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2巻
2-2
「いやいやありがとう、面白い話が聞けたよ」
カワズさんの拗ねた顔を見て満足した俺とは反対に、真剣な顔をしているセーラー戦士。
「つまり、向こうへ戻るための魔法は……今の魔法使いの手に負えないようなとんでもない魔法だって事なのかな? でも、魔法陣さえ見つけられれば改良の余地があるかもしれないんだね。確認するけど、君達はその技術を持っているんだよね?」
セーラー戦士はさっそく送還の魔法について仮説を立てている。
「俺はまだまだだけどカワズさんなら。でも、手に入れる方法がわからないし、そもそも過去にその魔法が存在したかもわからない。ちなみに俺はもう半分くらい諦めてるけど」
「……でも、ないとも言い切れない。そうだよね? それに召喚の魔法だってあるんだから、送還の魔法だってあると考える方が自然だよ」
「まぁそうじゃな。もし、どうしても探したいと言うのなら止めはせんよ。古文書や歴史資料を紐解くのもよいじゃろう。アルヘイムを巡ればどこかの種族が魔法を持っておるかもしれん。高名な魔法使いを訪ねれば、魔法が研究されておるかもしれん。ただし、必ずそれで送還の魔法にたどり着けるとは保証できん。それだけは肝に銘じておくがよかろう」
カワズさんは絶望的な台詞で締めくくる。
だが俺達の話に希望を見出したのか、セーラー戦士は落ち込むどころかやる気に満ちた表情になった。ここでなにか言っても水を差す事にしかならなそうである。帰る方法を探したいと願う彼女を、もはや止められるとも思えなかった。
俺は特大のため息をつくと、重い腰を上げる。
「まぁ魔法の話はこんなもんでいいか。カワズさん、これから女王様のところにセーラー戦士を連れていってくるわ。紹介しておいた方がなにかと都合がいいでしょ」
「ふぅむ……それならいきなり攻撃されんように、最初はお前だけで話してみるとよかろう」
「わかった」
「ちょ、ちょっと待ってくれないかな? 女王様って誰?」
事情を知っている俺達はお気楽に話していられるが、よくわからないところに連れて行かれそうな張本人からしたら、不安になるのも当然だろう。
「まぁ、君がこれからどうするのかは好きなようにすればいいけど、どっちにしてもここには自由に出入り出来る方がいいだろ?」
「太郎さん、それって……」
「俺だって、帰る方法にまったく興味がないわけじゃないからさ」
嬉しそうなセーラー戦士に俺はちょっとだけ照れつつ、女王様について説明する。
「女王様っていうのは、この妖精郷で一番偉い人。俺達は警備を手伝う代わりに住まわせてもらっているんだよ」
「まさか、外の結界を張っているのも女王様……?」
「その通り。そのへんは俺達も一枚噛んでいるけど、なにかまずいかな?」
セーラー戦士の顔色が優れないので聞いてみると、彼女は気まずげに引きつった笑いを浮かべた。
「いやぁ……昨日身をもって、その結界の容赦の無さを知っちゃったばっかりだから……。大丈夫かな?」
あー。そういえば結界にやられて森で捕獲されたんだよな。
そして俺が思い浮かべたのは、初対面で完全武装の兵士を引き連れてきた女王様の姿。
「……大丈夫じゃない? 堅いようで結構軽いノリの人だし。カワズさんだって、初対面の時に謎のビームを何十発か叩き込まれただけだったよ?」
「それ全然平気じゃない!」
……まぁ確かに。
いや、うん……でもたぶん大丈夫だと思うんだ。
◇◆◇◆◇
そう思ったんだけど。
「却下」
「えー」
軽い気持ちでお願いしてみたら、駄目でした。
あまりにも気軽にお願いした俺に女王様も呆れ気味のようである。
「言っておくがお前は特例だ。そうたやすく特例を作れるわけもあるまい?」
「……いいじゃんケチ」
「ケチじゃない! だいたい同郷とはいえ他人であろう? お前が妾に貸しを作ってまでするような事でもあるまいに?」
「あー。そりゃそうなんですが。……うん、確かにそれはないわ」
「……いきなり裏切らないでよ?」
危うく納得しかけた俺の肩を、即席のローブで顔を隠してついてきていたセーラー戦士が慌てて掴んできた。
「だ、大丈夫だって。安心しなさい、セーラー戦士」
「だから、せめてこういう場ではセーラー戦士はやめて……」
ガクリと肩を落とした拍子に、ローブがずれる。
すると金髪の髪がこぼれて、彼女の素顔が露わになってしまった。
「あら美形」
「!」
俺が声に反応してすばやく視線を向けると、女王様は猛烈な真顔。
「……なにか言いました? 女王様?」
「いやなにも? ふむ、だが……一考する価値はありそうだな」
「……急に意見が変わってません?」
「だまらっしゃい……だが悪いな人間よ。妾もなんの理由もなくそなたをここに置くわけにはいかん。他種族は妖精郷に入れないのが原則でな」
そこは女王らしくきっぱりと断言する。
