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第32話地球から来た白熊さん
清潔なベッドに、清潔なシーツ。
手順も二度目ともなればスムーズで問題ない。
そして今回の怪我人は、思っていたよりもずっと早く目を覚ました。
「……」
ぼんやりと天井を眺めている彼女に、意識がはっきりしているかの確認も含めて僕は話しかけた。
「気分はどう?」
「……憑き物が落ちた見たいって言ったら信じるかい?」
「まぁ、殴んないでくれるなら。大方信じるよ?」
「……それは大丈夫。最後の抵抗はもう終わったからね」
そう言う彼女は、ベッドから体を起こすと思っていたよりもずっと素直に頭を下げた。
「……本当に申し訳ない。それに怪我の治療も感謝するよ。えっと……君は何で旧式のインナーなんて来てるのかな?」
もう大分馴染んで忘れかけていた所でこの指摘はかなり恥ずかしい。
だがまぁここまで来たらこのまま行けるところまで金魚鉢と分厚い気圧服で頑張ろうと思う。
「諸事情で……慣れると快適だよ。僕はカノー。コロニー出身の技術屋だ。ちなみにすごく弱いから秒でやられるので襲い掛かるのなら手加減してほしいです」
色々ギミックも仕込んだし、もうこういうキャラということで開き直りは大事だと思う僕である。
あと生き残れたのは単純に運が良かっただけなので、これ以上暴れないでほしいというのは冗談ではないから真摯に受け止めてもらいたい。
その辺り理解はしてくれたようで、後ろでソワソワしているフーさんを確認した上で、彼女は深く頷いた。
「そんなことしないよ。機密とか色々あったから過敏になっていただけなんだ。自爆するか戦うか、2択を考えるくらいには追い詰められていたから察してくれると助かるよ」
「それはホントにやめてね? 僕も不安になるのはわかる。宇宙空間怖いよね。僕の時は本当に誰もいなくて、死んだかと思ったもの。いやいや、本当に大事なくてよかったよ」
「うん。少し無茶しちゃったから、無事でよかった」
そしてニパッと笑い、我慢できずに会話に入って来たフーさんを見た彼女は、なんだか未確認生命体を見たような顔で困惑していた。
「少し?……いや、まあそうだな。じゃあ改めて女の子の君は、月の人だよね?」
新ためて、地球人と月人は対峙する。
お互いに、そう剣呑な雰囲気などはない。
むしろ意外なほどにさっぱりと二人は自己紹介していた。
「うん。そう。月人だよ。名前はF3。ここではフーさんって呼ばれてるんだ。気に入ってるからフーさんの方で呼んでね?」
「フーさん……わかったよ。じゃフーさんは何でここに?」
「それは当然、君と同じように事故でここに流れ着いたんだ。じゃなきゃ火星の先なんて生身で来るような場所じゃないよ」
うんまぁ確かに。
フーさんの感性の方が一般的だけれども、生身でわざわざやって来た僕の立つ瀬がないのでほどほどにお願いしたい。
地球人からしてもその辺りの感覚は月人と同じようなので、僕としてはつらいところだった。
「事故か……。ここは本当に火星より遠いのかな? とても信じられないんだけど」
「それは間違いなく。遠すぎるのが悩みの種だね」
「しかし、じゃあこのコロニーはどこの所属何だい?」
そして僕に質問の矛先が向くわけだが、その辺り納得しがたいのは僕も、そしてフーさんも身を持って体験済みだった。
「あーそれは……後で実際に見てもらった方が早いかな」
「私もそう思う……」
彼女には悪いが、言葉を尽くしてもこのスペースコロニーが何なのか本当の意味で信じてもらうには見てもらうのが一番早い。
「? 見て回っていいって言うのならそうさせてもらうけど……」
半信半疑でそう言った彼女に、僕らは快く頷いた。
「うん。好きなように見て回っていいよ。ああでも……その前に一つ言っておかなきゃいけないことがある」
