8 / 33
第1章 黎明入学編
第8話 弟子入り
しおりを挟む
「死、ぬ……?」
「うん。死ぬ」
「何で!? どうして!?
怖いです!」
「まあまあ、一から説明するから落ち着くんじゃ」
あまりに突拍子もない言葉に、レイは慌てふためく。
恒一はそれを静め、杖を下ろした。
「ワシの権能は、知っておるな」
「はい。『予見眼』ですよね」
「そうじゃ。戦闘において、相手の動きを数秒先まで読むことができる。
公式には、それだけ言っておる」
「公式には、ってことは、それだけじゃないってことですか?」
「うむ。まあ、簡単に言うなら……。
――『未来視』じゃ」
灰原恒一、改めヒーロー《オラクル》は、『予見眼』を持っている。
色の違う右目に移った相手の行動を、先読みすることができる。
しかし、恒一は予見眼の他に、「未来視」という権能も持ち合わせていると言った。
「未来視……」と恒一の言葉を復唱したレイに、
「ワシの意思次第ではあるが、目に映ったものの未来を見ることができる。
例えば、そこの虫を見てみろ」
恒一は杖で、空中でホバリングしている虫を指した。
虫があまり好きではないレイはわずかに顔をしかめながらも、その虫を見つめる。
「その虫はすぐに、死ぬ」
そう言った直後。
「――っ!」
空から飛翔してきた鳥が、虫に覆いかぶさった。
飛び去った鳥のいた場所に、もう虫はいなかった。
「こんな感じで、映ったものの『結末』を見ることができるんじゃ」
「すごい……。万能じゃないですか」
「いいや、そうでもないぞ。あくまで、『結末』を見られるだけ。
いつ、どんな風にそういった結末を迎えるのかまではわからん。
つまり、わかるな?」
「……僕がいつどうやって死ぬのかは、わからない」
「そういうことだ」
レイは、意味もなく自らの手のひらを見つめる。
小刻みに、震えているのを感じる。
――怖いのだ。死ぬのが。
「ワシのこの権能について知っておるのは、お前とその両親だけじゃ。
そして、死ぬ未来を知っておるのも、まったく同じ」
「……待ってください。父さんと母さんは、僕が死ぬ未来にあることを知ってたってことですか?」
「イェス。出産直後のお前を抱いた時、ふと権能を使ってしまってな。
そのときに、見えてしまったんじゃ」
最初から、知っていた。
まさか生まれたてのときに伝説のヒーローに出会っていたとは思わなかった。
嬉しさ半分、困惑半分。
否、困惑八割である。
「その……どんなふうに死んでいたのかは、わかるんですか?」
「確か、路地裏で胴と下半身を両断されて死んでおったはずじゃ」
「怖っ!? ……って、死んでいたはずっていうのは?」
「ああ、対象の未来を見れるのは一度だけじゃからな。
もうどんだけ気張っても、お前さんの未来は見えん。
出るのはウンコだけじゃ」
「上手くないです……」
誇ったような顔をする恒一を、冷めた目で見るレイ。
しかしその目はやはり、不安と焦燥に満ちている。
――このままでは、死ぬ。
つまり、何かをしなければ死んでしまうということだ。
「でも、それとこれに何の関係が?」
「未来視の権能を使うと、意識を犠牲にその起こりうる未来の中に入ることができる。
その中では、ある程度の範囲内では自由に動けるんじゃが……。
どうやら、お前さんは抵抗する術もないまま死んだようじゃった」
「そんなこと、どうやってわかったんですか?」
「人が死ぬときの表情は多種多様。
歪んだ顔で死んでいれば、それは激しく抵抗したか、殺されるまでに長い時間甚振られたか。
目を見開いたまま死んでいれば、逃げようとしたか、強い恐怖を感じたまま死んだか。
他にも色々な死に顔は存在するが、お前さんの顔はまったくもって無表情じゃった。
これは、何が起きたのかわからぬまま死んだという可能性が高い」
「――」
「もちろん、これはただの推測じゃ。
結末しか見えんから、それよりも前に遡って見たわけでもない。
じゃが、ワシの経験上、そういうケースが多いという話じゃ」
恒一の言うことには、説得力がある。
かつて伝説のヒーローとして名を残した彼は、百戦錬磨の戦士。
人の死に顔など、嫌というほど見慣れてしまっているのだろう。
レイは話が進んでいくほど、恐怖が増してくる。
自分の死に顔まで見たというのだから、嘘はついていないということくらいわかる。
だからこそ、恐怖感が募っていくばかり。
「そこで、ワシは考えた。
そんな残酷な未来を変えるための方法を」
「変える、方法……」
「それが、お前さんを弟子にして、ヒーローに仕立て上げるということじゃ」
「――」
レイは言葉に詰まる。
夢を諦めようとした矢先、そんなことを言われても。
こんな権能では、ヒーローになんてなれやしない。
『――テメェみたいな無能が、ヒーローになんかなれるわけねェだろ』
ミナトのそんな言葉が、また蘇る。
呪いのように、深く胸に刻まれているのだ。
「その顔、『自分なんか、ヒーローになんてなれないですよ』とか言おうとしとる顔じゃな」
「――」
恒一は予見眼を使い、レイの言動を読んだ。
そして再び、レイは言葉に詰まる。
レイに口を開かせる隙も与えぬまま、
「思わんか? ――最強になってしまえば、殺されることなんてないと」
「――っ」
恒一はまた、大胆な笑みを浮かべる。
その笑みは、昔テレビで見た恒一と重なった。
灰原恒一ではなく、ヒーロー《オラクル》と。
「ワシはかつての最強ヒーローじゃ。
今となっては過去の栄光じゃが、今でもそこらのヒーローくらいには戦える」
「灰原、さん……」
「違う。ワシは、《オラクル》じゃ。
お前を最強のヒーローに育て上げる、師匠だ」
「――!」
突然、声が低くなった。
もう、レイに拒否する余地など存在しない。
「あと、建前と言ったが、あれも嘘じゃ」
「えっ……」
「――レイ、お前は、ヒーローになるべき人間じゃ」
「どう、して……」
「誰一人動けずにいたあの状況を、無力なお前が変えようとした。いや、変えたのだ。
危険を顧みず、命を投げ出してまで助けようとするその姿は、ヒーロー以外の何者でもなかった」
恒一は初めて、笑った。
どこか祖母に、そして両親に似た柔らかな笑顔。
レイは下を向いて、涙を流した。
「ワシの弟子になれ、星野レイ」
ただ、いつものように無力さや悔しさから、下を向いたわけではない。
「――よろしく、お願いします」
「弟子にしてください」と、頭を下げるためだ。
「うん。死ぬ」
「何で!? どうして!?
怖いです!」
「まあまあ、一から説明するから落ち着くんじゃ」
あまりに突拍子もない言葉に、レイは慌てふためく。
恒一はそれを静め、杖を下ろした。
「ワシの権能は、知っておるな」
「はい。『予見眼』ですよね」
「そうじゃ。戦闘において、相手の動きを数秒先まで読むことができる。
公式には、それだけ言っておる」
「公式には、ってことは、それだけじゃないってことですか?」
「うむ。まあ、簡単に言うなら……。
――『未来視』じゃ」
灰原恒一、改めヒーロー《オラクル》は、『予見眼』を持っている。
色の違う右目に移った相手の行動を、先読みすることができる。
しかし、恒一は予見眼の他に、「未来視」という権能も持ち合わせていると言った。
「未来視……」と恒一の言葉を復唱したレイに、
「ワシの意思次第ではあるが、目に映ったものの未来を見ることができる。
例えば、そこの虫を見てみろ」
恒一は杖で、空中でホバリングしている虫を指した。
虫があまり好きではないレイはわずかに顔をしかめながらも、その虫を見つめる。
「その虫はすぐに、死ぬ」
そう言った直後。
「――っ!」
空から飛翔してきた鳥が、虫に覆いかぶさった。
飛び去った鳥のいた場所に、もう虫はいなかった。
「こんな感じで、映ったものの『結末』を見ることができるんじゃ」
「すごい……。万能じゃないですか」
「いいや、そうでもないぞ。あくまで、『結末』を見られるだけ。
いつ、どんな風にそういった結末を迎えるのかまではわからん。
つまり、わかるな?」
「……僕がいつどうやって死ぬのかは、わからない」
「そういうことだ」
レイは、意味もなく自らの手のひらを見つめる。
小刻みに、震えているのを感じる。
――怖いのだ。死ぬのが。
「ワシのこの権能について知っておるのは、お前とその両親だけじゃ。
そして、死ぬ未来を知っておるのも、まったく同じ」
「……待ってください。父さんと母さんは、僕が死ぬ未来にあることを知ってたってことですか?」
「イェス。出産直後のお前を抱いた時、ふと権能を使ってしまってな。
そのときに、見えてしまったんじゃ」
最初から、知っていた。
まさか生まれたてのときに伝説のヒーローに出会っていたとは思わなかった。
嬉しさ半分、困惑半分。
否、困惑八割である。
「その……どんなふうに死んでいたのかは、わかるんですか?」
「確か、路地裏で胴と下半身を両断されて死んでおったはずじゃ」
「怖っ!? ……って、死んでいたはずっていうのは?」
「ああ、対象の未来を見れるのは一度だけじゃからな。
もうどんだけ気張っても、お前さんの未来は見えん。
出るのはウンコだけじゃ」
「上手くないです……」
誇ったような顔をする恒一を、冷めた目で見るレイ。
しかしその目はやはり、不安と焦燥に満ちている。
――このままでは、死ぬ。
つまり、何かをしなければ死んでしまうということだ。
「でも、それとこれに何の関係が?」
「未来視の権能を使うと、意識を犠牲にその起こりうる未来の中に入ることができる。
その中では、ある程度の範囲内では自由に動けるんじゃが……。
どうやら、お前さんは抵抗する術もないまま死んだようじゃった」
「そんなこと、どうやってわかったんですか?」
「人が死ぬときの表情は多種多様。
歪んだ顔で死んでいれば、それは激しく抵抗したか、殺されるまでに長い時間甚振られたか。
目を見開いたまま死んでいれば、逃げようとしたか、強い恐怖を感じたまま死んだか。
他にも色々な死に顔は存在するが、お前さんの顔はまったくもって無表情じゃった。
これは、何が起きたのかわからぬまま死んだという可能性が高い」
「――」
「もちろん、これはただの推測じゃ。
結末しか見えんから、それよりも前に遡って見たわけでもない。
じゃが、ワシの経験上、そういうケースが多いという話じゃ」
恒一の言うことには、説得力がある。
かつて伝説のヒーローとして名を残した彼は、百戦錬磨の戦士。
人の死に顔など、嫌というほど見慣れてしまっているのだろう。
レイは話が進んでいくほど、恐怖が増してくる。
自分の死に顔まで見たというのだから、嘘はついていないということくらいわかる。
だからこそ、恐怖感が募っていくばかり。
「そこで、ワシは考えた。
そんな残酷な未来を変えるための方法を」
「変える、方法……」
「それが、お前さんを弟子にして、ヒーローに仕立て上げるということじゃ」
「――」
レイは言葉に詰まる。
夢を諦めようとした矢先、そんなことを言われても。
こんな権能では、ヒーローになんてなれやしない。
『――テメェみたいな無能が、ヒーローになんかなれるわけねェだろ』
ミナトのそんな言葉が、また蘇る。
呪いのように、深く胸に刻まれているのだ。
「その顔、『自分なんか、ヒーローになんてなれないですよ』とか言おうとしとる顔じゃな」
「――」
恒一は予見眼を使い、レイの言動を読んだ。
そして再び、レイは言葉に詰まる。
レイに口を開かせる隙も与えぬまま、
「思わんか? ――最強になってしまえば、殺されることなんてないと」
「――っ」
恒一はまた、大胆な笑みを浮かべる。
その笑みは、昔テレビで見た恒一と重なった。
灰原恒一ではなく、ヒーロー《オラクル》と。
「ワシはかつての最強ヒーローじゃ。
今となっては過去の栄光じゃが、今でもそこらのヒーローくらいには戦える」
「灰原、さん……」
「違う。ワシは、《オラクル》じゃ。
お前を最強のヒーローに育て上げる、師匠だ」
「――!」
突然、声が低くなった。
もう、レイに拒否する余地など存在しない。
「あと、建前と言ったが、あれも嘘じゃ」
「えっ……」
「――レイ、お前は、ヒーローになるべき人間じゃ」
「どう、して……」
「誰一人動けずにいたあの状況を、無力なお前が変えようとした。いや、変えたのだ。
危険を顧みず、命を投げ出してまで助けようとするその姿は、ヒーロー以外の何者でもなかった」
恒一は初めて、笑った。
どこか祖母に、そして両親に似た柔らかな笑顔。
レイは下を向いて、涙を流した。
「ワシの弟子になれ、星野レイ」
ただ、いつものように無力さや悔しさから、下を向いたわけではない。
「――よろしく、お願いします」
「弟子にしてください」と、頭を下げるためだ。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる