ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第1章 黎明入学編

第11話 負けない

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 ソラネの顔は、やけに改まっている。
 まあ、この状況で笑い話などしない人間だということくらい、幼馴染であるレイにはわかる。

「話って?」
「私……」

 そう言って、目を伏せたソラネ。
 首をかしげたレイに、ソラネは、

「ごめんなさい!」

 深々と、頭を下げた。

「えっ? 何で?」
「あの日……商店街事件の日、私がひどい言い方したせいでっ……!」
「そっ、そんな前のこと気にしてないって。
 もう一か月以上前の話でしょ?」
「でもっ、あんな言い方しなければ、レイが事件に巻き込まれることはなかったし……。
 ずっと謝りたかったんだけど、言い出すのが怖くて……」

 ソラネもまた、あの日のことを負い目に感じていた。
 あの事件を聞いて、そして巻き込まれた少年がレイだと聞いて、自責の念に駆られていた。

 それから一か月以上もの間、謝れなかった。
 その間レイからソラネに話しかけることはなかったため、怒っているのではないか。
 そんな憶測が邪魔をして、話を切り出すのを恐れてしまったのだ。

「ソラネ」
「……なに?」
「むしろ、僕はソラネに感謝したい」
「へっ?」

 許してくれるか、許してもらえないか、そのどちらかが返ってくると思っていたソラネは、
 レイのそんな返答に気の抜けた声が漏れた。
 顔を上げてレイの顔を見ると、彼は少し笑っていた。

「当時は、ソラネに言い返した僕の言葉で、ヒーローを諦める覚悟ができたつもりだったけど……。
 どこか、諦めきれなかった自分がいたんだ」
「――」
「気づいたら、あの商店街にいた。それで、次に気づいたときには飛び出してた。
 あのままソラネが僕を慰めるだけで終わってたら、みっちゃんの身が危なかったかもしれない。
 君のおかげで、僕はあそこで飛び出せたし、みっちゃんも助かったんだ。
 結果論って言われれば、それまでだけど」

 頭を掻きながら、笑い混じりにそう言ったレイ。
 しかしソラネは、どこか複雑な表情をしている。

「聞こえてたかわからないけど……。
 ――僕も、黎明を受けることにしたんだ」
「……えっ? そうなの!?」
「うん。あの事件で、また火が付いたというか。
 今思えばあの時、ソラネは声を荒げて僕を鼓舞してくれたんじゃないかなって」
「そんなつもり微塵もなかったんだけど……」
「そっ、そりゃソラネにそんなつもりはなかったかもしれないけど、今の僕にとってはって話ね!?」

 レイは傷だらけの腕をあたふたと振り回し、照れを隠す。

 しかし、これは紛れもない本音である。
 頭ごなしに言い返した駆け出した当時を振り返った時、
 レイはソラネが自らを鼓舞してくれたと思った。
 たとえ真相がどうであれ、今のレイにはが力になっている。

『ヒーローになるって、ずっと言ってたじゃん!』

「僕は小さな頃から、ヒーローに憧れていた。
 それを近くで見てくれてたソラネがそう言ってくれたから、多分僕は、諦めきれなかったんだと思う」
「レイ……」
「そのおかげで、って言うのもおかしな話だけど、推薦取り消されたしね」

 レイはこう言っているが、ソラネは自分がいいことをしたとは思えない。
 悩み、苦しんでいるレイに浴びせた言葉は、レイの中でずっと残っていたんだと。

 ――それでも、そんな形で残ってくれているということが、ソラネにとってはこの上ない救いとなった。

「ずっと、怒ってるから、話しかけてくれないんだって思ってた」
「そんなことないよ! ただ、僕もあんな言い方をした矢先、どう話しかければいいかわからなくてさ……」
「そう、なんだ……」
「ありがとう、ソラネ。君のおかげで、僕は黎明を受ける決意が固まった」

 ずっと、不安だった。
 幼い頃から一緒にいたレイと、あの瞬間を最後に別れてしまうのではないか、と。
 特別な気持ちがあるわけではないが、レイは大切な友達。
 そんな彼との関係を、そして彼の夢を、自身の言葉で終わらせてしまったのではないかと。

 だが、それは杞憂だった。
 現に、レイはこうして笑っている。
 ニッコリと、穏やかに。

 ――否。

「だから、僕は負けないよ、ソラネ」
「――」
「同じ高校を受ける以上、ライバルだから」
「レイ……」

 闘争心に、燃えた笑顔だった。



「でも、今回の喧嘩はダメだよ!
 先に手を出したのはレイだったし!」
「それは……。すみません……」

 目に宿った炎は、一瞬で鎮火した。

「それにしても……。レイから手を出すなんてこと、今までにあった?」
「僕から、というか、みっちゃんを殴ること自体初めてだったよ」
「やっぱり、そうだよね。まあ、さすがにずっとやられっぱなしじゃ気が済まないってとこか」
「まあ、それもあるけど」

 レイは立ち上がり、背伸びをした。
 先ほどぶつけた背中が軋むような痛みに襲われ、「いっつ……!」と言いながらまたベッドに座った。

 その身を心配しつつも、「それも」という言葉に、ソラネは疑問を持つ。
 まるで、それ以外にも理由があるかのような言い回し。

「他にも、理由があるってこと?」
「……あれは、宣戦布告の意味もあったんだ」
「宣戦、布告?」
「もっとやり方はあっただろうけど、さっきはちょっと気持ちの制御が利かなかったから」

 「戦争でもするの?」と尋ねたソラネに、「まさか」と半笑いで返したレイ。
 殴った方の手のひらを見つめながら、

「いつまでも、後ろにいるつもりはないって伝えたくて」
「――っ」

 ソラネは、感嘆に近い吐息を漏らした。

 記憶の中のレイは、いつだってミナトの後ろにいた。
 まだ今のような性格になる前から、常にレイはミナトの背を見つめていた。

 そんなレイが、ミナトに追いつこうとしている。
 追いついて、追い越そうとしている。

 ――もう、自分の知っているレイではなくなろうとしている。

「みっちゃんは、ずっと僕の憧れだった。
 それは、今でも変わらない。
 でも、ずっと憧れているだけじゃ、越えられない」
「……そうだね」
「もちろん、僕はソラネに対しても同じ気持ちだよ」
「……えっ?」

 いきなり自分の名前を出され、動揺するソラネ。

「僕の憧れだった二人を越えて、僕は最高のヒーローになる。
 最高のヒーローは、右にも左にも、誰も出てこられないような『最強のヒーロー』でなくちゃいけない。
 だから、僕は越えるよ。――みんなを」

 今まで見たことのないレイの顔が、今日はやけに見られる。
 ソラネはそんなレイに驚きつつも、

「私も、負けないよ」

 そう、笑い返した。
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