俺と蛙さんの異世界放浪記~八百万ってたくさんって意味らしい~

くずもち

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6巻

6-3


     ◇◆◇◆◇


「うーん……意外と難しいな。やっぱ、住んでいる人のことを考えないシステムなんていつかたんするよ? そういう風にできているもんだ」
「なに一人で言い訳してんの?」

 トンボちゃん、ちょっとうるさい。
 俺は先ほどの失敗を反省し、何度も一人で頷いた。
 思えば、頼りになる護衛は既に存在しているのである。ならば、彼女達の領域をむやみに侵すべきではないのかもしれない。
 では少し考え方を変えて、それを補助する方向に進むのはどうだろうか? 小さなフォローも積み重ねによって成果が出てくるだろう。
 俺は発想をやや修正して、第二案の実行に移った。


「がう? (何事でござる?)」

 今回声をかけたのはクマ衛門だ。ナイトさんの頼れるサポート役である。
 一見するとクマっぽい外見の彼だが、実はナイトさん同様、彼もダークエルフ。
 耳もちゃんと尖っているし、毛皮の下の素肌は褐色であるらしい。
 彼も立派な護衛の一人で、ナイトさんと共に森の平和を守っていた。
 今度は彼に手を貸してもらうとしよう。

「というわけで、クマ衛門に来てもらったわけだけれども」
「わけだけれども?」

 警備業務をさぼって俺についてきたトンボが、クマ衛門の頭の上で俺の言葉を復唱する。

「がう? (わけだけれども?)」

 突然連れて来られたクマ衛門は、わけがわからず首をかしげていた。
 俺達がやってきたのは俺の家の裏にある畑。その中の、色々な実験に使っている区画である。
 今回はここで、ある実験をするとしよう。
 いつか使おうと思っていた魔法は、この第二案にぴったりだった。

「で、だ。今回用意したのはこの不思議な種です」

 俺はがま口から小瓶を取り出し、手袋をはめた。そして瓶から大豆だいずくらいの種を手の平に出して二人に見せる。

「クマ衛門、毛を少しもらっていい?」
「がう?」

 快く毛を抜いてゾワゾワっと震えるクマ衛門。彼の頭の上にいたトンボが一跳ねして驚いていたけど、それを無視して俺は三本ほど毛を受け取る。
 これで必要な物はだいたいそろった。

「ではまず、この毛を種に取り込ませます」
「……いきなりどういうこと?」

 トンボがゆっくりと俺に近づいて来て、恐々こわごわと種を眺めていたが、こればかりはこれから起こることを見てもらわないと始まらない。

「そう、これはなんというか……いや、髪の毛を使う魔法なんてよくある話だろう?」
「ないよ」
「そうかー。ないか」

 同意を求めたが、失敗。
 俺は毛を一本ずつ種の上に落とす。
 毛は種に触れた瞬間、キラキラと光って種の中へ消えてしまった。トンボが不思議そうにその光景を眺める。
 クマ衛門も、似たような感想を抱いたようで目を丸くしていた。

「消えちゃったんだけど?」
「まぁ見てくれ。ここからがすごいんだから」

 クマ衛門の毛を取り込んだ種は、もぞもぞと動き出して俺の手のひらの上でコロンと転がる。色も赤く変化した。
 俺は予定通りに進行しているのを確認して、さっそく種を畑に植える。
 後は水をかけて数秒待つだけ……。
 しばらくすると、地面からぴょこんと双葉が飛び出した。

「はっぱ?」

 トンボが双葉を眺めてつつこうとしたが……トンボはボコリと地面の中から出てきたものと目が合って、盛大に悲鳴を上げていた。

「うひゃあ! な、なにこれ!」

 地面から飛び出してきたそいつは、色といいつやといい、もふっとした毛皮といい、どうにも見たことがあるクマっぽい何かだったのだ。

「ちっさいクマ衛門が生えただと!?」
「がう!?」

 トンボとクマ衛門が驚きの声を上げる。
 ブルブルと頭を振って土を振り払っている何かは、ミニサイズのクマ衛門だった。
 体長は二十センチほど。きょうがくするトンボちゃんと本家クマ衛門の表情が心地いい。

「これぞ、小型分身製造種、グリーンマンだ! ちょっとした労働力が必要な時におすすめ! 水さえあげればきびきび動く分身があっという間に作れる! モデルになった相手の能力をある程度コピーしているから、出会ったばかりでもうんの呼吸! 必要最低限の指示で動けるお利口りこうさんだ!」

