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第1章 黎明入学編
第12話 レイの権能
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さらに、三か月。
レイは段々と、提示されたメニューをこなせるようになってきた。
「んぬぅぅぅぅぅぅ!」
「あと十五回! 途中でやめたら最初からだぞ!」
「イェ、ッサぁぁぁぁぁぁ!」
恒一を乗せたまま、腕立て伏せを行うレイ。
最近になって、筋トレの負荷が上がったように感じる。
というのも、卒業式の後に恒一のもとを訪れたところ、かなり怒られたのだ。
レイはあの後病院を受診したところ、背骨にヒビが入っていた。
軽いものではあったものの、三週間余りを棒に振ってしまったのだ。
七か月間という期間の中で、三週間はあまりにも痛い損失。
それを取り返すべく、恒一は少しメニューを調整した。
本来ならばもう一か月先から始める高負荷のトレーニングを前倒しにして、
少々体に無理をさせているのだ。
「九十九、ひゃ、くぅぅぅぅぅ……!」
「よし。よくやり切った」
「ぷはぁっ……! はぁ、はぁ……!」
「最初に比べれば、ずいぶん体が大きくなったな」
レイの体は、少なくとも見違えるほどに変わっていた。
男なら誰しも憧れるようなムキムキボディとまでは行かないものの、鎖骨も目立たなくなり、各部位に明確な厚みが出てきた。
レイ自身も、それを実感することが増えた。
たまに街なかで、同級生とばったり遭遇することがある。
そのたびに、
『なんか星野、デカくなった?』
と、外見の変化を指摘されるようになったのだ。
自分で体を触ってみても、それは顕著に表れている。
「よし。そろそろ、権能の強化に着手してもよさそうじゃな」
「ついにですか!?」
「うむ。これだけのトレーニングをこなしておいて、息が入るのも早くなっとる。
そろそろ、権能の負荷にも耐えられるようになった頃合いじゃろう」
レイがこれだけの負荷のトレーニングを行ってきたのは、すべて権能の強化に着手するためのいわば土台作りであった。
家でも自主トレを組み込んだことが功を奏し、恒一の予想を上回る成長を遂げた。
「強化って、どうやるんですか?
早くやりましょうよ!」
「まあまあ、そんなに焦るでない。
じっくりやっていくぞ」
「うかうかしていられないですよ!
入試まであと二か月と少ししかないんですから!」
「もちろん、なるべく急いでやらねばならん。
じゃが、権能の強化は体づくりとはわけが違う。
そもそもの話、お前の権能は弱いんだからな。
それに、誰のせいでこんなに遅れてると思ってんだ」
「うぐっ……しゅいまへん」
杖先で頬をグリグリされるレイ。
内心ではかなり焦っているが、その焦りは命取りになりかねない。
権能の強化もまた、一朝一夕でできるものではない。
この点においては体づくりと同じだが、権能の強化は体への負担が大きすぎる。
急激な強化を行おうとすれば、体が耐えきれずに壊れてしまう。
下手をすれば、二度と権能を使えない体になってしまう可能性だってあるのだ。
「んじゃ、始めるぞ。
まずは普通に権能を使え」
「はい」
言われるがまま、レイは指先に力を込める。
恒一は指先から水が出てきたのを確認してから、レイに歩み寄った。
「お前のその水は、どうやって出てきている?」
「どういうことですか?」
「この水は、何由来のものじゃ?」
「なに、由来……」
言われてみれば、考えたことすらなかった。
レイの中で、「なんか力を込めたら出てくる水」程度の認識だった。
「理屈を理解しないことには、どう強化していいかわからん。
大気中に含まれる水蒸気を凝縮させて扱うヤツは見たことあるが」
「そんな感じは、ないです。
なんかこう、力を込めると肩から指先まで熱が流れてくるような感覚というか」
「うーむ……。となると」
顎に指を当て、眉間にしわを寄せる恒一。
水を出しながら見つめるレイの顔を見て、
「恐らく、お前は体内の水分を使っている」
「体内の水分を?」
「まあ、簡単に言えば塩分を含まない汗みたいなもんじゃな」
「汚くないですか!?」
夜の河川敷に、レイの声が響き渡る。
「人間の体の約六十パーセントが水分で構成されているってのは、聞いたことがあるじゃろう?
