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ライバル令嬢登場!?
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メアリーに化粧を施してもらったあと客間に行くととそこには両親の姿はすでになく、レイ君だけになっていた。私の姿をまじまじと見た後、レイ君は『そのドレス、よく似合っています』なんて言うもんだから、年甲斐もなく照れてしまうわけで……。『こちらこそ、素敵なドレスをありがとう』というとレイ君は口元を緩めて『では、参りましょうか』、そういって自らが乗ってきた馬車までエスコートしてくれた。
それからクレメンス家の屋敷から馬車で揺られること1時間半ほど。あと数刻で、私の住んでいる街から二つほど東に進むと王族の住まう王都に到着する予定だ。その街は城壁に厳重に囲まれ、中に入れるものは王家の者やその側近、要するにこの国を治める者だけが入ることを許される街で、その街こそがこの国のガルシア王家の城がある『ガルシア』という街である。だからこそ、その街の中に入れるものは限られ、『ガルシア』の街の様子も伝え聞くしかないわけで……。
「じゃあ、王宮はやっぱり白いのね」
「えぇ。純白の城で、とても美しい城ですよ」
「街の真ん中に城があるって聞いたことがあるのだけれど……」
「そうですね。『ガルシア』の街の中心にあって、城を中心に街が円形に広がっています」
「へぇ」
城へ向かう道中、レイ君に街について尋ねる。私の質問にレイ君はわかりやすく、丁寧に答えてくれた。馬車の中、広めの四人掛けの席にレイ君と対面同士に座っている。腰かける部分も体を痛めないようにクッションのような素材でできていて、長時間座っても心地がよい。
馬車の中で、9歳という年の差もあり、お互いにジェネレーションギャップを感じるかと思っていたのだけれども、私の一つ上のお兄様がいるらしくて、私の世代の話もよく知っていたので、ジェネレーションギャップは感じなかったし、私の質問を丁寧に説明してくれたおかげで退屈もしない。
むしろ18歳のはずなのに、私なんかよりよほど博識だ。
「もしかして、あれが『ガルシア』!?」
馬車に設けられた小窓から外の様子を覗けば、レンガで作られた巨大な壁が露になっているのが見て取れた。まるで要塞のようだと思った。あまりの巨大さに「うわぁ……」と感動して
「でも、私なんかが入っても本当に大丈夫なの?」
とつい尋ねてしまった。中流貴族の令嬢だし、本当に大丈夫なのだろうか。今更だが、心配になってきた。入った途端、逮捕とかないよね。
不安になり問いかけるとレイ君は何故だか答えずにくすりと笑う。目の前を見るとどこか楽しそうに私を見ていた。
あれ、何か変なこと言った?もしかして、考えていること言っちゃってた?っていうか、なんで答えてくれないの!?あれ?もしかして、リアル逮捕ありえる奴!?なんて思っているとスッと立ち上がって、何故か空いていた左隣の席に座ってくる。
「あの……レイ君?」
さすが王室の馬車。四人が座っても余裕があるはずのスペースがあり、二人掛けの席でも肩が当たらないくらいのゆったりとした広さがある……はずなのだが。
「ちょ、ちょっと近くないかな!?」
レイ君の肩が当たり、意識してしまう。しかも、気のせいだろうか。徐々に身を寄せてきているような気がするし、『そうですか?』なんて言いながら手を絡めてくる。
「レ、レイ君!?」
レイ君のエメラルドグリーンの瞳がどこか怪しげに輝いたかと思うと
「先ほどの貴女の質問ですが……。貴女にはもっと自覚を持ってほしいですね」
と左の耳元に自らの顔を寄せてきた。左の耳が異常に熱い。思わず固まってしまった私にレイ君は
「貴女は“僕”の“婚約者”ですから、お招きしたんですよ」
“僕の”と“婚約者”を強調して、そう囁いた。その瞬間、馬車が止まる音がした。窓の外を見るとレンガで作られた巨大な壁に設けられた扉が開こうとしていた。
「ようこそ、『ガルシア』へ」
9つ下の“婚約者”はそう言って絡めた手をそっと自らの口元へ持っていき、軽く口づけをする。
もともとこういうふうなスキンシップをする人なのか。それとも、私が疎すぎるだけで今のご時世、これくらいやってのけるのが当たり前なのか。
やっぱり、私が舞い上がって調子に乗った瞬間に落とすという算段なのか。
とにもかくにも、この9つ下の“婚約者”のスキンシップは男性免疫力ゼロのアラサーの心臓には悪い。
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