 もっとも、活動時間は三日ほどで、それを過ぎるとパッと消えてしまうが、消える時に種を三つ残して消えるので、次からは一回あたりの栽培数がどんどん増やせる便利な種だ。
 土に植えなければ種もまた一週間で消えてしまうので、種の状態で保存するつもりなら密封可能な瓶に入れておく必要がある。

「これでミニクマ衛門を量産すれば、狩りの援護に見張りの友にと大活躍するだろう。どうかな?」

 これならばナイトさん達の立場を揺るがさず、サポート要員として使えるはず!
 戦闘に使えずとも、武器の手入れや生活のあれこれを手伝わせることもできる手軽な労働力だ。
 俺はいい笑顔で振り返って、みんなの感心した顔を確認しようとしたのだが、その前にポンと肩を叩かれた。

「ん? どうしたクマ衛門?」
「がう……(これはちょっと)」

 肩におかれたクマ衛門の手は気のせいではなく汗ばんでおり、目はかつてないほど真剣だった。
 止めてくれ、と血走った目が主張しているのを、俺は確かに読み取った。

「だ、駄目ですか、これ?」
「がう」

 深く深く頷くクマ衛門を前にして、俺は呟いた。

「……そっかーだめかー」
「わたしはこれいいと思うけどな」

 ミニクマ衛門をもふもふといじりまわしながらそう言うトンボ。
 まあ、気に入ったのならそんな使い方もアリだ。

「だよね! 毛がえてたら誰でもいけるから、トンボのもいけるぞ?」
「それやったら、闇討やみうちを覚悟して」
「……ダメなんじゃないですか」

 勧めてみたら、さらっと殺人予告をされてしまった。なぜだ。
 しょぼくれる俺に、トンボはツンとそっぽを向いて当たり前だとお怒りである。

「そりゃそうでしょ。お手軽に分身なんて作られてたまるもんですか。……このミニクマ衛門はわたしがもらうけどね」
「がう! (だめにござる!)」
「ああん! 返してよぅ!」

 クマ衛門は全力でミニクマ衛門を回収にかかっていた。
 どうやら二人とも、他人がやられる分には別にいいみたいだが、自分が量産されるのは嫌らしい。


 誰もが納得する案を出すというのはなかなか難しい。あっちを立てればこっちが立たず、どちらもとっておきの案だっただけに、俺は落胆を隠しきれなかった。

「そんなにダメだっただろうか? ミニクマ衛門」

 つい呟くと、今度はトンボに言われてしまう。

「そんなに言うなら、自分の作ればいいのに」

 言われて軽く想像するのは、地面から大量にい出てくる小さな俺の姿だ。
 ……需要、ないだろ。

「俺のデフォルメが増えて誰が得をするんだ?」
「ね? 気持ち悪いでしょ?」
「うん、まぁ……気持ち悪いね」

 認めざるを得ない。残念である。

「これも駄目か……。ここまで拒否られると、人員補充の計画は不可能に思える。可愛いと思ったんだけどな、ミニクマ衛門」
「がう……(勘弁していただきたい……)」

 ではこれは正式にお蔵入り、にしておこう。


「となると……やはりトラップか」

 続いて第三案。これは面白味と確実性が前の二案より弱いから後回しにしていたが、もっとも現実的な案ではある。
 人員の補充ができない以上、まぁこういう流れになるだろう。
 ――トラップ。
 狩りなどに使われる古典的なものだが、知恵のある者が使うと結構えぐいものになるアレだ。
 だがそこは魔法使いクオリティ。物理的な攻撃力に物を言わせるのではなく、もう少し魔法使いらしい工夫をしたい。そこに俺のセンスが生かせる気がする。
 よく考えてみれば、まさに腕の見せ所ではないだろうか?

「想像もできないような、素敵、かつエグいトラップも夢ではないかな?」
「エグくは作るつもりなんだ」

 ミニクマ衛門をクマ衛門に取り上げられてふくれっ面のトンボが尋ねてくる。
 もちろん自主規制はするつもりだ。

「じゃあ、とりあえず。魔法使いで思いつくスタンダードなやつから攻めてみようか」

 いざ実行だ。

「魔法使いのスタンダードなトラップって、なにさ?」
「見ていればわかるって」

 トンボも興味を持ってくれたようなので、試作品を製作すべく俺はある魔法をダウンロードした。
 ――頭の中で設計図を思い描き、忠実に再現するのは当たり前。この魔法で最も大事なのは匂いと、次点で味か?

