6 / 26
1章 出会ったのは白魔導士
05
しおりを挟む
♢ ♢ ♢
「光の矢(シャイニングアロー_)!!!」
その言葉と共に、夜の闇を一瞬で切り裂く、雷光が目の前を駆け抜けた。それはまるで、夜空の星々を集めて、一本の槍にしたような圧倒的な輝きだった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!」
そして、次の瞬間、鼓膜を突き破るかのようなけたたましいほどの絶叫が、静かな湖畔の辺り一帯に響き渡った。暗闇の中でもわかるほどに白く輝いた矢のような光の塊が、吸い込まれるように私に右翼を伸ばしかけていた“ソレ”に突き刺さったのだ。鱗に覆われた体から煙が立ち昇るのが見えた。その動きに、先ほどの傲慢さや余裕はみられない。
「オマエ、ナニヲシタ!?」
ギリッと奥歯を噛み締めながら私を睨みつける“ソレ”に対して、九死に一生を得た私は驚きのあまり言葉なんて出ないわけで。
「何をしたって――……」
問われたところで身に覚えもない。私がしたのは、ただ恐怖に身体を硬直させていたことだけ。この奇跡的な出来事は、私とは何の関係もない。
「オマエ、カナラズツレテイク!!!」
“ソレ“が苛立ったように声を張り上げ、残った左翼を振り上げながら再び近づいてくる。恐怖のあまり身を竦めた瞬間、私のすぐ近く、誰もいなかったはずの空間から声が聞こえた。
「誰が誰を連れて行くって?」
――それは、意志のある力強い声。そして、異形の姿が、一瞬で視界から遮られた。
「えっ――……?」
ふわりと目の前に白い何かが降り立ったからだ。音もなく、まるで夜空に舞う羽のように、優雅に。
「誰――……?」
純白のマントに身を包んだ“その人”は、月明りを凝縮したような明るい黄金色の髪をしていた。その髪は、夜の闇の中でも透き通るように輝いている。
ーー光のような人、そう思った。
「遅くなって、ごめんね。もう、大丈夫だから」
そう言って“その人”は振り返った。声は低く穏やかで、極度の恐怖に支配されて身を竦めている私を安心させるように月よりも眩しい微笑みを浮かべた。その表情には一切の焦りがない。彼からの黄金色の髪から覗く右耳につけてある細長い結晶型の耳飾りが、光を反射してキラリと揺れる。
「あとは俺に任せて」
そして、彼は片翼を押さえ込んでいる異形の“ソレ”から私を完全に隠すように立ちはだかった。夜風が彼が纏っているマントと黄金色の髪を優しくそよいでいる。
「君か?最近この近くの村の女性を攫っていたのは?」
マントの隙間から見える異形の“ソレ”は私の目の前に立っている“その人”をギリッと睨みつけていた。その紫色の瞳に、驚愕と警戒の色が色濃ゆく浮かんでいる。彼の予想外の登場に戸惑っているようだ。
「キサママドウシカ!?」
「そうだよ。村の娘が姿を消したと連絡が入ってね。調査に来たんだ。……――で、君がやったのかい?」
“その人”は右手を自らの腰に当てて試すように再び問いただした。すると、異形の“ソレ”の双眼が禍々しく輝き始めた。
「オマエハコロス!!!!ソノオンナハムスメタチトオナジヨウニマオウサマノモトヘツレテイク!!!!」
「その反応、犯人はやっぱり君みたいだね」
激昂し殺意を込めてギロリと睨みつける“ソレ”に対して、“その人は”ただ静かに言った。風が吹き、彼の後ろに流される。その時に見た彼の瞳は、澄み渡る青色で、そして一切の揺るぎもなく目の前の“ソレ”を捉えていた。その青い瞳は、正義と決意に満ちていた。
「オマエハユルサナイ!!」
先に動いたのは異形の“ソレ”だった。左翼を振り上げ禍々しい色を放ちながら円陣が“その人”の周りを取り囲んだ。先ほどよりも早く、大きく。
(あれが来る!)
「危ない!!」
私がそう反射的に叫んだ瞬間、“ソレ”は全身の鱗をざわめかせながら
「悪魔の鞭(イーブルウィップ)!」
キャハハと高笑いをあげ、勝ち誇ったかのようにそう叫んだ。尖った鞭のような木の根が獰猛な意思を持って“その人”に向かって一直線に向かっていく。目も当てられず抱きしめていた子猫ごと両手で顔を覆いかけた刹那
「悪いが、ここで殺されるわけにはいかないんだ」
目の前から平静を保った声が聞こえた。私は思わず覆いかけた手をぴたりと止めてしまう。私が恐ろしいスピードで向かってくる木の根をただ見ることしかできなかったのに対して、“その人”は真っすぐ前を見据えていた。
ーーけれど、一瞬。ほんの一瞬。私を襲った異形の生き物に対して、痛ましい何かを見るような視線を寄越したような気がした
けれどもそれは一瞬のことで、左手を夜空に向かって掲げた。すると、異形の“ソレ”が発動した円陣の内側に眩い光の円陣が浮かび上がった。
「邪悪なる者を消し飛ばせ!(光の風__ライジングブラスト)!!」
そう彼が言うと光が辺り一帯を包み込んだ。
ーーそれは真昼のように明るく、私は眩しさのあまり目を閉じた。
そして、巨大な轟音と、何かが弾け飛ぶような衝撃が身体を揺さぶった。
「光の矢(シャイニングアロー_)!!!」
その言葉と共に、夜の闇を一瞬で切り裂く、雷光が目の前を駆け抜けた。それはまるで、夜空の星々を集めて、一本の槍にしたような圧倒的な輝きだった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!」
そして、次の瞬間、鼓膜を突き破るかのようなけたたましいほどの絶叫が、静かな湖畔の辺り一帯に響き渡った。暗闇の中でもわかるほどに白く輝いた矢のような光の塊が、吸い込まれるように私に右翼を伸ばしかけていた“ソレ”に突き刺さったのだ。鱗に覆われた体から煙が立ち昇るのが見えた。その動きに、先ほどの傲慢さや余裕はみられない。
「オマエ、ナニヲシタ!?」
ギリッと奥歯を噛み締めながら私を睨みつける“ソレ”に対して、九死に一生を得た私は驚きのあまり言葉なんて出ないわけで。
「何をしたって――……」
問われたところで身に覚えもない。私がしたのは、ただ恐怖に身体を硬直させていたことだけ。この奇跡的な出来事は、私とは何の関係もない。
「オマエ、カナラズツレテイク!!!」
“ソレ“が苛立ったように声を張り上げ、残った左翼を振り上げながら再び近づいてくる。恐怖のあまり身を竦めた瞬間、私のすぐ近く、誰もいなかったはずの空間から声が聞こえた。
「誰が誰を連れて行くって?」
――それは、意志のある力強い声。そして、異形の姿が、一瞬で視界から遮られた。
「えっ――……?」
ふわりと目の前に白い何かが降り立ったからだ。音もなく、まるで夜空に舞う羽のように、優雅に。
「誰――……?」
純白のマントに身を包んだ“その人”は、月明りを凝縮したような明るい黄金色の髪をしていた。その髪は、夜の闇の中でも透き通るように輝いている。
ーー光のような人、そう思った。
「遅くなって、ごめんね。もう、大丈夫だから」
そう言って“その人”は振り返った。声は低く穏やかで、極度の恐怖に支配されて身を竦めている私を安心させるように月よりも眩しい微笑みを浮かべた。その表情には一切の焦りがない。彼からの黄金色の髪から覗く右耳につけてある細長い結晶型の耳飾りが、光を反射してキラリと揺れる。
「あとは俺に任せて」
そして、彼は片翼を押さえ込んでいる異形の“ソレ”から私を完全に隠すように立ちはだかった。夜風が彼が纏っているマントと黄金色の髪を優しくそよいでいる。
「君か?最近この近くの村の女性を攫っていたのは?」
マントの隙間から見える異形の“ソレ”は私の目の前に立っている“その人”をギリッと睨みつけていた。その紫色の瞳に、驚愕と警戒の色が色濃ゆく浮かんでいる。彼の予想外の登場に戸惑っているようだ。
「キサママドウシカ!?」
「そうだよ。村の娘が姿を消したと連絡が入ってね。調査に来たんだ。……――で、君がやったのかい?」
“その人”は右手を自らの腰に当てて試すように再び問いただした。すると、異形の“ソレ”の双眼が禍々しく輝き始めた。
「オマエハコロス!!!!ソノオンナハムスメタチトオナジヨウニマオウサマノモトヘツレテイク!!!!」
「その反応、犯人はやっぱり君みたいだね」
激昂し殺意を込めてギロリと睨みつける“ソレ”に対して、“その人は”ただ静かに言った。風が吹き、彼の後ろに流される。その時に見た彼の瞳は、澄み渡る青色で、そして一切の揺るぎもなく目の前の“ソレ”を捉えていた。その青い瞳は、正義と決意に満ちていた。
「オマエハユルサナイ!!」
先に動いたのは異形の“ソレ”だった。左翼を振り上げ禍々しい色を放ちながら円陣が“その人”の周りを取り囲んだ。先ほどよりも早く、大きく。
(あれが来る!)
「危ない!!」
私がそう反射的に叫んだ瞬間、“ソレ”は全身の鱗をざわめかせながら
「悪魔の鞭(イーブルウィップ)!」
キャハハと高笑いをあげ、勝ち誇ったかのようにそう叫んだ。尖った鞭のような木の根が獰猛な意思を持って“その人”に向かって一直線に向かっていく。目も当てられず抱きしめていた子猫ごと両手で顔を覆いかけた刹那
「悪いが、ここで殺されるわけにはいかないんだ」
目の前から平静を保った声が聞こえた。私は思わず覆いかけた手をぴたりと止めてしまう。私が恐ろしいスピードで向かってくる木の根をただ見ることしかできなかったのに対して、“その人”は真っすぐ前を見据えていた。
ーーけれど、一瞬。ほんの一瞬。私を襲った異形の生き物に対して、痛ましい何かを見るような視線を寄越したような気がした
けれどもそれは一瞬のことで、左手を夜空に向かって掲げた。すると、異形の“ソレ”が発動した円陣の内側に眩い光の円陣が浮かび上がった。
「邪悪なる者を消し飛ばせ!(光の風__ライジングブラスト)!!」
そう彼が言うと光が辺り一帯を包み込んだ。
ーーそれは真昼のように明るく、私は眩しさのあまり目を閉じた。
そして、巨大な轟音と、何かが弾け飛ぶような衝撃が身体を揺さぶった。
1
あなたにおすすめの小説
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
俺の妻になれと言われたので秒でお断りしてみた
ましろ
恋愛
「俺の妻になれ」
「嫌ですけど」
何かしら、今の台詞は。
思わず脊髄反射的にお断りしてしまいました。
ちなみに『俺』とは皇太子殿下で私は伯爵令嬢。立派に不敬罪なのかもしれません。
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻R-15は保険です。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
悪役令嬢の役割は終えました(別視点)
月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。
本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。
母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。
そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。
これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる