ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第1章 黎明入学編

第17話 入学実技試験、開始

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 レイは、B会場に到着した。
 中学のときの体操服を着用して来るように入学試験の説明書に書いてあったが、体が大きくなりすぎてとてもじゃないが入らなかった。
 そのため、市販のジャージを買って着用している。

「……って」
「あなたとは、同じなのね……」

 銀髪の少女は分かりやすく落胆する。
 レイは最悪の第一印象を後悔しつつも、

「……僕は、星野レイです」

 と、一応自己紹介をしておいた。
 銀髪の少女は少し戸惑いつつも、落とした肩を上げて、

「よろしく、レイくん」

 拳を出し、グータッチを求めた。
 レイはそれを受け取り、拳をぶつけた。
 だが、レイは首をかしげながら、

「えっと、あなたのお名前は?」

 この少女は、笑顔で挨拶をするだけで名を名乗らなかった。
 レイはそれを見逃さず、すかさず指摘した。

「――どっちも受かったら、教えてあげるわ」

 どこか威圧感のある眼差しを浴びせ、不敵な笑みを浮かべた。

 名前を聞くには、レイもこの少女も合格するのが条件。
 つまり、この少女には合格できるという絶対的な自信があるということだ。
 と、レイは勝手に解釈した。

「――君、もしかして商店街事件のときの少年か?」
「――」

 背後から聞こえた声に、レイは後ろを振り返る。
 そこには、屈強な体をしたメガネの男が立っていた。

「……試験官の方ですか?」
「違ぁぁう! 僕は受験生だ!
 受験番号596番、鐵山圧《てつやまあつし》だ!」

 あまりの屈強さに、レイは思わず受験生だとは思わなかった。
 圧はやや怒鳴り気味にレイに詰め寄り、声を張り上げた。

 ――瞬間。

『それでは、試験スタートォォォォォ!』

 ハウリング・ジェットの威勢のいい声が響き、模擬市街地エリアの大きな門が開いた。
 レイと圧の二人を置いて、受験生たちは続々とエリアの中へと駆けこんでいく。

「出遅れた!」「出遅れた!」

 ハーモニーを奏でた二人の声は、静かになったゲート前にこだました。
 二人は、最後尾からのスタートとなった。

「では、お先に失礼する!」
「あっ!」

 圧は、地面を強く蹴って飛び上がった。
 圧の立っていた地面は、足跡を中心として抉れていた。

 これで、レイはただ一人最後方に残されてしまった。
 しかしまだ完全に離されてはいない。
 レイは走りながら波へと踏み出した。

 ――教わった、『波乗り』で。

「ライディング・ウェーブ!」

 レイはそう心の中で叫ぶ。
 これは、波乗りの技の名前。
 たった今、レイが名付けたものである。

 レイは小さな頃から、技名やヒーロー名などを考えるのが好きだった。
 そのため、即興で考えることは得意なのである。
 恒一にも、「名前は考えといたほうがかっこいいぞ」と言われていた。

「なっ、なんだ!?」
「波に、乗ってるですって!?」

 スケートリンクの上を滑る、あの感覚。
 それを体にもう一度叩き込み直した甲斐があった。

 完全に、自分のモノにできた。

(地図を見た感じ、このエリアはものすごく広い。
 他の受験生たちが固まってるところだと、ポイントを稼ぎづらい。
 なるべく、離れた過疎地帯に行けば……)

 波に乗りながら、ポケットから取り出したホログラム式の地図を投影する。
 これは、自分の現在地と市街地エリアの概要が確認できるものであり、受験生全員に支給されている。

レイは全員が向かう方向から進行方向を変え、奥の方ではなく右に曲がって、敢えて手前の方へ向かう。

 アンドロイドの居場所はわからずとも、隠れられそうな場所はいくつか見える。
 誰もいないのを確認してから、波に乗りつつその場で停止する。

 辺りを見回し、襲ってくるアンドロイドに備えるレイ。
 精神を研ぎ澄ませ、手に水を浮かべて待機する。
 そして――、

「――ここだ!」

 背後から、わずかに足音が聞こえた。
 振り返らずともアンドロイドだと確信し、浮かべた水を凄まじい速さで飛ばした。

「っぶな!!」
「……え?」

 アンドロイドが、喋った。
 そう思って振り返ると、そこに立っていたのは、

「ちょっと、何するのよ! 危ないでしょ!」

 アンドロイドではなく、銀髪の少女だった。
 そしてレイが飛ばした水は、氷の塊に変わって地面に落ちていた。

「なんで、あなたが……」
「なるべく他の受験生がいない場所でポイント稼ごうと思ってこっちの方に来たら、まさかあなたがいるとは思わなかったわ。
 声をかけようと踏み出したら、見向きもせず急に攻撃してきたから、びっくりした」
「すっ、すみません。てっきりアンドロイドだと思い込んで」
「まあ、仕方ないわ。そのくらいの緊張感を持って臨めてるのは素晴らしいことだと思うし」