どうしたものかと思っていると、女王様の言葉を聞いたセーラー戦士が、凛とした表情で女王様の前に進み出る。なにかするつもりのようだ。
「女王様、お初にお目にかかります。私、天宮マガリと申します。突然の申し出、話を聞いていただけただけでも光栄です。簡単には住まわせていただけないというのはわかっているつもりですが、私にはすでに帰る国もありません。よろしければ、出入りの許可だけでもいただけないでしょうか?」
片膝をつき、優雅に一礼した後、毅然と言ってのけたセーラー戦士に、俺は驚く。
その洗練された動作は、淑女というよりもむしろ騎士を思わせた。
なんというか、騎士オーラが止まるところを知らないといった感じだ。今にも手を取ってキスでもしそうなセーラー戦士に、女王様もやられてしまったようだ。彼女の頬がほんのり赤く染まり、うっとりした表情になっている。
「……タローと交換したいな」
「それ、言っちゃいますか」
「……冗談だ。しかし、条件次第では住む事を許さんでもない」
「本当ですか!」
喜ぶセーラー戦士。正気を取り戻したように見えた女王様だったが、しかしうっすら笑みを浮かべ、こう口にしたのである。
「写真を撮らせなさい」
残念だが……まだ正気ではないのかもしれない。
「……はい?」
聞き違いだと思ったのだろう。セーラー戦士が聞き返す。
「だから写真だ……写真でよかったよな?」
「その通りです、女王様」
尋ねられたので俺も頷く。
しかしその時、女王様の目論みを察した俺は、ハッと息を呑む。
いや! この人、正気だ!
むしろ打算的なお願いをしようとしている!
止めようと思った時にはすでに遅く、女王様はお願いを口にしていた。
「うむ。実は妾のブログが今密かに人気でな。とはいっても他に五つくらいしかないのだが――」
ちなみに彼女にブログを勧めたのは俺。
そして女王様が言っている人気とは、俺が作ったブログのランキング機能の事である。
ブログの記事に、読み手が匿名でポイントを入れて人気を競うのだ。
何気にこれが異世界ブロガー達の間で密かなブームになっていた。
あまりにも現代的な話題を、妖精の女王様が普通に話しているせいで、セーラー戦士も呆けてしまっている。
「はぁ……」
わけがわからない風のセーラー戦士に、女王様は微笑みを浮かべ、畳み掛けた。
「竜の小僧がパソコンの配布をがんばっておるらしく、最近、新規の閲覧者が一気に増えたようなのでな。ここらで一つ、美少女の写真でも上げれば、妾のトップは不動のものだと思うのだが、どうか?」
混乱しているかわいそうなセーラー戦士は、どう答えたものかさっぱりわからず、とりあえず頷く事にしたようだった。
「えっと……写真くらいなら――」
「そうか! ではちょっと待っておれ! すぐに水晶を取ってくる!」
返事を最後まで聞かずに、いそいそと撮影用の水晶を取りに行く女王様。彼女の後ろ姿を見送った俺は敗北感に打ちひしがれる。
ぬかった!
確かに、セーラー戦士の画像をアップすればあの竜どもは釣れる! 美しさとかっこよさを兼ね備えた彼女を利用すれば竜の雌すら……いや妖精連中みんな爆釣りじゃないか!
なんという事だ。これでは俺の「八百万旅日記」がまた廃れてしまう! ただでさえランキング最底辺をうろうろしているというのに……。
「……君の仕業だね、太郎さん?」
女王様が去った瞬間、セーラー戦士の冷ややかな声が聞こえたが、今はそれどころではない。
「くそ! その手があったか! 確かに目の付けどころがいい!」
「……君達はいったいなにがしたいのさ?」
写真撮影会は滞りなく行われました。
「はい『チーズ』。ふぅ、よろしい。では、出入りを許可しよう。しかし、泊る場所はこやつの小屋にせよ。妖精郷に無用の争いを持ち込まぬよう頼むぞ?」
「……心得ました、女王様」
どこか疲れたようなセーラー戦士。ご苦労様です。
「うむ、ところでタローよ。この件は一つ貸しと思ってよいか?」
……ははん、なにかまた厄介な頼み事をするつもりだな?
だが今回の件で、俺に貸しが出来たというのは納得がいかない。
「……写真撮ってたじゃないですか。あれじゃダメなんっすか?」
ややふてくされてそう言うと、女王様は当たり前だと勝ち誇った表情で鼻を鳴らした。
「あれは出入りの分だろう? 泊る分はまた別だ。当然ではないか?」
「……せこいですよ?」
「そんな事はない。話を戻そう。今度もまた使者が来たのだ、お前に会いたいとな。さっそく会いに行って来てはくれないだろうか?」
「前振りからして厄介そうだから嫌です」
「そう言うな……まぁ確かに厄介なところだがな、エルフの里は」
目的地を聞いた俺はすぐさま態度を改め、がっちりと女王様の手を握り、力強く叫んだ。
「謹んで行かせていただきます!」
「……なぜ急に元気になった? まぁよい、やる気があるのは良い事だ。ついでにお前のパソコンを置いてくるのもいいだろう。置かせてくれるかはわからんが……」
あいつらは気難しいからなぁと女王様が最後に呟いていたが、そんな事は関係ない!
