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第二話 だって可愛いから
Chapter3
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―匠海―
「三浦、ちょっと頼み事していい?」
「はい。」
開いていたメールボックスの画面を閉じ、斜め向かいの席から手招きしている渡辺さんの傍へ行った。
「何ですか。」
「さっき佐伯が決算書のファイル探してくるって倉庫行ったんだけどさ。ついでにこれも探してほしいって言ってきて。」
手渡されたメモを見て、首をかしげる。
「電話した方が早くないですか?」
渡辺さんは、苦笑いで傍らのデスクを指さした。
「スマホ、置きっぱなし。」
「あー…わかりました、行ってきます。二階の倉庫ですよね?」
「おう、頼んだ。」
貰ったメモをカッターシャツの胸ポケットに突っ込んで、フロアを出た。
エレベーターに乗るほどの階数でもないので階段を下りていく。人の出入りが激しい午前中とは違って昼下がりの階段室に人の気配は無く、自分の革靴の音がやけに高く響く。
少し重い金属製の扉を開け、廊下の突き当りにある資料室の、古い引き戸を開けた。
雑多に置かれた段ボールに躓かないように奥へ行くと、キャビネットの前で分厚いファイルをめくって資料を見ている佐伯さんの姿が見えた。
たぶん埃をかぶるのを避けてか、ジャケットは着ていない。薄いカッターシャツ一枚の後ろ姿は、かなり細身だった。
俺が来たことに気づかないのか、佐伯さんはこちらを振り向かない。しばらくして捲っていたファイルを閉じると、元あったらしい棚に戻そうとして少し背伸びをした。随分高いところから取ったらしい。
そっと近づき、後ろから手を添えてファイルの背表紙を押し込んであげると、ようやく俺がいることに気が付いたのか、佐伯さんが振り返った。
「わっ!びっくりするやん、いつからおったん?」
「ついさっきです。佐伯さん、資料読むのに集中してたから。」
「ちょお、声掛けてや。心臓ばくばく言っとるで。」
大げさに胸に手を当ててみせる。色の白い、綺麗な手。
「ごめんなさい、驚かせて。」
「ええけど…三浦も何か探し物か?」
「あ、そうだ。渡辺さんから伝言が。」
メモを渡す。
「電話した方が早いんじゃないですかって言ったら、佐伯さんスマホ置いたまま行ったからって。」
「ああ、そういえば…わざわざありがとな。」
そう言ってまたキャビネットの方へ視線を向けた佐伯さんの隣に近づく。
「俺も、探すの手伝いましょうか。」
「ええのん?忙しないんか。」
「先輩のパシリも後輩の仕事のうちなんで。」
「お前ほんと、言いたいこと言いよるなあ。」
佐伯さんは苦笑すると、俺が持ってきたメモの一か所を指さした。
「なら、これ探してくれるか?」
「はい。」
渡されたメモに目を通し、書架に並んだファイルの背表紙を目で追っていく。
「これですかね?」
ファイルに指をかけつつ隣を見ると、またやたらと高い場所に置かれた紙ファイルを取ろうとしている佐伯さんの姿が目に入った。
「佐伯さん、俺取りますよ。」
「大丈夫や、もう少し…」
くい、とファイルの背表紙が抜けた拍子に、上に載っていたらしいプリントの束が落ちてきた。
「佐伯さんっ。」
咄嗟に体が動いた。落ちて来た紙束を左手で受け止め、佐伯さんをかばうように覆いかぶさる。
どさどさ、と音を立てて、プリント雪崩に巻き込まれたファイルの山が足元に落ちてきた。
「大丈夫ですか?」
抱きしめる格好になった佐伯さんに声をかける。
「ごめん、怪我せえへんかった?!」
がばっと顔を上げた佐伯さんと、超至近距離で目が合った。
くっきりとした二重瞼の目が見開かれる。驚いたはずみか、どんどん頬が赤くなっていく。
「!…あ、ごめ…」
びっくりして離れようとした佐伯さんの華奢な背中を、思わず抱き寄せた。
「へっ?!何…」
「佐伯さん、ほっそ。」
「は?」
「ちゃんと食ってるんすか?」
見た目通り、ほとんど肉のついてない脇腹に触れる。
「俺の腕ん中、収まっちゃう。」
「どこ触っ…、離してや!」
力任せに俺の腕を振り解いた佐伯さんと目が合う。
「…佐伯さん、顔真っ赤。」
指の背で、熱を持った頬にそっと触れる。
「可愛い。」
思ったまんまが口からこぼれ出た。
一瞬きょとん、とした後、佐伯さんの頬にますます血が昇っていく。
「あ、いやその。」
しまった、何言ってるんだ俺。
「他部署の人が噂してたんすよ。佐伯さんの事可愛いって。それで、その、確かにって思っちゃって、えーと…」
冷や汗が出てきて、首元を擦った。
「…ごめんなさい。」
「…。」
佐伯さんはしばらく目を泳がせた後、ふっと俺から顔を背けて、さっき俺が渡辺さんから預かってきたメモを突き出してきた。
「これ、探しといて。俺戻るわ。」
「え、あ…」
焦って、佐伯さん、と呼んだけれど無視された。
会議机の上に積んであったファイルを手に取ると、佐伯さんは資料室から足早に出て行ってしまった。
「…やべー。」
やらかした自覚はあったけれど、今なら、この間噂していた女性達と共感して語り合える気がする。
俺の腕の中にすっぽり収まった、細い感触が手から消えない。