「なんだろう?」
「今この世界に魔法があるって信じる?」
「何かの比喩表現かな?」
「……とりあえず、話半分に聞いておいて。意味はすぐに分かると思うからね。もう何度か……目に触れてはいると思うんだけど」
「? そうなの?」
そう。今は理解しなくていいので本当に頭の端っこにとどめておいてくれればいい。
案の定、でっかいシュウマツさん本体やらその他もろもろの魔法を体感した彼女は、冷静な受け答えをしていた時には想像もつかないほど、目を点にして間抜けな顔になっていた。
一通り見て、助言がジワジワ効いてきた頃、ひとまず心の整理をつけた彼女はようやく笑みを浮かべていた。
「……うん。魔法ってあるのかもしれないね。ここが普通の場所でないことはよくわかった。それにしばらく世話にならないといけないこともね。改めて自己紹介するよ。わかってると思うけど、ボクは地球の強化兵で……ボクに名前らしい名前はないんだけど、軍ではPB3って呼ばれてたよ」
おやおや名乗ってくれたはいいけど、またコードネームっぽい。
しかしPBとは……ずいぶんとジョークが効いたネーミングだなと僕は思った。
ならばこちらも乗っかるとしよう。
僕は数字で呼ぶよりはかわいいなと、彼女の呼び名を決定した。
「うん。よろしく白熊さん」
「な、なんで白熊さん!?」
僕のネーミングにギョッとして驚いた白熊さんだが僕にはわかっていた。
「だってPBって、ポーラーベアーの頭文字でしょ? フーさんといい、旧言語引用しててお洒落だよね」
「ち、違うと思うよ! もっと何か別の、頭文字だと思うけど!」
いや絶対白熊でしょ?
進化の一説を引用しているに違いない。
しかしその可能性を考えもしなかったらしい白熊さんはうーんと唸りため息を吐くと、苦笑気味だが笑っていた。
「まぁいっか……かわいいかも白熊。地球に沢山いるんだよ。PB3よりはマシかな」
おお、ダメかと思ったけどOKが出た。
本人が嫌ならやめるつもりだったけど、僕も白熊さんはかわいいとそう思った。
手順も二度目ともなればスムーズで問題ない。
そして今回の怪我人は、思っていたよりもずっと早く目を覚ました。
「……」
ぼんやりと天井を眺めている彼女に、意識がはっきりしているかの確認も含めて僕は話しかけた。
「気分はどう?」
「……憑き物が落ちた見たいって言ったら信じるかい?」
「まぁ、殴んないでくれるなら。大方信じるよ?」
「……それは大丈夫。最後の抵抗はもう終わったからね」
そう言う彼女は、ベッドから体を起こすと思っていたよりもずっと素直に頭を下げた。
「……本当に申し訳ない。それに怪我の治療も感謝するよ。えっと……君は何で旧式のインナーなんて来てるのかな?」
もう大分馴染んで忘れかけていた所でこの指摘はかなり恥ずかしい。
だがまぁここまで来たらこのまま行けるところまで金魚鉢と分厚い気圧服で頑張ろうと思う。
「諸事情で……慣れると快適だよ。僕はカノー。コロニー出身の技術屋だ。ちなみにすごく弱いから秒でやられるので襲い掛かるのなら手加減してほしいです」
色々ギミックも仕込んだし、もうこういうキャラということで開き直りは大事だと思う僕である。
あと生き残れたのは単純に運が良かっただけなので、これ以上暴れないでほしいというのは冗談ではないから真摯に受け止めてもらいたい。
その辺り理解はしてくれたようで、後ろでソワソワしているフーさんを確認した上で、彼女は深く頷いた。
「そんなことしないよ。機密とか色々あったから過敏になっていただけなんだ。自爆するか戦うか、2択を考えるくらいには追い詰められていたから察してくれると助かるよ」
「それはホントにやめてね? 僕も不安になるのはわかる。宇宙空間怖いよね。僕の時は本当に誰もいなくて、死んだかと思ったもの。いやいや、本当に大事なくてよかったよ」
「うん。少し無茶しちゃったから、無事でよかった」