エルフと言えば、ファンタジーの定番!
しかも美人の代名詞と言っても過言ではない花形種族!
ここで張り切らないでどこで張り切るってんだ!
ところが、思ってもみなかった事態が起きた。
俺達の方をじっと見ていたセーラー戦士が、話に割って入ってきたのである。
「あ、あの。そのエルフの里に、私もついて行ってかまわないでしょうか?」
どういうわけか、セーラー戦士は自分から志願したのだった。
2
エルフの里は妖精郷よりもさらに森の奥深く、幻と言われる湖の中にあるらしい。
妖精の中でも厳格な掟を定め、純血を重んじる高貴なエルフの一族。
滅多な事では他種族との交流もしないが故に、その姿を見る事も難しく、見たものには幸福が訪れるとかなんとか。
「湖の中って浮き島なのかな? なんかそれって安定感なさそうだよな」
「いやいや、それはそれで興味深いじゃろ。わしはそれよりも、エルフの作る工芸品の方に興味があるのぅ!」
「エルフってすごく手先が器用だっていうよね! 作る物も不思議な効果があるんだって! 友達にお土産も頼まれたし、沢山買えるといいよねー」
ハイテンションなトンボは、着く前からお土産の話をしている。
「写真も撮りたいのぅ。タロー? ちゃんと魔力の補充はしてきたかの?」
「してきた、してきた。カワズさんの分の水晶もばっちりだって」
面倒臭そうに答えた俺に、カワズさんはニヤニヤしながら続けた。
「そうかそうか、お前さんは抜けておるからのぅ。ゲロゲロ!」
「一言多いぞ? そういえばクッキー作って来たけど食べる?」
「食べる食べるー!」
「……完全に観光気分だ」
歩きながら談笑し浮かれている俺達を横目で見つつ、セーラー戦士はぼやく。彼女はエルフの里に近づくにつれて、警戒を強めているようだった。
見知らぬ場所で気が抜けないのはわかるが、今回は招待なのだ。あんまりトゲトゲしてもらっても困るんだよなぁ。
「ちょっと物々しすぎない?」
声をかけてみたが、俺とセーラー戦士ではやはり認識に大きな違いがあるらしく、彼女は口を尖らせて、信じられないという風に言った。
「アルヘイムを歩き回るのに、装備の一つもしていない方がおかしいってば! ただでさえ魔獣がうろついているような場所なんだから!」
まぁ確かに言われてみればその通り。
「……音を立てたら野生の動物は寄ってこないらしいよ? 昔、テレビでやってた」
せっかくなので俺が豆知識を披露すると、なぜかセーラー戦士の疲れ顔がひどくなった。
「いや、地球の動物と同じに考えるのもどうかと思うけど」
「……俺からしたら向こうの動物の方が全然怖いけどなぁ」
なにせ対抗手段がないわけだし。それに比べてこっちの魔獣は俺が近寄っただけで逃げていくもんなぁ……なんか、それはそれでちょっとへこむけど。
それはともかく、警戒しているセーラー戦士を見ていて、俺も思うところがあるわけだ。
「でも、なんだってついて来るなんて言い出したの?」
不思議に思ってセーラー戦士に尋ねてみると、彼女は照れたように俺に言った。
「一宿一飯の恩返しって感じかな? なにかお礼が出来ないかなって。それに……君達をもっと知るのが、帰るための一番の近道じゃないかとも思ったんだ」
後半の方は少しだけ声を落として言うセーラー戦士。その目が一瞬だけ険しくなる。
この感じだと、エルフの里から帰ったら、おそらく彼女は送還の魔法陣探しの旅に出るだろう。
そういう事なら、もう少し備えがあってもいいだろう。
「なるほど。……じゃあこのお守りをあげよう、あんまり無理しないように」
俺は持って来ていたペンダントをセーラー戦士に渡す。セーラー戦士は驚いたようだが、それを素直に受け取り、礼を言った。
「ありがとう。わかってるよ。君達を見ていたら、確かに私だけ気負いすぎな気もするし」
そう言って笑うセーラー戦士はなんとも複雑な表情をしている。気を緩めているわけでもなく、警戒しているのとも少し違う。一番近いのは戸惑い、だろうか?
