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第1章 黎明入学編
第4話 無理に決まってる
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「えっ、権能を使われたの!?
あの危ない雷を!?」
「うん。でも、完全に僕が悪かったから」
「いやいや、いくらなんでもそれはダメだよ!
下手したら死んじゃうんだよ!?」
「……それでも、僕がみっちゃんの神経を逆なでしたことには変わりないよ」
その言葉を聞いて、ソラネはグッと拳を握った。
「レイは、優しすぎるよ」
「え?」
「言いたいことあるんだったら、はっきり言っとかないとダメ……。
あ、でもむやみなこと言ったら本当に殺されかねないか」
「あはは……。まあ、大丈夫だと思うよ。
みっちゃんは、僕が嫌いだけど、殺しまではしないと思うから」
「そう言いきれる根拠は、あるの?」
レイはその問いかけに、前を向いたまま、
「――みっちゃんも、ヒーローになりたがってるから」
「――」
芯の強く通ったその声に、ソラネは思わず押し黙ってしまう。
レイの顔に目が釘付けになって、離れない。
「確かに、僕はみっちゃんの親の仇みたいなものかもしれない。
でも、僕は夢を諦めたくない。
やっぱり、みっちゃんは僕の大事な友達だし、ライバルでもあるから」
「――」
「……なんてかっこいいこと言ってみたけど、僕は普通高校に進学するんだ。
もう、推薦ももらってるし」
「えっ?」
突然そう言われ、目を見開いたソラネ。
ヒーローを目指すには、普通高校に進学するべきではない。
『ヒーロー科』という学科は、普通高校にはまずないからだ。
プロヒーローになるには、ヒーロー科を出ることが不可欠だ。
卒業とともにヒーロー免許を取ることで初めて、ヒーローになれたと言えるのである。
それなのに、ヒーローを目指しているレイは、普通高校へ進学すると言った。
ソラネは、言葉の意味が理解できなかった。
「なんで……? どうして?
ヒーローになるって、ずっと言ってたじゃん!
っていうか、なんで今まで黙ってたの!?」
「ソラネは、『黎明』に行くんだよね。
全国最高峰の、ヒーロー育成高校」
「そう、だけど……。何で、黎明を受験しないの!?」
「――」
「ねえ――!」
「――無理に、決まってるからじゃないか!」
レイは初めて、声を荒げた。
昔から怒りの感情を前面に出さなかったレイが、怒った。
唇を震わせながら、うつむきながら、
「黎明は、ソラネやみっちゃんみたいに、すごい権能を持った人たちがたくさんいる!
せいぜい指から水を出す程度の権能しか持ってない僕が、そんな所に割って入れると思う!?」
「それはっ……」
「今日の一件で、踏ん切りがついたよ。
あんな力を持ってる人が、ヒーローになるべきなんだなって思った。
みっちゃんの言ってることは、百パーセント正しい。
僕なんかじゃ、ヒーローには……なれない」
声を震わせて、涙をこぼすレイ。
その姿に、ソラネは何も言えなかった。
否、なんと声をかけていいのか分からなかった。
「――レイ!」
言葉を絞り出そうと必死なソラネを置いて、レイは走り出した。
追いかけようと足を踏み出したが、もう片方の足は出てこなかった。
強く拳を握って、みるみる遠くなっていく背を見ているしかできなかった。
――とっとと頼まれたものだけ買って帰ろう。
そう頭の中で呟きながら、レイは振り返ることなく商店街の方へ向かった。
すっかりソラネの姿が遠くなったところで――、
「――なんだ、今の」
巨大な爆発音が、そう遠くない所から聞こえた。
***
一方その頃。
「なあ、ミナト。さすがに、やりすぎたんじゃないか?」
「アァ? 知らねェよ」
「ほら、お前の親の件だって、別に星野は何も悪くなんか……」
「――ッるせェんだよ!」
ミナトは、二人の友人と街を歩いていた。
オレンジ色の空を見上げながら、ふと思い出す。
『僕はそれでも、ヒーローになりたい』
この、言葉を。
「……チッ。無能はいくらほざいたって無能なんだよ」
村雲ミナトは、星野レイが嫌いだ。
この世界の何よりも、あの顔が憎い。
――霊安室に立ち会っていた、レイの両親の顔によく似たあの顔。
特に、うつむいていた時の顔。
悔恨の抱いたあの目、震える唇。
全てが、憎い。
「気分転換に、どっか寄って帰るか?」
「ゲーセンでも寄ってかね?
