鬱陶しい勇者が背後霊になった件

りん

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閑話 ブレイブ・モルガン

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 ブレイブ・モルガンは初代勇者の末裔である。

 だから、というわけではないが、彼は人一倍勇者という存在を尊敬していた。

 勇者は魔王が現れた時にのみ生まれる。
 魔王は百年ほどに一度現れ、人類を滅ぼすべく活動を開始する。
 それを止めるべく、勇者は存在するのだ。

 常から考えると、近いうちに魔王が現れるか、すでに現れていると聖国は予想していた。
 その予想は、高い戦闘能力を持つモルガン家にはすでに伝えられており、それはつまり近く勇者が生まれるということだった。

 ブレイブが生まれたのは、丁度その頃のことだった。

 彼に期待が掛けられたことも当然だろう。
 彼は厳しく育てられた。高い素質を持っていても、鍛えなければ宝の持ち腐れだ。いつか勇者として活躍するそのとき、決して遅れをとることがないように、と。
 幸いモルガン家では、というよりも勇者教会の総本山である聖国では、子は勇者を敬うように教育される。
 ブレイブとて例外ではなく、そのように育てられ、また親からも、「きっとお前が勇者だ」と言われ続けた。
 教育の成果か、ブレイブもそれを受け入れ、次期勇者としての誇りを持ち、日々努力を怠ることはなく、幼いながらもいくつかの魔術を使えるようになった。

 けれど、五つになっても六つになっても、彼に勇者の紋章が浮かぶことはなかった。
 元々、己が初代勇者の生まれ変わりであるという自覚はなかった。しかしそれ自体は、先祖の手記によれば珍しいことではなかった。
 自覚はある日ふと、天から授けられる、と。

 ブレイブはその日を信じ、努力を続けた。
 年を重ねるにつれ、同年代の友と遊ぶ時間を削り、追い詰めるように己を鍛え上げた。

 その様子に、両親は遅まきながら期待をかけ過ぎたことを後悔したが、何かが変わることはない。
 彼は努力を続けたのだ。

 そして、ある程度身体ができ、剣を持ち鍛えることが許されたその日はブレイブの誕生日だった。
 モルガン家では祝いとしてパーティーが開かれ、疎遠になっていた友人と語り合う時間も得られた。
 それは彼にとって、人生で最も楽しい日だったかもしれない。

 同日、エイラが勇者として目覚めていなければ。

 王国の王女が勇者であることは、瞬く間に聖国中に知れ渡った。
 もちろんブレイブとて例外ではない。

 己は勇者ではない。

 その現実は幼い少年には過酷すぎた。
 受け入れられず、そんなものは嘘に決まっていると、彼はがむしゃらに努力を続けた。

 己よりも年下の勇者が、魔族四匹を退けた。

 そんな噂も流れてきたが、やはり信じなかった。
 彼は努力を続けた。

 実際に会い、喧嘩を売って返り討ちにされた。

 ずっと頑張っていたのに、簡単に熨された。
 彼は努力を続けた。

 勇者に殴りかかったことで、両親に叱られ、慰められた。
 彼は努力を続けた。

 続けるしか、なかった。



 ◆◇◆◇◆



 五年後。
 十四のブレイブは騎士になった。
 勇者にはなれなかったが、その実力は彼の家系でも飛び抜けていた。それは素質も勿論だが、それ以上に彼の努力によるものが大きい。

 幼い頃から続けた努力は、決して彼を裏切らなかった。
 だが、それでもブレイブは勇者にはなれなかった。

 己は勇者ではなく、またエイラが勇者である。そのこと自体は、すでに理解している。
 消化しきれない感情は多々あれど、努力を重ねた己以上に強いあの少女が勇者であることは、ブレイブだって分かっている。
 分かってしまう程度には、年を重ねた。

 だって、勇者は最強なのだから、最強でない己が勇者であるはずがないだろう。

 エイラを認めることは難しかったが、勇者という存在への信仰が、彼を納得するに足らせたのだ。



 さて、彼の騎士としての初仕事は、聖都内の巡回警備だった。
 チンケな仕事とは思うなかれ。聖都は実に治安の良い都市ではあるが、それでも騒ぎが起こらないわけではない。ほんの些細な喧嘩であっても、美しく神聖な聖都には似つかわしくない。それを仲裁するのも、騎士としての職務の一つだ。
 ……まぁ、主に新人に任される仕事であることは否定できないが。

 ともあれ、彼の初仕事はそんなものだったのだ。

 鎧を纏い剣を携え、決められた順路を歩み聖都を回っていく。
 元々治安が良いこともあって、初日の巡回も、その次の日の巡回も、次の日も次の日も、何事もなく終わった。
 ちょっとした揉め事は何度かあったが、それだけだ。怪我人も出ず、平和的に解決した。

 そんな、ブレイブにとってはつまらない毎日を送り一年が経ち、とうとう勇者が前線に出ることとなった。
 彼は未だ聖都を出る任務を許されていないのに。

 更に結果を出したと聞いて、どうしようもないほど嫉妬した。
 固く拳を握りしめ、朗報だと言わんばかりに教えてくれた先輩に形ばかりの礼を言って、自室に戻った。

「……どうして」

 口に出るのは、そんな言葉ばかりだ。
 己こそが勇者だと、信じていたあの頃。

 努力をした。努力をした。努力をした。

 豆が潰れても剣を振り、魔力が尽きるまで魔術の修練をした。
 今の今まで、ずっと続けてきた。

 だが、もう。

 大きく、深い溜息を長く長く吐いて。



 ブレイブの前線派遣が決まったのは、その次の日のことだった。
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