そしてニパッと笑い、我慢できずに会話に入って来たフーさんを見た彼女は、なんだか未確認生命体を見たような顔で困惑していた。
「少し?……いや、まあそうだな。じゃあ改めて女の子の君は、月の人だよね?」
新ためて、地球人と月人は対峙する。
お互いに、そう剣呑な雰囲気などはない。
むしろ意外なほどにさっぱりと二人は自己紹介していた。
「うん。そう。月人だよ。名前はF3。ここではフーさんって呼ばれてるんだ。気に入ってるからフーさんの方で呼んでね?」
「フーさん……わかったよ。じゃフーさんは何でここに?」
「それは当然、君と同じように事故でここに流れ着いたんだ。じゃなきゃ火星の先なんて生身で来るような場所じゃないよ」
うんまぁ確かに。
フーさんの感性の方が一般的だけれども、生身でわざわざやって来た僕の立つ瀬がないのでほどほどにお願いしたい。
地球人からしてもその辺りの感覚は月人と同じようなので、僕としてはつらいところだった。
「事故か……。ここは本当に火星より遠いのかな? とても信じられないんだけど」
「それは間違いなく。遠すぎるのが悩みの種だね」
「しかし、じゃあこのコロニーはどこの所属何だい?」
そして僕に質問の矛先が向くわけだが、その辺り納得しがたいのは僕も、そしてフーさんも身を持って体験済みだった。
「あーそれは……後で実際に見てもらった方が早いかな」
「私もそう思う……」
彼女には悪いが、言葉を尽くしてもこのスペースコロニーが何なのか本当の意味で信じてもらうには見てもらうのが一番早い。
「? 見て回っていいって言うのならそうさせてもらうけど……」
半信半疑でそう言った彼女に、僕らは快く頷いた。
「うん。好きなように見て回っていいよ。ああでも……その前に一つ言っておかなきゃいけないことがある」
「なんだろう?」
「今この世界に魔法があるって信じる?」
「何かの比喩表現かな?」
「……とりあえず、話半分に聞いておいて。意味はすぐに分かると思うからね。もう何度か……目に触れてはいると思うんだけど」
「? そうなの?」
そう。今は理解しなくていいので本当に頭の端っこにとどめておいてくれればいい。
案の定、でっかいシュウマツさん本体やらその他もろもろの魔法を体感した彼女は、冷静な受け答えをしていた時には想像もつかないほど、目を点にして間抜けな顔になっていた。
一通り見て、助言がジワジワ効いてきた頃、ひとまず心の整理をつけた彼女はようやく笑みを浮かべていた。
「……うん。魔法ってあるのかもしれないね。ここが普通の場所でないことはよくわかった。それにしばらく世話にならないといけないこともね。改めて自己紹介するよ。わかってると思うけど、ボクは地球の強化兵で……ボクに名前らしい名前はないんだけど、軍ではPB3って呼ばれてたよ」
おやおや名乗ってくれたはいいけど、またコードネームっぽい。
しかしPBとは……ずいぶんとジョークが効いたネーミングだなと僕は思った。
ならばこちらも乗っかるとしよう。
僕は数字で呼ぶよりはかわいいなと、彼女の呼び名を決定した。
「うん。よろしく白熊さん」
「な、なんで白熊さん!?」
僕のネーミングにギョッとして驚いた白熊さんだが僕にはわかっていた。
「だってPBって、ポーラーベアーの頭文字でしょ? フーさんといい、旧言語引用しててお洒落だよね」
「ち、違うと思うよ! もっと何か別の、頭文字だと思うけど!」
いや絶対白熊でしょ?
進化の一説を引用しているに違いない。
しかしその可能性を考えもしなかったらしい白熊さんはうーんと唸りため息を吐くと、苦笑気味だが笑っていた。
「まぁいっか……かわいいかも白熊。地球に沢山いるんだよ。PB3よりはマシかな」
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