 長い髪をかき上げ、一つ息を吐いた銀髪の少女。
 どこか妖艶さを感じるその立ち振る舞いに、レイは顔を赤らめた。

「じゃ、私は行くわね。せいぜい頑張りなさ――」
「――っ! 後ろ!」
「――」

 レイが叫んだ途端、背後から人影。
 否、それは人の影ではなかった。
 蔓を伸ばしてきた、アンドロイドだった。

「つ、強……」

 不意打ちを食らったかと思われた少女だったが、難なく撃破。
 そして同時に、レイは目の前でポイントが消えていったことを実感した。

「じゃあね」
「は、はい……」

 少女は手を挙げて、その場を走り去った。

(こんなことしてる場合じゃない……!
 一体でも多く、アンドロイドを倒さないと)

 焦りを抑え、少女の背を見届ける。
 あっという間にその姿は見えなくなり、レイはその底知れぬ実力に目を見張る。

 レイもその場を離れ、アンドロイドを探す。

(――いた)

 誰も目を付けていないアンドロイドが、その場に立っていた。
 レイは感づかれぬよう慎重に進み、そして攻撃を仕掛けた。

「ウェービング・シュート!」

 死角から鋭い蹴り。
 地を這う水の斬撃のような蹴りは、アンドロイドの胴体を捉えた。

「――っ!」

 かと、思われたが。

(すり、抜けた……!?)

 確かに、蹴りは届いていた。
 しかし、アンドロイドには傷一つすら入っていなかった。

 ――こちらを振リ向いたアンドロイドには、流動性があった。
 ドロドロとした、ヘドロのような姿。
 先ほどまでの人間そっくりの姿からは、一変していた。

(こうなったら、もう真っ向から勝負するしかない!)

 そう決心し、向かってくるヘドロに身構えた。
 波に乗り、体勢を低くする。
 そして、手に水を浮かべて、それを薄く伸ばした。

「はぁっ!」

 カッター状の水は、そのヘドロに向かって一直線に飛んでいく。
 そして、ヘドロを両断した。
 やっとポイントを獲得したと息ついたレイだったが、

「……マジかよ」

 そのヘドロのアンドロイドは、再び元のドロドロとした姿に戻っていた。

(まだまだ、余裕はある!)

 レイは波に乗ったまま前進し、左手を右腕に添えた。
 そして力を込めて、一気にそれを放出させた。

「ジェット・バーストぉぉ!」

 少し前、波乗りを覚える前の頃。
 恒一の前で、生垣に風穴を空けた時と同じ技である。

 片手だけでは、まだ制御が難しい。
 そのため、左手を添えなければ軌道がずれてしまう恐れがある。
 手のひらから放たれたその水は、ヘドロを丸ごと飲み込んだ。

「はぁ……はぁ……」

 息を切らすレイの前に、もうヘドロはいなかった。
 レイは、かなりの量の水を犠牲にしながらも、ようやく一体のアンドロイドを撃破した。

(早く、次に行かなきゃ……)

 少しよろめきながら、レイは歩き出した。
 その一歩目を踏み出したときだった。

「――キャァァァァァァァァ!」

 女のものだと思われる悲鳴が、遠くの方から聞こえた。

 早く、他のアンドロイドを倒してポイントを稼がなければ。
 悲鳴など気にすることなく、今は自分のことに集中しなければ。

 そう思いつつも、体が勝手にその悲鳴の方へ向かおうとしていた。



 道中のアンドロイドの妨害により、五分少々かけてレイは悲鳴の上がった場所へ着いた。
 何体かは無視したが、二、三体は撃破してきた。
 しかし、もう制限時間は少ししかない。

「……これは」

 周りの建物はことごとく崩壊し、土煙で視界が霞んでいる。
 レイはその光景に言葉を失った。

「何があったんですか!?」
「目の前のアンドロイドが突然巨大化したんだ。
 それで、一人女の受験生が餌食になってる」
「……生きて、いるんですか?」
「ああ、恐らくな。氷の権能で抵抗してるから、まだ生きてはいるはずだ」
「――氷の、権能」

 レイは、嫌な予感がした。
 他の受験生たちも、各々の権能を使って土煙の向こうへ攻撃を続けている。

 レイの視界を覆っている土煙が晴れる。
 するとそこには、

「――っ!!!」

 ――銀色の、長い髪。

「嘘だろっ……!」

 先ほど別れたばかりの少女が、一人の少女が巨大なアンドロイドの鉤爪の下に挟まれていた。
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