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4巻
4-2
「……もういいのか?」
「あっ! なんかすんません! 待たせてしまって!」
待ちぼうけを食らわされていた鎧さんは、ようやく出番が巡ってきたのがうれしいのか、少し喜んでいるようだった。申し訳ない。
ここまで律儀に待っていてくれるとは、さすが四天王なだけはある。ボス戦はこちらから話しかけるまで始まらない。お約束だが実行するのは難しかろう。
「よくわからんが……魔王様に会いたいというのなら、まずは我ら四天王を倒してみせろ!」
彼はそう叫び、巨大な鉄球を威勢よくブンブンと振り回す。
だが、鉄球を振り回したからといって何だというのか。トンボに渡した切り札に比べればそんなもの、ただの大きなゴムボール程度にすぎないだろう。
「ふっ……ではそうさせてもらいましょうか。これがトンボさんの本気だと思われては困る! 彼女の変身を見てもまだそんな事を言っていられますかね!」
「何!? 変身って!」
本人が一番驚いているけど、あまり時間もないので鉄球が飛んでくる前にすんなり納得してほしい。
「今こそ叫べ! 『変身』と!」
「あーもう! なんなのこの展開!」
泣こうが喚こうが、目の前の鎧さん相手に生き延びる方法はただ一つ。追い詰められたトンボは、言われた通りに叫ぶしかないわけだ。
「こうなったらやってやろうじゃん!」
手に握りしめた宝石を掲げ、力強くトンボは叫んだ。
「変身!」
途端、宝石から発せられた虹色の光がトンボを包み込んだ。部屋中がその光で照らされていく。
「な! なんだこれは!」
鎧さんもあまりの眩さに、鉄球を振り回す手を止めざるを得ない。
いつの間にか立ち昇ったまばゆい光の柱の中で、トンボがゆっくりと回転しながら『変身』していく。
下からせり上がってきた虹色の光の円盤がトンボの体を通過すると、彼女の着ている服が変形した。
フリフリの服に大きな宝石のブレスレット、最後に胸の中心に輝くブローチ。きゃるん! ポヨン! とよくわからないがかわいい効果音に合わせ、光の中を舞うトンボ。全自動で着替えが進み、振り付けも完璧であった。
最後にしっかり決めポーズをつけて変身を遂げたトンボ。その姿は……かわいさを追求したミニスカートのゴスロリだったのだ。
「見たか! これが俺達の秘密兵器! マジカル☆トンボちゃんセットだ!」
「馬鹿じゃ……馬鹿がおる」
カワズさんはアイタタタと額を押さえる。
カワズさんにはトンボにある道具を渡して主役になってもらうという事以外は伏せておいたので、このリアクションも仕方がない。しかし、その片手にはしっかりと動画が撮れる魔法が付与された水晶が握られていた。これは事前に渡しておいたものだ。
「な、なな何これ! 全然強そうじゃない!」
変身を終えたトンボはさっそく不安そうに叫ぶが、そいつは早合点だぜ? マジカル☆トンボちゃん?
確かに戦闘服として見れば、機能性など皆無なデザインなのは間違いない。むしろかわいい系である。間違いなく見た目の事しか考えていないだろう。……俺だって完全にコスプレだと思っている。しかしそいつは、俺達の最高傑作なのだぜ?
とりあえず俺も一枚写真に収めておこうと思い、カメラ機能の魔法が付与された水晶を取り出す。
「うーん……しかし改めて見ると、やっぱ趣味に走ったなぁクイーン、って感じだよね」
クイーンとは、俺とカワズさん、そしてトンボが住んでいる妖精郷を治めている女王様である。『クイーン』は、彼女のハンドルネームだ。そう、マジカル☆トンボちゃんの衣装は女王様が考案したのだ。
絶望に顔を青ざめたトンボに対して、勝ち誇ったように鎧さんが笑う。
「ふはははは! 何事かと思えば単なる着替えか! ならば綺麗な衣装であの世にいけぃ!」
完全に勢いづいた鎧さんが、改めて鉄球を持ち上げる。
無理もない。あれだけ派手な演出をしておいて、出てきたのがコスプレした妖精じゃ、笑いの一つも出るだろう。まともに相手をしてくれるだけ鎧さんは立派だと思う。四天王の鑑である。
鉄球が再び加速し、唸りを上げる。そしてまっすぐトンボに向かってきた。
「ひぃ!」
トンボは怯えた声を出し、頭を押さえて小さくなる。
だがガツンと鈍い音がした後、トンボが恐る恐る顔を上げると……。
「なんだとぉ!」
驚愕していたのは鎧さんの方だった。
