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序章・タケル篇

冒険前のチュートリアル1

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 ある村の、一家ひといえの一室。そこは他の家と比べれば一目で多くの本があり、家主が多読家か研究熱心だということが窺える。
 窓から光が漏れ出て、部屋を照らす。
 光が本の独特な心地よい香りを漂わせている。

 そんな狭き門ならぬ狭き家に三人の人物がいる。
「…?さっさと読まぬか」
 三人の内の一番背が低い金のショートヘアの少女、マルラカ村の知者・この家の家主、ノイエルが二冊の本を持っていた。
 言われた青年がまごまごしていると、
「どうした?お前が知りたいから来たんだぞ」
 不満が出たのはノイエルとは対象的な金のロングヘアと体つきのリュゼだった。
「俺、さっきも言った気がするけど…」
 三人の最後一人の青年は頬を掻きながら申し訳ない程度に、
「文字が読めないんだよ…」
 異世界に召喚された男・タケルがそう言って助けを求めた。

「じゃあ最初は、基本的常識の方を教える」
 ため息を吐いたノイエルは突然出てきた黒板にチョークと指示棒代わりの杖をカッカッとたたく。
 ただでさえ窮屈な家に普通の黒板は大き過ぎるのか、ホワイトボートより小さな黒板を用意していた。
「どんな質問でも受け付けるぞ」
 すると、タケルが手を挙げた。
「ノイエル、」
「先生と呼べ!」
 何故かノイエルは眼鏡をかけ、張り切っている様子だった。
「…ノイエル先生、その黒板とチョークをどこから用意したんですか?そして、その眼鏡もなんで───」
「はい、授業初めるぞー」
 無視かよ!と憤っていると隣のリュゼから謝罪を貰った。
「あれがノイエルのやり方なんだ」
 すまないと言われ、タケルは仕方なく聞くことにした。
「まず、この世界は4つの大陸に分かれて、…分かりやすく四角にしておく」
 ノイエルが黒板に四角を描くとその中に十字で垂直に仕切り、真ん中に丸を描いた。
「左下から順に春の大陸スプリングネント、右に夏の大陸サマーネント、上に秋の大陸フォールネント、左に戻って冬の大陸ウィンターネントとなり、真ん中と境界線は海になっている」
「ほうほう」
 と言ってしまったがこの星の形どうなっているのだろうか?
 普通はそう思うだろうが今のタケルには、異世界の知識を蓄えることに夢中らしい。
「それらの大陸には多くの種族がいる。多いので省略するが春の大陸には我らエルフ族、夏は竜人族、秋は獣人族、冬は魔族が拠点にしている」
「人類は居ないのか?」
 そうなればタケルが初の人類(笑)になる。残念ながらそうではない。
「人類はどの大陸にもいて、それぞれ王国都市が立っている」
 タケルがホっとしていると、
「冬の王国はんじゃなかったか?」
「は?」
 くつがえしたリュゼの言葉にタケルが振り向く。「あ、そうそう」とノイエルがつなげた。
「正確にはんだがな。さて次は」
「ちょ、ちょっと待って、何で占拠されたんだ?」
 あまりのスルーさにタケルが慌てて止める。
「──魔族に占拠されたんだ」
 少女の声には何故か陰が含んでいた。さっきのも訳があるかもしれない。
「その事については歴史の時に話す」
 さて、と言葉を切り替えると。
「あと一つ、『白の一族』というのが存在する」
 ノイエルは黒板の四角と文字を消すと新たな文字を書いた。
「しろの一族?」
「そうだ、白髪はくはつの頭と能力以外は普通の人間と変わらない」
「何か違うのか?」
 タケルの想像には髪を白く染めた人とはてなのマークしか映ってなかった。
「白の一族はまずスキルが使、それと役割が一種類しかない」
「…それ辛くない?」
 情報で更新された脳内は白髪の人がゴブリンにボロボロされていた。
「いや、それで十分だった」
「なぜなら、奴らは天変地異を起こせるのだからな」
「はぁぁ!?」
 二人のエルフに言われて、瞬時に想像が再更新された。
 ──ボロボロの白髪がパワーアップするとゴブリン達を吹き飛ばし、他の生物もろとも焼き焦がすという地獄絵図が完成した。
 そこではっとする。
「い、いやいや天変地異はないだろ」
 現実に戻ってタケルは妄想と話の両方を否定した。
 まぁ、確かにただの人なら、天変地異は起こせないだろう。
 ただの人ならば。
「そうだな、天変地異は言い過ぎた」
 やっぱりとタケルが思ったのもつかの間、
「人を亀裂に落とすぐらいだな」
「センセーイ?絶望の基準が分かりませんよ!」
 ノイエルはタケルの質問(というよりツッコミだが)に反応を示さず、説明が続く。
「それほど白の一族の役割は強力なものでその一族しか受け継がれてはいないのだ。戦争があった時は常に優位に立っていた」
「…その役割は?」
 その特殊中の特殊の役割をタケルは尋ねた。

