ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第1章 黎明入学編

第16話 黎明英雄学園

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「ここが、黎明……」

 午前八時。
 レイは、黎明英雄学園へ到着した。
 見上げるような、巨大な校舎。
 それが、そびえ立つ壁のようにレイを見つめている。

 一日目は実技試験、そして二日目に筆記試験がある。
 普通逆じゃ? と思いつつも、レイは深呼吸をする。

 ――下を向かず、上も向かず、前を向く。

 師匠《恒一》からもらった言葉を胸に刻み、一歩踏み出そうとする。

 すると、

「んぎゃっ!」

 あからさまに突出している石につまずき、顔面から地面に激突。
 某探偵アニメの死体のような恰好で転んでいるレイに、影が重なった。

「――大丈夫ですか?」

 銀鈴のような声。
 レイは体をビクッと震わせ、親指を立てて「大丈夫……です」と呟く。
 体を起こし、声のした方を振り返ると、

「……っ」

 レイはその顔を見て、顔から火が出たと錯覚するほどに紅潮した。
 銀色の長い髪に、薄いマゼンタ色の瞳。
 一言で言い表すならば、

(す、すごい美人の人だ……)

「えっと……?」
「あ、あぁぁ、大丈夫です、本当に!
 ご心配をおかけしましたぁぁぁぁぁ!」

 レイはたまらず、その場を飛び出してしまった。
 銀髪の少女は首をかしげて、

「変な人……」

 そう、言葉を漏らした。


 ***


 試験会場に入ると、中には既におびただしい数の人が座っていた。
 まるで、アリーナのような会場である。
 三百六十度、どこを見ても受験生が座っている。

 ここで、この後行われる実技試験の説明会がある。

(745、745……)

 レイは受験票の番号を見ながら、間違えないよう慎重に席を探す。

 ようやく自分の番号と合致する席を見つけ、腰を下ろした。

(なんか、失礼なことしちゃったな)

 そう思いつつ、一息ついて横を見る。

「あれっ、レイじゃん!」

 見慣れた姿に、聞き慣れた声。
 燃えるような紅い髪を一つに結わえた、元気のいい少女。

「ソラネ。連番だったんだね」
「なんか安心したよ。友達が近くにいるなんて」

 レイはソラネの言葉に深く賛同する。
 激しく首を縦に振るレイに、「なんかテンションおかしくない?」と声をかけるソラネ。

 ――きっと、緊張してるんだろうな。

 そう思ったソラネは、レイに向かって拳を突き出し、

「お互い、頑張ろうね」
「……うん! 絶対、合格する」

 やる気に満ちたレイの声が、ソラネの脳に響いたその時、

「――あー! さっきの変な人!」
「いやぁぁァァァァァ!」

 先ほど出会ったばかりの、銀髪の少女が背後に立っていた。
 レイの視界に映った少女の受験票には、「744」と書いてある。
 顔を青ざめたレイを見かねて、ソラネは、

「レイ、もうお友達できたの?」
「お、お友達というか、その……」
「この人が転んでたので心配してあげたら、奇声を上げながら走って逃げられたんです」
「えっ、アンタどんだけ失礼なことしたのよ」
「お耳が痛《いと》うございます……」

 両サイドからバッシングを受け、涙目になるレイ。

「謝って、誤解を解きなさい」
「さ、さっきはすみませんでした。心配してくださったのに」
「いえいえ、別に怒ってなんて……ないので……はは」
「めちゃめちゃ顔引き攣ってるぅぅ!」

 顔に青筋が浮かんでいる銀髪の少女に、レイは戦慄の声をあげる。
 ソラネに「うるさいっ!」と頭にチョップを食らい、レイは「あでっ!」と声を漏らす。

「冗談はさておき、せっかく受験番号連番なんですし、名前くらい教え合いましょうよ」
「いいねっ! じゃあまずは私から。私はソラ――」
「――はーい、静粛にぃ」

 ソラネの自己紹介を遮るように、低い男の声が会場全体に響いた。
 スポットライトが遠くの一点を照らし、そこにその声の主と思われる男がゆっくりと歩いてきた。

「私は、本日の実技試験の試験官を務めます、白銀蛇堂《しろがねじゃどう》です。
 これから、本試験の説明を行いたいと思いま――」
「ちょーっと待ったァ!」

 荘厳な雰囲気を、一言でぶち破った声。
 周りの受験生たちは互いに顔を見合わせている。
 レイもソラネと、そして名前も知らない銀髪の少女の顔を見合わせる。
 後者に関しては、レイはすぐに目を逸らしたが。