当然の結果を目にして、俺の口角が上がる。トンボの周囲には砕け散った鉄球の破片がぱらぱらと落ちていた。
「な、なになに?」
自分の体を触りながら無事を確かめているトンボに、俺は製作者サイドの義務としてその装備について解説する。
「安心していいぞトンボ! その服はマジカル☆トンボバリアーによって守られている! 効果は『たいていの攻撃は効かない』だ! そのままの意味でたいていの攻撃は効かない! ついでだからその勢いでパンチだ! トンボちゃん!」
「お、おうよ!」
「ちぃ! 何がおこった! 妖精ごときが図に乗りおって!」
言われるがまま、ぎゅっと眼を瞑って右手を突き出し、鎧さんへと飛び込むトンボ。鎧さんは彼女を叩き落とそうとするが、その判断は間違いだ。
「とうりゃ!」
必死な掛け声と共に、トンボのパンチが鎧さんにヒットする。所詮は妖精のパンチ、本当なら痛くもかゆくもないだろう。
「……ぶるおあああああ!!」
「ふへ?」
ところがトンボのパンチが触れた瞬間、激しい衝突音と共にダンプカーにはねられたみたいに錐もみして宙に舞ったのは鎧さんだ。彼の豪快な吹き飛びっぷりは――もう事故である。
数秒して、ガチャンと落っこちてきた鎧さんはベコベコに変形していた。
しまった、思ったよりも威力があったな……なんて事は思っていない。
「まぁこのように……物理攻撃力も多少備えている」
「……多少?」
トンボの疑問に満ちた声が聞こえたけどあくまで多少だ。BUTURIは魔法少女の本分ではないと思うので、そこは譲れない。
「えっと、ちなみにたいていの攻撃は効かないって言ってたけど、どんなのなら防げないとかあるの?」
「……さぁ? 竜を十体くらい連れてきて、全員同時にブレスを本気で打ち込んでもらえば日焼けくらいはするんじゃない?」
「……ありえねー」
呆れ果てているトンボだが、実は俺のたとえはちょっと控えめな表現である。
まあ、これで宝石の力は確認できたわけだし、少しはトンボもやる気を出すだろうと満足している俺に、今度はカワズさんがぼそりと耳打ちしてきた。
「……しかし、あれは本当に女王が考えたものなのかの? あの恰好はちょっと……特殊すぎると思うんじゃが」
「俺だったら納得出来るって言いたいのかカワズさん……? だけど、それは察してあげてくれ。女王様、最近は長老のブログにランキングで負けているから、結構必死に新ジャンルを開拓してるんだよ。ほら、あの「世界の名酒達」に人間サイドやらドワーフさんやらの男性票が流れてさ。こないだなんて女王様お付きのハイピクシーの方々から、ブログを何とか盛り上げて欲しいって泣きが入ったからね。だから今日だってこうしてブログ用の撮影を頼まれちゃって」
魔法少女の概念とか変身ヒロインの素晴らしさを熱く語り合ったりした事は否定しませんけど。でも今回ばかりは俺一人の望みを叶えるためにどうこうというわけじゃないです。
すでに数枚の写真を収めている水晶をカワズさんに見せる。撮り逃すと女王様から何を言われるかわからないからね。あの人はパソコンにはまりすぎだと思う。
「……なんたる裏事情」
カワズさんが戦慄する。言っておきますが、アンタに撮ってもらってる動画だってそれ関係だからね? まぁどこで使うかは考え中だけど、マジカル☆トンボちゃんの勇姿は近いうちにパソコンをお持ちのお茶の間に届ける予定。そうでもしないと今回の旅に協力してくれた方々が納得してくれないのだ。誰しも、自分の関わったものが活躍する姿は見たいだろう。
「トンボちゃん、はいチーズ!」
「なんかわからないけどブイ!」
ピースするトンボに水晶を向け、笑顔で写真を一枚。
うん。これもクイーンさんこと女王様のブログのいい素材になるんじゃないかな。
俺の旅日記? ……あんなのただの日記ですよ。
◇◆◇◆◇
鎧さんの背後にあった階段を上っていくと、次の階でもやはり誰かが待ち構えていた。
基本に忠実な安心設計の魔王城。素晴らしい。
待ち受けていたのは、大柄だが見紛う事なき美女だった。
だがそれは上半身だけの話、彼女の下半身は大蛇のそれである。ややケバ目の印象があるのは、メイクのせいだと思いたい。
「……お前達、四天王の一角を落とすとはやるわね! だけどあいつは四天王最弱! 四天王が一人! 氷結の***様が極寒の死へ誘ってあげるわ!」
聞くまでもなく自己紹介をしてくれた彼女は、うねうねと体をくねらせて蛇アピールまでしてくれた。
「蛇だねぇ」