そして使いすぎると当然、体に影響が及ぶ。つまり」
「……僕の権能には、限界がある」
「その通り」
その事実を告げられ、レイは指先から出る水を止めた。
今も体内の水分を使っていると思うと、出しっぱなしではいられなかった。
「六十パーセントの水分は、四十パーセントの細胞外液と二十パーセントの細胞内液に分けられ、細胞外液から先に消費される。
人間は、体重の五パーセントを失うと動きが鈍くなり、十パーセント以上を失うと生命の危機に陥ってしまう。
その程度の権能なら何ら支障はないじゃろうが、強化して威力が増すと、それだけ水分の消費量が増す。だからワシは、権能に耐えきれるための体づくりと称して、権能を使えるリソースを増やそうと考えてってわけじゃ」
「なるほど……って、最初から僕の権能の特性を見破ってたってことですか?」
「当たり前じゃろう。ワシはお前の師匠だぞ。
弟子のことはよく観察しているに決まっている。
まあ、負荷に耐えきれなくなるってのも本当じゃがな」
「……」
その言葉は嬉しいが、同時にかなりのショックを受けている。
――制限付きの、権能。
恒一の言ったタイプの権能は、空気がある限り無限に使える。
しかしレイの権能は制限付き、それも命に係わるものだ。
体づくりの理屈は通っているが、その目的は思っていたほど浅くはなかった。
「まあ、そう落ち込むな。
制限付きであることに変わりはないが、お前の権能は使い方次第で化けるぞ」
「化ける……」
「その使い方の土台はワシが作る。それをどう使いこなし、派生させるかはお前次第じゃ。
残りの二か月余りで、実技試験で戦える程度のものには仕上げてみせよう」
「……よろしく、お願いします」
レイは拳をグッと握り、覚悟を決めた顔で恒一にそう言った。
「……いい顔をするようになったな、レイ」
レイは段々と、提示されたメニューをこなせるようになってきた。
「んぬぅぅぅぅぅぅ!」
「あと十五回! 途中でやめたら最初からだぞ!」
「イェ、ッサぁぁぁぁぁぁ!」
恒一を乗せたまま、腕立て伏せを行うレイ。
最近になって、筋トレの負荷が上がったように感じる。
というのも、卒業式の後に恒一のもとを訪れたところ、かなり怒られたのだ。
レイはあの後病院を受診したところ、背骨にヒビが入っていた。
軽いものではあったものの、三週間余りを棒に振ってしまったのだ。
七か月間という期間の中で、三週間はあまりにも痛い損失。
それを取り返すべく、恒一は少しメニューを調整した。
本来ならばもう一か月先から始める高負荷のトレーニングを前倒しにして、
少々体に無理をさせているのだ。
「九十九、ひゃ、くぅぅぅぅぅ……!」
「よし。よくやり切った」
「ぷはぁっ……! はぁ、はぁ……!」
「最初に比べれば、ずいぶん体が大きくなったな」
レイの体は、少なくとも見違えるほどに変わっていた。
男なら誰しも憧れるようなムキムキボディとまでは行かないものの、鎖骨も目立たなくなり、各部位に明確な厚みが出てきた。
レイ自身も、それを実感することが増えた。
たまに街なかで、同級生とばったり遭遇することがある。
そのたびに、
『なんか星野、デカくなった?』
と、外見の変化を指摘されるようになったのだ。
自分で体を触ってみても、それは顕著に表れている。
「よし。そろそろ、権能の強化に着手してもよさそうじゃな」
「ついにですか!?」
「うむ。これだけのトレーニングをこなしておいて、息が入るのも早くなっとる。
そろそろ、権能の負荷にも耐えられるようになった頃合いじゃろう」
レイがこれだけの負荷のトレーニングを行ってきたのは、すべて権能の強化に着手するためのいわば土台作りであった。
家でも自主トレを組み込んだことが功を奏し、恒一の予想を上回る成長を遂げた。
「強化って、どうやるんですか?
