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第1章 黎明入学編
第3話 あの日から
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最悪の空気のまま、一日が終わった。
休憩時間は常に張り詰めた空気が漂っており、授業中でさえも生徒たちは厳戒態勢だった。
しかしなんとか一日を乗り切り、レイは荷物をまとめて教室を出た。
帰りに、家にいる祖母からおつかいを頼まれているため、八百屋による必要がある。
「商店街を通ると遠回りなんだよなぁ……」
そう呟きながらも、レイは家路とは違う方向へと足を向けた。
「やっ」
「わっ、びっくりした……。
いつもいつも、驚かさないと気が済まないの? ソラネ」
「ごめんごめん。ついやっちゃうの」
日向ソラネ。
レイの幼馴染の一人で、幼稚園からずっと同じである。
クラスも違い、進路の関係で高校からは離れ離れになるが、それでもこの二人の仲の深さは他に類を見ない。
「……また、何か言われたの?」
「だ、大丈夫だよ。心配しないで」
「アイツ、昔はあんなんじゃなかったのにね」
「……うん」
ソラネがため息混じりにそう言うと、レイはうつむいてしまった。
その様子を見て、ソラネはレイの肩に手を置き、
「大丈夫だよ、レイ。
ヒーローになるんでしょ?
周りの言うことなんて気にする必要ないよ」
「……ソラネが言うんじゃ、説得力に欠けるよ」
「何てこと言うんだよ、ひどいなぁ。
私は心から応援してるっていうのに」
ソラネはやれやれとばかりに首を振る。
「ソラネは手から火が出せて、みっちゃんは雷をまとえる。
他の皆もそれぞれ色んな権能があるのに、僕ときたら……」
「指先から、水がピューって出るだけ……」
「だけって言わないでぇっ!」
頭を抱えてそう叫ぶレイ。
ソラネは苦笑しながら、頭をポリポリと掻いた。
そして、二人は歩き出した。
「それで、何て言われたの?」
「僕がヒーローになんて、なれるわけないって」
「まあ、そんなとこだろうね。
そりゃ、自分が才能に恵まれてるからいいかもしれないけどさ」
「……いや、そうじゃないんだよ」
「そうじゃないって……。
――っ」
ソラネはハッとして、足を止めた。
よろよろと後ずさりをしながら、
「ごめんっ、ごめんっ……。
私、そんなつもりなくて……」
「ああ、大丈夫、大丈夫。気にしてないよ」
「ほんとに、ごめんね、レイ」
「もう、慣れたから」
「――」
未だ唇をわなわなと震わせながらではあるが、ソラネはレイの隣に戻った。
それから数十秒間、沈黙が流れた。
ソラネにとっては、その沈黙はあまりにも長かった。
「……思えば、みっちゃんがあんな風になっちゃったのも、あの日からだったね」
「――」
沈黙を破ったのは、ソラネではなくレイの方だった。
下を向きながら歩いていたソラネは顔を上げて、レイの顔を見る。
懐かしむような、そして悲しそうな顔をしていた。
それから、昔話でもするかのように、レイは語り出した。
***
十年前。
僕がまだ、五歳のときだった。
父と母は、人気トップクラスのヒーローで、常にみんなから慕われ、尊敬されていた伝説のヒーローだった。
「レーイ! 野球しようぜ!」
「ちょっと待ってー! 今トイレしてるの!」
「ウンコ?」
「違うよ。って、なんでトイレの窓から声かけてきてんのさ!」
「早く遊びたいからに決まってんだろ!」
村雲ミナト。通称、「みっちゃん」。
彼は僕の小さな頃からの幼馴染で、付き合いで言えばソラネよりも長い。
毎日のように家に遊びに来て、野球やらサッカーやら、ずっと一緒に居た。
「お待たせ!」
「よし、じゃあ行くぞ!
他のヤツらも呼びに行こうぜ!」
「うん!」
みっちゃんは近所のガキ大将的存在で、僕や周りの友達にとっては憧れの存在でもあった。
スポーツは何でもできて、何気に勉強もできて、そして何より、
「おらぁ!」
「ちょっと! 権能使うのはずりぃだろ!」
「権能出てないお前らが悪いんだよ」
五歳のときに、既にみっちゃんには権能が発現していた。
後に、「雷電」と呼ばれる権能。
その名の通り、雷を体にまとったり、手や足から雷を出したりできる権能だ。
当時はまだ少し強い火花が出る程度だったが、パワーの増幅は著しかった。
普通、権能の発現は小学校に上がってからがほとんど。
それなのに、みっちゃんには人よりも早く発現していた。
何より、ヒーローである両親に憧れていた僕にとっては、それが羨ましくて仕方がなかった。
そんなある日。
またいつものように、近所の友達たちで遊んでいたとき。
「ミナト!」
「あぇ? なに、父ちゃん?」
「母さんたちが……。母さんたちが……!」
「え?」
みっちゃんのお兄さんが、今にも泣きだしそうな顔でみっちゃんを呼びに来た。
わけもわからないままみっちゃんは、大きな病院に連れていかれた。
――みっちゃんの両親は、霊安室に横たわっていたらしい。
死因は、他殺。
――なんと、僕の両親によるものだった。
どうやら、みっちゃんの両親は、権能を使用した犯罪行為、つまり「フォールン」として動いていたらしい。
最初、僕は信じられなかった。
二つの、意味で。
まず、みっちゃんの両親がそんなことをするはずがないと思った。
たまに家に遊びに行くと、お母さんは笑顔でお菓子とジュースを出してくれた。
とても優しい人で、とても犯罪を犯すような人には見えなかった。
お父さんはたまにしか会えなかったけど、よく肩車をして遊んでくれていた。
そんな二人に限って、フォールンになるはずがないと。
そしてもう一つ。
僕の父と母が、間違ってもフォールンを殺したりしないと思った。
ヒーローは、決してフォールンを殺さない。
殺さずに確保して、警察に身柄を引き渡す。
それがヒーローとしての最大限の役目だ。
なのに、僕の両親は殺した。
それも、一番大事な友達であるみっちゃんの両親を。
その父と母を、世間はほめたたえた。
一部では否定的な声も上がっていたとのことだったが、それでも称賛の声の方が圧倒的に大きかった。
「何でッ……! テメェの親が褒められるんだよ……!」
そう、何度も言われた。
何度も何度も、僕が。
もちろん、悪いのはフォールンだ。
どんな理由があっても、最終的に悪いとされるのはいつもフォールンだ。
でも、あの時だけは、何か裏があると思った。
全てが、ありえないことだったから。
その日から、みっちゃんの当たりは日に日に冷たく、強くなっていった。
「ごめん、みっちゃ――」
「黙れ! 口開くんじゃねェ!」
日ごろから暴力を振るわれ、罵詈雑言を浴びせられる毎日。
最初は周りの友達も止めようとしてくれていたが、境遇が境遇だから、何も言えなくなっていった。
――そして今朝、僕は初めて権能を使われた。
休憩時間は常に張り詰めた空気が漂っており、授業中でさえも生徒たちは厳戒態勢だった。
しかしなんとか一日を乗り切り、レイは荷物をまとめて教室を出た。
帰りに、家にいる祖母からおつかいを頼まれているため、八百屋による必要がある。
「商店街を通ると遠回りなんだよなぁ……」
そう呟きながらも、レイは家路とは違う方向へと足を向けた。
「やっ」
「わっ、びっくりした……。
いつもいつも、驚かさないと気が済まないの? ソラネ」
「ごめんごめん。ついやっちゃうの」
日向ソラネ。
レイの幼馴染の一人で、幼稚園からずっと同じである。
クラスも違い、進路の関係で高校からは離れ離れになるが、それでもこの二人の仲の深さは他に類を見ない。
「……また、何か言われたの?」
「だ、大丈夫だよ。心配しないで」
「アイツ、昔はあんなんじゃなかったのにね」
「……うん」
ソラネがため息混じりにそう言うと、レイはうつむいてしまった。
その様子を見て、ソラネはレイの肩に手を置き、
「大丈夫だよ、レイ。
ヒーローになるんでしょ?
