18 / 33
第1章 黎明入学編
第18話 「助けて」って顔してたから
しおりを挟む
数分前。
銀髪の少女はレイと別れた後の数十秒間で、四体のアンドロイドを撃破していた。
「ふぅ……」
汗すらかかないほど、彼女の周りは涼しい。
冷気をまといながら、移動しているのだ。
体温を上げるのは大事なことだが、汗をかけばその分消耗は激しくなる。
そこまで素早く動かずとも、彼女の技の威力はとうに超高校級。
涼しい顔をしながら、無傷でアンドロイド撃破を成し遂げている。
その時。
「キャァァァァァァァァ!」
そう遠くない所から、甲高い悲鳴が聞こえた。
ポイントには、ある程度の余裕がある。
そのため、迷うことなくその悲鳴の場所まで向かった。
「何があって……はっ!」
目の前に立っていた――否、もはやそびえ立っているのは、巨大ななにかだった。
(これがアンドロイドだったとするなら、やりすぎだわ!)
そう脳内で呟きつつ、少女は前に出た。
両手に氷を浮かべ、地面にその手をつけた。
そしてその地面から、鋭利な氷の壁がバリバリと音を立てて突き出た。
氷は巨大なアンドロイドの足元へ炸裂し、アンドロイドは足を取られて転んだ。
「ふっ!」
追い打ちをかけるように手から大きな氷を飛ばし、アンドロイドに命中させる。
かなり大きな氷だったため、とどめを刺したと確信した。
「……さて、もう大丈夫よ――」
そう言いかけた時。
銀髪の少女は、頭上から迫り来る影に気が付けなかった。
一瞬の慢心。
それが、ヒーロー社会においてその身を滅ぼす。
それを、早くも身をもって体感した。
***
レイは、拳を握る。
攻撃を続ける周りの受験生。
しかしその攻撃は、そこまで効果がないように見える。
レイも手に水を浮かべ、アンドロイドの顔面目がけて攻撃を繰り出す。
アンドロイドの目に直撃し、少女を押さえつけているのとは別の手で、その目を覆った。
アンドロイドなのに痛覚があることに対して疑問を浮かべつつ、レイは次の一撃を繰り出そうと水の用意をする。
(……ああ、くそ)
レイは踏みとどまれず、その場に尻もちをついた。
視界が霞む。
しかしこれは、土煙由来のものではない。
息が苦しい。
しかしこれは、張り詰めた緊張感からくるものではない。
(……もう、限界かよ)
レイは、致命的な過ちを犯した。
出遅れたことで、一気に爆発させた足の水。
それから継続的に乗り続けた波。
その後のヘドロのアンドロイドとの戦闘にて、立て続けに出した技。
そして、またこの場に来るまでに戦ったアンドロイドに使った水と、乗ってきた波。
――レイは、既に許容できる放出量の限界に近かった。
(馬鹿か、僕は……!
どうしてペース配分のことを考えなかった!?)
地面に転がっている石を握りしめ、歯を食いしばるレイ。
「おい! 何があった!」
「鐵、山くん……」
「君は確か、星野君、だったか!
……はっ! あれは、君のガールフレンドじゃないか!?」
「違うよ……。でも、あの人が危ないかもしれない」
倒れたまま、レイは圧に状況を説明する。
それを聞いて、圧はゆっくりと頷いた。
「僕に、任せておけ!」
「何か、策はあるの?」
「ない。正面から殴り飛ばす」
「……」
あまりに無策としか言いようがない方法に、レイは黙り込む。
しかし、小細工をしても埒が明かなさそうなのもまた事実。
できることは、片っ端から試した方がいい。
そう思ったレイは、
「……任せた」
「任、された!」
圧はその場を蹴り飛ばし、アンドロイドの顔面に向かって飛び上がった。
そして大きく腕を振りかぶり、鼻骨を砕く勢いで、
「とりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
雄たけびを上げながら、その鉄槌を下そうとする。
しかし――、
「ぐあッ!」
その鉄槌が、顔面に届くことは叶わなかった。
「鐵山くん!」
圧は地面に叩き落され、そのまま激突した。
レイの目の前に倒れた圧は、「クソ……!」と悔しさを露わにする。
その拳が到達していれば、あるいは。
だが、届かなかった現実を受け止めるほかない。
グラグラと揺れる視界。
朝食べてきたものが丸ごと出てきそうな嘔吐感。
それらを振り払って、レイは立ち上がった。
それと同時に、
『B会場のα区域にいる受験生! 直ちにその場を離れろ!
そいつは、プログラムにエラーが発生している!
