

 ブヒィィィ!

 あえてここは手下に命令すると喜び勇んで飛んでゆく3体のオーク。

 普通であるなら、棍棒の一振りは小柄な体を粉々に粉砕するはずだ。

『……!』

 だが、砕けたのは棍棒の方だ。

 ガツンと硬さに負けて砕ける棍棒は、双子のチェリーに触れてさえいなかったのを指揮官オークは確かに見た。

 無色透明だが、確かにそこにある壁にオーク達は勝手にぶつかり自分たちの力でひっくり返されるのを見て、指揮官オークの表情は歪んだ。

「「ざんねんでしたー♪」」

 声をそろえて踊るダークエルフの少女達は背筋も凍るような笑みを浮かべ、指揮官オークは歯噛みする。

『く! くそう!』

 他人の魔法を奪い取る見たこともない魔法に、力押しの利かない壁。

 そして更に増援は現れる。

「なんです? オークの癖に随分と腰が引けていますね」

「しかたないよー。そんな言い方かわいそー」

 視線の先に居たのは……黄緑のマスクメロンと、緑のスイカだった。

「なんでお前等みんなそんな薄着なんだ! ダークエルフはいつから裸族になった!」

 ブヒイイイイイ!

「だからうるさいといっているだろうが!」

 一番興奮していた手下の顔面をとうとう指揮官オークは思い切り蹴飛ばした。

 もうやけになった指揮官オークは、最後にどうしても納得しかねる疑問を全力で叫ぶと、目の前に新たに現れたマスクメロン。もといダークエルフは表情ゆがめ、三つ編みをぴんと自分の手で跳ね上げた。

 緑の装甲で細やかに覆われた肌に浮き出る特徴的な鱗が鮮やかに浮かび上がって、マスクメロンの瞳が怪しく輝きだす。

「腰巻きしかつけていない分際で余計なお世話ですよ」

 そしてもう一人のふわりとしたボリュームのある豊かな髪を持つスイカのダークエルフは一見すると怒っているんだかよくわからない声色で頬を膨らませていた。

「ちゃんと着てるじゃないですかー。裸じゃないですー」

 彼女達もまた、面積の極端に少ない鎧を着込んでいる。

 指揮官オークにしてみても眼福とも言えるその格好は、しかし今の状況では危機的状況をより混沌に叩き込む大きな要素にしかならない。

 ずらりと出てきた、布面積がとても少ない褐色の肌を持つ美女五人。

 立ちはだかる彼女達に指揮官オークは喉を鳴らす。

 ドラゴンフルーツは現れた他の4人に向かってやれやれとため息を吐いた。

「なんだお前らも来たのか?」

「「来てた! 抜け駆けずるいー」」

「他のやつらは案外骨がなかったですし」

「そうだよー? 独り占めはだめだよー?」

 完全にオークを侮っているダークエルフ達に、指揮官オークはついに最後の手段を使う覚悟を決めていた。

「……いい気になりおって……目に者見せてくれる! 砲兵! 前に!」

 ピギィィィ!

