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第51話ここ最近は手早く拭くくらい
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「うーんすごい光景だ」
僕は、魚を捌く男となっていた。
最初は慣れなかったが、ずっと捌いていれば少しはコツもつかめてくる。
宇宙服で魚を捌ける技術者。それが僕である。
しかし僕がまな板で、サクサクと魚を開いて干している横には、ドカンと大海竜がぶつ切りで置いてあった。
「……アレはなんだろう?」
「大海竜? のぶつ切りだろう? 食べる分だけ切り分けて。残りは冷凍と、燻製と、干物にするんだそうだよ」
シュウマツさんは綺麗に裁かれた巨大肉ブロックの正体を教えてくれた。
これは今晩のおかずどころか、当分食糧には困りそうにない。
まさに大漁という感じだった。
ただ僕の脳裏に真っ先に過った不安はその保存方法だった。
「……倉庫くらいの冷蔵庫、港に作ろうか?」
「手伝うよ。そのくらいの応用はやって見せよう」
「頼むよシュウマツさん。なにせこれはちょっと急ぎでやらなきゃみたいだから」
何せ生ものはコロニーといえど傷みやすい。
魚をきちんと保存するなら早い方がいいはずである。
そしてそれはみんなわかっていることで、すでに調理は急ピッチで進んでいた。
「よっと!」
あの大海竜をぶつ切りにして、器用に開いているのはアウターに乗った白熊さんである。
特別製の巨大まな板の上で、器用に背開きしながら使っているのは戦闘で使用した大剣だった。
それをアームを駆使して包丁のように扱い、背骨に刃を器用に滑らせ、開いて行く姿はさながら熟練の板前の様だ。
スケールは建物の解体クラスなのだが、スピーディーさと器用さで単純にスケールアップしたようにしか見えないのは素直に白熊さんの技量あっての事なのだろう。
そして器用さと言えば、フーさんも勝るとも劣らない。
鮭の様な大きな魚を、自分の手とそしてアウターのアームを器用に4本操って、とんでもない速さで三枚におろしていくのだから、もはややっていることは曲芸である。
「すごいな。何でアウターで魚捌けるのさ。一応アウターって建機みたいなとこあるんだよ?」
僕が感心しながら言うとフーさんはまんざらでもなさそうに胸を張っていた。
「そう? やっぱ細かいこと出来なきゃ五本指をわざわざ増設してる意味がないよ。それにこういう性能テストもしておかなきゃ。一応アウター使って戦うのが私の専門だもん」
「ボクのアウターは細かい作業は苦手だけど、これだけサイズがあれば大雑把でも問題ないね」
さも当然と言い切るフーさんと白熊さんだが、もちろんそんな単純なものではないと僕は表情をひきつらせた。
「言っても専門技能だと思うけど……。僕は生身で普通サイズの魚を捌くので精一杯かなぁ。アウターじゃちょっと無理だから、やっぱり二人の操縦がうまいんだよ」
「「いやぁ……それほどでも」」
僕がその卓越した操縦技能を絶賛すると、二人は同時に照れた。
実際大したものである。
フーさんは、実にスムーズにアームを動かして、鮭のお刺身を僕に見せた。
「私の“アーネラ”は特に繊細な動きを突き詰めたアウターだからね。器用なことはお手の物だよ。カノーがいじってくれてからもっと動かしやすいから、コロニーの技師さんは腕がいいなって思う」
「ああそれは思った。ボクの“ガンボール”も動きがいいね。ほんとにこれで前より丈夫なのかな?」
「そのアウター“ガンボール”って言うんだ」
フーさんは地球の武骨な機体を見て楽しそうに笑うが、白熊さんは肩をすくめていて、あまりお気に入りの名前というわけではなさそうだった。
「そうそう、ひどい名前だろう? 文字通り鉄砲玉だよ。ぶっ飛んでぶつかるのが仕事だから、搭乗はお勧めしないね。地球人でも最初血反吐くし」
「せめて〇ロくらいにならないものかな?」
