ヒーロー・オブ・ケプラー

天川 銀河

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第1章 黎明入学編

第19話 勇気の代償

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 ――あの時とは違う。

 レイは、自分の権能だけで他人を助けた。
 周りの建物にも被害は及ぼすことなく、アンドロイドだけに狙いを定めた。

 あとは……。

「おぉぉぉぉ落ちる落ちる落ちてる落ちてるぅぅぅ!!」

 どう、重力に逆らうかだ。
 否、そんな馬鹿げたことはできるはずがない。
 どうやって、着地するかだ。

(そうだ……! 衝突直前に水を出せば、衝撃を緩和できるはず……!)

 そう考えたレイは、試しに手から水を出そうとする。
 しかし、まるで弾詰まりを起こした銃のように、何かがつっかえている感覚がある。

 ――水は、出ない。

「やっべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――!!」

 市街地エリアBの全貌が見えそうなほど高々と舞い上がった体は、みるみる地面に近づいている。
 このままでは、原形を留めないくらいに無残な死を遂げることになる。
 恒一から教わった未来よりも早く、死に至ってしまう。

 為すすべが、ない。
 このまま、死んでしまうのか。
 ヒーローになる以前に、黎明の入試で命を落としてしまうのか。

 そんな考えが頭をよぎった、次の瞬間。

 下から、何かが伸びてきているのが見えた。
 透き通った色で、ゴツゴツとしている何か。
 それは、間違いなくレイに向かって伸びてきている。

「まだ死にたく、ないです……」

 そう、どこか神に祈るような言葉をこぼしたレイ。

 ――そしてその意識は、もう限界を迎えた。

 途絶える前、背中に柔らかい衝撃が走った。
 水でも風でもない、人の感触だった。


 ***


「――」

 レイは、目を覚ました。
 見たことのない天井。
 だがそれは、病室ではなさそうだった。

「おっ、目が覚めたっちゃね」

 初めて耳にする、しわがれた声。
 声のした方を見ると、そこにはその声に相応しい見た目の老婆が立っていた。

「っちゃ……?」
「星野レイ君、だっちゃね。自分の名前、わかるっちゃ?」

 独特の語尾が気になるが、レイは「わかります」と受け答えた。
 その老婆はホッと一息ついて、

「わっちはヒーリングババアだっちゃ」
「ば、ババア?」
「そうっちゃ。黎明の養護教諭だっちゃ。
 まあ、ババアでも、ミス・ヒーリングでも、好きなように呼ぶといいっちゃ」

 これまた独特の名前に驚きつつも、レイは助けてくれたことに感謝する。
 絆創膏や包帯など様々な器具があるのを見るに、ここは黎明の保健室だろう。
 しかし、腕に少し違和感がある。

「点滴……?」
「そうっちゃ。君、とんでもないくらいの脱水症状に陥ってたっちゃ。
 もう少し遅かったら、死んでたかもしれないっちゃ。何なら、こんなに早く目覚めたのが不思議なくらいっちゃ」

 「脱水」の二文字に、レイは全てを思い出した。

 巨大なアンドロイドが暴走し、あの銀髪の少女を行動不能にしていた。
 あのアンドロイドにはプログラムエラーが起こっており、試験官二人からはあの周辺区域からの撤退を命じられていた。
 それでもレイはその場から離れず、逆にアンドロイドに立ち向かった。
 あの銀髪の少女を助け出すために飛び出し、自分に出せる最高出力の技を繰り出し、あの巨大アンドロイドを撃破したものの、自由落下に抵抗できないまま……。

「僕、何で生きてるんですか?」
「ハハハ。生き延びた君が言うのもおかしな話っちゃね」
「でも、僕はあのまま地面に激突したとばかり……」
「実は、わっちもあの試験の様子を見てたっちゃ。
 それで、スネークヘッドとハウリングの命令を無視して対峙していた君が空から落ちていく様子を見て、わっちは覚悟したっちゃ。
 でも、銀色の髪の女の子が地面から氷の柱を生やして、落ちてくる君を抱き留めたのを見たっちゃ」
「――!」

 ミス・ヒーリングの言葉で、全てがつながった。
 意識を失う直前の、背中に走った柔らかい衝撃。
 あれは、銀色の少女が抱き留めてくれた衝撃だったのだ。

「あの……! あの人は今どこに……!」
「今はもう夕方の六時っちゃ。とっくの前に試験は終わって、みんな帰ったっちゃ」
「――」

 そうだ。
 大事なことを忘れていた。

 試験結果は、どうなったのだろうか。
 レイが撃破したアンドロイドは、せいぜい五体前後。
 エリア内には大量のアンドロイドが転がっていたし、他の受験生たちは相当な数を撃破したはず。
 そして、スネークヘッドの撤退命令がどうも引っかかる。
 退、ということは、別の区域では試験が続けられていたかもしれない。
 となると、残りの時間で他の受験生たちはさらにポイントを稼いだ可能性がある。

 ――不合格。
 最悪の三文字が、レイの頭を蝕んでいく。

「この点滴が終わって動けるようだったら、もう帰っていいっちゃ。
 明日は筆記試験もあるし、帰ってゆっくり休むといいっちゃ」
「はい、ありがとうございます。ミス・ヒーリング」
「まあ、脱水症状は尾を引くことがあるっちゃから、明日は無理しなくてもいいっちゃけど」
「――いえ、ダメです。無理してでも、試験を受けに来ます」

 レイの言葉に、ミス・ヒーリングはふっと笑って、レイの頭に手を伸ばす。

「君のように芯が強い子供は、久しぶりに見たっちゃ。
 応援してるっちゃよ、星野くん」
「……はい!」

 怪我人とは思えない声量に、ミス・ヒーリングは少々驚いた。
 が、また笑って頷いた。
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