ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第1章 黎明入学編

第9話 黎明への道のり

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「そうと決まれば、早速これから始めるとしよう」

 恒一は杖を地面に突き刺し、ゆっくりと立ち上がる。
 レイは顔を上げて、

「僕を強くするって……もしかして、権能の強化ですか?」
「アホか」
「アホ!?」
「まずは体づくりからじゃ。
 権能を使いこなすためには、その権能の負荷に耐えられる体を作らなきゃいかん。
 でないと、ワシの言った未来よりもかなり早い死を迎えることになるぞ」
「ひぃっ!」

 突然罵倒されたが、恒一の言うことは何ひとつ間違っていない。

「権能は、使い方を間違えれば使い手自身の身を滅ぼす。
 特に、レイの場合は体が細すぎて、権能次第では体が壊れてしまうかもしれん」
「なるほど……」
「じゃが、まあどんな権能を使うのかは見ておくべきじゃな。
 ニュースは見たが、あまり詳しくは知らんのだ。
 まず、暴走しない程度に権能を使ってみてくれ」
「はい、わかりました」

 レイは深く息を吸い、吐いた。
 風が木々を揺らし、その音がレイの鼓膜を震わせる。

 風が止んだ瞬間、レイは空に手を掲げた。
 そして、人差し指を立てて、

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 雄叫びを上げて、指先に力を込めた。
 すると、

「これは……!」
「どうでしょう、先生!」
「そりゃ死ぬわな」
「ひどい!」

 レイは力が抜けていく感覚を覚える。
 指先から出ていた水は、勢いを失ってポタポタと垂れている。

「うむ、思っていたよりずっと弱いな」
「ですよね」
「ヒーローになりたいなら、まずはヒーロー科高校に入学する必要がある。
 となると、やはり『黎明』への入学が一番の近道じゃな」
「黎明……」

 黎明。
 その響きは、これまで幾度となく耳にしてきた。

 ――黎明英雄学園高校。
 今や全国に展開しているヒーロー科高校の中でも、最高峰の高校。
 プロヒーローを志す人間の中でもエリートが集まるこの高校からは、毎年何人もの一線級プロヒーローを輩出している。

 そう、レイの幼馴染である日向ソラネ、そして村雲ミナトも、黎明に入学することを目標にしている。
 レイのクラスから進学を目指す人間はその二人のみだが、全国からプロヒーローの卵が集う黎明。

「僕が、黎明を……?」
「おう」
「むっ、無理無理、無理ですよ!
 第一、入試はもう二か月後なんですよ!?
 間に合いっこないですって!」
「何を言っとるんじゃ?
 ヒーロー科高校の入試は特別で、入試は八月じゃろう」

 レイは、首をかしげる恒一に唖然とした。
 それを見て、恒一の首の角度はますます急になった。

「……えっ、そうなんですか?」
「そうだ。何、ヒーローを目指しているのにそんなことも知らんのか」
「すっ、すみません……」
「今は一月。残り七か月弱か……。
 このままじゃ、黎明なんて夢のまた夢だな。
 ――じゃが」
「……じゃが?」
「ワシに、任せておけ」
「先生!!」

 親指を自らに向け、任せろと言わんばかりに笑みを浮かべた。
 否、任せろと言いながら。

 ――これから、始まるんだ。
 僕の、黎明入学への長い長い道のりが。

 そう、胸を躍らせていた。

 …………この時までは。


 ***


「ぎゃあぁァァァァァァァ!!!」
「ほれ、こんなもんで音を上げてるようじゃ死ぬぞ」

 師匠・灰原恒一と出会ってから三日。
 星野レイは、既に心が折れそうになっていた。

 恒一は、腕立て伏せをするレイを見ながら「やれやれ」と首を横に振る。
 二十回の腕立て伏せで腕がプルプルと震えだすほどの、筋力のなさ。
 レイも恒一も、早くも危機感を募らせていた。

「次、ランニング」
「はいっ!」

 筋肉が悲鳴をあげたところで、次はランニングだ。
 川の土手を、時間制限付きで走る。
 一時間以内にどれだけ走れるか、その距離を毎回測定する。

「そこまで!」
「はーっ……! はーっ……!」
「一時間で6.54キロか。昨日より二十メートルくらいは伸びたな」

 スクーターに乗って並走していた恒一の合図で、走るのを止める。
 恒一いわく、走った直後に突然止まると、心臓や脳に血液が回らなくなるため、走り終えた後はゆっくり歩くのが大切であるらしい。

「た、たったの……二十メートル?」
「積み重ねが大切じゃ。距離が伸びただけでも万々歳だと思え」

 歩きながら、そんな会話をする二人。
 そんな二人を、朝日が照らす。


 ***


 帰宅して朝食を済ませ、学校へ。
 学校では一般教養の勉強もしつつ、黎明に入るための勉強も進める。
 ヒーロー科高校では、実技試験のほかに筆記もある。
 一般教養ももちろん必要だが、ヒーローに必要な座学も必要になるのだ。

 運のいいことに、高校入試が近い三年生はこの時期、授業は座学ではなく、演習であることが多い。
 自分には関係のない教科や分野は捨てて、
 ほぼゼロからのスタートであるヒーローについての勉強に着手する。
 そうでもしなければ、間に合わない。

「おい、星野。今何か隠したか?」
「へっ? いや、べっ、別に、何も隠してませんよ!」

 レイは配られた入試の過去問題プリントの下に、もう一枚のプリントを滑り込ませた。

「そうか。しっかりやれよ」
「ひゃいっ!」

 教室中に冷笑が響く。
 顔を赤くしながらも先生が行くのを確認してから、恒一からもらったプランを確認する。

(オラクルとのトレーニングは、早朝。
 このメニューだけじゃ、間に合わないかもしれない。
 今日は一月二十日。入試は八月七日から。ってことは、今年はうるう年だからちょうど二百日……。
 やっぱ、自主トレを組み込んだ方がいいか?
 オラクルが作ってくれたプランには二日おきにインターバルがあるのは、きっと筋肉の超回復を考慮してのものだろ。ってことは、この休養日に自主トレを組み込むのは愚策か。
 じゃあ、トレーニングが終わって家に帰ってから、プラスアルファで筋トレメニューを入れよう。少しでも黎明入学に近づけるなら、無理にでも組み込んだ方がいい)

「うっせェぞ、レイ!」
「ごっ、ごめん!」

 前の席に座っているミナトに怒鳴られて、レイは萎縮する。
 ミナトは「チッ」と舌打ちをして、自分のプリントに向き直った。

(負けないぞ、みっちゃん)

 手を動かし続けるミナトの背を見つめ、今度は心の中で呟いた。
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