周りの言うことなんて気にする必要ないよ」
「……ソラネが言うんじゃ、説得力に欠けるよ」
「何てこと言うんだよ、ひどいなぁ。
私は心から応援してるっていうのに」
ソラネはやれやれとばかりに首を振る。
「ソラネは手から火が出せて、みっちゃんは雷をまとえる。
他の皆もそれぞれ色んな権能があるのに、僕ときたら……」
「指先から、水がピューって出るだけ……」
「だけって言わないでぇっ!」
頭を抱えてそう叫ぶレイ。
ソラネは苦笑しながら、頭をポリポリと掻いた。
そして、二人は歩き出した。
「それで、何て言われたの?」
「僕がヒーローになんて、なれるわけないって」
「まあ、そんなとこだろうね。
そりゃ、自分が才能に恵まれてるからいいかもしれないけどさ」
「……いや、そうじゃないんだよ」
「そうじゃないって……。
――っ」
ソラネはハッとして、足を止めた。
よろよろと後ずさりをしながら、
「ごめんっ、ごめんっ……。
私、そんなつもりなくて……」
「ああ、大丈夫、大丈夫。気にしてないよ」
「ほんとに、ごめんね、レイ」
「もう、慣れたから」
「――」
未だ唇をわなわなと震わせながらではあるが、ソラネはレイの隣に戻った。
それから数十秒間、沈黙が流れた。
ソラネにとっては、その沈黙はあまりにも長かった。
「……思えば、みっちゃんがあんな風になっちゃったのも、あの日からだったね」
「――」
沈黙を破ったのは、ソラネではなくレイの方だった。
下を向きながら歩いていたソラネは顔を上げて、レイの顔を見る。
懐かしむような、そして悲しそうな顔をしていた。
それから、昔話でもするかのように、レイは語り出した。
***
十年前。
僕がまだ、五歳のときだった。
父と母は、人気トップクラスのヒーローで、常にみんなから慕われ、尊敬されていた伝説のヒーローだった。
「レーイ! 野球しようぜ!」
「ちょっと待ってー! 今トイレしてるの!」
「ウンコ?」
「違うよ。って、なんでトイレの窓から声かけてきてんのさ!」
「早く遊びたいからに決まってんだろ!」
村雲ミナト。通称、「みっちゃん」。
彼は僕の小さな頃からの幼馴染で、付き合いで言えばソラネよりも長い。
毎日のように家に遊びに来て、野球やらサッカーやら、ずっと一緒に居た。
「お待たせ!」
「よし、じゃあ行くぞ!
他のヤツらも呼びに行こうぜ!」
「うん!」
みっちゃんは近所のガキ大将的存在で、僕や周りの友達にとっては憧れの存在でもあった。
スポーツは何でもできて、何気に勉強もできて、そして何より、
「おらぁ!」
「ちょっと! 権能使うのはずりぃだろ!」
「権能出てないお前らが悪いんだよ」
五歳のときに、既にみっちゃんには権能が発現していた。
後に、「雷電」と呼ばれる権能。
その名の通り、雷を体にまとったり、手や足から雷を出したりできる権能だ。
当時はまだ少し強い火花が出る程度だったが、パワーの増幅は著しかった。
普通、権能の発現は小学校に上がってからがほとんど。
それなのに、みっちゃんには人よりも早く発現していた。
何より、ヒーローである両親に憧れていた僕にとっては、それが羨ましくて仕方がなかった。
そんなある日。
またいつものように、近所の友達たちで遊んでいたとき。
「ミナト!」
「あぇ? なに、父ちゃん?」
「母さんたちが……。母さんたちが……!」
「え?」
みっちゃんのお兄さんが、今にも泣きだしそうな顔でみっちゃんを呼びに来た。
わけもわからないままみっちゃんは、大きな病院に連れていかれた。
――みっちゃんの両親は、霊安室に横たわっていたらしい。
死因は、他殺。
――なんと、僕の両親によるものだった。
どうやら、みっちゃんの両親は、権能を使用した犯罪行為、つまり「フォールン」として動いていたらしい。
最初、僕は信じられなかった。
二つの、意味で。
まず、みっちゃんの両親がそんなことをするはずがないと思った。
たまに家に遊びに行くと、お母さんは笑顔でお菓子とジュースを出してくれた。
とても優しい人で、とても犯罪を犯すような人には見えなかった。
お父さんはたまにしか会えなかったけど、よく肩車をして遊んでくれていた。
そんな二人に限って、フォールンになるはずがないと。
そしてもう一つ。
僕の父と母が、間違ってもフォールンを殺したりしないと思った。
ヒーローは、決してフォールンを殺さない。
殺さずに確保して、警察に身柄を引き渡す。
それがヒーローとしての最大限の役目だ。
なのに、僕の両親は殺した。
それも、一番大事な友達であるみっちゃんの両親を。
その父と母を、世間はほめたたえた。
一部では否定的な声も上がっていたとのことだったが、それでも称賛の声の方が圧倒的に大きかった。
「何でッ……! テメェの親が褒められるんだよ……!」
そう、何度も言われた。
何度も何度も、僕が。
もちろん、悪いのはフォールンだ。
どんな理由があっても、最終的に悪いとされるのはいつもフォールンだ。
でも、あの時だけは、何か裏があると思った。
全てが、ありえないことだったから。
その日から、みっちゃんの当たりは日に日に冷たく、強くなっていった。
「ごめん、みっちゃ――」
「黙れ! 口開くんじゃねェ!」
日ごろから暴力を振るわれ、罵詈雑言を浴びせられる毎日。
最初は周りの友達も止めようとしてくれていたが、境遇が境遇だから、何も言えなくなっていった。
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