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2章

とある同居ドールの一日01

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♢ ♢ ♢



10月25日

AM6:30

俺の一日は

「今日もいい天気だなー」

窓のカーテンを開けることから始まる。

朝のすがすがしい陽の光を浴びて、小鳥のさえずる声を聞きながら、さぁ今日も頑張ろうと意気込む。


♢ ♢ ♢


AM6:42

身支度を整えて、キッチンへ立ち、冷蔵庫の中を確認する。中には、卵、ハム、レタス、トマトが入っている。そう言えば、食パンもあったなと思い出す。食パンをトーストにして……。

「今日は、目玉焼きとサラダだな」

本日のメニューは決まり。レタスを取り出して、まな板の上に置いた。

♢ ♢ ♢


AM7:18

「うん、よく出来た」

お皿に目玉焼き、サラダ、トーストを盛り付ける。そして、マスターが初めて褒めてくれたコーヒーをマグカップに注いでいると、がちゃりと扉が開く音がする。振り向けば、まだ眠いのか少し目をこする“彼女”が。

「おはよう、ハル。いつも、ありがとうね」

そして、くしゃりと笑う。

「おはよう、マスター。今日は、トーストと目玉焼きとサラダだよ」
「わぁ、美味しそう。道理で美味しそうな匂いがしたと思った。顔洗ってくるね!」
「うん、待っているよ」


♢ ♢ ♢


AM7:25

「いただきます」

顔を洗いすっかり目が覚めたマスターは、俺が用意した朝食を前に嬉しそうに手を合わせた。

「……そんなに見られると食べにくいんだけど」

じぃと彼女がトーストを口に運ぶ様子を見れば、どこか困ったように彼女は言う。そんな様子の彼女を見て

「前にも言ったでしょ?マスターに安らぎを与えるのが俺の仕事だって。それに、マスターが美味しそうに食べるのを見るのが好きなんだよ」

と笑って答えれば

「もう!!」

とマスターはどこか照れたようにいって、トーストを一口かじった。

彼女こそ、俺のマスター。そして、俺は彼女に安らぎを与える『同居ドール』だ。

♢ ♢ ♢


AM8:02

マスターが朝食を食べ終え、二人で洗い場に立つ。今日は、俺が洗う係、マスターが拭く係だ。本来は、俺が一人でやるといったのだが、マスターはご飯を作ってもらっているのにそれまで任せるわけにはいかないと言って聞かず、結果折衷案として、半分半分担当することになったのである。そんなことを思いながら俺に任せてくれればいいのにと思っていれば

「今日はいい天気ね」

と食器を拭きながら、マスター窓の外を見ていう。

「晴天ってこういうことを言うんだろうね」

俺が洗った食器をマスターの前に置きながら言えば、マスターは「そうだ!」と何かを閃いたようで楽し気な声を上げる。何を閃いたのだろうと洗う手を休めて、彼女を見れば

「天気もいいし、今日は河川敷に行こうか!」

そんな提案をしてきた。


♢ ♢ ♢


AM9:43

「んー、ポカポカ陽気ね~」

そういいながら、マスターがぐぐーと背伸びをしたのはマンションから徒歩で30分ほど離れた大きな河川敷。だだっ広い芝生が広がっている。平日の午前中ということもあって、人気は少ない。

「暖かい?」
「うん!ポカポカしてて気持ちいいよ」
「そっか、よかったね」

マスターは、気持ちよさそうに太陽を見上げている。人形である俺は、暖かい、冷たいといった外部の気温がわからない。それが当たり前のことだと思っていたけれど、マスターと同じことを共有することができないことが、少し悲しい。

「どうしたの?気分悪い?」

マスターは、聡い。無意識に表情を曇らせてしまったのだろう。心配そうに見上げている。同居ドールが、マスターに心配させてどうする。頭を軽く横に振ってから

「俺は、同居ドールだから、病気にはならないよ」

心配させないように笑って見せた。

そう、マスターと俺は違うのだから。
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