こちらに無理にあわせるより、慣れるまでは自分で安心出来るようにした方がいいだろう。
なにかあればフォローすればいいだけの話だし、俺もそれ以上言うのは止めておいた。
まぁ気楽な旅だから、すぐに慣れると思うけどね。
今回指定された場所は、思っていたよりも簡素な魔法の結界に囲まれていた。
エルフはかなり上位の妖精だという話を聞いていたのに、最初に妖精郷を訪ねた時よりも抵抗が弱い。
そのあたりはカワズさんも感じていたようで、首をひねっている。
「ふむ……妖精郷と同じ迷いの結界じゃな。森の中で方向感覚を狂わせる類のもんじゃ。だが、これが本当にエルフの結界かの?」
「もうすぐ森を抜けるし、そしたらわかるでしょ?」
トンボは相変わらずお気楽だ。
「えっと……迷いの結界がかかっているのに、どうしてもうすぐってわかっちゃうのかな?」
俺達の会話についてこられないセーラー戦士。だが、これは仕方ないだろう。
「わたしも妖精の端くれだし、このくらいなら! こういう感覚はコツがいるからね!」
ちょっと得意げなトンボの台詞の通り、森はすぐに抜けられた。
たどり着いた場所は、聞いていた通りの大きな湖。
長閑な湖畔は美しく、陽の光を反射して輝く水面の上を水鳥が飛んでいるのが見えたが、それだけ。
「本当にここなの?」
セーラー戦士も疑問の声を上げる。
「そう聞いたけど……カワズさん、なにかわかる?」
違和感を覚えた俺は、いちおう専門家のカワズさんに振ってみる。カワズさんは考え込みながら周囲をしきりに観察しているようだった。
「ふむ、場所はここで間違いないと思う。ここはスポットのようだしのぅ」
「あー、なるほど。それならなにかあるだろうな」
重要拠点のスポットになにもないとは考えにくい。ちなみにスポットというのは、流れている魔力が自然に集まる不思議な場所の事だ。
そこには魔法的に様々な恩恵がある。
「タロー、湖を調べてみるか? 魔力に余裕がある時は、解析魔法をなるべく使うようにしておいて損はないぞ」
「あー。それじゃあやってみるわ」
ここまで条件がそろっているなら、なにか隠してあると思うのが自然だろう。
すぐに解析の魔法で湖を調べてみると、やはり湖にはおかしな揺らぎがはっきりと存在していた。
「……やっぱおかしいぞ、これ?」
「なにかあったか?」
「湖に妙な魔法がかけられているみたい。この感じは、妖精郷に近いかな? でも、もっと巧妙に隠されてる」
解析の魔法を使わなければ見破れないとなると、相当に高度な代物である事は間違いない。
「なるほど。それで、どうやったら入れそうかの?」
「入るのは簡単っぽいね。ただあると信じて飛び込めばいいみたいよ?」
「そうか。ではいくか」
カワズさんはあっさり頷くと、なんの躊躇いもなく湖に飛び込む。
「ちょっと! どういう事なのよ! 説明してよ!」
セーラー戦士は慌てているが、トンボが大丈夫だからと促した。
「あの中にエルフの里があるんだって。タロとカワズさんがそうだって言うならだいたいあってるから。ホラ、いこう!」
「……もう!」
セーラー戦士も観念したみたいだ。
みんなを見送った後、俺も湖に飛び込む。
膜を抜けるような軽い感触の後、世界は反転した。
結界を抜けると、そこは明らかに別の場所だった。服すら濡れていない。湖を通ったはずなのに。
「うわ……すげぇ」
俺は頭上を見上げ、思わずため息を漏らした。
「湖の中ってこういう事なんだねー。うわー手が込んでるー」
「なるほど。湖の細工に気付かねば抜けられぬ結界か。あの迷いの結界もダミーかの? まさかあの程度の結界では、ここがエルフの里とは思うまい」
「……驚きすぎてる私がおかしいのかな?」
湖は奇妙な森に繋がっていて、今まで通ってきた森とはまったく雰囲気が違っていた。
真っ白な、杉のようにまっすぐ伸びる樹木が生い茂っている。
そのどれもが巨大で背が高く、森全体が薄暗い。
みんなが抱いていたであろう違和感を口にしたのはセーラー戦士だ。
「……静かだ」
「静かすぎだね。生き物の声が全然聞こえないよ」
耳を澄ましながらトンボも不気味そうに呟く。彼女達の言う通りである。
虫の声一つ聞こえない、静寂。
気味は悪いが、ぶっちゃけ割とどうでもいい。
……もっと、重要な事があるだろう。
俺は未知の大地を踏みしめる。高鳴る鼓動を抑えきれない。
「なぁ、ここがエルフの里なんだよな? 耳の長いエルフがいるんだよな?」
「そうじゃよ? お前、わくわくしすぎじゃ」
カワズさんは俺の顔を見て、面倒臭そうに言う。
「そうだよ、エルフなんてそんないいものじゃないよ?」
トンボがなんとも悲しい事を言ってくるので、俺は彼女の頭を憐れみをこめて撫でてやった。
「まったく、疲れるよ……ロマンを解せない輩には」
「うわ……ものすごく腹立つんだけど」
トンボが顔をしかめる。
「あのバカのテンションの上がりよう、なにが原因かわかるかの? タローと同じ向こうの人間として」
