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第1章 黎明入学編
第6話 ごめんなさい
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商店街事件から、三日が経過。
あの後、レイは駆けつけたヒーローによって助けられ、病院まで運ばれた。
幸いにも軽い火傷と打撲で済んだが、ヒーロー、警察からはこっぴどく叱られた。
ミナトも、ヒーローに救われて病院へ直行。
彼もまた、外傷といえば軽い火傷程度だった。
人生で出したことのないような声を張り上げながら、レイは自らの権能を解放した。
ただ、目を見張るような権能が現れたわけではなく、彼の持つ権能のみを用いてミナトを救おうとした。
レイは拳を天に掲げ、人差し指だけを突き出した。
その指先から出た水は、あの炎のフォールンの頭上を越えて、後ろで燃えていた車に達した。
そして、ガソリンによって燃えていた炎に水が加わったことで、ガス爆発を起こしたのだ。
それによって、フォールンは吹き飛ばされた。
爆発による衝撃で意識を失ったまま、フォールンは逮捕された。
そして、レイ。
彼もまた、警察に厳重注意を受けた。
レイは、ヒーロー免許を持たずに武力行使をすることが犯罪になり得ると分かった上で、権能を解放して危害を加えた。
そして、周りの建物に爆発の被害が及んだ。
いくら捕まっている友人を助けようとした場合だったとしても、規則は規則。
――星野レイは、普通高校の推薦を取り消された。
「……」
「レイ、大丈夫かえ?」
「あ、うん。大丈夫、だけど……」
現在、一月の半ば。
この時期に推薦を取り消されるのは、レイにとってかなりの痛手だ。
学力においてはクラス内でトップクラスではあるが、他の生徒のように入学試験勉強など全くしていない。
レイの進学予定だった高校は、推薦をもらえば筆記試験が免除される。
面接、小論文のみで合否が判断されるため、学力試験の勉強は微塵もしていない。
入試は三月。
残り、二か月もないのだ。
「僕、なんであんなことしたんだろうっ……!」
「レイ?」
「ただでさえばあちゃん一人で俺を育ててくれてるのに、迷惑ばっかりかけてっ……!
少しでも楽させてあげようって思って、頑張ってきたのにっ……!
あの一瞬で、全部台無しになっちゃったっ……!」
「レイ……」
箸を止めて、レイは涙を流す。
祖母はそれを見て、同時に箸をおいてうつむいた。
レイが推薦を貰っていた高校には、特待生制度がある。
特待生として推薦をしてもらえば、入学金などの諸々のお金を免除される。
女手一つで育ててくれた祖母に恩返しをして、楽をさせてあげようとしていたレイだったが、
先日の商店街事件によって、積み上げてきたものすべてが台無しになってしまったのだ。
「ばあちゃん、怒ってないよ」
「でもっ……! 僕の無責任な行動なせいでっ……!」
「――後悔、するんじゃないよ」
「……え?」
後悔するな、なんて言われても無理だ。
あんな行動をしなければ、こんなことにはならなかった。
こんなことになるなんて、思わなかった。
「ばあちゃん、ヒーローのことに詳しいわけじゃないんだけどね。
免許持ってなきゃ、権能で危害を加えたらダメなんじゃろう?」
「……うん」
「レイは、それを破ってまで、友達を助けることを優先したんだろう?」
「――」
レイは顔を上げて、祖母の顔を見る。
顔をしかめるわけでも、悲しんでいるわけでもなく。
ただ、笑っていた。
「確かに、社会的には許されたもんじゃないかもしれないよ。
でも、レイは大切な友達を守るために飛び出したんじゃろ。
それで、結果としてレイもお友達も助かった。
死人は出なかったとも聞いた」
「……」
「――レイは、人の命を救ったんだよ」
その言葉に、レイは目頭が熱くなっていくのを感じる。
裏を返して考えてみれば、
あの時飛び出さなければ、ミナトはどうなっていたかわからない。
あのままヒーローが来るのを待っていれば、何事もなく事は済んだかもしれない。
