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第53話洗濯物の気持ち
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「な、なにこれどうなってんの?」
水が浮いている。タツノオトシゴ君がやっていなかったら腰を抜かしていたかもしれないが、ぶちまけたら簡単に押し流される水量は、器なしで目の当たりにすると見た目の圧力がすごかった。
「だから風呂だよ? 服のまま飛び込んでくれたらいい」
「服のまま!?」
立て続けに披露される異世界風呂の常識に、僕はカルチャーショックを知った。
「そう。脱いでもいいが、水に浄化の魔法がかかっているからついでに洗濯もしてしまうといいよ。汗の染みまでしっかり取れるはずだとも」
自信満々のシュウマツさんだが、僕らは顔を見合わせた。
「そもそも浄化の魔法って何なの?」
「汚れを落とす魔法だね。匂いも落ちるし、衛生的にも重宝されていたんだよコレ。こいつを駆使すれば卵も生で食べられるのだよ?」
「卵は、魔法じゃなくても食べられるでしょ。家のコロニー卵は生で食べる派だったんだ」
「それは……クレイジーだね」
シュウマツさんは信じられないと言う顔で僕を見ていたが、同郷のフーさんと白熊さんまで引き気味である。
「ホントに?」
「マジか……コロニーは進んでるなぁ」
「一般的ではないようだが?」
「みたいだ……ね。人は宇宙に出ても、サルモネラ菌は怖いんだなぁ」
生食がいまだに定着していないのは中々悲しいが、食べないこともまた自衛手段としては正しい。
そして現在の僕にもそれは同じことが言えるのではないかと思わないではなかった。
水の塊に突っ込んだら死んじゃう気がする。
水面がどこなのかそもそもわからないし、仮に溺れた時にどうすればいいのかわからないと言うのは大いに問題だった。
そもそも浄化の魔法とやらの効果を聞く限り。根本的な疑問もあった。
「浄化の魔法なんて便利なものがあるなら……じゃあお風呂って、異世界じゃ必要なかったんじゃないの?」
「そんなことはないよ。どうにも清潔なだけではダメらしいのだ。まぁ植物の私にはわかりかねるが」
「そりゃあ、植物はお風呂入らないだろうとは思うけど」
「でもこれは間違いなく人間が使っていたお風呂だよ?」
シュウマツさんの知識は知識としては間違っていないのだろう。
衛生的に除菌が完ぺきだとしても、風呂に入りたいことはある。
合理性だけではない、習慣の話なんかはまさしく人間っぽいところだと思った。
「いやでも、飛び込んだら息が出来なくない?」
「大丈夫。呼吸は出来るように、水中呼吸の魔法をかけて入るんだよ。眼球と穴には水が入らない概念が付与されてる。空気は通すから、魚のえら呼吸のように水の中の空気を吸えるはずだ」
「概念ってくっつけたりはがしたり出来るようなものじゃないんだけどな。……じゃあやってみるかな……」
「うん。ゆっくりするといい」
ではその心遣い、しっかりと堪能させてもらうとしよう。
「頑張って!」
「君ならやれるよ!」
「君達都合がいいなぁ……」
フーさんと白熊さんも面白がってはいるが動かないし、先駆けとして頑張ってみる。
僕は水球に手を突っ込む。
思ったよりも抵抗なく中に入れ、体の半分ほど入り込むと浮力で体が中に引き込まれていった。
ロックを外すと、ヘルメットの中にも水が入って来るが目や口の中に入ってくることがない。
眼球までぬるいと言うのは、めちゃくちゃおっかなかったが、完全に水没してしまうと静かなものだった。
「うわ……すごい。頭のてっぺんまであったかい」
シャワーよりも、こう、熱がしみ込んでくる。
そりゃあ頭までお湯に沈んでいるのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、全身くまなく温められていく感覚は僕としては新鮮だった。
水球の中では本当にゆっくりと水が流れているようで、体が漂っている感覚は心地いいと言える物だ。
「あ、これ普通に裸でも気持ちがいいかもしれない」
「だろう? 水中呼吸の魔法が編み出されてから出来た入浴法だよ」
「でっかい洗濯機の中の服の気持ちが分かりそう」
「……それは褒めているのかな?」
すでに洗濯機を知っているシュウマツさんは変な声で困惑していたが、申し訳ない。
僕の感想は間違いなく”気持ちがいい”だ。