俺のおかしな様子の原因を、同じ異世界人であるセーラー戦士に求めるカワズさん。
セーラー戦士は少し考えた後、こう言った。
「えっと、よくわからないけど。たぶん、向こうでエルフって言ったらすごく美人なイメージがあるから……かな?」
カワズさんの拗ねた顔を見て満足した俺とは反対に、真剣な顔をしているセーラー戦士。
「つまり、向こうへ戻るための魔法は……今の魔法使いの手に負えないようなとんでもない魔法だって事なのかな? でも、魔法陣さえ見つけられれば改良の余地があるかもしれないんだね。確認するけど、君達はその技術を持っているんだよね?」
セーラー戦士はさっそく送還の魔法について仮説を立てている。
「俺はまだまだだけどカワズさんなら。でも、手に入れる方法がわからないし、そもそも過去にその魔法が存在したかもわからない。ちなみに俺はもう半分くらい諦めてるけど」
「……でも、ないとも言い切れない。そうだよね? それに召喚の魔法だってあるんだから、送還の魔法だってあると考える方が自然だよ」
「まぁそうじゃな。もし、どうしても探したいと言うのなら止めはせんよ。古文書や歴史資料を紐解くのもよいじゃろう。アルヘイムを巡ればどこかの種族が魔法を持っておるかもしれん。高名な魔法使いを訪ねれば、魔法が研究されておるかもしれん。ただし、必ずそれで送還の魔法にたどり着けるとは保証できん。それだけは肝に銘じておくがよかろう」
カワズさんは絶望的な台詞で締めくくる。
だが俺達の話に希望を見出したのか、セーラー戦士は落ち込むどころかやる気に満ちた表情になった。ここでなにか言っても水を差す事にしかならなそうである。帰る方法を探したいと願う彼女を、もはや止められるとも思えなかった。
俺は特大のため息をつくと、重い腰を上げる。
「まぁ魔法の話はこんなもんでいいか。カワズさん、これから女王様のところにセーラー戦士を連れていってくるわ。紹介しておいた方がなにかと都合がいいでしょ」
「ふぅむ……それならいきなり攻撃されんように、最初はお前だけで話してみるとよかろう」
「わかった」
「ちょ、ちょっと待ってくれないかな? 女王様って誰?」
事情を知っている俺達はお気楽に話していられるが、よくわからないところに連れて行かれそうな張本人からしたら、不安になるのも当然だろう。
「まぁ、君がこれからどうするのかは好きなようにすればいいけど、どっちにしてもここには自由に出入り出来る方がいいだろ?」
「太郎さん、それって……」
「俺だって、帰る方法にまったく興味がないわけじゃないからさ」
嬉しそうなセーラー戦士に俺はちょっとだけ照れつつ、女王様について説明する。
「女王様っていうのは、この妖精郷で一番偉い人。俺達は警備を手伝う代わりに住まわせてもらっているんだよ」
「まさか、外の結界を張っているのも女王様……?」
「その通り。そのへんは俺達も一枚噛んでいるけど、なにかまずいかな?」
セーラー戦士の顔色が優れないので聞いてみると、彼女は気まずげに引きつった笑いを浮かべた。
「いやぁ……昨日身をもって、その結界の容赦の無さを知っちゃったばっかりだから……。大丈夫かな?」
あー。そういえば結界にやられて森で捕獲されたんだよな。
そして俺が思い浮かべたのは、初対面で完全武装の兵士を引き連れてきた女王様の姿。
「……大丈夫じゃない? 堅いようで結構軽いノリの人だし。カワズさんだって、初対面の時に謎のビームを何十発か叩き込まれただけだったよ?」
「それ全然平気じゃない!」
……まぁ確かに。
いや、うん……でもたぶん大丈夫だと思うんだ。
◇◆◇◆◇
そう思ったんだけど。
「却下」
「えー」
軽い気持ちでお願いしてみたら、駄目でした。
あまりにも気軽にお願いした俺に女王様も呆れ気味のようである。
「言っておくがお前は特例だ。そうたやすく特例を作れるわけもあるまい?」
「……いいじゃんケチ」
「ケチじゃない! だいたい同郷とはいえ他人であろう? お前が妾に貸しを作ってまでするような事でもあるまいに?」
「あー。そりゃそうなんですが。……うん、確かにそれはないわ」
「……いきなり裏切らないでよ?」
危うく納得しかけた俺の肩を、即席のローブで顔を隠してついてきていたセーラー戦士が慌てて掴んできた。
「だ、大丈夫だって。安心しなさい、セーラー戦士」
「だから、せめてこういう場ではセーラー戦士はやめて……」
ガクリと肩を落とした拍子に、ローブがずれる。
すると金髪の髪がこぼれて、彼女の素顔が露わになってしまった。
「あら美形」
「!」
俺が声に反応してすばやく視線を向けると、女王様は猛烈な真顔。
「……なにか言いました? 女王様?」
「いやなにも? ふむ、だが……一考する価値はありそうだな」
「……急に意見が変わってません?」
「だまらっしゃい……だが悪いな人間よ。妾もなんの理由もなくそなたをここに置くわけにはいかん。他種族は妖精郷に入れないのが原則でな」
そこは女王らしくきっぱりと断言する。
どうしたものかと思っていると、女王様の言葉を聞いたセーラー戦士が、凛とした表情で女王様の前に進み出る。なにかするつもりのようだ。
「女王様、お初にお目にかかります。私、天宮マガリと申します。突然の申し出、話を聞いていただけただけでも光栄です。簡単には住まわせていただけないというのはわかっているつもりですが、私にはすでに帰る国もありません。よろしければ、出入りの許可だけでもいただけないでしょうか?」
片膝をつき、優雅に一礼した後、毅然と言ってのけたセーラー戦士に、俺は驚く。
その洗練された動作は、淑女というよりもむしろ騎士を思わせた。
なんというか、騎士オーラが止まるところを知らないといった感じだ。今にも手を取ってキスでもしそうなセーラー戦士に、女王様もやられてしまったようだ。彼女の頬がほんのり赤く染まり、うっとりした表情になっている。
「……タローと交換したいな」
「それ、言っちゃいますか」
「……冗談だ。しかし、条件次第では住む事を許さんでもない」
「本当ですか!」
喜ぶセーラー戦士。正気を取り戻したように見えた女王様だったが、しかしうっすら笑みを浮かべ、こう口にしたのである。
「写真を撮らせなさい」
残念だが……まだ正気ではないのかもしれない。
「……はい?」
聞き違いだと思ったのだろう。セーラー戦士が聞き返す。
「だから写真だ……写真でよかったよな?」
「その通りです、女王様」
尋ねられたので俺も頷く。
しかしその時、女王様の目論みを察した俺は、ハッと息を呑む。
いや! この人、正気だ!
むしろ打算的なお願いをしようとしている!
止めようと思った時にはすでに遅く、女王様はお願いを口にしていた。
「うむ。実は妾のブログが今密かに人気でな。とはいっても他に五つくらいしかないのだが――」
ちなみに彼女にブログを勧めたのは俺。
そして女王様が言っている人気とは、俺が作ったブログのランキング機能の事である。
ブログの記事に、読み手が匿名でポイントを入れて人気を競うのだ。
何気にこれが異世界ブロガー達の間で密かなブームになっていた。
あまりにも現代的な話題を、妖精の女王様が普通に話しているせいで、セーラー戦士も呆けてしまっている。
「はぁ……」
わけがわからない風のセーラー戦士に、女王様は微笑みを浮かべ、畳み掛けた。
「竜の小僧がパソコンの配布をがんばっておるらしく、最近、新規の閲覧者が一気に増えたようなのでな。ここらで一つ、美少女の写真でも上げれば、妾のトップは不動のものだと思うのだが、どうか?」
混乱しているかわいそうなセーラー戦士は、どう答えたものかさっぱりわからず、とりあえず頷く事にしたようだった。
「えっと……写真くらいなら――」
「そうか! ではちょっと待っておれ! すぐに水晶を取ってくる!」
返事を最後まで聞かずに、いそいそと撮影用の水晶を取りに行く女王様。彼女の後ろ姿を見送った俺は敗北感に打ちひしがれる。
ぬかった!
確かに、セーラー戦士の画像をアップすればあの竜どもは釣れる! 美しさとかっこよさを兼ね備えた彼女を利用すれば竜の雌すら……いや妖精連中みんな爆釣りじゃないか!
なんという事だ。これでは俺の「八百万旅日記」がまた廃れてしまう! ただでさえランキング最底辺をうろうろしているというのに……。
「……君の仕業だね、太郎さん?」
女王様が去った瞬間、セーラー戦士の冷ややかな声が聞こえたが、今はそれどころではない。
「くそ! その手があったか! 確かに目の付けどころがいい!」
「……君達はいったいなにがしたいのさ?」
写真撮影会は滞りなく行われました。
「はい『チーズ』。ふぅ、よろしい。では、出入りを許可しよう。しかし、泊る場所はこやつの小屋にせよ。妖精郷に無用の争いを持ち込まぬよう頼むぞ?」
「……心得ました、女王様」
どこか疲れたようなセーラー戦士。ご苦労様です。
「うむ、ところでタローよ。この件は一つ貸しと思ってよいか?」
……ははん、なにかまた厄介な頼み事をするつもりだな?
だが今回の件で、俺に貸しが出来たというのは納得がいかない。
「……写真撮ってたじゃないですか。あれじゃダメなんっすか?」
ややふてくされてそう言うと、女王様は当たり前だと勝ち誇った表情で鼻を鳴らした。
「あれは出入りの分だろう? 泊る分はまた別だ。当然ではないか?」
「……せこいですよ?」
「そんな事はない。話を戻そう。今度もまた使者が来たのだ、お前に会いたいとな。さっそく会いに行って来てはくれないだろうか?」
「前振りからして厄介そうだから嫌です」
「そう言うな……まぁ確かに厄介なところだがな、エルフの里は」
目的地を聞いた俺はすぐさま態度を改め、がっちりと女王様の手を握り、力強く叫んだ。
「謹んで行かせていただきます!」
「……なぜ急に元気になった? まぁよい、やる気があるのは良い事だ。ついでにお前のパソコンを置いてくるのもいいだろう。置かせてくれるかはわからんが……」
あいつらは気難しいからなぁと女王様が最後に呟いていたが、そんな事は関係ない!
