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2章 白魔導士の婚約者になりまして
02
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♢ ♢ ♢
窓辺に置かれていた自分がもともと着替えていた服に着替え、居住まいを正した私はルビーの後に続いて“ある場所”に案内してもらっていた。
まだ若干湿ってはいるが、彼シャツ状態よりはマシだろう。こう、気持ちとかそう言うのが。
流石の無頓着な私も、流石にライトが着ていた服だと思うと変に意識してしまうのだ。
「ここが食料を置いている場所だぞ」
客室から出て階段を一階降りた端の部屋。
誇らしげにゆらゆらと左右に尻尾を見つめているとルビーは立ち止まって振り返った。
案内されたのはいわゆるダイニングキッチン。
一言で表すのなら「生活の戦場跡」の様相を呈していた。
「えっ!?ここ……!?」
開けっ放しになっているその部屋を覗き込んで私は何度も何度も目を瞬かせた。
私は自分の目の前の光景を疑った。
「もしかして、ライトって片付け苦手!?」
まず、部屋の中央に置かれたソファー。
本来は憩いの場であるはずが、今は白いマントやシャツが無造作に山積みにされ、まるで雪崩が起きたかのように乱雑に物が置かれている。
向かいのテーブルの上には、食べ終えられた皿がいくつも重ねられ、乾いた果物の皮やパン屑が散乱している。
ただ一方でキッチンの周りだけが何も置かれていない。まるで一度も使っていないかのように。
フライパンも鍋もあるのにそれが使われた形跡が全く見えない。
フライパンや鍋といった調理器具が一式揃っているにもかかわらず、それが使われた形跡が全く見当たらない。
人差し指でステンレスの調理台をそっとなぞると、予想通り薄い埃が付着した。
唯一、水回りだけは辛うじて使われた痕跡があった。
シンクの周りには埃はないものの、金属のフチには水滴を拭き取らなかったことによる赤褐色の錆びが張り付いている。こちらでも洗われていない食器の山がまるで小さな要塞のように積まれていた。
「……わかりやすい」
水だけここから飲んでいるのだろう。チラッと隅をみるとこちらでも洗われていない食器の山が積まれていた。
(意外だ……)
イケメンで、国を守る魔導士。何でも出来そうなライトにこんな弱点があったなんて。その完璧なイメージとのギャップに思わず目を瞬かせた。
「イチカ?どうしたもんね?」
物思いにふけていた私をルビーは不思議そうに振り返っていた。それに『何でもない』と答えて冷蔵庫まで歩いて中を覗き込む。
「……このリンゴは駄目そうね。このキュウリも危ないかも……。でも、このハチミツは大丈夫そうね……」
冷蔵庫の中に入っているもので傷んでいるものと傷んでいないものをより分ける。
「この牛乳と卵はいつのかしら?」
ラベルの貼られていない牛乳の瓶とカゴに入った卵。一見して判断が難しい食材だ。
「それは3日前魔族から助けた村の人がくれたやつだもんね!」
「なら、大丈夫ね」
私は卵と牛乳を傷んでないものエリアに置いた。
「にしても、ほとんど果物か生で食べれる野菜って……」
加熱する必要も調理する必要もないけれども。
戸棚を見るとパンが大量に置かれている。主食がパンと野菜と果物だけというのは流石に栄養が偏りすぎだ。
まぁ、私も働いていた時は似たような生活だったのだけれども。
もしも、こちらの世界にインスタントなんてものが存在するのなら完全に頼ってた口だ、
絶対。一通り見たところそのようなものはないから、こちらの世界には存在しないのだろう。
まぁ、私も実際人のことは言えないくらいの食生活は送っていたが。
それはともかくとして、このままでは体に栄養が偏るし、この部屋で食事を取ろうにも衛生的にも良くない気がする。
「ねぇ。ルビー」
私は傷んでいないものエリアに選り分けたブドウをモグモグとつまんでいるルビーに話しかけた。口の周りがブドウの汁で濡れている。
「何だもんね?」
口の周りについたブドウの汁をペロリと舌で舐めてルビーは首をかしげる。
そんなルビーに私は人差し指を立てて提案する
「今からルビーを片付け隊長に任命します!」
「片付け隊長!?僕、隊長!?」
「そう、片付け隊長!」
「……でも、めんどくさいもんね」
一瞬、興味を惹かれたように耳をピクリと動かしたが、すぐに耳をしおしおと下げた。そんなルビーの両脇に手を挟んで私は自分の肩に乗せる。ルビーは不思議そうに私をパチパチと目をさせて見ている。
「片付け一生懸命頑張ったらルビー隊長に、私特製の美味しい美味しいフレンチトーストでもご馳走するよ!」
私はそう言って紅色の大きな瞳を覗き込んだ。
「フレンチトースト?」
何だ?それ?という風にルビーは首をかしげる。興味津々とばかりに私をその大きな瞳で見る。
「甘くてふわふわのフレンチトースト。牛乳と卵と蜂蜜で作る美味しいトースト。ルビー隊長に食べて欲しいんだけどなぁ。一生懸命頑張った後のフレンチトーストは格別だと思うんだけどなぁ」
「甘くてふわふわ……」
「それに部屋が綺麗になったらライトも喜ぶと思うよ?」
片目をつぶってルビーに言うと
「ライトが!?」
と耳をピンと張って
「やるもんね!」
ルビーは即答した。
「家を綺麗にして、ライトをびっくりさせるもんね!」
(本当にライトのことが好きなんだなぁ)
「そうね、びっくりさせよう!」
私は意気込む素直なルビーを見て、口元を緩めた。