見たままをそのまま口にした俺に、カワズさんが補足する。
「ラミアかのぅ。かなり強力じゃぞ?」
「かもね。だけど問題ない」
相手が何であろうと大丈夫だという確信が俺にはあった。
「……アレに相当自信があるんじゃな。お前さんにしては珍しいのぅ」
そんな自信満々な俺にカワズさんは違和感を覚えたようだが、マジカル☆トンボちゃんセットの製作過程を思い返せば当然である。
「そりゃあ。あれだけやればさすがに……」
「……何じゃろう? 今の言葉だけでわしの方が不安になって来たんじゃけど?」
それにしても鎧さん、最弱だったのか……いい人だったのに。
この蛇女さんも四天王の一人だと判明したので、サクサク先に進ませてもらうとしよう。
相手が女の子なら、装備2がおすすめである。
「そんじゃ次は、腰のあたりにステッキがあるからそれを取って」
「了解っす!」
四天王を一人なぎ倒した事で、マジカル☆トンボちゃんセットへの抵抗もなくなってきたらしいトンボは、言われた通りに腰のステッキを取り出し、シャキンとそれを伸ばした。先端にでっかいハートと天使の羽をあしらったステッキは、夜店で売っていそうなちゃちなデザインだが、よく見れば妖精達の手でこれでもかと装飾が施された珠玉の逸品なのだ。
「さて、準備が出来たら敵をよく見て叫ぶんだ! マジカル☆トンボビームと!」
「ぬぬぬ! この道具、やっぱり明らかにわたし専用だ! ちくしょう、さてはあいつら、最初からわたしを戦わせるつもりだったな! ええっと……それじゃあ食らえ! マジカル☆トンボビィィィム!!」
やけっぱち気味にトンボが叫ぶ。すると、彼女はステッキを大きく空中に掲げて一回転するモーションに入った。この動きは仕様です。
「くっ!」
蛇女さんは突然の攻撃に驚きながらも、両手でビームをガードした。
ステッキの先からズビビビビと効果音付きで飛び出したビームを受けても、蛇女さんは火傷一つ負っていない。
痛みもなかったのだろう。彼女自身もすぐにそれに気が付くと、高らかに笑った。
「何事かと思ったら見かけ倒しのようだね! そんなものでどうしようって言うんだい! かわいいおじょうちゃん! ……観念して氷づけにおにゃり! ホホホホ……ホ……ホ?」
だが蛇女さんの笑い声は尻すぼみになって消えていく。きっと今、彼女の視点はとても低いに違いない。
「にゃ、にゃによこれぇ!」
「……うふふのふ。かわいいのはどっちかしら? お嬢ちゃん?」
いつの間にかトンボにすら見下ろされている事に気が付いた彼女の姿は、まるでストラップに付いているマスコットキャラクターのようだ。
蛇女さんも自分の現状に気が付いたらしく、小さくなった体を見回しながらわなわな震え、激しく動揺している。
これぞ、マジカル☆トンボステッキに秘められた神秘の魔法なのだ。
「マジカル☆トンボビームは、相手をマスコット的な何かに変えてしまうのだー」
「どういうことよ! しょれ!」
小さくなった蛇女さんをこれ以上いじめるのもためらわれたので、ちょっとだけ優しく解説してみた。
ずいぶんとかわいくなってしまった蛇女さんが、つぶらな瞳と舌ったらずな声で叫びながらこっちに詰め寄ろうとしてすっ転ぶ。
……何これかわいい。
こんな状態ではどうあがこうが戦闘不能。実に平和的で、マジカルな決着と言えるだろう。
しかし、トンボはなぜかわなわなと震えながら吼える。
「うおおお! なんじゃこりゃ! これがわたしの隠された真の力だというのかしら!」
「いやいやステッキの力だから……。女の子が雄叫びなんて上げないの。そのステッキは妖精作でね、ボタンを押すと先が光って――」
「なんかやれる! わたし、やれそうな気がしてきた!」
「……聞いてねぇや」
……今は何を言っても無駄みたいだ。俺は諦めて嘆息する。カワズさんも、トンボを眺めて笑っていた。
「まぁ、無理もないがの」
明らかに格上の相手をあっさり下した事で、テンションが上がって来たらしい。
四天王というくらいだから後二人いるのか……。今更だが、トンボと闘う彼らがちょっと気の毒になってきた。
◇◆◇◆◇
続いて三階。
「たのもー!!」
テンション高めのトンボが、階段を上った先にあった大きな扉をぶち破って叫ぶ。天井が高いその部屋には、鷲の頭を持つ、人型のグリフォンみたいな魔族が待ち構えていた。
大きな翼と、ライオンのような体を持つそいつは体格もよく、なかなか強そうだ。そして先の二人同様、やる気と自信に満ち溢れている。
