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第5章「崩落」
第61話「アデム、襲撃される」
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(UnsplashのSHAYAN Rostamiが撮影)
「……それで、どうなったんです、大ガラスさま!?」
『西の町城』の酒場『二頭のクマ亭』中庭で、ロウ=レイは茶色の巻き毛をふりたてて叫んだ。
目の前には漆黒の大ガラスがいる。
話の合間合間に自慢の羽根をつくろっているので、なかなか進まない。
いきりたつロウ=レイをおさえて、クルティカも尋ねた。
「大ガラス様、どうか、続きを。えーと、その。美しい宝石のような羽根はこれ以上手入れすると
抜けるかもしれません……」
「……お前は褒め下手よのう、クルティカ」
「すげーわ、美人だわ、人形みてーだわ、大ガラス。とっとと続きをいってくれ!」
横から金茶色の仔グマが乱暴に大ガラスを褒めた。
紅玉のような眼をぎょろりとさせて、大ガラスがにらむ。
「まっこと、品がない……!」
「ここにいる2人に品を求めても無駄だっつーの」
「3人でしょうが」
「俺はいれるな、で、襲撃はあったんだな?」
「その夜、トーヴ姫とアデムが蒼天騎士団の修練場にいたところを10人ほどの刺客に襲われたのです」
「……10人」
クルティカとロウ=レイは顔を見合わせた。
「たった10人で、アデム団長を倒すとは」
「手練れの騎士30人が同時に打ちかかっても斃せないのに……どんな奴らでしたか、大ガラス様」
「黒衣の男どもです。顔も全身も黒で覆い、目元しか見えなかったとか」
「……『影喰い』だな」
クルティカがつぶやく。
「それにしても、3日前に王都でアデム団長を襲い、今また『西の町城』でおれたちを襲うとは、いったいどういうつもりなんだ」
「どっちが本命か、襲撃しているほうも、よくわかってねえってこった」
鼻血のとまった金茶色のモフモフが言った。
「本命?」
「ほんとに狙われているのが、王都なのかここなのか。団長なのか廃騎士のお前たちなのか、
襲っている『影喰い』のほうもはっきりわかっていない。
指示系統に乱れがあるようだな。
あるいは、指示を出している人間がトンチキか」
「トンチキ……あの、おれたちは王都を出てからずっと『影喰い』に狙われていました。
おれたちが本命だと思います」
「トーヴ姫がねらわれた、という線もある」
仔グマはポリポリとお尻のあたりをひっかいた。
「誰が狙いでもおかしくない。大事なのは、シシドをかっさらわれたという事だ」
「シシド……?」
「あいつら、シシドを連れていく意味が分かっているのかどうか……。
そもそもシシドの意味を分かっているのか?」
「シシドの意味って……? あれはバイ・ベアの隠し子でしょう?」
「バカ言え、歳が合わねえわ」
「年の前に種族が違うでしょう」
クルティカが冷静に言うと、仔グマはこともなげに退けた。
「種族のほうは、まあ、どうにでもできるのさ。
それよりな、王都で襲われたのはどうなった?
死んだのか生きているのか?」
「……生きています」
大ガラスの言葉にロウ=レイはほっとしたようだ。
「よかった、さすがはアデムさまだわ」
「だが、深手を負っています」
「当たり前よね、10人に襲われたんだもの。たぶんトーヴ姫をかばっていたんでしょう?」
「かばっていたようですよ。まあ、襲撃のけがは、それほど深くなかったのですが……」
「『襲撃のけがは深くなかった』? どういうことです、襲撃以外のけががあったんですか?」
ロウ=レイがきょとんとした。
大ガラスはチョイチョイと尻尾を振る。続きを知りたければ、褒めろ、という意味だ。
クルティカはため息をはいて、もう空っぽになっているホメ言葉を体から絞り出した。
「うー、すばらしーです、大ガラス様。美しーです、きれいです、目がくらみそーです」
「聞いたこともないほど、敬意のこもらぬホメ言葉よのう……
もういい、クルティカ。腹が立ってきたわ。
アデムの深手は、いちどわらわの背中から落ちたからです」
「……アデム団長が、大ガラスさまから落ちた!?」
クルティカも言葉を失った。
いったいどうやったら、蒼天騎士団の団長であるアデムが守護魔獣の大ガラスに乗るハメになったのか。
しかも、落ちたとは。
そのとき、ひんやりした声が聞こえてきた。
「守護すべき騎士団長を背中から振り落とすとは、どういう状況です?」
「ニキシカさん……」
みれば長身・美貌の男の全身から、怒りが噴き出していた。ゆらゆらと怒りと殺気がカゲロウのようにニキシカの体にまとわりついている。
大ガラスはけろりとした様子で、
「いろいろあったのです。簡単に言うと、アデムの襲撃を知ったケネスがぶった切れて、
アデムを軟禁しようとしたからです」
「国王陛下が……ぶったぎれて? アデム団長を軟禁……あの大ガラス様。
簡単すぎて、意味が全く分かりません」
「ケネスはアデムの身を案じるあまり、ついに王宮の左翼に幽閉したのです……そのまま妃にするつもりで」