どうやら、偽りの婚約者である私の、異世界での最初の仕事は『家事代行』になりそうだ。
窓辺に置かれていた自分がもともと着替えていた服に着替え、居住まいを正した私はルビーの後に続いて“ある場所”に案内してもらっていた。
まだ若干湿ってはいるが、彼シャツ状態よりはマシだろう。こう、気持ちとかそう言うのが。
流石の無頓着な私も、流石にライトが着ていた服だと思うと変に意識してしまうのだ。
「ここが食料を置いている場所だぞ」
客室から出て階段を一階降りた端の部屋。
誇らしげにゆらゆらと左右に尻尾を見つめているとルビーは立ち止まって振り返った。
案内されたのはいわゆるダイニングキッチン。
一言で表すのなら「生活の戦場跡」の様相を呈していた。
「えっ!?ここ……!?」
開けっ放しになっているその部屋を覗き込んで私は何度も何度も目を瞬かせた。
私は自分の目の前の光景を疑った。
「もしかして、ライトって片付け苦手!?」
まず、部屋の中央に置かれたソファー。
本来は憩いの場であるはずが、今は白いマントやシャツが無造作に山積みにされ、まるで雪崩が起きたかのように乱雑に物が置かれている。
向かいのテーブルの上には、食べ終えられた皿がいくつも重ねられ、乾いた果物の皮やパン屑が散乱している。
ただ一方でキッチンの周りだけが何も置かれていない。まるで一度も使っていないかのように。
フライパンも鍋もあるのにそれが使われた形跡が全く見えない。
フライパンや鍋といった調理器具が一式揃っているにもかかわらず、それが使われた形跡が全く見当たらない。
人差し指でステンレスの調理台をそっとなぞると、予想通り薄い埃が付着した。
唯一、水回りだけは辛うじて使われた痕跡があった。
シンクの周りには埃はないものの、金属のフチには水滴を拭き取らなかったことによる赤褐色の錆びが張り付いている。こちらでも洗われていない食器の山がまるで小さな要塞のように積まれていた。
「……わかりやすい」
水だけここから飲んでいるのだろう。チラッと隅をみるとこちらでも洗われていない食器の山が積まれていた。
(意外だ……)
イケメンで、国を守る魔導士。何でも出来そうなライトにこんな弱点があったなんて。その完璧なイメージとのギャップに思わず目を瞬かせた。
「イチカ?どうしたもんね?」
物思いにふけていた私をルビーは不思議そうに振り返っていた。それに『何でもない』と答えて冷蔵庫まで歩いて中を覗き込む。
「……このリンゴは駄目そうね。このキュウリも危ないかも……。でも、このハチミツは大丈夫そうね……」
冷蔵庫の中に入っているもので傷んでいるものと傷んでいないものをより分ける。
「この牛乳と卵はいつのかしら?」
ラベルの貼られていない牛乳の瓶とカゴに入った卵。一見して判断が難しい食材だ。
「それは3日前魔族から助けた村の人がくれたやつだもんね!」
「なら、大丈夫ね」
私は卵と牛乳を傷んでないものエリアに置いた。
「にしても、ほとんど果物か生で食べれる野菜って……」
加熱する必要も調理する必要もないけれども。
戸棚を見るとパンが大量に置かれている。主食がパンと野菜と果物だけというのは流石に栄養が偏りすぎだ。
まぁ、私も働いていた時は似たような生活だったのだけれども。
もしも、こちらの世界にインスタントなんてものが存在するのなら完全に頼ってた口だ、
絶対。一通り見たところそのようなものはないから、こちらの世界には存在しないのだろう。
まぁ、私も実際人のことは言えないくらいの食生活は送っていたが。
それはともかくとして、このままでは体に栄養が偏るし、この部屋で食事を取ろうにも衛生的にも良くない気がする。
「ねぇ。ルビー」
私は傷んでいないものエリアに選り分けたブドウをモグモグとつまんでいるルビーに話しかけた。口の周りがブドウの汁で濡れている。
「何だもんね?」
口の周りについたブドウの汁をペロリと舌で舐めてルビーは首をかしげる。
そんなルビーに私は人差し指を立てて提案する
「今からルビーを片付け隊長に任命します!」
「片付け隊長!?僕、隊長!?」
「そう、片付け隊長!」
「……でも、めんどくさいもんね」
一瞬、興味を惹かれたように耳をピクリと動かしたが、すぐに耳をしおしおと下げた。そんなルビーの両脇に手を挟んで私は自分の肩に乗せる。ルビーは不思議そうに私をパチパチと目をさせて見ている。
「片付け一生懸命頑張ったらルビー隊長に、私特製の美味しい美味しいフレンチトーストでもご馳走するよ!」
私はそう言って紅色の大きな瞳を覗き込んだ。
「フレンチトースト?」
何だ?それ?という風にルビーは首をかしげる。興味津々とばかりに私をその大きな瞳で見る。
「甘くてふわふわのフレンチトースト。牛乳と卵と蜂蜜で作る美味しいトースト。ルビー隊長に食べて欲しいんだけどなぁ。一生懸命頑張った後のフレンチトーストは格別だと思うんだけどなぁ」
「甘くてふわふわ……」
「それに部屋が綺麗になったらライトも喜ぶと思うよ?」
片目をつぶってルビーに言うと
「ライトが!?」
と耳をピンと張って
「やるもんね!」
ルビーは即答した。
「家を綺麗にして、ライトをびっくりさせるもんね!」
(本当にライトのことが好きなんだなぁ)
「そうね、びっくりさせよう!」
私は意気込む素直なルビーを見て、口元を緩めた。
どうやら、偽りの婚約者である私の、異世界での最初の仕事は『家事代行』になりそうだ。
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