「まさか四天王の内、二人もやられるとは思わなかったぜ! だがそれもここまでだ! この疾風の****様が、てめぇらを全員切り刻んでやるぜ!」
ひゃっはっは! と下品に笑う鷲頭さんはそう言って鋭利な爪をむき出しにする。戦闘準備は万全だ。
だが準備万端なのは、ここにいるトンボも同じである。
鷲頭さんの自己紹介など全然聞いていなかった様子のトンボは、ぐっと拳を握り鼻息を荒くしていた。
「タロ! 他になんか武器はないの!」
さっそくやる気十分でそう聞いてくるトンボは、明らかにわくわくしている。そんなに使いたいと言うのなら他にもギミックはたくさんあるけど。
「……手を三回叩いてくるっと回ってから、両足の踵を一回打ち合わせてみて。そしてその動きを繰り返してみてよ」
「まかせなさい!」
今回は自ら無駄に華麗なステップでくるくる踊るトンボ。一連の流れを繰り返すたびに、かつんと音が響く。
音に合わせてブレスレットの宝石から、ぽこぽこと丸い何かが一つ、また一つと飛び出し、トンボの周囲で浮遊する。
ブレスレットの宝石よりも明らかにでかいそれは、真っ黒な球体。中心に髑髏マークが描かれていて、見るからに怪しい様相である。
その球体の中心には出っ張りがあり、そこから伸びているのはどう見ても導火線。いわゆる爆弾だ。
「おいお前! なんだ! そのいかにも危なそうな物体は!」
どうやら鷲頭さんはツッコミ属性の人らしい。トンボが生み出した禍々しい球体を見て、さっそく問いかけてくる。人間離れした姿だけど、感性は割と普通のようだ。
四天王から初めてはっきりと質問を受けたので、ちゃんと答えてあげよう。
「マジカル☆トンボボムだけど?」
「だから何なんだよそれは!」
何なんだと言われても、マジカル☆トンボボムはマジカル☆トンボボムであってそれ以外の何物でもない。
トンボは毒々しいデザインの球体をいたく気に入ったようで、目をキラキラさせていた。
「なんかいけそうなんじゃない? これはやれそうなんじゃない!?」
そんなトンボに鷲頭さんはすかさずツッコんでいた。
「いや! お前も疑問を持て! それはいったい何なんだ!」
トンボが首をかしげてかわいく告げる。
「だから……マジカル☆トンボボムでしょ?」
「こいつも適当だ!」
じりじりと鷲頭さんににじり寄るトンボと、彼女に不吉なものを感じたのか、後ずさる鷲頭さん。
気の毒だが、なかなか危機回避能力に優れている鷲頭さんには早々に退場願うとしよう。
「敵を指差して、いけ! と元気に叫ぶ。すると――」
「いっけー! マジカル☆トンボボム!!」
俺の言葉など待たずに、トンボが叫ぶ。ポイポイと放たれるトンボボムの群れは、放物線を描いて敵に飛んで行った。
「ふっ。甘いわぁ!!」
しかし鷲頭さんの動きもなかなか俊敏だった。
華麗に大きな翼を広げて力強く宙へと舞い上がり、爆弾をかわす。が、そんな程度じゃ逃げた内には入らない。
マジカル☆トンボボムが『マジカル』な所以はちゃんとある。
「は?」
鷲頭さんは回避したと思っていたのだろう。目の当たりにした光景が信じられなかったみたいで、その場で固まっていた。
トンボ☆ボムは鋭角に軌道を変えて、鷲頭さんに殺到したのだ。
チチチと導火線の燃える音が響く。ボムに取り囲まれた鷲頭さんの引きつった悲鳴は――。
「みぎゃあああ!」
そのまま爆音にかき消され、彼は宙で散ったのだった。
ドウッとアフロヘアーで目を回しながら落ちてくる鷲頭さん。そのやられ具合こそ、マジカル☆トンボボムの犠牲者となった何よりの証明である。
俺は途中だった解説を続けておいた。
「――とまぁ、こんな風にだいたい当たるね。アフロのまま一日くらいはまともに動けないと思うよ」
「……これはひどい」
俺の横では文句を言いつつも、ニヤニヤしたカワズさんがとても楽しそうに動画を撮っている。そして肝心のトンボは言わずもがな調子に乗っていた。
「なんと……ここまで無双した妖精が未だかつていただろうか? いや……いるはずがない!」
得意の絶頂らしいトンボはズレた自信をつけ始めているようだ。
そしていよいよ最後の一人である。
◇◆◇◆◇
「ふん……よくぞここまで来た。だがいい気になってもらっては困る。あの程度の奴らをいくら倒そうが問題ではない。四天王などと呼ばれてはいるが、すべては俺一人いれば事足りるのだからな……」
……その台詞は負けフラグじゃないか?