「『運の怪物ラックモンスター』」

 物理的な力でもなく、魔法の力でもない『力』にタケルの頭に疑問が増殖する。
ラック?運だけで地面が割れるのか?」
「─『運の怪物』は、生きとし生きるものに福とやくをもたらさん」
 古い文献を読むかの如く、ノイエルが語る。
 それでもタケルは分かってないようで、どうゆうこと?とうなっていた。
 その反応でやっとノイエルは回答をくれた。
「『運の怪物』は人や物に幸福と不幸を与えることができる。例え話するが…ある男が事故にう、それが大きな事か小さな事になるかは男の運次第であるが、」
「その運を自由に増やしたり、減ったりできるってことか」
 ノイエルが肯定で頷く。
「そうだ。自身に幸福を溜めれば身を守れて、それと敵に大量に不幸を与えれば自分は触れる事なくラッキーになり、敵にとっては運のツキの大惨事に終わるというわけだ」
「じゃあもう、最強じゃん」
 息を吐くタケルにノイエルの捕捉がかかる。
「そんなこともないぞ、『運の怪物』は魔力の消費が激しくてな、戦闘時以外は力を控えているだそうだ」
「…で?」
「こう、サッと暗殺」
「これでも一応、一般人だから不意討ちに訂正してくれない?」
 強く触ったら折れそうな首を手刀で切る振りをするノイエルにタケルは汗を垂らし強引に話題を変える。
「つ、次はスキルを教えてほしいなー」
「…スキルだな分かった」
 その強引さにノイエルが眉をひそめたが、言うほど気にしないらしい。
「スキルは身体パッシブスキルと特殊スペシャルスキルの二つがあり、白の一族と魔物以外の種族は二つの内どちらかのスキルを持っている」
 ふむふむとタケルが異世界の知識を詰め込んでいると、ふと当然の疑問が出た。
「白の一族は何でスキルが使えないんだ?」
 その質問にはノイエルは苦い顔で答えた。
「─それについては色々な説やうわさが飛び交っているが、私も関わらず世界中の誰も知らない謎なのだ」
「そうか…」
「話を戻すが、身体スキルは条件付きのもあるが一定時間の効果付与のものが多くあり、だいたいの人がこのスキルである。特殊スキルは自由に周りに影響を与えるものを指す。違いは条件があるかないかだ」
 すると、ノイエルはじっとタケルを見る。 
「─にしても、タケルは面白いスキルを持ってるな」
 突然の言葉でリュゼの耳が揺れ、タケルが驚く。
「え、そうなの?」
「何のスキルだ?」
「特殊スキルの『状態鑑定眼』というもので、人のステータスを勝手に見る事が出来る。しかも、ランクがA」
 見開いていたリュゼの顔が固まった。
「なんだと!?何でコイツがそんなのを持ってるんだ‼」
 タケルの胸ぐらを細い両指で力強く掴むと、コイツが!コイツが!とリュゼが鬼気迫る様子で激しく揺らしだした。
「な、なに怒ってんの?そんなに特殊スキルが珍しいの?」
「当たらずも遠からずのとこだな。特殊スキルのランクがAだったの話だ」
 ぐらん、ぐらんと混乱するタケルの頭に捕捉が掛けられた。
「ランクはS、A、B、Cと各種族の一人一人に割り振られ、ランクが高いほど所持者が少ないのだ。身体スキルのAはそうでもないが、特殊スキルのAは大きな都市でも一人いるかいないかなのだ」
「それで?何でリュゼは怒ってんの?」
「…そりゃ、自分よりランクが上のことに決まっているだろう」
 部屋にその声が響き渡るとリュゼは無言でパッと手を放し、すみっこに座り込む。
「うそだうそだうそだ…」
 そして、長い髪を掻き乱して呟いている。
 …少し怖い。
「リュゼ…お前、俺の事をさりげなく下に見てたな」
 そんな二人を見てたノイエルはくっくっくっと笑っていた。
「リュゼのその姿は久しぶりに見たな」
「前にもあったのか?」
「あぁ、私のスキルを聞いた時だ」
 その頃を思い出したのか、腹を抱えて大笑いした。
「そういや、俺のスキルを知っていたよな。それがノイエルのスキルか、それもAの」
 理詰めで推測したタケルだったが、相手は爆笑中である。
 ちょっと時間を置いて。