ミナトも来るだろ?」
「……あァ」
乗り気ではないが、とりわけやることもないので、二人に同行することにした。
この二人とは、一年生のときから一度もクラスが離れたことがない。
ゆえに、仲は良い。
厳密には、この二人はミナトの扱い方を心得ていると言った方が正しい。
最初はひどいものだった。
ゴミを見るかのような目で睨まれ、話しかけることすら恐れていたが、
一度話しかけてみれば案外話の通じる人間だとわかった。
それ以来、二人は常にミナトの両翼にいる。
「ちょっとトイレ行ってくるから、待っててくれ」
「あ、俺も行く。ミナトは?」
「行かねェ。待ってるからとっとと済ませろ」
ポケットに手を突っ込んだまま、建物の壁にもたれかかった。
目を閉じれば、レイの顔が思い浮かぶ。
当然、これは不本意ではある。
だが、
『この手で、困ってる人間をたくさん救いたい!』
ふとしたときに、脳裏をよぎるのだ。
「……黙れやァ!」
手のひらに帯電させ、その手で建物を殴った。
コンクリート造りであるため問題はないが、道行く人からの視線を集めた。
「……テメェの力じゃ、無理に決まってんだろ」
レイの権能は、知っている。
その上で、はっきりと言える。
レイは、ヒーローになんてなれやしないと。
雷を操ることのできるミナトにとって、レイは赤子のようなもの。
昔から全てにおいてミナトよりも劣っていたレイなど、もはや眼中にないのだ。
それなのに――、
「……ムカつくんだよ」
「――何カッカしてんだよ、ガキ」
「――ッ!?」
聞き覚えのない声が聞こえたと思った瞬間、ミナトは口を塞がれた。
鼻は塞がれていないため辛うじて息はできるが、恐怖で体が動かない。
「ンンンンン!」
「なに!? フォールン!?」
「警察に通報しなきゃ――」
「――おっと待ったァ。通報なんてしたら、捕まっちまうだろ?
少しでも怪しい挙動見せてみろ。――このガキ諸共、この辺りを燃やし尽くすぞォ!」
そう言いながら、口から炎を吐いた男。
周辺に停めてあった車に引火し、爆発した。
(何とかして逃げねェと……!)
「おぉっと、お前は自分の立場が分かってないのかァ?
こんなところで雷の権能なんて使ったら、さらに大きい爆発が起きちまうぞォ?」
「……クソッ!」
「俺の業火に焼かれたくなけりゃ、大人しくしておくんだなァ。
もうしばらくしたら、ここを離れて俺の家に連れて帰ってやるから」
「――ッ!」
暴れることはできない。
だがこのままでは、自分はこの男に誘拐されてしまう。
(クソ、が……!)
ミナトは轟々と燃える街を見ながら、顔をしかめた。
あの危ない雷を!?」
「うん。でも、完全に僕が悪かったから」
「いやいや、いくらなんでもそれはダメだよ!
下手したら死んじゃうんだよ!?」
「……それでも、僕がみっちゃんの神経を逆なでしたことには変わりないよ」
その言葉を聞いて、ソラネはグッと拳を握った。
「レイは、優しすぎるよ」
「え?」
「言いたいことあるんだったら、はっきり言っとかないとダメ……。
あ、でもむやみなこと言ったら本当に殺されかねないか」
「あはは……。まあ、大丈夫だと思うよ。
みっちゃんは、僕が嫌いだけど、殺しまではしないと思うから」
「そう言いきれる根拠は、あるの?」
レイはその問いかけに、前を向いたまま、
「――みっちゃんも、ヒーローになりたがってるから」
「――」
芯の強く通ったその声に、ソラネは思わず押し黙ってしまう。
レイの顔に目が釘付けになって、離れない。
「確かに、僕はみっちゃんの親の仇みたいなものかもしれない。
でも、僕は夢を諦めたくない。
やっぱり、みっちゃんは僕の大事な友達だし、ライバルでもあるから」
「――」
「……なんてかっこいいこと言ってみたけど、僕は普通高校に進学するんだ。
もう、推薦ももらってるし」
「えっ?」
突然そう言われ、目を見開いたソラネ。
ヒーローを目指すには、普通高校に進学するべきではない。
『ヒーロー科』という学科は、普通高校にはまずないからだ。
プロヒーローになるには、ヒーロー科を出ることが不可欠だ。
卒業とともにヒーロー免許を取ることで初めて、ヒーローになれたと言えるのである。
それなのに、ヒーローを目指しているレイは、普通高校へ進学すると言った。
ソラネは、言葉の意味が理解できなかった。
「なんで……? どうして?
ヒーローになるって、ずっと言ってたじゃん!
っていうか、なんで今まで黙ってたの!?」
「ソラネは、『黎明』に行くんだよね。
全国最高峰の、ヒーロー育成高校」
「そう、だけど……。何で、黎明を受験しないの!?」
「――」
「ねえ――!」
「――無理に、決まってるからじゃないか!」
レイは初めて、声を荒げた。
昔から怒りの感情を前面に出さなかったレイが、怒った。
唇を震わせながら、うつむきながら、
「黎明は、ソラネやみっちゃんみたいに、すごい権能を持った人たちがたくさんいる!
