宇宙の果てで謎の種を拾いました

くずもち

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第50話海の守護者

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 普段すぼらな人間でも、たまに洗濯くらいはしたくなる。

 普段より汚れる機会が多くなればなおさらだろう。

 拾って来たプラタンクをいい感じに切断したものに大量の水を入れ、僕は布団を放りこむ。

 そしてアウターのアームを水の中に突っ込んで、ワシャワシャとかき混ぜた。

「これは、行けるな……今度石鹸でも作ってみるかな」

 低出力でいつも以上に繊細に操作する。

 アウターがいつもしないような音を立てているところを見ると勝手は違うようだが、そこは汎用性こそ売りのアウターである。

 頑張れば人間の体のように動いてくれるから、家事まで再現できるのは捗った。

 大きな掛布団も、アウターならホラこの通り。

 まるで雑巾を擦り洗いするように洗われた布団を、僕はやはり雑巾のように絞って脱水し、パン!っと勢いよく開いた。

「よし! 完璧!」

 特製の鉄骨製物干しに布団を並べ一息だ。

 僕はフゥと息をついて、アウターのハッチを開いて外に出た。

 海風が心地いい。

 生物が生まれ、今一番ホットなこの海エリア近くに作ったセーフハウスこそ、ここ最近の僕の拠点だった。

 そしてなぜ今ここにいるのかと言えば、ここが最も変化が大きかったからである。

「海は生命の母って本当なのかもしれないな……」

 コロニーに動物が現れたのは素直に喜ばしい。

 ただし、そこはシュウマツさんの常識を参照すれば、僕らの思いもよらないことになる。

 結果、この海エリアはその影響が最も濃い、デンジャラスゾーンと化していた。

「シュウマツさん……僕らの世界を参考にしたって本当?」

「しているよ? 話に聞いた生命体と似たような個体を再現しているし、全く同じものは積極的に取り入れているとも」

「それにしては……変化が早すぎない?」

「精霊達が頑張った成果だね。君達が彼らと良い関係を築けている証拠だよ。実に素晴らしい」

「しかしこの間の鮭の大量発生……は僕が軽率だったけれど。その後にイカの大量発生やらクジラの大量発生やら……何でいちいち大量発生するのさ?」

「最初はどうしても数が安定しないものさ。そのうち落ち着いてくるとは思うんだが……。ああでもほら君達の知ってる生き物ばかりだろう?」

「……まぁ。おかげでフーさん大喜びだよ。いや、この際種類は問題じゃなくて……」

 そこまで言いかけた僕は、海で飛び跳ねたクジラの姿に驚き、そして空中でバックリと蛇みたいなでっかい奴に食われたクジラを見て……目が点になった。

「いや、ああいうのいないよ? あんなでっかい蛇知らないからね? どういうことなのシュウマツさん?」

 明らかに地球にはいない化け物レベルの生き物について説明を求めたが、アレは特別な存在のようだった。

「お? アレはたぶん管理者だね。正確に言うと生き物じゃないよ。精霊が生み出したお助けキャラだ」

「お助けキャラ……何それ?」

 そんないきなり面白いことを言い出したシュウマツさんだが、彼には彼の言い分があるようだった。

「今みたいにむやみやたらと、何かが増えて生命全体のバランスが崩れた時、調整するのが役割さ。例えば鮭も増えすぎて餌となる生き物を食べつくしてしまったら、結果的に鮭もいなくなってしまう。そうならないようにあの大海竜がパクッといい感じに食べてくれるというわけさ」