その区域以外へ向かえ!』
スネークヘッドのものだと思われる怒号が、エリア一帯に響き渡った。
それを聞いた受験生たちは攻撃をやめ、巨大アンドロイドに背を向けて逃げ出した。
「おい、立てるか、鐵山!」
「ああ……。ありがとう。
おい、星野くん! 逃げるぞ!」
「――」
「星野くん!」
「僕は、逃げない」
「――は?」
レイだけは背を向けることなく、巨大アンドロイドの方を向いている。
圧は撤退を促すが、それに応じることはなかった。
「何を言ってるんだ、君は……。
スネークヘッドから、撤退を命じられているんだぞ!」
「逃げたきゃ、逃げればいい」
「はぁ!? 聞いていなかったのか!?
あのアンドロイドには、プログラムエラーが生じている!
殺傷能力が増した、本物のフォールンさながらなんだぞ!」
「――まだ、あの人が捕まったままじゃないか」
圧はそう言われ、レイの顔を見る。
その視線は、アンドロイドの顔には向けられていなかった。
それよりも、もっと下。
足元に捕らわれている、銀髪の少女だった。
「でもっ……。星野くん――!」
「――僕は、逃げない!」
圧の必死の制止もむなしく、レイはその場を飛び出した。
揺れる視界の中を、まっしぐらに足元の少女に向かって進んでいく。
「ちょっと、あなた……! 逃げなさいよ!
何のために、戻って……!」
「助けてって顔を、してたからだよ!」
「……っ」
銀髪の少女の振り絞るような声は、走っているレイの耳に届いた。
そしてきっぱりと、そう言い切った。
(なんで、そこまで……!)
押さえつけられたまま、少女はそう心の中で呟く。
『受験番号745番! 逃げろと言っている!』
――うるさい。
「星野くん!!!!」
――――うるさい。
『クレイジーボーイ! 止まるんだー!』
誰の制止も、もう耳には入ってこない。
『テメェみたいな無能が――』
(僕みたいな無能でも!)
『テメェはヒーローになる資格なんざ――』
(資格なんて、なくても!)
レイはアンドロイドの攻撃をかわし、天高く飛び上がった。
『お前は、ヒーローになるべき人間じゃ』
(ヒーローになれると、言ってくれたんだ!)
レイは空中で、両手のひらをアンドロイドに向けた。
体の底から湧き上がってくるような熱。
それを、一気に腕を伝わせて手のひらへ。
――――そして一気に、爆発させる!
「――――――オーバージェット・ストリィィィィィィィム!!!」
消え行きそうな意識の中、レイははらわたが丸ごと飛び出すくらいの大声を上げて、一筋の太く青い光線を放った。
銀髪の少女はレイと別れた後の数十秒間で、四体のアンドロイドを撃破していた。
「ふぅ……」
汗すらかかないほど、彼女の周りは涼しい。
冷気をまといながら、移動しているのだ。
体温を上げるのは大事なことだが、汗をかけばその分消耗は激しくなる。
そこまで素早く動かずとも、彼女の技の威力はとうに超高校級。
涼しい顔をしながら、無傷でアンドロイド撃破を成し遂げている。
その時。
「キャァァァァァァァァ!」
そう遠くない所から、甲高い悲鳴が聞こえた。
ポイントには、ある程度の余裕がある。
そのため、迷うことなくその悲鳴の場所まで向かった。
「何があって……はっ!」
目の前に立っていた――否、もはやそびえ立っているのは、巨大ななにかだった。
(これがアンドロイドだったとするなら、やりすぎだわ!)
そう脳内で呟きつつ、少女は前に出た。
両手に氷を浮かべ、地面にその手をつけた。
そしてその地面から、鋭利な氷の壁がバリバリと音を立てて突き出た。
氷は巨大なアンドロイドの足元へ炸裂し、アンドロイドは足を取られて転んだ。
「ふっ!」
追い打ちをかけるように手から大きな氷を飛ばし、アンドロイドに命中させる。
かなり大きな氷だったため、とどめを刺したと確信した。
「……さて、もう大丈夫よ――」
そう言いかけた時。
銀髪の少女は、頭上から迫り来る影に気が付けなかった。
一瞬の慢心。
それが、ヒーロー社会においてその身を滅ぼす。
それを、早くも身をもって体感した。
***
レイは、拳を握る。
攻撃を続ける周りの受験生。
しかしその攻撃は、そこまで効果がないように見える。
レイも手に水を浮かべ、アンドロイドの顔面目がけて攻撃を繰り出す。
アンドロイドの目に直撃し、少女を押さえつけているのとは別の手で、その目を覆った。
アンドロイドなのに痛覚があることに対して疑問を浮かべつつ、レイは次の一撃を繰り出そうと水の用意をする。
(……ああ、くそ)
レイは踏みとどまれず、その場に尻もちをついた。
視界が霞む。
しかしこれは、土煙由来のものではない。
息が苦しい。
しかしこれは、張り詰めた緊張感からくるものではない。
(……もう、限界かよ)
レイは、致命的な過ちを犯した。
出遅れたことで、一気に爆発させた足の水。
それから継続的に乗り続けた波。
その後のヘドロのアンドロイドとの戦闘にて、立て続けに出した技。
そして、またこの場に来るまでに戦ったアンドロイドに使った水と、乗ってきた波。
――レイは、既に許容できる放出量の限界に近かった。
(馬鹿か、僕は……!