乗り込んだ自分を想像して僕は青くなる。
実際乗っている人の感想は正直だった。
「残念ながら。内臓が飛びださないのが幸運って話さ。頑丈さは折り紙付きだけどね。どんなスピードを出してもバラバラになったところは見たことがない。……中身は別だけど」
「うわー」
「もう二人とも! 食べ物扱ってる時に汚いしグロイ! ちゃんとやって!」
「「ごめんなさい」」
フーさんに怒られてしまった。
僕らはそこからしばし無言で作業に集中していると、ふと白熊さんがとある一言を口にした。
「汚いと言えば……アレ、出来ないかな?」
「アレ?」
「そう。ホラ、最近疲れがたまってるじゃない? 海の作業も多くなったし、住処も食事も安心できるところまできたから……お風呂とか」
僕は思わず、手を止めた。
そして月人の少女もまた、目を見開いて白熊さんを凝視する。
「お、お風呂……」
「そ、そんな贅沢な物……ホントに存在するの?」
「え? そりゃあるでしょう。まぁそう言うボクが住んでた地域もシャワーがほとんどだったけど」
僕も話だけは……話だけは聞いたことがある。
かつて人類は大量のお湯を張って、体を清めていたのだと。
しかし水が貴重なコロニーでは、おおよそミスト式のシャワー推奨だった。
まして元々僕がいたのは実験船だ。船では体を拭くくらいがせいぜいで、風呂などとても入れなかった。
僕が遠い目で、そんなことを考えていると。
フーさんも同じく遠い目をしていた。
ここ最近大変だったのだ。
洗って落とせるのなら疲れも落としてしまいたい。
シャワーだってご無沙汰な現状、まさかの風呂というコロニーなら大金持ちか観光コロニーにしかないような特殊施設を出してくるとは驚いた。
しかも、今ならそれが可能かもしれない。
自然と三人一斉に視線が向くのは、もちろんぼんやり光っていたシュウマツさんである。
「え? なにかな? さすがに魚は捌けないのだが?」
「捌けないんだ……そうじゃなくってお風呂だよ」
「え? 風呂? 入るかい?」
シュウマツさんがあっさりそう言って、僕らの目はキラリと輝いた。
僕は、魚を捌く男となっていた。
最初は慣れなかったが、ずっと捌いていれば少しはコツもつかめてくる。
宇宙服で魚を捌ける技術者。それが僕である。
しかし僕がまな板で、サクサクと魚を開いて干している横には、ドカンと大海竜がぶつ切りで置いてあった。
「……アレはなんだろう?」
「大海竜? のぶつ切りだろう? 食べる分だけ切り分けて。残りは冷凍と、燻製と、干物にするんだそうだよ」
シュウマツさんは綺麗に裁かれた巨大肉ブロックの正体を教えてくれた。
これは今晩のおかずどころか、当分食糧には困りそうにない。
まさに大漁という感じだった。
ただ僕の脳裏に真っ先に過った不安はその保存方法だった。
「……倉庫くらいの冷蔵庫、港に作ろうか?」
「手伝うよ。そのくらいの応用はやって見せよう」
「頼むよシュウマツさん。なにせこれはちょっと急ぎでやらなきゃみたいだから」
何せ生ものはコロニーといえど傷みやすい。
魚をきちんと保存するなら早い方がいいはずである。
そしてそれはみんなわかっていることで、すでに調理は急ピッチで進んでいた。
「よっと!」
あの大海竜をぶつ切りにして、器用に開いているのはアウターに乗った白熊さんである。
特別製の巨大まな板の上で、器用に背開きしながら使っているのは戦闘で使用した大剣だった。
それをアームを駆使して包丁のように扱い、背骨に刃を器用に滑らせ、開いて行く姿はさながら熟練の板前の様だ。
スケールは建物の解体クラスなのだが、スピーディーさと器用さで単純にスケールアップしたようにしか見えないのは素直に白熊さんの技量あっての事なのだろう。
そして器用さと言えば、フーさんも勝るとも劣らない。
鮭の様な大きな魚を、自分の手とそしてアウターのアームを器用に4本操って、とんでもない速さで三枚におろしていくのだから、もはややっていることは曲芸である。