 温存していた取って置きは指揮官オークの号令と共に、前に進み出た。

 一台に付き五人ほどのオークによって担ぎ出されたのは、巨大な筒であった。

 そしてそれらは、ふざけたダークエルフにピタリと標準を合わせ――火縄に炎が灯された。

「後悔しろ……」

 轟音が空気を振動させ、黒煙が視界を覆う。

 オーク達が長年の研究の末に作り出した大筒は筒の中で、爆発を起こすことによって鉄球をはじき出す。

 その威力は並みの生き物なら触れたら最後四肢は四散し、魔法でもそう簡単に止められはしない。

 先進的な技術は、知らぬ者には致命的な攻撃手段になりえる。

 オーク達は実際この武器で数々の戦に勝利していた。

『ふははは! どうだ! そんな裸のような鎧でこいつを受けきれるか!』

 濛々と立ち込めた黒煙に向かって指揮官オークが勝ち誇る。

 しかし勝利に酔った、歓声はすぐになりを潜めた。

 メキメキとおかしな音がする。

「ん?」

「……だから、裸じゃねぇって言ってんだろうが!!」

「ひぃ!」

 砲弾を片手で受け止めていたのは、緑の鎧を着たダークエルフ。

 スイカの肌は、褐色から赤く変色し、その頭には二本の角が突き出していた。

 スイカとこっそり呼んでいたからこそ、その豊満バスト異常に膨れ上がった強靭な筋肉にオーク一同縮み上がる。

「あら、もうキレたの?」

 そしてもう一人マスクメロンがその魔眼の能力を解き放ったことで、大筒をかついたオーク達が次々に足元から、血の通わない石造へと変化していった。

 その能力はラミアと呼ばれる半人半蛇の秘めた、石化の魔眼の力であった。

「……!」

 常識はずれな能力を見せつけられた指揮官オークは思い出していた。

 あまりにも衝撃的な鎧のせいですっかり頭の端に追いやられていた知識。


 ダークエルフは様々な種族の特性を併せ持っている。


『……ダークエルフ!!』

 恐怖と共に指揮官オークを襲ったのは、ダークエルフの個の強さを侮った後悔だ。

「さて、もう終わりか? 豚共? 次はこっちの番だよな?」

 ドラゴンフルーツの薄ら笑いを浮かべた一言で、オーク達は皆びくりと身をすくめ萎縮していた。

 指揮官オークもその場に膝を突く。

 万策尽きた、もはやこいつらに通用する攻撃はない。

『……』

 ドラゴンフルーツは、巨大な炎の剣を掲げていた。

 チェリーの双子は、二人して巨大な魔法陣を作り出している。

 マスクメロンの目は爛々と輝き、赤く長い舌で唇を濡らし。

 スイカが砲弾をお手玉しながら、舌なめずりをして牙をむきだしにする。

 そしてその全員が、人目をはばかることなく堂々と魅力的な肢体を惜しげもなくさらしていた。

 指揮官オークはちょっぴりこれが最後になるんならそれもいいかなっと心によぎる。

「……ここまでか!」

 目を見開いて最後の瞬間をその目に焼きつけようとした指揮官オークだったが、その結果目の端に偶然捕えたのは、襲いかかってくる5人のダークエルフ達と……新たに現れた何者かの影だった。

 そいつは空から突如として降ってきた。

 ずどんとすさまじい落下の衝撃で、指揮官オークは吹き飛ばされる。

 転がった先で、ダークエルフ五人組の攻撃を受けてなお、まったく揺るぎもしていない、大きな鎧の騎士を指揮官オークは確かに見た。

『……そこまでだ』

 鎧の騎士が一瞥しただけで、ダークエルフたちは表情を引きつらせて固まる。

 だがこの場で圧倒されていたのはオーク達もまたおなじことだった。

 それほどに姿を現した何者かの発するプレッシャーは、常軌を逸していたからだ。

『勝負は付いた。その鎧で気軽に命を奪うなと言ってあったはずだが?』

「「「「はっ! 申し訳ありません! 騎士女王!」」」」

『……お前達に鎧を貸し与えたのは、ダークエルフを守るためのものだと理解しろ』

(……布面積が多い)

 そんな感想を真っ先に持ってしまった指揮官オークに、謎の騎士の視線が向けられて、指揮官オークはぎくりと身を強張らせた。

 全身を頑強そうな鎧で覆い隠し、フルフェイスの兜の中から指揮官オーガを睨む存在。

 騎士女王と呼ばれた異様な風体の鎧騎士は、指揮官オークに問う。

『……お前達の目的はなんだ?』

 この状況で、ダークエルフを倒し軍門に加えるつもりだったのだなどと本来なら言えるわけもない。

 しかし恐怖に駆られたオーガの口は本心以外を語らない。

「ダークエルフを倒すつもりでおりましたが、もはやその意思はありません……」

『……ならば去れ。次はない』

 そう言った鎧の騎士が闇の中に姿を消すまで、指揮官オークは跳ねるように地に伏すばかりだった。

 押しつぶされそうなプレッシャーから解放されて、指揮官オークはいつしか全身から滴るような汗をかいていた。

 他のダークエルフ達とは明らかに違う。

 それは種族を超えた印象を指揮官オークに強く植え付けた。

「……格が違いすぎる」

 そして同時に圧倒的な力の差は、力に物をいわせるものほど、強烈な憧れを持ってしまう。

 少しだけ落ち着きを取り戻した指揮官オークの脳裏をよぎるのは、あの印象的な面積の少ない鎧だった。

『ああいうのを……騎士女王は好むのか?……そこだけは少々謎ではあるが』

 こうして勘違いの連鎖は続いてゆく。

 オーク達がダークエルフの軍門に下ったのはこの直後であった。
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