ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第1章 黎明入学編

第7話 運命に見初められて

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 灰原、恒一。
 その名前には、聞き覚えがあった。

「んじゃ、邪魔するぞい」
「ちょっと、まだ何も言ってないんですけど」

 あたふたする祖母を尻目に、レイの目の前に立つ。
 ――その間、一瞬。

「君が、星野レイじゃな」
「は、はい」
「お主……」

 ギロリと睨みつけるような目つき。
 威圧感に近い何かを感じ、レイは固唾を飲んで身構える。

「……なぜそんなに泣いておるんじゃ?」
「……はい?」
「いやだから、何でそんなに泣いとるのかと思って。
 誰かに泣かされたのか? あの婆さんか?」
「えっと、あ、あの」

 レイはわかりやすく狼狽《うろた》える。
 祖母もゆっくりとこちらにやってきて、レイの隣に立った。

「とまあ、茶番は置いといてじゃな。
 二人とも、かけるといい」

 (そればあちゃんが言うやつじゃ……?)

 と内心でツッコミを入れつつも、祖母と共に席に着いた。
 恒一は杖を机に立てかけ、「よっこらせ」と言いながら椅子に腰を下ろした。

「さて、改めて自己紹介をさせてもらうぞい。
 ワシは、灰原恒一という。今となってはこんなに老いぼれちまったが……。
 ――――ワシは、元ヒーローじゃ」
「やっぱり!!」
「え、何で知っとるんじゃ」
「灰原恒一、ヒーロー名は《オラクル》。
 五十年前に全盛期を迎え、『予見眼』という権能を武器に国中に名を馳せた伝説のヒーロー!
 その類稀なる権能に加えて、単純な戦闘能力でも群を抜いていたのに、なぜか人気ヒーローランキングでは毎回下位に沈むというギャップぶり……」
「最後の要らんじゃろう!」

 レイは「すみません、つい……」と頭を掻く。
 祖母は何が何だかまったくわからないまま、二人の顔を交互に見る。

「それで、元ヒーローさんが何のご用でウチに?」
「ああ、それじゃ。本題に移るぞ」

 恒一はひと呼吸おいて、座り直した。
 そして立てかけた杖を持ち上げ、その杖先でレイを指した。

「星野レイを、ワシの――」
「コラァァァァァァァァ!」
「いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 何かを言いかけた恒一の頭を、祖母はバシンと強く叩いた。

「食卓の上にそんな汚いものを上げるんじゃないよォォ!」
「な、なんじゃこの婆さんは……!
 老婆の力じゃねえぞ……!」
「ワシはまだ18じゃ!」
「そりゃ無理じゃろ!」

(熟年夫婦みたいだ……)

 出会って数分とは思えないやり取りに、そんな言葉が脳に浮かぶ。
 しかしそれよりも、何を言いかけたのかが気になる。

「ぼ、僕がどうかしたんですか?」
「ああ……。お主を、ワシの弟子にとりたくてな」
「オラクルの、弟子……?」

 言葉の意味を、脳が処理しきれない。
 かつての伝説のヒーロー、弟子……。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「うるっさいわァァァァァァァ!」
「孫に手出すんじゃないよォォォォォ!」
「いっでぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ***


 祖母を除く二人の頭にタンコブができたところで、恒一はレイを連れて外へ出た。
 レイは心配する祖母を、「この人は大丈夫だよ」と説得し、それについて行った。

「あのニュース、見たぞ」
「商店街事件のことですよね」
「ああ。本当に、馬鹿者じゃな」
「うっ……。まあ、そう言われても仕方ないですよね」

 杖をつきながら、ゆっくりと歩く恒一。
 レイは突然の罵倒を受けて驚きつつも、それをすぐに受け入れた。

 雪は降っていないものの、寒さは厳しい。
 頭にできたタンコブが、冷気に触れてジンジンと痛む。
 痛みに涙を浮かべながら頭を撫で、

「その、弟子ってどういうことですか?」
「文字通りじゃ。お前さんを、ワシの弟子にする」
「何においての、弟子なんですか?」
「……お主、察しが悪いとよく言われんか」

 純粋に知りたがるレイに、恒一は呆れたような目で見る。
 多くの車の通る街なかを、どこへ行く当てもなく歩く二人。
 レイは、どうして外に連れ出されたのかわからないまま、恒一について行っている。

「ワシは元ヒーロー。そのワシが弟子にとると言っとるんじゃ。
 この時点でわからんか?」
「僕を、弟子に……」
「……」

 レイは再び、考え込むようなそぶりを見せる。
 すると、

「だああ!」
「いだぁぁぁ!?」
「じれったいのう、まったく……」

 杖先で、レイの背中をグリグリと突いた。
 両肩甲骨の間を突かれ、反射的に声が出た。

「――お前さんを、ヒーローに仕立て上げる」
「――っ!?」

 大胆不敵な笑みを浮かべる恒一に、レイは目を見開いた。

「でも、どうして僕なんですか?」
「三つ、理由がある」
「三つ?」
「うむ。まず、あのニュースを見てお主に興味を持ったからじゃ。
 無策で無謀で、周りへの影響も鑑みないような最悪の判断じゃったが、
 人を助けようと咄嗟に動くというのはヒーローに必要な素質。
 あの場面で迷わず飛び出すというのは、相当な胆力が必要だったはずじゃ。
 肝は、十分に座っておる」

 レイは恒一の言葉を聞いて、複雑な心境になる。
 褒められている部分に目が行きがちだが、そうでないところに目を向ける。

 無策で、無謀。
 まさに、あの状況でのレイにぴったりの言葉だった。

「それに、ワシはお主の両親の師匠でもあるからな」
「え!? そうなんですか!?」
「そうじゃが」
「確かに、ヒーローを引退した後はヒーロー科高校の教師になるか、弟子をとるかなど、様々な形で次世代のヒーローを育成することが多いですが……。
 オラクルは引退してから数十年も隠居していたとしか聞いたことがなかったんですが……」
「ああ、公的にはそんなこと言っとったな。
 でも、ワシがあいつらを育てていたのは本当じゃ。
 じゃからその息子のお前も育ててみたい、と思った」

 両親の、師匠。
 そんな人間に興味を持ってもらえるなど、レイは夢にも見なかった。

「――ってのはあくまで、建前じゃ」
「……え?」

 と言ったところで、二人は公園へ入った。
 もう廃れてしまった公園のため、子供はおろか人っ子一人いない。

 恒一はベンチに腰かけ、杖を持ち上げた。
 そして先ほどのように杖先をレイに向けて、

「――――お主、このままだと死ぬぞ」

 そう、一言告げた。
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