「はぁはぁ、あー腹が痛い痛い。半分当たりだな、私は知る事じゃない、ただだけだ」
 訳がわからないタケルにノイエルが答え合わせだと言った。
「私のスキルは『看破』というものだ。ランクがAで、相手の嘘やごまかしで隠した情報を視る事が出来る。しかし、一人につき3回までだが」
「嘘を言った覚えはないけど…」
「嘘がなくてもその力があることはだろう?その自覚が無かったら、私のスキルは使えない」
 要するに嘘発見器(嘘は別にほっといてもいいんだからね!)の役割と同じようだ。
「なるほどな。ちなみにそこにいるリュゼのスキルは?」
 部屋の一角に暗い雰囲気の中心にいるリュゼの肩が跳ねる。
「おい、ノイエル…」
 リュゼが蚊の鳴く様なの小さな声で止めようするがノイエルのいじめは止まらない。
「リュゼのスキルはもちろん…」

 カーン、カーン、カーン

 かん高い鐘が鳴るまでは。
「もう昼になったか。今日の授業はここまでだな」
 ノイエルはそう言うと、また黒板を消し、チョーク等を片付け初めた。
「ひる?昼という単語に嫌な予感が…」
 すると、頭に影が差した。タケルが嫌な予感が当たった様だ。
「─さぁ、タケル、昼『飯』の時間だ」
「ねぇ!ノイエル先生!授業を、知識を私にください!」
 胃腸に危機を感じたタケルはノイエルの腕をしがみつくが、
「放せ、私もご飯を食べるのだ」
「なら、本を!本を読ませてください!」
 ノイエルが鬱陶うっとうしいと言わんばかりにその体では信じられない力でタケルを引きずっていると背後にリュゼが不敵な笑みを浮かべて言った。
「タケル、文字は読めないんじゃあなかったか?」
 あっ、とタケルは愕然とする。その瞬間、ノイエルがタケルの手を解き放すとリュゼはタケルの襟を掴み、ただ真っ直ぐに玄関に歩んでいった。
 まるで流れ作業の如く。
「あぁ、あぁぁ…」
 この日の昼飯はタケルだけ他の人より量が多かったことは言うまでもなかった。



 

 どーも、遅れ投稿のリングです。
 今回は物語の設定の話なので、時間がかかるのは勿論もちろんの事、二千文字が一気に消えるという事故があった事もあり、また遅くなってしまいました。
 本当にスミマセンのごめんなさいです。
 今年、謝ってばっかだな…
  次こそは、遅れないようにしなくては!謝らない為にも!(そっちかい)
 又、この物語の質問もあると思いますのでどんどんコメントしても構いません。
 ノイエル先生よりは質問には応じますよ。(キリッ)
 次はできたらタケルを冒険に行かせる予定だといいな~。

                       雛人形より桜が楽しみリングより
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