「そいや!」

 気合い一発、ボボンと煙を上げて現れたその瞬間から、甘い匂いが周囲に充満する。
 焼けた砂糖かバニラエッセンスか。実に食欲をそそる香りが立ち込め、トンボの顔色が変わった。

「こ、これはまさか!」

 わなわな震えるトンボが目にしたものは、俺特製のおいしそうな逸品だった。

「そうとも! お菓子の家だとも!」
「うわっほい!」

 喜び勇んで飛んでいくトンボ。呼び止める隙もありゃしない。

「まったく……お菓子と見るとすぐこれだ。トンボも人の話を聞いときなさいよ。この家はトラップなんだってば」
「うぎゃああああ!!」

 入って数秒もしないうちに、お菓子の家からトンボの悲鳴が上がる。
 言わんこっちゃないと俺がお菓子の家をのぞき込むと、床のべとべとにしっかり捕まったトンボがもがいていた。
 ……あ、なんだかこの光景、昔見たことある。
 お菓子の家の床一面に塗られているのは、はく色のべとべとした粘着物だ。

「見事にひっかかってるなぁ。トンボって何気にこういうトラップにえんがあるよね」
「なんだこれ! はちみつかと思ったら粘り気が違うよ!」
「だから……これはトラップなんだって。匂いにつられて中に入ってきた奴をがっちり捕まえるわけだ。ちなみにこのべたべたを取るのはなかなかきついぞ? 洗ったくらいじゃ取れない」
「えっ……これ、洗えば取れるんじゃないの?」

 不安そうなトンボだったが、その程度で取れたらトラップにならない。

「そもそも洗うどころか簡単に動けないだろ? でも安心するといい。お菓子の家を完食すれば自然と取れるから」
「何その天国のような地獄!」

 絶望するトンボは、このトラップの恐ろしさに今更気が付いたようである。
 引っかかったのがトンボじゃあんまり参考にならないけど、霧の中にお菓子の家を見つけたらとりあえず中を拝見しようと思うのではないだろうか? 
 霧で視界も悪いだろうし、なんなら『天宮あまみやマガリ』と書いたネームプレートをドアにかけておいてもいいかもしれない。これは原始的ながら、なかなかの成果が期待できそうだった。

「床モノ系トラップは結構いけるかもしれんな。その上、飛んでいる妖精には床の上を歩くと作動する系統のトラップは効きづらいというメリットもある」
「わたし、引っかかったんですけど?」
「仕方ないよ……トンボだもの」
「ムカツク! すごくムカっ腹がたったよ!」

 トンボは今にも飛びかかってきそうな勢いで怒鳴っている。怒りが収まるまでとりあえずこのままにしておくとしよう。
 これは突破口になるかもしれない。
 俺は先の結果を踏まえて、以前作っていたアイテムの中に使えそうなものがあることを思い出した。
 がさごそとがま口をあさり、取り出したのは二枚のプレート。
 一辺が一メートルほどの正方形をしており、表面には、四角を組み合わせた絵が描かれている。
 昔のTVゲームなんかで使われていたいわゆるドット絵というやつなのだが、一枚は紫色の毒の沼のような、もう一枚は黒い穴のようなオブジェクトが描かれていて、プレートの上でピコピコ動いていた。

「ガウ? (何でござるかそれは?)」

 プレートを指差して問うてきたクマ衛門に、俺は差し出して見せた。

「これはトラッププレートと名付けたアイテムだよ。まず、これを絵の描いてある方を上にして設置します」
「がう」

 これだけで準備は完了だ。

「んで、この上に乗る……わけにはいかないか」

 効果を知っているだけに、自分で試すのはちょっと気が進まんな……。
 その時、ちょうどいいタイミングでカワズさんがノコノコやってきた。

「やっておるかのぅ。どうじゃ? 女王様から監視しておけと言われて来てみたんじゃけど?」
「せめて監視しているのは隠そうぜ?」
「隠しても同じじゃろう? どうせ変なことにしかならんわけじゃし」

 決めつけるカワズさんは最悪である。しかし、彼の視線がお菓子の家に向けられると俺は何も言えなくなった。確かに変なことになってるかもしれない。
 ……よし、この蛙でトラップの効果を確認するとしよう。
 監視に来たのならトラップのじきにしたところで良心も痛まないし、お手伝いしてもらおうか。
 俺は笑顔でカワズさんをちょいちょいと手招きする。
 不穏な空気を察知したのか、カワズさんは警戒心をあらわにした。

