「おれの姫は美少女剣士、ただし『突発性・沸騰派』」 随時更新してます💛

中野 翠陽(なかの みはる)

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第6章「この道はどこへ?」

第68話「『二頭のクマ亭』、爆発」

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(UnsplashのWesley Baltenが撮影)


「クルティカ。目の前の誰かを守る、という事は大事です。
 だが時には少し目線を上げてみてほしい。
 守るべきものは、ロウ=レイ以外にありませんか?」
「……ニキシカさん?」

 美貌の男はじっと酒場の中庭と外をへだてる塀を見ていた。

「今日シシドがさらわれる時に、何か言われたようですが……?」
「えっ、ああ……いわれましたよ、なんだか呪文みたいな言葉を」
「覚えていますか? 今、言えますか?」

 さて、あの時シシドが言い放った言葉はなんだっただろうか。
 クルティカは混乱していた状況を思い出しつつ、ひとつずつ言葉を思い出していった。

「ふる……フルクトゥト・ネック、メネギット……
 ヴィト……えっと、どうだったかな」
「半分は覚えているんですね、上出来でしょう」

 美丈夫は夜空に笑って、

「残りも、いずれ思い出しますよ。大事な言葉です、覚えておくように」
「はあ。これ、何でしょうか?」

 ニキシカは一瞬だけ黙った。だが、すぐにクルティカを見て言った。

「『護り手』の言葉です。『双頭の龍』を守る人間が身に備えておくべき『覚醒呪文』です」
「まもりて……それ、シシドに言われました。何でしょう?」
「『双頭の龍』が生まれる時、身を賭して守る人間のことです」
「『双頭の龍』!? だってあれは、おとぎ話の生物でしょう!?」

 クルティカが驚いて言うと、ニキシカの顔が困ったように笑った。

「おとぎ話ではありませんよ。実際、歴代の良王の治世に出現します」
「では、ケネス王のために生まれてくるわけですか?」

 ニキシカは、にこりとした。

「可能性は高いでしょう。ケネス王は近年まれなる賢王だと言われていますから」
「そ、その『双頭の龍』と、おれのあいだに、いったい何があるんでしょう?」
「それはまだ……いずれ分かるでしょう。必要な情報は、必ずもたらされます。天から」
「天……」

 クルティカがもう一度夜空を見上げた時、大きな爆発音が酒場から沸き上がった。

「えっ!? ニキシカさん、店が……っ!?」
「くそっ、顔なじみだけだと油断したっ……マスター!!」

 ニキシカは白い煙と真赤な炎が噴き出す酒場の中へ入っていく。だが一瞬だけ立ち止まり、あとを追おうとするクルティカへ向かって、

「きみは店の外へ出るように! 状況が分かりませんから!」
「ニキシカさん、でも!」
「こういう場合はごちゃごちゃ言わないことです――さっさと指示に従え、蒼天騎士クルティカ・ナジマ!」

 びしり! という強烈な気がニキシカの体から放たれた。
 すさまじい勢いに離れているクルティカがふっとぶ。そのまま中庭の塀にぶつかる。

「ニキシカさん!!」
「そこから外へ出ろ、とりあえず逃げるんだ。ひとりくらい、まともにシシドを守る人間が残っていないと勝負にならない!」
「し……勝負? 何のことです? あ……っ、炎がっ!」

 ぐわあっとすさまじい炎が酒場の裏口から飛び出した。
 煙と炎の支配する世界へ、長身の男は突っ込んでいく。

「ニキシカさん!!!」

 ごおうううううっ、という轟音を立てて、酒場『二頭のクマ亭』が燃え上がっていく。
 クルティカは一瞬だけ考えたが、やがてくるりと後ろを向いて塀の木戸から外へ逃れた。

 わけが分からない。
 そう思ったら、王都から出た瞬間から一つも訳が分かっていないことに、クルティカは気が付いた。
 ひたすら何かの騒ぎに、巻き込まれ続けている。

 「うんざりだ……」

 クルティカはつぶやいた。

 理由も知らされず『双頭の龍の護り手』と呼ばれ、たったひとりで夜道を駆けつつ、炎と煙から逃れている。
 間抜けな夜盗のように逃げ出している。

「なんなんだよ、くそっ!」

 逃げる先もなく仲間もなく、ただひとり、クルティカは夜の中を走っていく。
 時間が長く短く、クルティカの中で変化した。

「いいかげんにしろよ! 誰でもいい、何が起きているのか、教えてくれ!!」

 よろめきながら走り去っていくクルティカの後ろから、あの呪文がついてくる。

『フルクトゥト・ネック・メネギット……』

「フルクトゥト……ネック、メネギット」

 そうだ、続きは? あのときシシドは何と言った?

「ヴィト、ユニ……ユニ・フォルティオ……」

 呪文をつぶやくクルティカの脳裏に、知らない言葉の意味が勝手に浮かび上がってきた。

『われら、たゆたえども沈まず
 団結が、汝を呼び出す』


 『団結が、汝を呼び出す』……。

 団結、と言われても、とクルティカは思った。
 今のクルティカには、仲間の誰もいない。独りぼっちだ。

 いったい、どうやって『汝』を呼び出せばいい?
 そして最も大事なこと――『汝』とは、いったい誰なんだ?


 無数の疑問符を引き連れて、クルティカは夜の港通りを駆け抜けていった。
 うしろで、どーーん!という轟音がとどろく。

 『二頭のクマ亭』が、ついに爆発したらしい……。
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