それは四階での対面だった。つい「負けフラグじゃ……」と言いそうになったが、本人はいい感じで演出できていると思っていそうなので水を差すのも野暮だろう。
最後に現れた男は、頭に二本の角を生やし、マントを羽織った長髪の美丈夫。
彼はマントを脱ぎ捨てると、すぐさまその姿を変化させた。
体が膨れ上がり、深い紫色の鱗に覆われていく。首は長く伸び、ずらりと並んだ牙が、大きな口の間から覗き見える。
黄金の瞳は鋭く……って言うか、ぶっちゃけその姿は竜だった。
「この烈火の*****様が、貴様らを焼き滅ぼしてくれよう!」
竜族がよく使う変身魔法も、慣れてくると割と落ち着いて見ていられる。むしろちょっと和んでしまいましたとも。俺の知り合いにスケさんという女好きのスケベな竜がいるのだが、ここにいる彼は、スケさんよりも小さく、迫力も劣っていた。
「あっ! なんかすんません! 待たせてしまって!」
待ちぼうけを食らわされていた鎧さんは、ようやく出番が巡ってきたのがうれしいのか、少し喜んでいるようだった。申し訳ない。
ここまで律儀に待っていてくれるとは、さすが四天王なだけはある。ボス戦はこちらから話しかけるまで始まらない。お約束だが実行するのは難しかろう。
「よくわからんが……魔王様に会いたいというのなら、まずは我ら四天王を倒してみせろ!」
彼はそう叫び、巨大な鉄球を威勢よくブンブンと振り回す。
だが、鉄球を振り回したからといって何だというのか。トンボに渡した切り札に比べればそんなもの、ただの大きなゴムボール程度にすぎないだろう。
「ふっ……ではそうさせてもらいましょうか。これがトンボさんの本気だと思われては困る! 彼女の変身を見てもまだそんな事を言っていられますかね!」
「何!? 変身って!」
本人が一番驚いているけど、あまり時間もないので鉄球が飛んでくる前にすんなり納得してほしい。
「今こそ叫べ! 『変身』と!」
「あーもう! なんなのこの展開!」
泣こうが喚こうが、目の前の鎧さん相手に生き延びる方法はただ一つ。追い詰められたトンボは、言われた通りに叫ぶしかないわけだ。
「こうなったらやってやろうじゃん!」
手に握りしめた宝石を掲げ、力強くトンボは叫んだ。
「変身!」
途端、宝石から発せられた虹色の光がトンボを包み込んだ。部屋中がその光で照らされていく。
「な! なんだこれは!」
鎧さんもあまりの眩さに、鉄球を振り回す手を止めざるを得ない。
いつの間にか立ち昇ったまばゆい光の柱の中で、トンボがゆっくりと回転しながら『変身』していく。
下からせり上がってきた虹色の光の円盤がトンボの体を通過すると、彼女の着ている服が変形した。
フリフリの服に大きな宝石のブレスレット、最後に胸の中心に輝くブローチ。きゃるん! ポヨン! とよくわからないがかわいい効果音に合わせ、光の中を舞うトンボ。全自動で着替えが進み、振り付けも完璧であった。
最後にしっかり決めポーズをつけて変身を遂げたトンボ。その姿は……かわいさを追求したミニスカートのゴスロリだったのだ。
「見たか! これが俺達の秘密兵器! マジカル☆トンボちゃんセットだ!」
「馬鹿じゃ……馬鹿がおる」
カワズさんはアイタタタと額を押さえる。
カワズさんにはトンボにある道具を渡して主役になってもらうという事以外は伏せておいたので、このリアクションも仕方がない。しかし、その片手にはしっかりと動画が撮れる魔法が付与された水晶が握られていた。これは事前に渡しておいたものだ。
「な、なな何これ! 全然強そうじゃない!」
変身を終えたトンボはさっそく不安そうに叫ぶが、そいつは早合点だぜ? マジカル☆トンボちゃん?
確かに戦闘服として見れば、機能性など皆無なデザインなのは間違いない。むしろかわいい系である。間違いなく見た目の事しか考えていないだろう。……俺だって完全にコスプレだと思っている。しかしそいつは、俺達の最高傑作なのだぜ?
とりあえず俺も一枚写真に収めておこうと思い、カメラ機能の魔法が付与された水晶を取り出す。
「うーん……しかし改めて見ると、やっぱ趣味に走ったなぁクイーン、って感じだよね」
クイーンとは、俺とカワズさん、そしてトンボが住んでいる妖精郷を治めている女王様である。『クイーン』は、彼女のハンドルネームだ。そう、マジカル☆トンボちゃんの衣装は女王様が考案したのだ。
絶望に顔を青ざめたトンボに対して、勝ち誇ったように鎧さんが笑う。
「ふはははは! 何事かと思えば単なる着替えか! ならば綺麗な衣装であの世にいけぃ!」
完全に勢いづいた鎧さんが、改めて鉄球を持ち上げる。
無理もない。あれだけ派手な演出をしておいて、出てきたのがコスプレした妖精じゃ、笑いの一つも出るだろう。まともに相手をしてくれるだけ鎧さんは立派だと思う。四天王の鑑である。
鉄球が再び加速し、唸りを上げる。そしてまっすぐトンボに向かってきた。