怒らせたのはまずかったけど、照れた佐伯さんは確かに可愛くて。
「…て、俺何考えてんだ…?」
「三浦、ちょっと頼み事していい?」
「はい。」
開いていたメールボックスの画面を閉じ、斜め向かいの席から手招きしている渡辺さんの傍へ行った。
「何ですか。」
「さっき佐伯が決算書のファイル探してくるって倉庫行ったんだけどさ。ついでにこれも探してほしいって言ってきて。」
手渡されたメモを見て、首をかしげる。
「電話した方が早くないですか?」
渡辺さんは、苦笑いで傍らのデスクを指さした。
「スマホ、置きっぱなし。」
「あー…わかりました、行ってきます。二階の倉庫ですよね?」
「おう、頼んだ。」
貰ったメモをカッターシャツの胸ポケットに突っ込んで、フロアを出た。
エレベーターに乗るほどの階数でもないので階段を下りていく。人の出入りが激しい午前中とは違って昼下がりの階段室に人の気配は無く、自分の革靴の音がやけに高く響く。
少し重い金属製の扉を開け、廊下の突き当りにある資料室の、古い引き戸を開けた。
雑多に置かれた段ボールに躓かないように奥へ行くと、キャビネットの前で分厚いファイルをめくって資料を見ている佐伯さんの姿が見えた。
たぶん埃をかぶるのを避けてか、ジャケットは着ていない。薄いカッターシャツ一枚の後ろ姿は、かなり細身だった。
俺が来たことに気づかないのか、佐伯さんはこちらを振り向かない。しばらくして捲っていたファイルを閉じると、元あったらしい棚に戻そうとして少し背伸びをした。随分高いところから取ったらしい。
そっと近づき、後ろから手を添えてファイルの背表紙を押し込んであげると、ようやく俺がいることに気が付いたのか、佐伯さんが振り返った。
「わっ!びっくりするやん、いつからおったん?」
「ついさっきです。佐伯さん、資料読むのに集中してたから。」
「ちょお、声掛けてや。心臓ばくばく言っとるで。」
大げさに胸に手を当ててみせる。色の白い、綺麗な手。
「ごめんなさい、驚かせて。」
「ええけど…三浦も何か探し物か?」
「あ、そうだ。渡辺さんから伝言が。」
メモを渡す。
「電話した方が早いんじゃないですかって言ったら、佐伯さんスマホ置いたまま行ったからって。」
「ああ、そういえば…わざわざありがとな。」
そう言ってまたキャビネットの方へ視線を向けた佐伯さんの隣に近づく。
「俺も、探すの手伝いましょうか。」
「ええのん?忙しないんか。」
「先輩のパシリも後輩の仕事のうちなんで。」
「お前ほんと、言いたいこと言いよるなあ。」
佐伯さんは苦笑すると、俺が持ってきたメモの一か所を指さした。
「なら、これ探してくれるか?」
「はい。」
渡されたメモに目を通し、書架に並んだファイルの背表紙を目で追っていく。
「これですかね?」
ファイルに指をかけつつ隣を見ると、またやたらと高い場所に置かれた紙ファイルを取ろうとしている佐伯さんの姿が目に入った。
「佐伯さん、俺取りますよ。」
「大丈夫や、もう少し…」
くい、とファイルの背表紙が抜けた拍子に、上に載っていたらしいプリントの束が落ちてきた。
「佐伯さんっ。」
咄嗟に体が動いた。落ちて来た紙束を左手で受け止め、佐伯さんをかばうように覆いかぶさる。
どさどさ、と音を立てて、プリント雪崩に巻き込まれたファイルの山が足元に落ちてきた。
「大丈夫ですか?」
抱きしめる格好になった佐伯さんに声をかける。
「ごめん、怪我せえへんかった?!」
がばっと顔を上げた佐伯さんと、超至近距離で目が合った。
くっきりとした二重瞼の目が見開かれる。驚いたはずみか、どんどん頬が赤くなっていく。
「!…あ、ごめ…」
びっくりして離れようとした佐伯さんの華奢な背中を、思わず抱き寄せた。
「へっ?!何…」
「佐伯さん、ほっそ。」
「は?」
「ちゃんと食ってるんすか?」
見た目通り、ほとんど肉のついてない脇腹に触れる。
「俺の腕ん中、収まっちゃう。」
「どこ触っ…、離してや!」
力任せに俺の腕を振り解いた佐伯さんと目が合う。
「…佐伯さん、顔真っ赤。」
指の背で、熱を持った頬にそっと触れる。
「可愛い。」
思ったまんまが口からこぼれ出た。
一瞬きょとん、とした後、佐伯さんの頬にますます血が昇っていく。
「あ、いやその。」
しまった、何言ってるんだ俺。
「他部署の人が噂してたんすよ。佐伯さんの事可愛いって。それで、その、確かにって思っちゃって、えーと…」
冷や汗が出てきて、首元を擦った。
「…ごめんなさい。」
「…。」
佐伯さんはしばらく目を泳がせた後、ふっと俺から顔を背けて、さっき俺が渡辺さんから預かってきたメモを突き出してきた。
「これ、探しといて。俺戻るわ。」
「え、あ…」
焦って、佐伯さん、と呼んだけれど無視された。
会議机の上に積んであったファイルを手に取ると、佐伯さんは資料室から足早に出て行ってしまった。
「…やべー。」
やらかした自覚はあったけれど、今なら、この間噂していた女性達と共感して語り合える気がする。
俺の腕の中にすっぽり収まった、細い感触が手から消えない。
怒らせたのはまずかったけど、照れた佐伯さんは確かに可愛くて。
「…て、俺何考えてんだ…?」
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