「……なんじゃよ?」
「いや、実はカワズさんに試してほしいものがあるんだ」

 そう言って、指差したのはもちろん地面に置いたプレートだった。
 今置いてあるのは紫のプレート。

「……なんじゃこれ?」
「いいからいいから、ちょっと乗ってみてよ」
「? まぁええが……」

 カワズさんは嫌そうな顔をしていたが、俺がニコニコと勧めると何とか乗ってくれた。

「そしてその場で足踏みしてみ?」
「こうか?」

 言われた通りカワズさんは足踏みする。するとドスッと鈍い音がプレートから響いた。

「うっ!? ……なんか気持ち悪いような」
「だろ? このプレートの上で足踏みすると体力が削られるんだ、毒沼プレートと命名してみた」
「……何じゃそれ!」

 カワズさんはプレートから飛び降りると、その流れで俺のあごに膝を入れてきた。
 猛烈な勢いのその攻撃をあえて受けたのは、実験に協力してくれた駄賃だちんみたいなものである。

「ぐふっ……腕を上げたなカワズさん。いや、この場合は足と言うべきか。でも面白いだろ? このプレートを配置しておいて、その上を侵入者が歩いたら、知らず知らずの間に体力が尽きる仕掛けというわけさ。体力がなくなれば気力が尽きる。気力が尽きれば帰りたくなるって寸法さ」

 あごをさすりつつ涙目で解説する。
 が、肩を怒らせたカワズさんの反応はいまいちだ。

「わしでそんなもん実験するんじゃない! ……じゃが、そううまくいくかのぅ?」
「それだけじゃ不安だから、たまにこっちのプレートを混ぜとく」
「なんじゃこれ?」

 今度は黒い丸の書かれたプレートを見てうんざりした顔になるカワズさん。黒いプレートの効果はワープホールである。

「この上に立つと、世界のどこかに一瞬で飛ばされる」
「どこかって、どこに?」

 尋ねられたけど……。尋ねられても答えのわからない質問もあるのだ。

「どこかは……どこかかな?」
「かな? じゃない! 怖いわ! 作った本人もどこに飛ばされるかわからんのかい!」
「当たり前だろ! 無害なトラップなんてまったく意味がないでしょうが! むしろ即死んじゃう系のトラップじゃないだけ優しいじゃないか?」
「どうなんじゃろ、それ?」

 トラップを作るというのはそういうことである。危なくないトラップなんてただのジョークだ。
 とくに今回は、いかに効果的か、かつ実用性があるかが重要だ。

「いっそこいつを大量に複製して、穴だらけのフィールドなんてものも可能かも!」

 ダンジョンをいつでも製作可能なんて画期的かっきてきだろ、とプレートの素晴らしさをアピールしたが、カワズさんとクマ衛門は顔を見合わせて、露骨ろこつに肩をすくめてみせた。

「……計画が穴だらけなんじゃないか?」
「うまいこと言ってんじゃないよ。これも床系トラップだから妖精には優しいし、スムーズに外敵を追い返せる優れものじゃないか?」
「……意味がないとは言わんがな」
「だろ? さっそく霧の結界の地面全体に配置してみてもいいんじゃないかな!」

 俺は勝利を確信して提案する。
 しかしその時ポンポンと肩を叩いたのはクマ衛門だった。

「? どうしたクマ衛門?」
「がうがう……(ちょっと思ったんでござるが)」

 そう前置きして設置されている毒沼プレートに寄って行ったクマ衛門が、しゃがみこんでプレートの端に爪をひっかけてひっくり返す。

「がう(こうすれば問題ないのでは?)」
「……」
「……」

 俺とカワズさんは黙り込んだ。
 鋭い指摘である。確かに端からどんどんひっくり返されたら、まったく意味がない。

「そ、それはほら、ひっくり返せないように魔法をかければ!」
「なら最初から毒の沼を作った方がいいんじゃないかのぅ? 妙な偽物にせんでも」

 さっさと俺のアイディアに見切りをつけたカワズさん。ひどい言い草である。
 しかしこの蛙、またとんでもないことを言ってくれるものだ。

「あー……そういうこと言っちゃうんだ。それは言っちゃあいけないんじゃないかな? ホント」

 よりにもよって本物がいいと? せっかく、人がスタイリッシュな罠を目指して頑張っているというのに……。本物志向はこれだから困る。そんなに本物が見たいなら、俺にだって考えがある。