「何それ怖い」

「そうかい? まぁここは狭いからね。普通よりも手間がかかるのは仕方がない」

 うんうんといい仕事をしたと確信しているシュウマツさんだが、本物のコロニーを知る僕としては、一言二言言っておかねばならないこともあった。

「そもそも……コロニーの中に海って意味あるの?」

「え! 何を言うんだい。海は生物の母だよ?」

「シュウマツさんの主張もわかるけど、ひとまず普通のコロニーで塩味まで再現しているところはあんまりない」

 実際大量に水があるコロニーは多いが海となるとその数はゼロになる。

 大抵は、大型の貯水池みたいなもので、真水が入っているのが僕の知るコロニーの海なのだ。

「今更言うことかな? でもまぁうまくいっているよ。コロニーとは本当によく出来ている。そうじゃなければ、こんなに生命溢れる海にはならないさ」

「溢れすぎて、とんでもないのが飛び出してるんだと思ったけれど……あっ。でもそれならまずいな」

「どうしたんだね?」

「今、フーさんと白熊さんが海に出てるんだ。あんなに近くにいるならたぶん……」

 僕の心配通り、クジラを捕食していた大海竜のすぐそばで水柱が二つ上がった。

 フーさんと白熊さんは、外部スピーカーで音量マックスの歓声を上げていた。


「なにこれなにこれ! 地球にこんなのいた!?」

「いいやいない! シュウマツさんの勘違いだろう! やると思ったんだ!」

「だよね! じゃあこれが肉キメラ2号だ! 雪辱晴らそう!」

 海ではもうさっそく、フーさんと白熊さんが自分の改造アウターで思う存分遊んでいた。

 そして海から出現した大海竜を、すでに今晩の夕食にしようと考えているみたいだった。

「おいおい、君じゃ危ないんじゃない?」

 ずいぶん仲良くなった白熊さんは、そう言ってフーさんを挑発する。

「ふふん。舐めないでよね。宇宙なら私、白熊さんに勝ってるんだから!」

「それは確かに……じゃあ、どっちが狩るか勝負だね?」

「望むところだ!」

 不敵な笑みを浮かべたフーさんは白熊さんの挑戦を受けるみたいだった。
 
 楽しそうな二人を、腕を組んで眺め、僕は感想を口にした。

「うん、すごく自然に戦う感じになった」

「うーん。いや、あの二人は強いが……大海竜は海の守護者だよ? いったん仕切り直して帰ってくれれば、説明だって出来るんだが」

「どうだろう?もう無理なんじゃない?」

 僕の頭はあんなでっかいモンスター相手に勝てるわけがないと言う。

 しかしここ最近の体験は、意外にもそうではないのでは?っと訴えていた。

 だから刮目して見よう。

 空を駆け、最初に仕掛けたのはフーさんだった。

 フーさんの“アーネラ”は新しく両手に装備した2本のブレードで、大海竜の硬い鱗を十字に切り裂いた。

 あのブレードは壊れた武装の一部を修復したものだ。

 その刃は無数の刃が超高速で回転するチェーンソーの様な構造で、金属を切るために作られたそれは生ものに対しても切れ味抜群だった。

「いい武器じゃないか!」

「でしょう? 来るよ!」

 大海竜はダメージで暴れ、フーさんに狙いをつけ襲い掛かって来た。

 フーさんは大海竜を水面を滑るように飛行しながら引き付ける。

 アウターと同じサイズの顎の噛みつきを華麗にかわしているが、よくビビらずに出来るものだと僕は思わずカタリと震えた。

 そしてあるポイントでいきなり動きを止めたフーさんはニッコリ笑い、頭に血が上った大海竜はフーさんを嚙み砕く―――かに思われたが、遠目から見ればその姿がパッとその場から消えるのが僕らには見えていた。

「どうなった?」

「魔法で幻影を見せたんだ。風魔法だよアレも」

 いつの間にかフーさんは幻と入れ替わっていたらしい。そんな高等テクニック僕は知らない。

 噛みつきが空振りに終わった大海竜は、何かから口を押さえられているらしい。

 白熊さんのアウターが絶妙なタイミングで、大海流の頭を掴んだようだが、パワーより気になるのはその中身がないことだろう。

 遠隔操作を行っているのは、おそらくフーさんだ。

 そしてその肝心のフーさんは、かなり上空で大海竜を見下ろしていて―――生身の白熊さんを肩に担いでいた。

「ありがと。いい誘導だった」

「もう急に変な作戦振って! 狩り勝負って言ったのに!」

「相手が思ったより強かったのさ。それに狩りってやつは本来協力してやるものだろう?」

 白熊さんはフーさんの機体を蹴って飛び降り、落下した。

 真っ逆さまに落ちる白熊さんの手には、あまりにも不釣り合いなアウター用の剣が握られている。

 白熊さんの体はしかし、あっという間に剣の大きさに合う。

 白熊さんの髪の毛が逆立った時、振りかぶった剣の間合いは大海竜の首がちょうど入った頃合いである。

 数秒後、勝利の雄叫びはすぐに上がった。

「やった! とったー!」

「今晩は巨大かば焼きで決まりだね!」

 見事一太刀で決着をつけた姿を見て、僕とシュウマツさんはしばらく声が出なかった。

「……えっと、アレ大丈夫?」

 海の守護者やられちゃったけど?

 シュウマツさんに視線を向ければ、シュウマツさんは動揺しつつ点滅した。

「まぁ、大丈夫。すぐ復活するから……。味に興味があるなら食べてもいいよ。最高においしいはずさ」

「なんなのその、味に対するこだわり」

「大事なことだとも。いやホントに。それにしても強いんだねこっちの人類は……ビックリしたよ。私の世界にだってあの手のモンスターを倒せる勇者は歴史上片手で数えられるほどしかいなかった」

「いやー。シュウマツさんの魔法のせいだと思うけど? 何アレ最後アウターすら使ってなかったよ?」

「まぁ狂戦士化の魔法を使ったら装備はあくまで補助だよね。いや、でもそれを鑑みたって強いよ彼女達」

「……こっちの宇宙も大概なのかな?」

 穏やかに暮らしていると忘れそうになるがあの娘達は一線級の兵士だ。

 そして装備は戦闘用の最新型である。

 強くて当たり前なのかもしれないが、異世界を知るシュウマツさんから勇者の称号を得るとは恐れ入る。

 しばらく僕はシュウマツさんと原因の擦り付け合いをしてしまったわけだが……。

 いつの間にか穏やかになった海を眺めている僕の心は、今晩のおかずはどんな味がするんだろうと妙な興味でいっぱいになった。
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