エルフと言えば、ファンタジーの定番!
しかも美人の代名詞と言っても過言ではない花形種族!
ここで張り切らないでどこで張り切るってんだ!
ところが、思ってもみなかった事態が起きた。
俺達の方をじっと見ていたセーラー戦士が、話に割って入ってきたのである。
「あ、あの。そのエルフの里に、私もついて行ってかまわないでしょうか?」
どういうわけか、セーラー戦士は自分から志願したのだった。
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エルフの里は妖精郷よりもさらに森の奥深く、幻と言われる湖の中にあるらしい。
妖精の中でも厳格な掟を定め、純血を重んじる高貴なエルフの一族。
滅多な事では他種族との交流もしないが故に、その姿を見る事も難しく、見たものには幸福が訪れるとかなんとか。
「湖の中って浮き島なのかな? なんかそれって安定感なさそうだよな」
「いやいや、それはそれで興味深いじゃろ。わしはそれよりも、エルフの作る工芸品の方に興味があるのぅ!」
「エルフってすごく手先が器用だっていうよね! 作る物も不思議な効果があるんだって! 友達にお土産も頼まれたし、沢山買えるといいよねー」
ハイテンションなトンボは、着く前からお土産の話をしている。
「写真も撮りたいのぅ。タロー? ちゃんと魔力の補充はしてきたかの?」
「してきた、してきた。カワズさんの分の水晶もばっちりだって」
面倒臭そうに答えた俺に、カワズさんはニヤニヤしながら続けた。
「そうかそうか、お前さんは抜けておるからのぅ。ゲロゲロ!」
「一言多いぞ? そういえばクッキー作って来たけど食べる?」
「食べる食べるー!」
「……完全に観光気分だ」
歩きながら談笑し浮かれている俺達を横目で見つつ、セーラー戦士はぼやく。彼女はエルフの里に近づくにつれて、警戒を強めているようだった。
見知らぬ場所で気が抜けないのはわかるが、今回は招待なのだ。あんまりトゲトゲしてもらっても困るんだよなぁ。
「ちょっと物々しすぎない?」
声をかけてみたが、俺とセーラー戦士ではやはり認識に大きな違いがあるらしく、彼女は口を尖らせて、信じられないという風に言った。
「アルヘイムを歩き回るのに、装備の一つもしていない方がおかしいってば! ただでさえ魔獣がうろついているような場所なんだから!」
まぁ確かに言われてみればその通り。
「……音を立てたら野生の動物は寄ってこないらしいよ? 昔、テレビでやってた」
せっかくなので俺が豆知識を披露すると、なぜかセーラー戦士の疲れ顔がひどくなった。
「いや、地球の動物と同じに考えるのもどうかと思うけど」
「……俺からしたら向こうの動物の方が全然怖いけどなぁ」
なにせ対抗手段がないわけだし。それに比べてこっちの魔獣は俺が近寄っただけで逃げていくもんなぁ……なんか、それはそれでちょっとへこむけど。
それはともかく、警戒しているセーラー戦士を見ていて、俺も思うところがあるわけだ。
「でも、なんだってついて来るなんて言い出したの?」
不思議に思ってセーラー戦士に尋ねてみると、彼女は照れたように俺に言った。
「一宿一飯の恩返しって感じかな? なにかお礼が出来ないかなって。それに……君達をもっと知るのが、帰るための一番の近道じゃないかとも思ったんだ」
後半の方は少しだけ声を落として言うセーラー戦士。その目が一瞬だけ険しくなる。
この感じだと、エルフの里から帰ったら、おそらく彼女は送還の魔法陣探しの旅に出るだろう。
そういう事なら、もう少し備えがあってもいいだろう。
「なるほど。……じゃあこのお守りをあげよう、あんまり無理しないように」
俺は持って来ていたペンダントをセーラー戦士に渡す。セーラー戦士は驚いたようだが、それを素直に受け取り、礼を言った。
「ありがとう。わかってるよ。君達を見ていたら、確かに私だけ気負いすぎな気もするし」
そう言って笑うセーラー戦士はなんとも複雑な表情をしている。気を緩めているわけでもなく、警戒しているのとも少し違う。一番近いのは戸惑い、だろうか?
