訳ありニートと同居ドール

九条りりあ

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2章

噓と偽りは紙一重03

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♢ ♢ ♢


「買った、買ったー!」
「ありがとう、マスター!」

買い物袋を右手に下げ、ハルは私の隣を歩いていた。ハルにとても似合う服が買えて、満足。ほかに何かないかと、ショッピングモールの中をぶらりと散策中。

「でも、よかったの?こんなにたくさん……」

紙袋を持ち上げ、ハルは首をかしげる。ニートだと初日に説明してある。お金のことを心配してくれているのだろう。

「……別に、お金は有り余ってはいないけれど、まだ当分持つからね」

仕事をしているときは、休日出勤は当たり前、たまの休みは疲れを取るために一日中寝ていた。幸か不幸か、お金なんて使う暇がなかったのだから。

「そっか」

ハルは私にそれ以上深く聞かずに柔らかく笑っただけだった。おそらく、気をつかって何も聞かないでくれたのだろう。そんなことを思っていれば

「おがあざんどごー!!!」

という涙を含んだ声が聞こえた。声をした方を見れば、4,5歳だろうか。幼稚園くらいの男の子が涙をぽろぽろ流して歩いていた。

「あの子、迷子かな?」
「たぶんね」

心配そうに尋ねてくるハルにそう答えてから、辺りを見渡す。母親らしき人はおらず、ほかの大人も知らん顔。

「どうしたの?お母さんとはぐれたの?」

気が付けば体が勝手に動いていた。膝をついて目線を彼と同じにする。

「うぐっ……、うん」

嗚咽をもらしながら彼は頷く。鞄からハンカチを取り出して、彼の目元を拭い『どこから来たかわかる?』と言えば、首をふるふると振った。

「お名前、言える?」
「……おおたけ……けんと」
「そっか、ちゃんと言えて偉いね。けんとくん、お姉ちゃんと一緒にママに会いに行こうか!」
「ママを?」
「うん!」

私が頷くと、けんと君は泣き止んでぱぁと笑顔になった。心細かったのだろう。ぎゅっと私が渡したハンカチを握りしめた。

「マスター、どこに連れていくの?」
「とりあえず、インフォメーションに。アナウンスしてもらおうと思う」

“よし!”と言って、私は立ち上がってけんと君の手を握ると、けんと君はツイツイともう片方の手で私の服の袖を引っ張った。

「どうしたの?」

不思議に思いけんと君を見れば

「お兄ちゃんも!」

けんと君はハルを見た。

「俺も?」
「うん!にぎにぎ!」

そういって私とは反対側の手で、ハルの手を握った。ハルは一瞬驚いたようだったが、やがて『うん、にぎにぎだね!』そういって、柔らかく微笑んだ。


♢ ♢ ♢


「マスターは、優しいね」

そうハルが言ったのは、けんと君をインフォメーションに送り届け、お母さんがけんと君を連れて帰るのを見届けた後。買い物も終え、駐車場に停めた車へ向かっている途中。買い物袋を右手に下げ、少し前にいたハルは振り向いた。

「え……?」
「けんと君のこと。ほかの人は、知らん顔して通り過ぎているのに、マスターだけだよ」
「……だって、心細いでしょ?」

ハルは直球に褒めてくる。それに裏がない。だからこそ、質が悪い。つい照れてしまい、我ながら可愛くないことを言っている自覚はある。

「マスターのそういう優しいところ、俺は好きだよ」
「……――ありがとう」

けれど、そんなのはお構いなしだ。こちらが恥ずかしくなる。

「それに、けんと君、あんなに泣いていたのに、一瞬で泣き止んだし、マスターは子どもと接するのに慣れているんだね」
「…………」

ハルの言葉に懐かしい光景が浮かんだ。

♢ ♢ ♢



「こんばんは!」
「こんばんは。あら、今日は一段と元気ね?何か嬉しいことでもあったの?」
「えへへ、わかる?」
「コラ、敬語でしょ?」
「はーい」
「伸ばさない」
「はい」
「うん、素晴らしい」

ころころと表情を変える子どもと接することが大好きだった。
子どもの笑顔を見るのが大好きだった。
なにより、身近で子どもの成長を見るのが大好きだった。


なのに………私は、逃げだしたんだ。



♢ ♢ ♢




「……マスター?」

はっと気が付いたときには空色の瞳が心配そうに私を見ていた。何でもないよと首を振るとハルは黙って私を見て、目を細めた。

「帰ろうか!!」

そして、買い物袋を持っていない方の手で私の手のひらを握った。

「わ!ちょ、ハル……!?」
「けんと君だけ、マスターとにぎにぎずるいからね!」
「にぎにぎ!?」
「そう、にぎにぎ!!」

ハルは私の右手をひっぱって前を歩いていく。

ハルの手のひらは相変わらず冷たいはずなのに、触れている手のひらは、柔らかく、そしてほんのり温かい気がした。ぎゅっと握り返せば、ハルは私より確かな力で握り返してきた。まるで、自分はここにいるから大丈夫だよと言っているような気がして、つい頬が緩む。

空を見上げればすっかり茜色に染まっていた。優しい風が私たちの間を通り過ぎていった。
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