「いいですよ? 本当の毒の沼、作ったろうではありませんか。異次元に通じる穴? 上等ですよ。底が見えない奴を作っちゃうよ? 穴だらけな計画なりに」
「ふむ、そっちの方がいくらかマシかのぅ」
「え? いいのかな? そんなもの、妖精郷に作っちゃって?」
「いいんじゃないか? むしろ守りを固めたいならそっちのが王道じゃろ?」
「そ、そうかな?」

 思ってもみなかった蛙さんの好評価に、俺はついつい調子に乗ってきてしまう。

「そういうことだと……いっそ、妖精郷全体を、こう……外側を全部水で埋めるとか? 城のお堀みたいに。守りやすくなるんじゃないだろうか?」

 やろうと思えば大抵は実現可能な俺である。
 確かに、侵入される前提でトラップなんか作るよりも、侵入者がおいそれと入れない構造に地形ごと作り変えてしまった方が早い気がしてきた。
 この流れに思いの外カワズさんも乗ってきた。

「ほっほぅ! ええのぅ、ならばいっそとりででも造ってはどうじゃ?」
「いいね! あー……でもどうせならもう少し魔法使いっぽくしてた方がいいかな? けわしい谷とか作ってみる? 岩が天然のやりになってるーとか? 雰囲気出そうじゃない?」
「それがアリなら、いっそ妖精郷を空に浮かべるとかどうじゃ? わしも若い時に浮遊の魔法を使ってみたんじゃが、やろうと思えばできるもんでな!」
「そいつはいいねぇ! でもそれじゃあ俺達はともかくピクシー達は出かけ辛そうだなぁ。意表をついて全部地面に埋めて地下世界にーとかどうだろうか?」
「おおーそれは守りやすそうじゃのぅ! なんだかんだ言って自然の力で守った方が一番有効なんじゃよな!」

 お互いこの手のネタは結構好きなので、ついつい盛り上がってしまったのだが――。

「――おいお前ら。何をバカなことを言っている?」
「……!」

 調子に乗りすぎた俺達の議論は、冷淡な声によって強制的に中断された。
 声の主にはすごく心当たりがある。
 俺は息を呑んで、ゆっくり振り向く。
 もちろんそこには、とっても恐ろしい笑みを浮かべた女王様がいた。
 笑っているのに、とてつもなく恐ろしく見えるって一体……。

「……あ、女王様、お疲れ様です」
「ど、どうしたんですかの? こんなところまで?」

 クマ衛門の姿はすでにない。あの野郎、一人で逃げやがった。
 カワズさんも焦っているところを見ると、どうやら抜き打ちのようだ。
 女王様は、ハァ、と特大のため息を吐いて俺達をその場で正座させる。

「どうも不安だったから様子を見に来てみれば案の定だ。……お前ら、妖精郷をどうするつもりだ! このバカども! 地形をいじるなど言語道断だぞ!」

 しかも一番まずいところから聞かれてしまったようだ。これはよろしくない。

「えぇー……。で、でも警備を完璧にしろって言ったの、女王様じゃないですかー」

 苦肉の策ではあるが、軽い感じで乗り切ろうとすると、頬を右手でつままれ、持ち上げられた。

「……物には限度があると言わなかったか? 言ったよな?」
「……ずびません!」


 ズズイと近づいてくる女王様。恐怖しか湧いてこない。
 空いている左手で額をぐりぐりと突かれた俺は、女王様のプレッシャーに負けて謝った。

「蛙ももう少し頑張らんか! 様子を見に行くというから油断しておれば、拍車をかけておるではないか! これだから魔法使いはバカなのだ!」
「……面目めんぼくない」

 とりあえず謝っておこう。
 俺達を解放した女王様は、さらに叱りつける。

「とにかくだ、地形はいじるな? 大事な部分だから心に刻めよ? まったく、お前達は自然のせつというものがわかっていない!」

 女王様がきびすを返して去っていった後で、俺は恐ろしい事実に気が付いてしまった。
 俺は女王様を呼び止めて、尋ねる。

「えっとそれじゃあ……今までの案は?」

 返ってきた答えは、結構しんどいものだった。

「全部却下だ! 大バカ者め!」
「えぇ! お菓子の家は! お菓子の家だけはいいでしょ! 女王様!」

 べとべとトラップから無理矢理脱出してきて、そんな事を口走ったトンボは――。
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