「ひぃ!」
トンボは怯えた声を出し、頭を押さえて小さくなる。
だがガツンと鈍い音がした後、トンボが恐る恐る顔を上げると……。
「なんだとぉ!」
驚愕していたのは鎧さんの方だった。
当然の結果を目にして、俺の口角が上がる。トンボの周囲には砕け散った鉄球の破片がぱらぱらと落ちていた。
「な、なになに?」
自分の体を触りながら無事を確かめているトンボに、俺は製作者サイドの義務としてその装備について解説する。
「安心していいぞトンボ! その服はマジカル☆トンボバリアーによって守られている! 効果は『たいていの攻撃は効かない』だ! そのままの意味でたいていの攻撃は効かない! ついでだからその勢いでパンチだ! トンボちゃん!」
「お、おうよ!」
「ちぃ! 何がおこった! 妖精ごときが図に乗りおって!」
言われるがまま、ぎゅっと眼を瞑って右手を突き出し、鎧さんへと飛び込むトンボ。鎧さんは彼女を叩き落とそうとするが、その判断は間違いだ。
「とうりゃ!」
必死な掛け声と共に、トンボのパンチが鎧さんにヒットする。所詮は妖精のパンチ、本当なら痛くもかゆくもないだろう。
「……ぶるおあああああ!!」
「ふへ?」
ところがトンボのパンチが触れた瞬間、激しい衝突音と共にダンプカーにはねられたみたいに錐もみして宙に舞ったのは鎧さんだ。彼の豪快な吹き飛びっぷりは――もう事故である。
数秒して、ガチャンと落っこちてきた鎧さんはベコベコに変形していた。
しまった、思ったよりも威力があったな……なんて事は思っていない。
「まぁこのように……物理攻撃力も多少備えている」
「……多少?」
トンボの疑問に満ちた声が聞こえたけどあくまで多少だ。BUTURIは魔法少女の本分ではないと思うので、そこは譲れない。
「えっと、ちなみにたいていの攻撃は効かないって言ってたけど、どんなのなら防げないとかあるの?」
「……さぁ? 竜を十体くらい連れてきて、全員同時にブレスを本気で打ち込んでもらえば日焼けくらいはするんじゃない?」
「……ありえねー」
呆れ果てているトンボだが、実は俺のたとえはちょっと控えめな表現である。
まあ、これで宝石の力は確認できたわけだし、少しはトンボもやる気を出すだろうと満足している俺に、今度はカワズさんがぼそりと耳打ちしてきた。
「……しかし、あれは本当に女王が考えたものなのかの? あの恰好はちょっと……特殊すぎると思うんじゃが」
「俺だったら納得出来るって言いたいのかカワズさん……? だけど、それは察してあげてくれ。女王様、最近は長老のブログにランキングで負けているから、結構必死に新ジャンルを開拓してるんだよ。ほら、あの「世界の名酒達」に人間サイドやらドワーフさんやらの男性票が流れてさ。こないだなんて女王様お付きのハイピクシーの方々から、ブログを何とか盛り上げて欲しいって泣きが入ったからね。だから今日だってこうしてブログ用の撮影を頼まれちゃって」
魔法少女の概念とか変身ヒロインの素晴らしさを熱く語り合ったりした事は否定しませんけど。でも今回ばかりは俺一人の望みを叶えるためにどうこうというわけじゃないです。
すでに数枚の写真を収めている水晶をカワズさんに見せる。撮り逃すと女王様から何を言われるかわからないからね。あの人はパソコンにはまりすぎだと思う。
「……なんたる裏事情」
カワズさんが戦慄する。言っておきますが、アンタに撮ってもらってる動画だってそれ関係だからね? まぁどこで使うかは考え中だけど、マジカル☆トンボちゃんの勇姿は近いうちにパソコンをお持ちのお茶の間に届ける予定。そうでもしないと今回の旅に協力してくれた方々が納得してくれないのだ。誰しも、自分の関わったものが活躍する姿は見たいだろう。
「トンボちゃん、はいチーズ!」
「なんかわからないけどブイ!」
ピースするトンボに水晶を向け、笑顔で写真を一枚。
うん。これもクイーンさんこと女王様のブログのいい素材になるんじゃないかな。
俺の旅日記? ……あんなのただの日記ですよ。
◇◆◇◆◇
鎧さんの背後にあった階段を上っていくと、次の階でもやはり誰かが待ち構えていた。
基本に忠実な安心設計の魔王城。素晴らしい。
待ち受けていたのは、大柄だが見紛う事なき美女だった。
だがそれは上半身だけの話、彼女の下半身は大蛇のそれである。ややケバ目の印象があるのは、メイクのせいだと思いたい。
「……お前達、四天王の一角を落とすとはやるわね! だけどあいつは四天王最弱! 四天王が一人! 氷結の***様が極寒の死へ誘ってあげるわ!」
聞くまでもなく自己紹介をしてくれた彼女は、うねうねと体をくねらせて蛇アピールまでしてくれた。
「蛇だねぇ」
見たままをそのまま口にした俺に、カワズさんが補足する。
「ラミアかのぅ。かなり強力じゃぞ?」
「かもね。だけど問題ない」
