ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第1章 黎明入学編

第13話 水を制する者

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「お前がこの権能を使いこなすには、どれだけ消費を少なくしながら威力を増すかじゃ」

 恒一は腕を組み、ベンチに腰かけてそう話す。
 レイは自分の指を見つめ、その言葉の意味を考える。

「威力を増すなんて、どうやればいいんですか?
 今までどれだけ力を入れて試しても、せいぜい射出される水の距離が少し伸びるくらいだったのに」
「――それじゃよ」

 低い声で、恒一はそう言い放った。

「ど、どれですか?」
「今、『力を入れて試しても』と言ったな。
 やみくもに力を込めるだけじゃ、何も起きん。
 大事なのは、イメージだ」
「イメージ……」
「体内に流れる血液そのものになりきるんじゃ」

 そう言われ、目を閉じてイメージを始める。
 体内に流れる、血液……。
 全身に張り巡らされている血管の中を、小さくなった自分が流れていく……。

「全然イメージできません……」
「まずはそのイメトレからじゃな」

 そんな恒一の言葉はそっちのけで、レイはイメージを続ける。
 何も、血液だと思わなくていい。
 自分が、運搬される赤血球だと思い込むのだ。

 心臓の拍動によって押し出され、一筋の血管を通る。
 心臓から脇へ、肩へ、そして腕を進む。
 そして、指先に到達する――、

「――ここ」

 レイがそう呟いた瞬間。
 指先が、熱を帯びた。
 そして――、

「――そうだ」

 そう笑った恒一の視線の向かう先。
 それは、レイの頭よりもずっと高い空だった。

 レイの指先から出た水は、空高く舞い上がっていた。

「できた……! できました、師匠!」
「思ったよりも早く習得できたな。驚いた」

 レイは飛び跳ねて喜びを露わにする。
 恒一も深く感心しているが、

「じゃが、まだまだこんなもんで満足してはいかんぞ。
 ただ飛距離が伸びただけだ」
「うぅ……すみません」
「なに、謝ることはない。第一歩を踏み出せたことは素直に喜べ」

 恒一が落胆しかけたレイにそんな言葉をかけると、レイは「はい!」と元気を取り戻した。

「今の水勢を分かりやすく言うなら、ちょい強めの水鉄砲じゃ。
 明後日までに、まずはこれをホースから出る水くらいにしておけ」
「分かりました!」


 ***


 二日後。

「はぁぁぁぁっ!」

 レイが叫びと共に出した水。
 それは、頭上にうっすら虹が見えるほどの威力になっていた。

「うむ、言われた通りの威力くらいにはなったな」
「こんなもんじゃ、まだまだ戦えないですよね!」
「その通りじゃが、無理はしすぎるなよ。
 ワシは、じっくり強化していくと言っただろう」
「はいっ!」


 ***


 一週間後。

「やってみろ」
「やぁぁぁぁぁぁ!」
「ぶわぁぁぁぁぁぁぁっはぁぁぁ!」

 レイは、今までとは違い、上ではなく正面へ手を向けた。
 加えて、利き腕でない左手から水を放射した。

 そこから放たれた水は、恒一の顔面を飲み込んだ。

「ゲホッ……」
「大丈夫ですか、師匠!」
「おう……。それにしても、ずいぶん威力が増したな」
「イメージが浸透したのか、すんなり水が出てくるようになりました」
「その調子じゃ。ゲホッ」


 ***


 さらに一週間後。

「方向には、気を付けろよ――」
「やべっ――!」
「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!」

 恒一はまたも、レイの水に襲われた。

「死ぬっ……! わざとやっとるんじゃなかろうな……!」
「違うんです、師匠!
 水の勢いが増してから、上手く腕がコントロールできなくなってきて」
「ゲホッ……。なるほど、そういうことだったか」

 ここまで順調に来ていたレイだったが、また課題にぶち当たった。

 水を出す手の制御が、難しくなっているのだ。

 当初は水勢が弱く制御は容易であったが、威力が高まるにつれて腕が引っ張られるような感覚に陥ることがある。
 相当な集中をすれば制御は可能であるが、高威力の分その反動が大きくなってきているのだ。

「どのみち、その程度の威力では目立てん。
 少し工夫が要るな」
「工夫、ですか」
「お前、手以外からは水は出せないのか」
「手、以外……。汗や涙、あとおし……」
「そういう話はしとらんのだ、天然か」
「あでっ」

 恒一は杖でレイの頭を小突く。
 レイは、彼の言っていることの意味がいまいちよくわからない。

「お前は今、ようやく両手で権能を使えるようになった。
 ――それを、足から出せるようにできんかと思ってな」
「足、から……」

 そう言いながら、自らの足を見下ろす。
 この足から、水が出るようにする。
 そのメリットは、少し考えれば誰でもわかるであろう。

「足から水が出れば、移動に使える……」
「正解じゃ」
「なるほどっ……! そうすれば、普通に移動するよりも早く動ける……!
 それに、足からも攻撃を撃てるようになる!」

 レイは、目を輝かせながらそう言った。
 恒一は頷きながら、杖を用いて身振り手振りで話し始めた。

「昔、波に乗って移動しながら戦場を駆け回るヒーローがいてな」
「《海の英雄ウェービングヒーロー》、ですね」
「よく知っておるな。それの、ブラッシュアップ版だと考えてくれればいい」
「えっと、つまり?」
「あんなに大規模な波を使えば、最近の栄えた街なかでの戦闘時に建物に被害を及ぼしてしまう。
 そこで、使う水の量は最低限で、なおかつ《海の英雄ウェービングヒーロー》のように素早く移動できるように特訓するんじゃ」

 ウェービングヒーロー。
 恒一が活躍していた時代の一昔前のヒーローであり、その名の通り、水を操っていた。
 レイの権能と、よく似ている。

「そんなこと、できますかね」
「やるしか道はない。逆に、使いこなせれば大きな武器になるじゃろう」
「……はいっ!」

 弱気になりかけたレイの肩に、恒一はポンと手を置いた。
 レイはその恒一の顔を見て、元気よく返事を返した。

「お前の課題は三つ。動き方、動く速度、そして権能の威力だ。
 この三つさえ克服できれば、黎明での入試で十分戦えるじゃろう」
「稽古、よろしくお願いします!」
「おうよ。ワシに任せておけ」

 ギュインと効果音がつきそうな勢いで、レイは頭を下げた。
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