それでも、動いたことで二人とも助かったのも事実だ。
ヒーローを諦めたのにもかかわらず、気づけば事件の現場に立っていた。
そして気づけば、体が勝手に動いていた。
人並み外れた権能を持っているわけでもないのに、なりふり構わず飛び出していた。
思えば、無謀な行動だった。
下手をすれば、どちらも死んでいてもおかしくなかった。
「そして、レイも生きて帰ってきてくれた。
ばあちゃん、それだけで十分なんだよ」
「ばあ、ちゃんっ……!」
「恩返しとか、楽させるとか、そういうこと考えてくれるのはすごく嬉しいさ。
でもね、レイ。――元気に生きてくれてることが、ばあちゃんの元気になってるんだよ」
決壊した。
堤防が決壊して川が氾濫するかのように、レイの涙腺は崩壊した。
祖母は立ち上がり、レイの頭を胸に抱いた。
頭を優しく撫でられ、思い出す感覚。
祖母の手つきは、亡くなった母によく似ている。
それがまた、レイの感情の決壊に拍車をかける。
「ごめんなさいっ……! ごめんなさいっ……!」
迷惑をかけた大人へ。
世話を焼いてくれたヒーローへ。
心配をかけた祖母へ。
――そして、ヒーローだった両親へ。
ずっと両親へ憧れて生きてきた。
でも、あの日のミナトの言葉、さらに商店街事件で決心がついた。
「僕、もう、ヒーローを諦め――」
祖母の服を握りしめてそう言いかけたその時。
外で、呼び鈴が鳴った。
何度も何度も、立て続けに。
「ちょっと出てくるね。待ってておくれ」
「……うん」
祖母はレイのもとを離れ、玄関へ向かう。
そして、「はーい、ただいま」と言いながら、扉を開けた。
そこに立っていたのは、
「えっと……どちら様でしょうかね」
「星野レイ、という少年の自宅はここで合っとるかい、婆さん」
「は、はあ」
涙目のまま玄関を見つめると、一人の老人が立っていた。
背は祖母より少し低く、杖をついて祖母を見上げてるようにして立っている。
その老人と、レイは目が合った。
「ワシは、灰原恒一という者じゃ。
少し、星野くんと話をさせてほしいんじゃが」
「――灰原、恒一?」
レイはその名前を聞いて、目を見開いた。
あの後、レイは駆けつけたヒーローによって助けられ、病院まで運ばれた。
幸いにも軽い火傷と打撲で済んだが、ヒーロー、警察からはこっぴどく叱られた。
ミナトも、ヒーローに救われて病院へ直行。
彼もまた、外傷といえば軽い火傷程度だった。
人生で出したことのないような声を張り上げながら、レイは自らの権能を解放した。
ただ、目を見張るような権能が現れたわけではなく、彼の持つ権能のみを用いてミナトを救おうとした。
レイは拳を天に掲げ、人差し指だけを突き出した。
その指先から出た水は、あの炎のフォールンの頭上を越えて、後ろで燃えていた車に達した。
そして、ガソリンによって燃えていた炎に水が加わったことで、ガス爆発を起こしたのだ。
それによって、フォールンは吹き飛ばされた。
爆発による衝撃で意識を失ったまま、フォールンは逮捕された。
そして、レイ。
彼もまた、警察に厳重注意を受けた。
レイは、ヒーロー免許を持たずに武力行使をすることが犯罪になり得ると分かった上で、権能を解放して危害を加えた。
そして、周りの建物に爆発の被害が及んだ。
いくら捕まっている友人を助けようとした場合だったとしても、規則は規則。
――星野レイは、普通高校の推薦を取り消された。
「……」
「レイ、大丈夫かえ?」
「あ、うん。大丈夫、だけど……」
現在、一月の半ば。
この時期に推薦を取り消されるのは、レイにとってかなりの痛手だ。
学力においてはクラス内でトップクラスではあるが、他の生徒のように入学試験勉強など全くしていない。
レイの進学予定だった高校は、推薦をもらえば筆記試験が免除される。
面接、小論文のみで合否が判断されるため、学力試験の勉強は微塵もしていない。
入試は三月。
残り、二か月もないのだ。
「僕、なんであんなことしたんだろうっ……!」
「レイ?」
「ただでさえばあちゃん一人で俺を育ててくれてるのに、迷惑ばっかりかけてっ……!