こちらに無理にあわせるより、慣れるまでは自分で安心出来るようにした方がいいだろう。
なにかあればフォローすればいいだけの話だし、俺もそれ以上言うのは止めておいた。
まぁ気楽な旅だから、すぐに慣れると思うけどね。
今回指定された場所は、思っていたよりも簡素な魔法の結界に囲まれていた。
エルフはかなり上位の妖精だという話を聞いていたのに、最初に妖精郷を訪ねた時よりも抵抗が弱い。
そのあたりはカワズさんも感じていたようで、首をひねっている。
「ふむ……妖精郷と同じ迷いの結界じゃな。森の中で方向感覚を狂わせる類のもんじゃ。だが、これが本当にエルフの結界かの?」
「もうすぐ森を抜けるし、そしたらわかるでしょ?」
トンボは相変わらずお気楽だ。
「えっと……迷いの結界がかかっているのに、どうしてもうすぐってわかっちゃうのかな?」
俺達の会話についてこられないセーラー戦士。だが、これは仕方ないだろう。
「わたしも妖精の端くれだし、このくらいなら! こういう感覚はコツがいるからね!」
ちょっと得意げなトンボの台詞の通り、森はすぐに抜けられた。
たどり着いた場所は、聞いていた通りの大きな湖。
長閑な湖畔は美しく、陽の光を反射して輝く水面の上を水鳥が飛んでいるのが見えたが、それだけ。
「本当にここなの?」
セーラー戦士も疑問の声を上げる。
「そう聞いたけど……カワズさん、なにかわかる?」
違和感を覚えた俺は、いちおう専門家のカワズさんに振ってみる。カワズさんは考え込みながら周囲をしきりに観察しているようだった。
「ふむ、場所はここで間違いないと思う。ここはスポットのようだしのぅ」
「あー、なるほど。それならなにかあるだろうな」
重要拠点のスポットになにもないとは考えにくい。ちなみにスポットというのは、流れている魔力が自然に集まる不思議な場所の事だ。
そこには魔法的に様々な恩恵がある。
「タロー、湖を調べてみるか? 魔力に余裕がある時は、解析魔法をなるべく使うようにしておいて損はないぞ」
「あー。それじゃあやってみるわ」
ここまで条件がそろっているなら、なにか隠してあると思うのが自然だろう。
すぐに解析の魔法で湖を調べてみると、やはり湖にはおかしな揺らぎがはっきりと存在していた。
「……やっぱおかしいぞ、これ?」
「なにかあったか?」
「湖に妙な魔法がかけられているみたい。この感じは、妖精郷に近いかな? でも、もっと巧妙に隠されてる」
解析の魔法を使わなければ見破れないとなると、相当に高度な代物である事は間違いない。
「なるほど。それで、どうやったら入れそうかの?」
「入るのは簡単っぽいね。ただあると信じて飛び込めばいいみたいよ?」
「そうか。ではいくか」
カワズさんはあっさり頷くと、なんの躊躇いもなく湖に飛び込む。
「ちょっと! どういう事なのよ! 説明してよ!」
セーラー戦士は慌てているが、トンボが大丈夫だからと促した。
「あの中にエルフの里があるんだって。タロとカワズさんがそうだって言うならだいたいあってるから。ホラ、いこう!」
「……もう!」
セーラー戦士も観念したみたいだ。
みんなを見送った後、俺も湖に飛び込む。
膜を抜けるような軽い感触の後、世界は反転した。
結界を抜けると、そこは明らかに別の場所だった。服すら濡れていない。湖を通ったはずなのに。
「うわ……すげぇ」
俺は頭上を見上げ、思わずため息を漏らした。
「湖の中ってこういう事なんだねー。うわー手が込んでるー」
「なるほど。湖の細工に気付かねば抜けられぬ結界か。あの迷いの結界もダミーかの? まさかあの程度の結界では、ここがエルフの里とは思うまい」
「……驚きすぎてる私がおかしいのかな?」
湖は奇妙な森に繋がっていて、今まで通ってきた森とはまったく雰囲気が違っていた。
真っ白な、杉のようにまっすぐ伸びる樹木が生い茂っている。
そのどれもが巨大で背が高く、森全体が薄暗い。
みんなが抱いていたであろう違和感を口にしたのはセーラー戦士だ。
「……静かだ」
「静かすぎだね。生き物の声が全然聞こえないよ」
耳を澄ましながらトンボも不気味そうに呟く。彼女達の言う通りである。
虫の声一つ聞こえない、静寂。
気味は悪いが、ぶっちゃけ割とどうでもいい。
……もっと、重要な事があるだろう。
俺は未知の大地を踏みしめる。高鳴る鼓動を抑えきれない。
「なぁ、ここがエルフの里なんだよな? 耳の長いエルフがいるんだよな?」
「そうじゃよ? お前、わくわくしすぎじゃ」
カワズさんは俺の顔を見て、面倒臭そうに言う。
「そうだよ、エルフなんてそんないいものじゃないよ?」
トンボがなんとも悲しい事を言ってくるので、俺は彼女の頭を憐れみをこめて撫でてやった。
「まったく、疲れるよ……ロマンを解せない輩には」
「うわ……ものすごく腹立つんだけど」
トンボが顔をしかめる。
「あのバカのテンションの上がりよう、なにが原因かわかるかの? タローと同じ向こうの人間として」
俺のおかしな様子の原因を、同じ異世界人であるセーラー戦士に求めるカワズさん。
セーラー戦士は少し考えた後、こう言った。
「えっと、よくわからないけど。たぶん、向こうでエルフって言ったらすごく美人なイメージがあるから……かな?」
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