せいぜい指から水を出す程度の権能しか持ってない僕が、そんな所に割って入れると思う!?」
「それはっ……」
「今日の一件で、踏ん切りがついたよ。
あんな力を持ってる人が、ヒーローになるべきなんだなって思った。
みっちゃんの言ってることは、百パーセント正しい。
僕なんかじゃ、ヒーローには……なれない」
声を震わせて、涙をこぼすレイ。
その姿に、ソラネは何も言えなかった。
否、なんと声をかけていいのか分からなかった。
「――レイ!」
言葉を絞り出そうと必死なソラネを置いて、レイは走り出した。
追いかけようと足を踏み出したが、もう片方の足は出てこなかった。
強く拳を握って、みるみる遠くなっていく背を見ているしかできなかった。
――とっとと頼まれたものだけ買って帰ろう。
そう頭の中で呟きながら、レイは振り返ることなく商店街の方へ向かった。
すっかりソラネの姿が遠くなったところで――、
「――なんだ、今の」
巨大な爆発音が、そう遠くない所から聞こえた。
***
一方その頃。
「なあ、ミナト。さすがに、やりすぎたんじゃないか?」
「アァ? 知らねェよ」
「ほら、お前の親の件だって、別に星野は何も悪くなんか……」
「――ッるせェんだよ!」
ミナトは、二人の友人と街を歩いていた。
オレンジ色の空を見上げながら、ふと思い出す。
『僕はそれでも、ヒーローになりたい』
この、言葉を。
「……チッ。無能はいくらほざいたって無能なんだよ」
村雲ミナトは、星野レイが嫌いだ。
この世界の何よりも、あの顔が憎い。
――霊安室に立ち会っていた、レイの両親の顔によく似たあの顔。
特に、うつむいていた時の顔。
悔恨の抱いたあの目、震える唇。
全てが、憎い。
「気分転換に、どっか寄って帰るか?」
「ゲーセンでも寄ってかね?
ミナトも来るだろ?」
「……あァ」
乗り気ではないが、とりわけやることもないので、二人に同行することにした。
この二人とは、一年生のときから一度もクラスが離れたことがない。
ゆえに、仲は良い。
厳密には、この二人はミナトの扱い方を心得ていると言った方が正しい。
最初はひどいものだった。
ゴミを見るかのような目で睨まれ、話しかけることすら恐れていたが、
一度話しかけてみれば案外話の通じる人間だとわかった。
それ以来、二人は常にミナトの両翼にいる。
「ちょっとトイレ行ってくるから、待っててくれ」
「あ、俺も行く。ミナトは?」
「行かねェ。待ってるからとっとと済ませろ」
ポケットに手を突っ込んだまま、建物の壁にもたれかかった。
目を閉じれば、レイの顔が思い浮かぶ。
当然、これは不本意ではある。
だが、
『この手で、困ってる人間をたくさん救いたい!』
ふとしたときに、脳裏をよぎるのだ。
「……黙れやァ!」
手のひらに帯電させ、その手で建物を殴った。
コンクリート造りであるため問題はないが、道行く人からの視線を集めた。
「……テメェの力じゃ、無理に決まってんだろ」
レイの権能は、知っている。
その上で、はっきりと言える。
レイは、ヒーローになんてなれやしないと。
雷を操ることのできるミナトにとって、レイは赤子のようなもの。
昔から全てにおいてミナトよりも劣っていたレイなど、もはや眼中にないのだ。
それなのに――、
「……ムカつくんだよ」
「――何カッカしてんだよ、ガキ」
「――ッ!?」
聞き覚えのない声が聞こえたと思った瞬間、ミナトは口を塞がれた。
鼻は塞がれていないため辛うじて息はできるが、恐怖で体が動かない。
「ンンンンン!」
「なに!? フォールン!?」
「警察に通報しなきゃ――」
「――おっと待ったァ。通報なんてしたら、捕まっちまうだろ?
少しでも怪しい挙動見せてみろ。――このガキ諸共、この辺りを燃やし尽くすぞォ!」
そう言いながら、口から炎を吐いた男。
周辺に停めてあった車に引火し、爆発した。
(何とかして逃げねェと……!)
「おぉっと、お前は自分の立場が分かってないのかァ?
こんなところで雷の権能なんて使ったら、さらに大きい爆発が起きちまうぞォ?」
「……クソッ!」
「俺の業火に焼かれたくなけりゃ、大人しくしておくんだなァ。
もうしばらくしたら、ここを離れて俺の家に連れて帰ってやるから」
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だがこのままでは、自分はこの男に誘拐されてしまう。
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