相手が何であろうと大丈夫だという確信が俺にはあった。
「……アレに相当自信があるんじゃな。お前さんにしては珍しいのぅ」
そんな自信満々な俺にカワズさんは違和感を覚えたようだが、マジカル☆トンボちゃんセットの製作過程を思い返せば当然である。
「そりゃあ。あれだけやればさすがに……」
「……何じゃろう? 今の言葉だけでわしの方が不安になって来たんじゃけど?」
それにしても鎧さん、最弱だったのか……いい人だったのに。
この蛇女さんも四天王の一人だと判明したので、サクサク先に進ませてもらうとしよう。
相手が女の子なら、装備2がおすすめである。
「そんじゃ次は、腰のあたりにステッキがあるからそれを取って」
「了解っす!」
四天王を一人なぎ倒した事で、マジカル☆トンボちゃんセットへの抵抗もなくなってきたらしいトンボは、言われた通りに腰のステッキを取り出し、シャキンとそれを伸ばした。先端にでっかいハートと天使の羽をあしらったステッキは、夜店で売っていそうなちゃちなデザインだが、よく見れば妖精達の手でこれでもかと装飾が施された珠玉の逸品なのだ。
「さて、準備が出来たら敵をよく見て叫ぶんだ! マジカル☆トンボビームと!」
「ぬぬぬ! この道具、やっぱり明らかにわたし専用だ! ちくしょう、さてはあいつら、最初からわたしを戦わせるつもりだったな! ええっと……それじゃあ食らえ! マジカル☆トンボビィィィム!!」
やけっぱち気味にトンボが叫ぶ。すると、彼女はステッキを大きく空中に掲げて一回転するモーションに入った。この動きは仕様です。
「くっ!」
蛇女さんは突然の攻撃に驚きながらも、両手でビームをガードした。
ステッキの先からズビビビビと効果音付きで飛び出したビームを受けても、蛇女さんは火傷一つ負っていない。
痛みもなかったのだろう。彼女自身もすぐにそれに気が付くと、高らかに笑った。
「何事かと思ったら見かけ倒しのようだね! そんなものでどうしようって言うんだい! かわいいおじょうちゃん! ……観念して氷づけにおにゃり! ホホホホ……ホ……ホ?」
だが蛇女さんの笑い声は尻すぼみになって消えていく。きっと今、彼女の視点はとても低いに違いない。
「にゃ、にゃによこれぇ!」
「……うふふのふ。かわいいのはどっちかしら? お嬢ちゃん?」
いつの間にかトンボにすら見下ろされている事に気が付いた彼女の姿は、まるでストラップに付いているマスコットキャラクターのようだ。
蛇女さんも自分の現状に気が付いたらしく、小さくなった体を見回しながらわなわな震え、激しく動揺している。
これぞ、マジカル☆トンボステッキに秘められた神秘の魔法なのだ。
「マジカル☆トンボビームは、相手をマスコット的な何かに変えてしまうのだー」
「どういうことよ! しょれ!」
小さくなった蛇女さんをこれ以上いじめるのもためらわれたので、ちょっとだけ優しく解説してみた。
ずいぶんとかわいくなってしまった蛇女さんが、つぶらな瞳と舌ったらずな声で叫びながらこっちに詰め寄ろうとしてすっ転ぶ。
……何これかわいい。
こんな状態ではどうあがこうが戦闘不能。実に平和的で、マジカルな決着と言えるだろう。
しかし、トンボはなぜかわなわなと震えながら吼える。
「うおおお! なんじゃこりゃ! これがわたしの隠された真の力だというのかしら!」
「いやいやステッキの力だから……。女の子が雄叫びなんて上げないの。そのステッキは妖精作でね、ボタンを押すと先が光って――」
「なんかやれる! わたし、やれそうな気がしてきた!」
「……聞いてねぇや」
……今は何を言っても無駄みたいだ。俺は諦めて嘆息する。カワズさんも、トンボを眺めて笑っていた。
「まぁ、無理もないがの」
明らかに格上の相手をあっさり下した事で、テンションが上がって来たらしい。
四天王というくらいだから後二人いるのか……。今更だが、トンボと闘う彼らがちょっと気の毒になってきた。
◇◆◇◆◇
続いて三階。
「たのもー!!」
テンション高めのトンボが、階段を上った先にあった大きな扉をぶち破って叫ぶ。天井が高いその部屋には、鷲の頭を持つ、人型のグリフォンみたいな魔族が待ち構えていた。
大きな翼と、ライオンのような体を持つそいつは体格もよく、なかなか強そうだ。そして先の二人同様、やる気と自信に満ち溢れている。
「まさか四天王の内、二人もやられるとは思わなかったぜ! だがそれもここまでだ! この疾風の****様が、てめぇらを全員切り刻んでやるぜ!」
ひゃっはっは! と下品に笑う鷲頭さんはそう言って鋭利な爪をむき出しにする。戦闘準備は万全だ。
だが準備万端なのは、ここにいるトンボも同じである。
鷲頭さんの自己紹介など全然聞いていなかった様子のトンボは、ぐっと拳を握り鼻息を荒くしていた。
「タロ! 他になんか武器はないの!」