「すごいな。何でアウターで魚捌けるのさ。一応アウターって建機みたいなとこあるんだよ?」
僕が感心しながら言うとフーさんはまんざらでもなさそうに胸を張っていた。
「そう? やっぱ細かいこと出来なきゃ五本指をわざわざ増設してる意味がないよ。それにこういう性能テストもしておかなきゃ。一応アウター使って戦うのが私の専門だもん」
「ボクのアウターは細かい作業は苦手だけど、これだけサイズがあれば大雑把でも問題ないね」
さも当然と言い切るフーさんと白熊さんだが、もちろんそんな単純なものではないと僕は表情をひきつらせた。
「言っても専門技能だと思うけど……。僕は生身で普通サイズの魚を捌くので精一杯かなぁ。アウターじゃちょっと無理だから、やっぱり二人の操縦がうまいんだよ」
「「いやぁ……それほどでも」」
僕がその卓越した操縦技能を絶賛すると、二人は同時に照れた。
実際大したものである。
フーさんは、実にスムーズにアームを動かして、鮭のお刺身を僕に見せた。
「私の“アーネラ”は特に繊細な動きを突き詰めたアウターだからね。器用なことはお手の物だよ。カノーがいじってくれてからもっと動かしやすいから、コロニーの技師さんは腕がいいなって思う」
「ああそれは思った。ボクの“ガンボール”も動きがいいね。ほんとにこれで前より丈夫なのかな?」
「そのアウター“ガンボール”って言うんだ」
フーさんは地球の武骨な機体を見て楽しそうに笑うが、白熊さんは肩をすくめていて、あまりお気に入りの名前というわけではなさそうだった。
「そうそう、ひどい名前だろう? 文字通り鉄砲玉だよ。ぶっ飛んでぶつかるのが仕事だから、搭乗はお勧めしないね。地球人でも最初血反吐くし」
「せめて〇ロくらいにならないものかな?」
乗り込んだ自分を想像して僕は青くなる。
実際乗っている人の感想は正直だった。
「残念ながら。内臓が飛びださないのが幸運って話さ。頑丈さは折り紙付きだけどね。どんなスピードを出してもバラバラになったところは見たことがない。……中身は別だけど」
「うわー」
「もう二人とも! 食べ物扱ってる時に汚いしグロイ! ちゃんとやって!」
「「ごめんなさい」」
フーさんに怒られてしまった。
僕らはそこからしばし無言で作業に集中していると、ふと白熊さんがとある一言を口にした。
「汚いと言えば……アレ、出来ないかな?」
「アレ?」
「そう。ホラ、最近疲れがたまってるじゃない? 海の作業も多くなったし、住処も食事も安心できるところまできたから……お風呂とか」
僕は思わず、手を止めた。
そして月人の少女もまた、目を見開いて白熊さんを凝視する。
「お、お風呂……」
「そ、そんな贅沢な物……ホントに存在するの?」
「え? そりゃあるでしょう。まぁそう言うボクが住んでた地域もシャワーがほとんどだったけど」
僕も話だけは……話だけは聞いたことがある。
かつて人類は大量のお湯を張って、体を清めていたのだと。
しかし水が貴重なコロニーでは、おおよそミスト式のシャワー推奨だった。
まして元々僕がいたのは実験船だ。船では体を拭くくらいがせいぜいで、風呂などとても入れなかった。
僕が遠い目で、そんなことを考えていると。
フーさんも同じく遠い目をしていた。
ここ最近大変だったのだ。
洗って落とせるのなら疲れも落としてしまいたい。
シャワーだってご無沙汰な現状、まさかの風呂というコロニーなら大金持ちか観光コロニーにしかないような特殊施設を出してくるとは驚いた。
しかも、今ならそれが可能かもしれない。
自然と三人一斉に視線が向くのは、もちろんぼんやり光っていたシュウマツさんである。
「え? なにかな? さすがに魚は捌けないのだが?」
「捌けないんだ……そうじゃなくってお風呂だよ」
「え? 風呂? 入るかい?」
シュウマツさんがあっさりそう言って、僕らの目はキラリと輝いた。
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