脱サラニートになるつもりが、白魔導士の婚約者になりました

九条りりあ

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1章 出会ったのは白魔導士

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♢ ♢ ♢






「光の矢(シャイニングアロー_)!!!」


その言葉と共に、夜の闇を一瞬で切り裂く、雷光が目の前を駆け抜けた。それはまるで、夜空の星々を集めて、一本の槍にしたような圧倒的な輝きだった。



「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!!」



そして、次の瞬間、鼓膜を突き破るかのようなけたたましいほどの絶叫が、静かな湖畔の辺り一帯に響き渡った。暗闇の中でもわかるほどに白く輝いた矢のような光の塊が、吸い込まれるように私に右翼を伸ばしかけていた“ソレ”に突き刺さったのだ。鱗に覆われた体から煙が立ち昇るのが見えた。その動きに、先ほどの傲慢さや余裕はみられない。


「オマエ、ナニヲシタ!?」

 
ギリッと奥歯を噛み締めながら私を睨みつける“ソレ”に対して、九死に一生を得た私は驚きのあまり言葉なんて出ないわけで。


「何をしたって――……」


問われたところで身に覚えもない。私がしたのは、ただ恐怖に身体を硬直させていたことだけ。この奇跡的な出来事は、私とは何の関係もない。



「オマエ、カナラズツレテイク!!!」


“ソレ“が苛立ったように声を張り上げ、残った左翼を振り上げながら再び近づいてくる。恐怖のあまり身を竦めた瞬間、私のすぐ近く、誰もいなかったはずの空間から声が聞こえた。


「誰が誰を連れて行くって?」


――それは、意志のある力強い声。そして、異形の姿が、一瞬で視界から遮られた。


「えっ――……?」


ふわりと目の前に白い何かが降り立ったからだ。音もなく、まるで夜空に舞う羽のように、優雅に。


「誰――……?」


純白のマントに身を包んだ“その人”は、月明りを凝縮したような明るい黄金色の髪をしていた。その髪は、夜の闇の中でも透き通るように輝いている。


ーー光のような人、そう思った。


「遅くなって、ごめんね。もう、大丈夫だから」


 そう言って“その人”は振り返った。声は低く穏やかで、極度の恐怖に支配されて身を竦めている私を安心させるように月よりも眩しい微笑みを浮かべた。その表情には一切の焦りがない。彼からの黄金色の髪から覗く右耳につけてある細長い結晶型の耳飾りが、光を反射してキラリと揺れる。


「あとは俺に任せて」


そして、彼は片翼を押さえ込んでいる異形の“ソレ”から私を完全に隠すように立ちはだかった。夜風が彼が纏っているマントと黄金色の髪を優しくそよいでいる。


「君か?最近この近くの村の女性を攫っていたのは?」


マントの隙間から見える異形の“ソレ”は私の目の前に立っている“その人”をギリッと睨みつけていた。その紫色の瞳に、驚愕と警戒の色が色濃ゆく浮かんでいる。彼の予想外の登場に戸惑っているようだ。


「キサママドウシカ!?」

「そうだよ。村の娘が姿を消したと連絡が入ってね。調査に来たんだ。……――で、君がやったのかい?」


“その人”は右手を自らの腰に当てて試すように再び問いただした。すると、異形の“ソレ”の双眼が禍々しく輝き始めた。


「オマエハコロス!!!!ソノオンナハムスメタチトオナジヨウニマオウサマノモトヘツレテイク!!!!」
「その反応、犯人はやっぱり君みたいだね」


激昂し殺意を込めてギロリと睨みつける“ソレ”に対して、“その人は”ただ静かに言った。風が吹き、彼の後ろに流される。その時に見た彼の瞳は、澄み渡る青色で、そして一切の揺るぎもなく目の前の“ソレ”を捉えていた。その青い瞳は、正義と決意に満ちていた。


「オマエハユルサナイ!!」


先に動いたのは異形の“ソレ”だった。左翼を振り上げ禍々しい色を放ちながら円陣が“その人”の周りを取り囲んだ。先ほどよりも早く、大きく。



(あれが来る!)


「危ない!!」


私がそう反射的に叫んだ瞬間、“ソレ”は全身の鱗をざわめかせながら


「悪魔の鞭(イーブルウィップ)!」


キャハハと高笑いをあげ、勝ち誇ったかのようにそう叫んだ。尖った鞭のような木の根が獰猛な意思を持って“その人”に向かって一直線に向かっていく。目も当てられず抱きしめていた子猫ごと両手で顔を覆いかけた刹那


「悪いが、ここで殺されるわけにはいかないんだ」


目の前から平静を保った声が聞こえた。私は思わず覆いかけた手をぴたりと止めてしまう。私が恐ろしいスピードで向かってくる木の根をただ見ることしかできなかったのに対して、“その人”は真っすぐ前を見据えていた。


ーーけれど、一瞬。ほんの一瞬。私を襲った異形の生き物に対して、痛ましい何かを見るような視線を寄越したような気がした


けれどもそれは一瞬のことで、左手を夜空に向かって掲げた。すると、異形の“ソレ”が発動した円陣の内側に眩い光の円陣が浮かび上がった。


「邪悪なる者を消し飛ばせ!(光の風__ライジングブラスト)!!」


そう彼が言うと光が辺り一帯を包み込んだ。


ーーそれは真昼のように明るく、私は眩しさのあまり目を閉じた。
  そして、巨大な轟音と、何かが弾け飛ぶような衝撃が身体を揺さぶった。

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