早くやりましょうよ!」
「まあまあ、そんなに焦るでない。
じっくりやっていくぞ」
「うかうかしていられないですよ!
入試まであと二か月と少ししかないんですから!」
「もちろん、なるべく急いでやらねばならん。
じゃが、権能の強化は体づくりとはわけが違う。
そもそもの話、お前の権能は弱いんだからな。
それに、誰のせいでこんなに遅れてると思ってんだ」
「うぐっ……しゅいまへん」
杖先で頬をグリグリされるレイ。
内心ではかなり焦っているが、その焦りは命取りになりかねない。
権能の強化もまた、一朝一夕でできるものではない。
この点においては体づくりと同じだが、権能の強化は体への負担が大きすぎる。
急激な強化を行おうとすれば、体が耐えきれずに壊れてしまう。
下手をすれば、二度と権能を使えない体になってしまう可能性だってあるのだ。
「んじゃ、始めるぞ。
まずは普通に権能を使え」
「はい」
言われるがまま、レイは指先に力を込める。
恒一は指先から水が出てきたのを確認してから、レイに歩み寄った。
「お前のその水は、どうやって出てきている?」
「どういうことですか?」
「この水は、何由来のものじゃ?」
「なに、由来……」
言われてみれば、考えたことすらなかった。
レイの中で、「なんか力を込めたら出てくる水」程度の認識だった。
「理屈を理解しないことには、どう強化していいかわからん。
大気中に含まれる水蒸気を凝縮させて扱うヤツは見たことあるが」
「そんな感じは、ないです。
なんかこう、力を込めると肩から指先まで熱が流れてくるような感覚というか」
「うーむ……。となると」
顎に指を当て、眉間にしわを寄せる恒一。
水を出しながら見つめるレイの顔を見て、
「恐らく、お前は体内の水分を使っている」
「体内の水分を?」
「まあ、簡単に言えば塩分を含まない汗みたいなもんじゃな」
「汚くないですか!?」
夜の河川敷に、レイの声が響き渡る。
「人間の体の約六十パーセントが水分で構成されているってのは、聞いたことがあるじゃろう?
そして使いすぎると当然、体に影響が及ぶ。つまり」
「……僕の権能には、限界がある」
「その通り」
その事実を告げられ、レイは指先から出る水を止めた。
今も体内の水分を使っていると思うと、出しっぱなしではいられなかった。
「六十パーセントの水分は、四十パーセントの細胞外液と二十パーセントの細胞内液に分けられ、細胞外液から先に消費される。
人間は、体重の五パーセントを失うと動きが鈍くなり、十パーセント以上を失うと生命の危機に陥ってしまう。
その程度の権能なら何ら支障はないじゃろうが、強化して威力が増すと、それだけ水分の消費量が増す。だからワシは、権能に耐えきれるための体づくりと称して、権能を使えるリソースを増やそうと考えてってわけじゃ」
「なるほど……って、最初から僕の権能の特性を見破ってたってことですか?」
「当たり前じゃろう。ワシはお前の師匠だぞ。
弟子のことはよく観察しているに決まっている。
まあ、負荷に耐えきれなくなるってのも本当じゃがな」
「……」
その言葉は嬉しいが、同時にかなりのショックを受けている。
――制限付きの、権能。
恒一の言ったタイプの権能は、空気がある限り無限に使える。
しかしレイの権能は制限付き、それも命に係わるものだ。
体づくりの理屈は通っているが、その目的は思っていたほど浅くはなかった。
「まあ、そう落ち込むな。
制限付きであることに変わりはないが、お前の権能は使い方次第で化けるぞ」
「化ける……」
「その使い方の土台はワシが作る。それをどう使いこなし、派生させるかはお前次第じゃ。
残りの二か月余りで、実技試験で戦える程度のものには仕上げてみせよう」
「……よろしく、お願いします」
レイは拳をグッと握り、覚悟を決めた顔で恒一にそう言った。
「……いい顔をするようになったな、レイ」
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