後に続いた、フーさんと白熊さんもゆらゆらと水球の中を漂いながら、リラックスできているように見えた。
「うん、極楽だ。……ひょっとして僕、もう死んでるんじゃないだろうな?」
ふと口をついてそんなセリフが出る。すると頭の上から返事が来た。
「そうかもよカノー? 正直に言えばボクはここが死後の世界なんじゃないかって今も疑ってるね。地球はどこもかしこも寒かったからなぁ」
「月も似たようなものだよ。戦ってばっかしで疲れる」
「そうだなぁ。まぁそうかもなぁ」
オペ子さんが来てからもう少し現在の位置情報やらなにやら正確にわかるかと思っていたが、現状ではあまり進んでいない。
言われてみれば死後の世界といった方が、説明する時座りがいいななんて頭をよぎってしまった。
まぁ不安はあるし、これからどうなるかもわからないけれど、辛くないのが大切だ。
みんな色々あったから、疲れているのなら息抜きは必要である。
しばらく穏やかに漂っていると、フーさんはグルリと体をこちらに向けて、泳いでやって来た。
「これすっごいね! 息が出来る! しゃべれもするってどうなってるんだろう!」
リラックスタイムは長くは続かなかったらしいフーさんはすでにテンションが高い。
ものすごい勢いで泳ぎ始めて、人魚のようにはしゃいでいた。
そんな様子に和みながら、僕はまだまだリラックスムードの白熊さんに話しかけた。
「なんだろう……宇宙遊泳とはまた違った気持ちよさだね」
「ああ……でも新しいインナーは気密性が高すぎて、微妙だ。ロック外しても首からじわじわ水がしみて来て変な感じ」
白熊さんはグニグニ自分のインナースーツを伸ばして、お湯を入れてみようと試みているらしい。
体にフィットするタイプのフーさん白熊さんのインナーだとまぁそうなるのも仕方がない。
その点僕の旧式はお湯の入る空間は十分に確保されていて、水の中でも重みを感じるくらいだった。
「僕の方は、たっぷりもう中に水が入ってるね。ヘルメット付きだから、完全に金魚鉢みたいになってる」
「……ヘルメット外せばいいのに」
「いや、だってここでゲロったら……まずいでしょう?」
「…………君はヘルメットは外しちゃダメだからね?」
「了解。まぁ外して入るのは一人の時にする」
そこは意見の一致を見たので、今後は徹底するとしよう。
白熊さんは目を閉じて、静かに腕を組んでいたけれど、突然目を開いたかと思うと馬鹿なことを叫んだ。
「思っていたのとは違ってたけど……悪くない。良し……脱ぐか!」
「決断が思い切ってるなぁ」
僕が一体どうしたと白熊さんを見ると、白熊さんは冗談っぽく笑っていた。
「だって。絶対裸の方が気持ちがいいだろう? 何なら自慢の肉体を見せびらかすチャンスでもある」
「チャンスなんだ」
「確かに、すごいプロポーションだよね。白熊さん」
フーさんは、ほほうと感心した風に白熊さんを観察していたが、白熊さんはウムと頷き、鍛えているからと力こぶを見せていた。
「とはいえそれは冗談にしても……まぁなに、裸とは言わないがせめて水着ってやつを着て入りたいところだ。というかこれ家に作れないかな?」
「普通に、お風呂を作ればいいと思うよ。給湯器なら作れるだろうから」
「あ、そっか。普通でもいいんだよね」
「それなら私も欲しい! 泡の出るやつ!」
ハイっと手を上げるフーさんの目は、割と本気の様だった。
「こだわるね」
「入ってみたくない? そうだ! ちょっと待ってて」
そして何か閃いたらしいフーさんは水球の下の方に泳いで行って、手をかざす。
すると手の先からすごい勢いで泡が噴き出した。
「うわ! なんだこれ!」
「あ、魔法か! 風のやつ」
「そう! こんな感じかな! 泡の出るお風呂!」
ボコボコと泡はどんどん多くなって、楽しそうなフーさんの顔も見えなくなってくる。
泡の感触は……僕の場合はそんなにわからないけれど、中々おもしろい光景ではあった。
「と、言うか……泡が多すぎて何も見えなくない?」
「確かに」
「あ、あれ? なんか制御が……」
「そう言えば、魔法のシールって水で落とせるんじゃなかったっけ?」
「あ」
その「あ」ってなんなのさ。
泡はどんどんどんどん増えて、回転の速度が増し始めていて……。
「あ、嫌な予感」
そして魔法の空気は一気に膨れ上がり―――爆発した。
キラキラと飛び散る水滴の中を、僕らは飛ぶ。
「どうした!?」
ドシャリと地面に放りだされると、あまりにも予想外の事態にシュウマツさんが驚いていた。
ただ……大したことではない。未知の風呂に、全員はしゃぎ過ぎた。ただそれだけの事だった。
「何でもないよ……」
「おお、ビックリした」
「はははは……ゴメン」
驚くシュウマツさんには、回転する洗濯物の気持ちを報告できそうだった。
水が浮いている。タツノオトシゴ君がやっていなかったら腰を抜かしていたかもしれないが、ぶちまけたら簡単に押し流される水量は、器なしで目の当たりにすると見た目の圧力がすごかった。
「だから風呂だよ? 服のまま飛び込んでくれたらいい」
「服のまま!?」
立て続けに披露される異世界風呂の常識に、僕はカルチャーショックを知った。
「そう。脱いでもいいが、水に浄化の魔法がかかっているからついでに洗濯もしてしまうといいよ。汗の染みまでしっかり取れるはずだとも」
自信満々のシュウマツさんだが、僕らは顔を見合わせた。
「そもそも浄化の魔法って何なの?」
「汚れを落とす魔法だね。匂いも落ちるし、衛生的にも重宝されていたんだよコレ。こいつを駆使すれば卵も生で食べられるのだよ?」
「卵は、魔法じゃなくても食べられるでしょ。家のコロニー卵は生で食べる派だったんだ」
「それは……クレイジーだね」
シュウマツさんは信じられないと言う顔で僕を見ていたが、同郷のフーさんと白熊さんまで引き気味である。
「ホントに?」
「マジか……コロニーは進んでるなぁ」
「一般的ではないようだが?」
「みたいだ……ね。人は宇宙に出ても、サルモネラ菌は怖いんだなぁ」
生食がいまだに定着していないのは中々悲しいが、食べないこともまた自衛手段としては正しい。
そして現在の僕にもそれは同じことが言えるのではないかと思わないではなかった。
水の塊に突っ込んだら死んじゃう気がする。
水面がどこなのかそもそもわからないし、仮に溺れた時にどうすればいいのかわからないと言うのは大いに問題だった。
そもそも浄化の魔法とやらの効果を聞く限り。根本的な疑問もあった。
「浄化の魔法なんて便利なものがあるなら……じゃあお風呂って、異世界じゃ必要なかったんじゃないの?」
「そんなことはないよ。どうにも清潔なだけではダメらしいのだ。まぁ植物の私にはわかりかねるが」
「そりゃあ、植物はお風呂入らないだろうとは思うけど」
「でもこれは間違いなく人間が使っていたお風呂だよ?」
シュウマツさんの知識は知識としては間違っていないのだろう。
衛生的に除菌が完ぺきだとしても、風呂に入りたいことはある。
合理性だけではない、習慣の話なんかはまさしく人間っぽいところだと思った。
「いやでも、飛び込んだら息が出来なくない?」
「大丈夫。呼吸は出来るように、水中呼吸の魔法をかけて入るんだよ。眼球と穴には水が入らない概念が付与されてる。空気は通すから、魚のえら呼吸のように水の中の空気を吸えるはずだ」
「概念ってくっつけたりはがしたり出来るようなものじゃないんだけどな。……じゃあやってみるかな……」
「うん。ゆっくりするといい」
ではその心遣い、しっかりと堪能させてもらうとしよう。
「頑張って!」
「君ならやれるよ!」
「君達都合がいいなぁ……」
フーさんと白熊さんも面白がってはいるが動かないし、先駆けとして頑張ってみる。
僕は水球に手を突っ込む。
思ったよりも抵抗なく中に入れ、体の半分ほど入り込むと浮力で体が中に引き込まれていった。
ロックを外すと、ヘルメットの中にも水が入って来るが目や口の中に入ってくることがない。
眼球までぬるいと言うのは、めちゃくちゃおっかなかったが、完全に水没してしまうと静かなものだった。
「うわ……すごい。頭のてっぺんまであったかい」
シャワーよりも、こう、熱がしみ込んでくる。
そりゃあ頭までお湯に沈んでいるのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、全身くまなく温められていく感覚は僕としては新鮮だった。
水球の中では本当にゆっくりと水が流れているようで、体が漂っている感覚は心地いいと言える物だ。
「あ、これ普通に裸でも気持ちがいいかもしれない」
「だろう? 水中呼吸の魔法が編み出されてから出来た入浴法だよ」
「でっかい洗濯機の中の服の気持ちが分かりそう」
「……それは褒めているのかな?」
すでに洗濯機を知っているシュウマツさんは変な声で困惑していたが、申し訳ない。
僕の感想は間違いなく”気持ちがいい”だ。
後に続いた、フーさんと白熊さんもゆらゆらと水球の中を漂いながら、リラックスできているように見えた。
「うん、極楽だ。……ひょっとして僕、もう死んでるんじゃないだろうな?」
ふと口をついてそんなセリフが出る。すると頭の上から返事が来た。
「そうかもよカノー? 正直に言えばボクはここが死後の世界なんじゃないかって今も疑ってるね。地球はどこもかしこも寒かったからなぁ」
「月も似たようなものだよ。戦ってばっかしで疲れる」
「そうだなぁ。まぁそうかもなぁ」
オペ子さんが来てからもう少し現在の位置情報やらなにやら正確にわかるかと思っていたが、現状ではあまり進んでいない。
言われてみれば死後の世界といった方が、説明する時座りがいいななんて頭をよぎってしまった。
まぁ不安はあるし、これからどうなるかもわからないけれど、辛くないのが大切だ。
みんな色々あったから、疲れているのなら息抜きは必要である。
しばらく穏やかに漂っていると、フーさんはグルリと体をこちらに向けて、泳いでやって来た。
「これすっごいね! 息が出来る! しゃべれもするってどうなってるんだろう!」
リラックスタイムは長くは続かなかったらしいフーさんはすでにテンションが高い。
ものすごい勢いで泳ぎ始めて、人魚のようにはしゃいでいた。
そんな様子に和みながら、僕はまだまだリラックスムードの白熊さんに話しかけた。
「なんだろう……宇宙遊泳とはまた違った気持ちよさだね」
「ああ……でも新しいインナーは気密性が高すぎて、微妙だ。ロック外しても首からじわじわ水がしみて来て変な感じ」
白熊さんはグニグニ自分のインナースーツを伸ばして、お湯を入れてみようと試みているらしい。
体にフィットするタイプのフーさん白熊さんのインナーだとまぁそうなるのも仕方がない。
その点僕の旧式はお湯の入る空間は十分に確保されていて、水の中でも重みを感じるくらいだった。
「僕の方は、たっぷりもう中に水が入ってるね。ヘルメット付きだから、完全に金魚鉢みたいになってる」
「……ヘルメット外せばいいのに」
「いや、だってここでゲロったら……まずいでしょう?」
「…………君はヘルメットは外しちゃダメだからね?」
「了解。まぁ外して入るのは一人の時にする」
そこは意見の一致を見たので、今後は徹底するとしよう。
白熊さんは目を閉じて、静かに腕を組んでいたけれど、突然目を開いたかと思うと馬鹿なことを叫んだ。
「思っていたのとは違ってたけど……悪くない。良し……脱ぐか!」
「決断が思い切ってるなぁ」
僕が一体どうしたと白熊さんを見ると、白熊さんは冗談っぽく笑っていた。
「だって。絶対裸の方が気持ちがいいだろう? 何なら自慢の肉体を見せびらかすチャンスでもある」
「チャンスなんだ」
「確かに、すごいプロポーションだよね。白熊さん」
フーさんは、ほほうと感心した風に白熊さんを観察していたが、白熊さんはウムと頷き、鍛えているからと力こぶを見せていた。
「とはいえそれは冗談にしても……まぁなに、裸とは言わないがせめて水着ってやつを着て入りたいところだ。というかこれ家に作れないかな?」
「普通に、お風呂を作ればいいと思うよ。給湯器なら作れるだろうから」
「あ、そっか。普通でもいいんだよね」
「それなら私も欲しい! 泡の出るやつ!」
ハイっと手を上げるフーさんの目は、割と本気の様だった。
「こだわるね」
「入ってみたくない? そうだ! ちょっと待ってて」
そして何か閃いたらしいフーさんは水球の下の方に泳いで行って、手をかざす。
すると手の先からすごい勢いで泡が噴き出した。
「うわ! なんだこれ!」
「あ、魔法か! 風のやつ」
「そう! こんな感じかな! 泡の出るお風呂!」
ボコボコと泡はどんどん多くなって、楽しそうなフーさんの顔も見えなくなってくる。
泡の感触は……僕の場合はそんなにわからないけれど、中々おもしろい光景ではあった。
「と、言うか……泡が多すぎて何も見えなくない?」
「確かに」
「あ、あれ? なんか制御が……」
「そう言えば、魔法のシールって水で落とせるんじゃなかったっけ?」
「あ」
その「あ」ってなんなのさ。
泡はどんどんどんどん増えて、回転の速度が増し始めていて……。
「あ、嫌な予感」
そして魔法の空気は一気に膨れ上がり―――爆発した。
キラキラと飛び散る水滴の中を、僕らは飛ぶ。
「どうした!?」
ドシャリと地面に放りだされると、あまりにも予想外の事態にシュウマツさんが驚いていた。
ただ……大したことではない。未知の風呂に、全員はしゃぎ過ぎた。ただそれだけの事だった。
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