どうしてペース配分のことを考えなかった!?)
地面に転がっている石を握りしめ、歯を食いしばるレイ。
「おい! 何があった!」
「鐵、山くん……」
「君は確か、星野君、だったか!
……はっ! あれは、君のガールフレンドじゃないか!?」
「違うよ……。でも、あの人が危ないかもしれない」
倒れたまま、レイは圧に状況を説明する。
それを聞いて、圧はゆっくりと頷いた。
「僕に、任せておけ!」
「何か、策はあるの?」
「ない。正面から殴り飛ばす」
「……」
あまりに無策としか言いようがない方法に、レイは黙り込む。
しかし、小細工をしても埒が明かなさそうなのもまた事実。
できることは、片っ端から試した方がいい。
そう思ったレイは、
「……任せた」
「任、された!」
圧はその場を蹴り飛ばし、アンドロイドの顔面に向かって飛び上がった。
そして大きく腕を振りかぶり、鼻骨を砕く勢いで、
「とりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
雄たけびを上げながら、その鉄槌を下そうとする。
しかし――、
「ぐあッ!」
その鉄槌が、顔面に届くことは叶わなかった。
「鐵山くん!」
圧は地面に叩き落され、そのまま激突した。
レイの目の前に倒れた圧は、「クソ……!」と悔しさを露わにする。
その拳が到達していれば、あるいは。
だが、届かなかった現実を受け止めるほかない。
グラグラと揺れる視界。
朝食べてきたものが丸ごと出てきそうな嘔吐感。
それらを振り払って、レイは立ち上がった。
それと同時に、
『B会場のα区域にいる受験生! 直ちにその場を離れろ!
そいつは、プログラムにエラーが発生している!
その区域以外へ向かえ!』
スネークヘッドのものだと思われる怒号が、エリア一帯に響き渡った。
それを聞いた受験生たちは攻撃をやめ、巨大アンドロイドに背を向けて逃げ出した。
「おい、立てるか、鐵山!」
「ああ……。ありがとう。
おい、星野くん! 逃げるぞ!」
「――」
「星野くん!」
「僕は、逃げない」
「――は?」
レイだけは背を向けることなく、巨大アンドロイドの方を向いている。
圧は撤退を促すが、それに応じることはなかった。
「何を言ってるんだ、君は……。
スネークヘッドから、撤退を命じられているんだぞ!」
「逃げたきゃ、逃げればいい」
「はぁ!? 聞いていなかったのか!?
あのアンドロイドには、プログラムエラーが生じている!
殺傷能力が増した、本物のフォールンさながらなんだぞ!」
「――まだ、あの人が捕まったままじゃないか」
圧はそう言われ、レイの顔を見る。
その視線は、アンドロイドの顔には向けられていなかった。
それよりも、もっと下。
足元に捕らわれている、銀髪の少女だった。
「でもっ……。星野くん――!」
「――僕は、逃げない!」
圧の必死の制止もむなしく、レイはその場を飛び出した。
揺れる視界の中を、まっしぐらに足元の少女に向かって進んでいく。
「ちょっと、あなた……! 逃げなさいよ!
何のために、戻って……!」
「助けてって顔を、してたからだよ!」
「……っ」
銀髪の少女の振り絞るような声は、走っているレイの耳に届いた。
そしてきっぱりと、そう言い切った。
(なんで、そこまで……!)
押さえつけられたまま、少女はそう心の中で呟く。
『受験番号745番! 逃げろと言っている!』
――うるさい。
「星野くん!!!!」
――――うるさい。
『クレイジーボーイ! 止まるんだー!』
誰の制止も、もう耳には入ってこない。
『テメェみたいな無能が――』
(僕みたいな無能でも!)
『テメェはヒーローになる資格なんざ――』
(資格なんて、なくても!)
レイはアンドロイドの攻撃をかわし、天高く飛び上がった。
『お前は、ヒーローになるべき人間じゃ』
(ヒーローになれると、言ってくれたんだ!)
レイは空中で、両手のひらをアンドロイドに向けた。
体の底から湧き上がってくるような熱。
それを、一気に腕を伝わせて手のひらへ。
――――そして一気に、爆発させる!
「――――――オーバージェット・ストリィィィィィィィム!!!」
消え行きそうな意識の中、レイははらわたが丸ごと飛び出すくらいの大声を上げて、一筋の太く青い光線を放った。
0
あなたにおすすめの小説
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる