宇宙の果てで謎の種を拾いました

くずもち

文字の大きさ
51 / 108

第51話ここ最近は手早く拭くくらい

しおりを挟む
「うーんすごい光景だ」

 僕は、魚を捌く男となっていた。

 最初は慣れなかったが、ずっと捌いていれば少しはコツもつかめてくる。

 宇宙服で魚を捌ける技術者。それが僕である。

 しかし僕がまな板で、サクサクと魚を開いて干している横には、ドカンと大海竜がぶつ切りで置いてあった。

「……アレはなんだろう?」

「大海竜? のぶつ切りだろう? 食べる分だけ切り分けて。残りは冷凍と、燻製と、干物にするんだそうだよ」

 シュウマツさんは綺麗に裁かれた巨大肉ブロックの正体を教えてくれた。

 これは今晩のおかずどころか、当分食糧には困りそうにない。

 まさに大漁という感じだった。

 ただ僕の脳裏に真っ先に過った不安はその保存方法だった。

「……倉庫くらいの冷蔵庫、港に作ろうか?」

「手伝うよ。そのくらいの応用はやって見せよう」

「頼むよシュウマツさん。なにせこれはちょっと急ぎでやらなきゃみたいだから」

 何せ生ものはコロニーといえど傷みやすい。

 魚をきちんと保存するなら早い方がいいはずである。

 そしてそれはみんなわかっていることで、すでに調理は急ピッチで進んでいた。

「よっと!」

 あの大海竜をぶつ切りにして、器用に開いているのはアウターに乗った白熊さんである。

 特別製の巨大まな板の上で、器用に背開きしながら使っているのは戦闘で使用した大剣だった。

 それをアームを駆使して包丁のように扱い、背骨に刃を器用に滑らせ、開いて行く姿はさながら熟練の板前の様だ。

 スケールは建物の解体クラスなのだが、スピーディーさと器用さで単純にスケールアップしたようにしか見えないのは素直に白熊さんの技量あっての事なのだろう。

 そして器用さと言えば、フーさんも勝るとも劣らない。

 鮭の様な大きな魚を、自分の手とそしてアウターのアームを器用に4本操って、とんでもない速さで三枚におろしていくのだから、もはややっていることは曲芸である。

「すごいな。何でアウターで魚捌けるのさ。一応アウターって建機みたいなとこあるんだよ?」

 僕が感心しながら言うとフーさんはまんざらでもなさそうに胸を張っていた。

「そう? やっぱ細かいこと出来なきゃ五本指をわざわざ増設してる意味がないよ。それにこういう性能テストもしておかなきゃ。一応アウター使って戦うのが私の専門だもん」

「ボクのアウターは細かい作業は苦手だけど、これだけサイズがあれば大雑把でも問題ないね」

 さも当然と言い切るフーさんと白熊さんだが、もちろんそんな単純なものではないと僕は表情をひきつらせた。

「言っても専門技能だと思うけど……。僕は生身で普通サイズの魚を捌くので精一杯かなぁ。アウターじゃちょっと無理だから、やっぱり二人の操縦がうまいんだよ」

「「いやぁ……それほどでも」」

 僕がその卓越した操縦技能を絶賛すると、二人は同時に照れた。

 実際大したものである。

 フーさんは、実にスムーズにアームを動かして、鮭のお刺身を僕に見せた。

「私の“アーネラ”は特に繊細な動きを突き詰めたアウターだからね。器用なことはお手の物だよ。カノーがいじってくれてからもっと動かしやすいから、コロニーの技師さんは腕がいいなって思う」

「ああそれは思った。ボクの“ガンボール”も動きがいいね。ほんとにこれで前より丈夫なのかな?」

「そのアウター“ガンボール”って言うんだ」

 フーさんは地球の武骨な機体を見て楽しそうに笑うが、白熊さんは肩をすくめていて、あまりお気に入りの名前というわけではなさそうだった。

「そうそう、ひどい名前だろう? 文字通り鉄砲玉だよ。ぶっ飛んでぶつかるのが仕事だから、搭乗はお勧めしないね。地球人でも最初血反吐くし」

「せめて〇ロくらいにならないものかな?」

 乗り込んだ自分を想像して僕は青くなる。

 実際乗っている人の感想は正直だった。

「残念ながら。内臓が飛びださないのが幸運って話さ。頑丈さは折り紙付きだけどね。どんなスピードを出してもバラバラになったところは見たことがない。……中身は別だけど」

「うわー」

「もう二人とも! 食べ物扱ってる時に汚いしグロイ! ちゃんとやって!」

「「ごめんなさい」」

 フーさんに怒られてしまった。

 僕らはそこからしばし無言で作業に集中していると、ふと白熊さんがとある一言を口にした。

「汚いと言えば……アレ、出来ないかな?」

「アレ?」

「そう。ホラ、最近疲れがたまってるじゃない? 海の作業も多くなったし、住処も食事も安心できるところまできたから……お風呂とか」

 僕は思わず、手を止めた。

 そして月人の少女もまた、目を見開いて白熊さんを凝視する。

「お、お風呂……」

「そ、そんな贅沢な物……ホントに存在するの?」

「え? そりゃあるでしょう。まぁそう言うボクが住んでた地域もシャワーがほとんどだったけど」

 僕も話だけは……話だけは聞いたことがある。

 かつて人類は大量のお湯を張って、体を清めていたのだと。

 しかし水が貴重なコロニーでは、おおよそミスト式のシャワー推奨だった。

 まして元々僕がいたのは実験船だ。船では体を拭くくらいがせいぜいで、風呂などとても入れなかった。

 僕が遠い目で、そんなことを考えていると。

 フーさんも同じく遠い目をしていた。

 ここ最近大変だったのだ。

 洗って落とせるのなら疲れも落としてしまいたい。

 シャワーだってご無沙汰な現状、まさかの風呂というコロニーなら大金持ちか観光コロニーにしかないような特殊施設を出してくるとは驚いた。

 しかも、今ならそれが可能かもしれない。

 自然と三人一斉に視線が向くのは、もちろんぼんやり光っていたシュウマツさんである。

「え? なにかな? さすがに魚は捌けないのだが?」

「捌けないんだ……そうじゃなくってお風呂だよ」

「え? 風呂? 入るかい?」

 シュウマツさんがあっさりそう言って、僕らの目はキラリと輝いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

処理中です...