「――俺は音無狂介《おとなしきょうすけ》だァ! この蛇頭と共に試験官をやらせてもらう男ォ! 合格するヤツもしないヤツも、このうるさい顔と声は覚えて帰ってくれよなァ!」

 音割れしていないのが不思議なくらいに大きな声が、会場を包み込む。
 「音無」という苗字とは真逆の性格かと思いきや、下の「狂介」という名前でバランスをとっている。

(《スネークヘッド》に《ハウリング・ジェット》! すごい、本物だぁ……!)

 前に立っている二人は、どちらも有名なヒーローである。
 両肩に二匹の蛇を従えているスネークヘッドと、両腕に大きなスピーカーがついているハウリング・ジェット。

 その二人を見て、レイは目を輝かせる。

「……それでは改めまして、試験の説明を行いたいと――」
「うーーん、固いねェ、固すぎるよスネークヘッド!!」
「――」
「と、いうわけでェェェ! 俺の方から、貴様ら黎明生の卵どもに試験内容を説明していくぜェェェェェ!
 エビバディ、準備はいいかァァァァ!?」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 ハウリング・ジェットのハイテンションに、レイは呼応する。
 しかし周りの受験生は逆に静まり返り、一斉にレイに視線が集まった。
 隣に座っている銀髪の少女も、口を開けて驚いた顔をしている。

「すっ、すみません!」
「いいやァァァ、いい気概だぜ、サンキュー!」

(よかったんだ……)

 レイ、そして受験生は全員同じ気持ちを抱く。
 そしてようやく、説明が始まった。

「黎明の実技試験は、極めてシンプル!
 市街地を模したエリアの中で、アンドロイドと戦ってもらう!」
「アンドロイド……」

 レイを含む受験生たちはざわつき始める。

 ハウリング・ジェットはなおも続ける。

「受験票に書いてあるアルファベットは、お前たちが受ける会場のことだ!
 そして各アンドロイドには、過去に実在した権能者の戦闘データを搭載してある!
 そいつらをぶっ殺……じゃなく、ぶっ壊すことで、ポイントを積み上げていく方式だ!
 どうだ、めちゃくちゃ簡単な試験だろォォォォう!?」

 再び、会場は静まり返る。
 レイは自分の受験票を見て、「B」と書かれているのを確認する。

 ハウリング・ジェットは思っていた反応をもらえなかったからか、「あ、あれ」と言いつつ、なおも続ける。

「し、しかァァァァし! そこまで甘くはないぞ!」
「――」
「――――お前たち、下手すりゃ死んじまうからね」
「――っ!!」

 ハウリング・ジェットの冷たく低い声に全員が、息を呑んだ。
 まさか、入試で「死ぬ」という単語を聞くことになるとは思わなかったのだ。

「アンドロイドは、入試用にパワーダウンはしてある。
 だが、下手をこけば死にかねないってことは頭に入れといてくれ。
 ヒーローは常に、死と隣り合わせで戦っている。簡単に入学させるわけにはいかないからな」

 今度は、存在を忘れられかけていたスネークヘッドが口を開いた。
 二人の説明に、一気に緊張感が高まった。

 ――下手をすれば、死ぬ。
 レイは拳を握りしめ、その言葉に対する恐怖心を和らげようと試みる。

「それと、採点方式なんだがァ……。
 単純なアンドロイドの撃破数だけじゃなく、周りの建物への被害やとっさの判断力なんかも見させてもらうぜ!」
「そんな単純なはず、ないわよね……」

 レイの隣に座っている銀髪の少女は、顎に手を当ててそう呟く。
 その顔を見てようやく、レイは理解した。

 彼女も、そしてソラネも、全員がライバルなのだと。

 この会場のどこかに、ミナトもいるはずだ。
 彼が受かってレイが落ちるということもありうるし、逆もまた然り。
 顔見知りが全員落第する可能性も、ありえないとは言い切れない。

「――んじゃ」
「――」
「せいぜい頑張れよ、卵どもォ!
 卵のままで終わらず、ちゃんと孵化して大人になれるといいなァァ!」

 凄まじい音圧とともに、ハウリング・ジェットは腰をのけぞらせた。

 ――いよいよ、始まるのだ。
 ヒーローになるための、最初にして最大の関門が。
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