さっそくやる気十分でそう聞いてくるトンボは、明らかにわくわくしている。そんなに使いたいと言うのなら他にもギミックはたくさんあるけど。
「……手を三回叩いてくるっと回ってから、両足の踵を一回打ち合わせてみて。そしてその動きを繰り返してみてよ」
「まかせなさい!」
今回は自ら無駄に華麗なステップでくるくる踊るトンボ。一連の流れを繰り返すたびに、かつんと音が響く。
音に合わせてブレスレットの宝石から、ぽこぽこと丸い何かが一つ、また一つと飛び出し、トンボの周囲で浮遊する。
ブレスレットの宝石よりも明らかにでかいそれは、真っ黒な球体。中心に髑髏マークが描かれていて、見るからに怪しい様相である。
その球体の中心には出っ張りがあり、そこから伸びているのはどう見ても導火線。いわゆる爆弾だ。
「おいお前! なんだ! そのいかにも危なそうな物体は!」
どうやら鷲頭さんはツッコミ属性の人らしい。トンボが生み出した禍々しい球体を見て、さっそく問いかけてくる。人間離れした姿だけど、感性は割と普通のようだ。
四天王から初めてはっきりと質問を受けたので、ちゃんと答えてあげよう。
「マジカル☆トンボボムだけど?」
「だから何なんだよそれは!」
何なんだと言われても、マジカル☆トンボボムはマジカル☆トンボボムであってそれ以外の何物でもない。
トンボは毒々しいデザインの球体をいたく気に入ったようで、目をキラキラさせていた。
「なんかいけそうなんじゃない? これはやれそうなんじゃない!?」
そんなトンボに鷲頭さんはすかさずツッコんでいた。
「いや! お前も疑問を持て! それはいったい何なんだ!」
トンボが首をかしげてかわいく告げる。
「だから……マジカル☆トンボボムでしょ?」
「こいつも適当だ!」
じりじりと鷲頭さんににじり寄るトンボと、彼女に不吉なものを感じたのか、後ずさる鷲頭さん。
気の毒だが、なかなか危機回避能力に優れている鷲頭さんには早々に退場願うとしよう。
「敵を指差して、いけ! と元気に叫ぶ。すると――」
「いっけー! マジカル☆トンボボム!!」
俺の言葉など待たずに、トンボが叫ぶ。ポイポイと放たれるトンボボムの群れは、放物線を描いて敵に飛んで行った。
「ふっ。甘いわぁ!!」
しかし鷲頭さんの動きもなかなか俊敏だった。
華麗に大きな翼を広げて力強く宙へと舞い上がり、爆弾をかわす。が、そんな程度じゃ逃げた内には入らない。
マジカル☆トンボボムが『マジカル』な所以はちゃんとある。
「は?」
鷲頭さんは回避したと思っていたのだろう。目の当たりにした光景が信じられなかったみたいで、その場で固まっていた。
トンボ☆ボムは鋭角に軌道を変えて、鷲頭さんに殺到したのだ。
チチチと導火線の燃える音が響く。ボムに取り囲まれた鷲頭さんの引きつった悲鳴は――。
「みぎゃあああ!」
そのまま爆音にかき消され、彼は宙で散ったのだった。
ドウッとアフロヘアーで目を回しながら落ちてくる鷲頭さん。そのやられ具合こそ、マジカル☆トンボボムの犠牲者となった何よりの証明である。
俺は途中だった解説を続けておいた。
「――とまぁ、こんな風にだいたい当たるね。アフロのまま一日くらいはまともに動けないと思うよ」
「……これはひどい」
俺の横では文句を言いつつも、ニヤニヤしたカワズさんがとても楽しそうに動画を撮っている。そして肝心のトンボは言わずもがな調子に乗っていた。
「なんと……ここまで無双した妖精が未だかつていただろうか? いや……いるはずがない!」
得意の絶頂らしいトンボはズレた自信をつけ始めているようだ。
そしていよいよ最後の一人である。
◇◆◇◆◇
「ふん……よくぞここまで来た。だがいい気になってもらっては困る。あの程度の奴らをいくら倒そうが問題ではない。四天王などと呼ばれてはいるが、すべては俺一人いれば事足りるのだからな……」
……その台詞は負けフラグじゃないか?
それは四階での対面だった。つい「負けフラグじゃ……」と言いそうになったが、本人はいい感じで演出できていると思っていそうなので水を差すのも野暮だろう。
最後に現れた男は、頭に二本の角を生やし、マントを羽織った長髪の美丈夫。
彼はマントを脱ぎ捨てると、すぐさまその姿を変化させた。
体が膨れ上がり、深い紫色の鱗に覆われていく。首は長く伸び、ずらりと並んだ牙が、大きな口の間から覗き見える。
黄金の瞳は鋭く……って言うか、ぶっちゃけその姿は竜だった。
「この烈火の*****様が、貴様らを焼き滅ぼしてくれよう!」
竜族がよく使う変身魔法も、慣れてくると割と落ち着いて見ていられる。むしろちょっと和んでしまいましたとも。俺の知り合いにスケさんという女好きのスケベな竜がいるのだが、ここにいる彼は、スケさんよりも小さく、迫力も劣っていた。
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