少しでも楽させてあげようって思って、頑張ってきたのにっ……!
あの一瞬で、全部台無しになっちゃったっ……!」
「レイ……」
箸を止めて、レイは涙を流す。
祖母はそれを見て、同時に箸をおいてうつむいた。
レイが推薦を貰っていた高校には、特待生制度がある。
特待生として推薦をしてもらえば、入学金などの諸々のお金を免除される。
女手一つで育ててくれた祖母に恩返しをして、楽をさせてあげようとしていたレイだったが、
先日の商店街事件によって、積み上げてきたものすべてが台無しになってしまったのだ。
「ばあちゃん、怒ってないよ」
「でもっ……! 僕の無責任な行動なせいでっ……!」
「――後悔、するんじゃないよ」
「……え?」
後悔するな、なんて言われても無理だ。
あんな行動をしなければ、こんなことにはならなかった。
こんなことになるなんて、思わなかった。
「ばあちゃん、ヒーローのことに詳しいわけじゃないんだけどね。
免許持ってなきゃ、権能で危害を加えたらダメなんじゃろう?」
「……うん」
「レイは、それを破ってまで、友達を助けることを優先したんだろう?」
「――」
レイは顔を上げて、祖母の顔を見る。
顔をしかめるわけでも、悲しんでいるわけでもなく。
ただ、笑っていた。
「確かに、社会的には許されたもんじゃないかもしれないよ。
でも、レイは大切な友達を守るために飛び出したんじゃろ。
それで、結果としてレイもお友達も助かった。
死人は出なかったとも聞いた」
「……」
「――レイは、人の命を救ったんだよ」
その言葉に、レイは目頭が熱くなっていくのを感じる。
裏を返して考えてみれば、
あの時飛び出さなければ、ミナトはどうなっていたかわからない。
あのままヒーローが来るのを待っていれば、何事もなく事は済んだかもしれない。
それでも、動いたことで二人とも助かったのも事実だ。
ヒーローを諦めたのにもかかわらず、気づけば事件の現場に立っていた。
そして気づけば、体が勝手に動いていた。
人並み外れた権能を持っているわけでもないのに、なりふり構わず飛び出していた。
思えば、無謀な行動だった。
下手をすれば、どちらも死んでいてもおかしくなかった。
「そして、レイも生きて帰ってきてくれた。
ばあちゃん、それだけで十分なんだよ」
「ばあ、ちゃんっ……!」
「恩返しとか、楽させるとか、そういうこと考えてくれるのはすごく嬉しいさ。
でもね、レイ。――元気に生きてくれてることが、ばあちゃんの元気になってるんだよ」
決壊した。
堤防が決壊して川が氾濫するかのように、レイの涙腺は崩壊した。
祖母は立ち上がり、レイの頭を胸に抱いた。
頭を優しく撫でられ、思い出す感覚。
祖母の手つきは、亡くなった母によく似ている。
それがまた、レイの感情の決壊に拍車をかける。
「ごめんなさいっ……! ごめんなさいっ……!」
迷惑をかけた大人へ。
世話を焼いてくれたヒーローへ。
心配をかけた祖母へ。
――そして、ヒーローだった両親へ。
ずっと両親へ憧れて生きてきた。
でも、あの日のミナトの言葉、さらに商店街事件で決心がついた。
「僕、もう、ヒーローを諦め――」
祖母の服を握りしめてそう言いかけたその時。
外で、呼び鈴が鳴った。
何度も何度も、立て続けに。
「ちょっと出てくるね。待ってておくれ」
「……うん」
祖母はレイのもとを離れ、玄関へ向かう。
そして、「はーい、ただいま」と言いながら、扉を開けた。
そこに立っていたのは、
「えっと……どちら様でしょうかね」
「星野レイ、という少年の自宅はここで合っとるかい、婆さん」
「は、はあ」
涙目のまま玄関を見つめると、一人の老人が立っていた。
背は祖母より少し低く、杖をついて祖母を見上げてるようにして立っている。
その老人と、レイは目が合った。
「ワシは、灰原恒一という者じゃ。
少し、星野くんと話をさせてほしいんじゃが」
「――灰原、恒一?」
レイはその名前を聞いて、目を見開いた。
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