漆黒の貴婦人はもういちど羽根を閉じなおし、わが身の美しさにうっとりしながら、事情を説明し始めた。
今度こそ詳細にわかりやすく、ほめ言葉もなしで……。
「……それで、どうなったんです、大ガラスさま!?」
『西の町城』の酒場『二頭のクマ亭』中庭で、ロウ=レイは茶色の巻き毛をふりたてて叫んだ。
目の前には漆黒の大ガラスがいる。
話の合間合間に自慢の羽根をつくろっているので、なかなか進まない。
いきりたつロウ=レイをおさえて、クルティカも尋ねた。
「大ガラス様、どうか、続きを。えーと、その。美しい宝石のような羽根はこれ以上手入れすると
抜けるかもしれません……」
「……お前は褒め下手よのう、クルティカ」
「すげーわ、美人だわ、人形みてーだわ、大ガラス。とっとと続きをいってくれ!」
横から金茶色の仔グマが乱暴に大ガラスを褒めた。
紅玉のような眼をぎょろりとさせて、大ガラスがにらむ。
「まっこと、品がない……!」
「ここにいる2人に品を求めても無駄だっつーの」
「3人でしょうが」
「俺はいれるな、で、襲撃はあったんだな?」
「その夜、トーヴ姫とアデムが蒼天騎士団の修練場にいたところを10人ほどの刺客に襲われたのです」
「……10人」
クルティカとロウ=レイは顔を見合わせた。
「たった10人で、アデム団長を倒すとは」
「手練れの騎士30人が同時に打ちかかっても斃せないのに……どんな奴らでしたか、大ガラス様」
「黒衣の男どもです。顔も全身も黒で覆い、目元しか見えなかったとか」
「……『影喰い』だな」
クルティカがつぶやく。
「それにしても、3日前に王都でアデム団長を襲い、今また『西の町城』でおれたちを襲うとは、いったいどういうつもりなんだ」
「どっちが本命か、襲撃しているほうも、よくわかってねえってこった」
鼻血のとまった金茶色のモフモフが言った。
「本命?」
「ほんとに狙われているのが、王都なのかここなのか。団長なのか廃騎士のお前たちなのか、
襲っている『影喰い』のほうもはっきりわかっていない。
指示系統に乱れがあるようだな。
あるいは、指示を出している人間がトンチキか」
「トンチキ……あの、おれたちは王都を出てからずっと『影喰い』に狙われていました。
おれたちが本命だと思います」
「トーヴ姫がねらわれた、という線もある」
仔グマはポリポリとお尻のあたりをひっかいた。
「誰が狙いでもおかしくない。大事なのは、シシドをかっさらわれたという事だ」
「シシド……?」
「あいつら、シシドを連れていく意味が分かっているのかどうか……。
そもそもシシドの意味を分かっているのか?」
「シシドの意味って……? あれはバイ・ベアの隠し子でしょう?」
「バカ言え、歳が合わねえわ」
「年の前に種族が違うでしょう」
クルティカが冷静に言うと、仔グマはこともなげに退けた。
「種族のほうは、まあ、どうにでもできるのさ。
それよりな、王都で襲われたのはどうなった?
死んだのか生きているのか?」
「……生きています」
大ガラスの言葉にロウ=レイはほっとしたようだ。
「よかった、さすがはアデムさまだわ」
「だが、深手を負っています」
「当たり前よね、10人に襲われたんだもの。たぶんトーヴ姫をかばっていたんでしょう?」
「かばっていたようですよ。まあ、襲撃のけがは、それほど深くなかったのですが……」
「『襲撃のけがは深くなかった』? どういうことです、襲撃以外のけががあったんですか?」
ロウ=レイがきょとんとした。
大ガラスはチョイチョイと尻尾を振る。続きを知りたければ、褒めろ、という意味だ。
クルティカはため息をはいて、もう空っぽになっているホメ言葉を体から絞り出した。
「うー、すばらしーです、大ガラス様。美しーです、きれいです、目がくらみそーです」
「聞いたこともないほど、敬意のこもらぬホメ言葉よのう……
もういい、クルティカ。腹が立ってきたわ。
アデムの深手は、いちどわらわの背中から落ちたからです」
「……アデム団長が、大ガラスさまから落ちた!?」
クルティカも言葉を失った。
いったいどうやったら、蒼天騎士団の団長であるアデムが守護魔獣の大ガラスに乗るハメになったのか。
しかも、落ちたとは。
そのとき、ひんやりした声が聞こえてきた。
「守護すべき騎士団長を背中から振り落とすとは、どういう状況です?」
「ニキシカさん……」
みれば長身・美貌の男の全身から、怒りが噴き出していた。ゆらゆらと怒りと殺気がカゲロウのようにニキシカの体にまとわりついている。
大ガラスはけろりとした様子で、
「いろいろあったのです。簡単に言うと、アデムの襲撃を知ったケネスがぶった切れて、
アデムを軟禁しようとしたからです」
「国王陛下が……ぶったぎれて? アデム団長を軟禁……あの大ガラス様。
簡単すぎて、意味が全く分かりません」
「ケネスはアデムの身を案じるあまり、ついに王宮の左翼に幽閉したのです……そのまま妃にするつもりで」
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