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第六話 言えない本音
Chapter18
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―匠海―
営業先から戻る道中、地下鉄の駅を乗り換えたところで見覚えのある後姿を見つけた。
「名木ちゃん。」
「え?…あ、三浦じゃん。お疲れ。」
ほとんどマフラーに埋まった口元が柔らかく綻ぶ。
「三浦も、会社戻るとこ?」
「そう。てか、まだ昼食べれてないんだよね。」
空腹を訴えて縮こまる胃の辺りを撫でる。
「あ、じゃあどこか寄らない?」
「どこか?」
「カフェでも入ろうよ。ていうか、この間の出張の話聞かせて?」
「ああ…じゃあ、行こ。」
「うん。渡辺さんに連絡しておくね。三浦と昼休憩入りますって。」
そう言って、名木ちゃんはキャメルのコートのポケットからスマホを出してメッセージを打ち始める。
「真面目だな、相変わらず。黙って遅くなったってバレやしないのに。」
「ちょっと、その言い方はいつもサボってるな?」
上目遣いに、冗談ぽく名木ちゃんが言う。
「佐伯さんに言いつけちゃおっかな。三浦が遅くなった時は怪しいですよって。」
名前を聞いて、たぶん無意識に顔が強張ったんだと思う。
名木ちゃんはちょっと驚いた様子で、いや冗談だよ、と言ってポケットにスマホを戻した。
「ごめん、怒った?」
「あ…違うよ。で、どこ行くの?」
「ええとね、会社近くに良い感じのカフェがあってさ…」
名木ちゃんに連れて行かれたのは会社近くの裏通りに建っている、オーガニックな雰囲気のカフェレストランだった。
「なんか、いかにも名木ちゃんが好きそうな雰囲気のお店。」
日替わりのランチを口に運びながら言うと、スープを飲んでいた名木ちゃんの頬がほんのり赤くなった。
「そうかな。俺が見つけたんじゃなくて、最初は人に連れてきてもらったんだけど。」
「彼女?」
聞くと、少し間があって、うん、と小さく頷きが返ってきた。
「ふうん。いいね。」
「あ、えっとそれで…どうだった?出張は。」
慌てたように話題を逸らされる。
「あー…まあ、普通。」
「何それ。何してきたの?」
「京都の取引先に挨拶行って…大阪に移動して。また挨拶回りして。」
「うわ、大変そう。疲れるね。」
「で、夜は取引先の社長交えて飲み会になって…」
―記憶が、フラッシュバックする。
店に忘れたスマホを取って戻ってきたら、佐伯さんに知らない男が絡んでいた。
格好はきちんとしていたし、大阪の知り合いなのかと思って声をかけるタイミングを見計らっていたら、不意に会話が耳に飛び込んできた。
『戻らへん、ミサキさんとこには』
『大阪戻って来るなら、やり直そう―』
会話の内容の意味に理解が追い付く暇もなく、男が佐伯さんに顔を近づけて囁く姿が見えた。体を強張らせた佐伯さんの様子に気づいた瞬間、自分でも驚くような速さで俺は、男から佐伯さんを引き離してしまった。
「…三浦?」
心配そうな名木ちゃんの声で我に返る。
「あ…ごめん、どこまで話したんだっけ。」
「飲み会行って、それから?」
「…終わって、ホテル戻って、…寝た。」
「へえ。佐伯さんと、どこか飲みに行ったりしなかったの?」
無邪気に聞かれて、ホテルの部屋での出来事を思い出してしまう。
「飲ん…だよ、部屋で。」
「部屋で?コンビニでお酒でも買ったの?」
「いや、部屋の冷蔵庫の。」
「まじ?高いのに。」
ほんとだよな、と呟いて水を口に含む。
もしかして、飲まないとやってられなかったんだろうか。それ程、あの御崎という男との再会は佐伯さんを動揺させたのか。
…それとも。
「名木ちゃん。」
「うん。」
「佐伯さんの事、どう思う。」
サンドイッチを食べていた名木ちゃんの手が止まる。
「どう、って?すごい抽象的な質問だね。」
「うん。…で、どう?」
ええー…と、名木ちゃんが困った表情になる。
「優しい人だな、とは思うよ。」
「そうだよね。」
「けど。」
「けど?」
「ちょっと掴めないっていうか、壁を感じる事もある。」
「…どんな風に?」
「んー、上手く言えないけど。でも会社の先輩後輩なんて、そんなもんじゃないのかなあ。でも三浦といる時は楽しそうだよね。」
何でもない事のように言われ、どきりとする。
「…ほんとに?」
「うん。なんか、佐伯さんの素が出てる気がする。仲良いもんね、二人。」
「そうかな。」
「お弁当作ってもらったりしてるんでしょ?」
「いや最近はそんなに。」
「でも、そんな事するの三浦にだけだよね。佐伯さん、よっぽど三浦のこと気に入ってるのかな。」
「なら良いけど。」
プレートに残ったサラダをフォークでかき集める。食べながら、口元が緩むのを誤魔化した。
佐伯さんにとって、俺は”特別”だと思って良いんだろうか。
誰にでも優しいけれど、俺には色んな表情を見せてくれるし。
手料理も、何度か食べさせてもらっているし。
酒の勢いもあったかもしれないけれど、プライベートな事まで話してくれた。
佐伯さんは、俺の事をどう思ってるんだろう。
俺は、…佐伯さんの事。
「けどさ、寂しくなるよね。」
サンドイッチをかじりながら、不意に名木ちゃんが言う。
「寂しいって?」
「…え、三浦まさか聞いてないの?」
「何を。」
「あれ?その為に出張行ってきたんだよね?」
「だから、何。」
苛立ち混じりの声で問う。名木ちゃんは、困惑した様子で口を開いた。
「佐伯さん、来年から大阪に異動だよ。」
営業先から戻る道中、地下鉄の駅を乗り換えたところで見覚えのある後姿を見つけた。
「名木ちゃん。」
「え?…あ、三浦じゃん。お疲れ。」
ほとんどマフラーに埋まった口元が柔らかく綻ぶ。
「三浦も、会社戻るとこ?」
「そう。てか、まだ昼食べれてないんだよね。」
空腹を訴えて縮こまる胃の辺りを撫でる。
「あ、じゃあどこか寄らない?」
「どこか?」
「カフェでも入ろうよ。ていうか、この間の出張の話聞かせて?」
「ああ…じゃあ、行こ。」
「うん。渡辺さんに連絡しておくね。三浦と昼休憩入りますって。」
そう言って、名木ちゃんはキャメルのコートのポケットからスマホを出してメッセージを打ち始める。
「真面目だな、相変わらず。黙って遅くなったってバレやしないのに。」
「ちょっと、その言い方はいつもサボってるな?」
上目遣いに、冗談ぽく名木ちゃんが言う。
「佐伯さんに言いつけちゃおっかな。三浦が遅くなった時は怪しいですよって。」
名前を聞いて、たぶん無意識に顔が強張ったんだと思う。
名木ちゃんはちょっと驚いた様子で、いや冗談だよ、と言ってポケットにスマホを戻した。
「ごめん、怒った?」
「あ…違うよ。で、どこ行くの?」
「ええとね、会社近くに良い感じのカフェがあってさ…」
名木ちゃんに連れて行かれたのは会社近くの裏通りに建っている、オーガニックな雰囲気のカフェレストランだった。
「なんか、いかにも名木ちゃんが好きそうな雰囲気のお店。」
日替わりのランチを口に運びながら言うと、スープを飲んでいた名木ちゃんの頬がほんのり赤くなった。
「そうかな。俺が見つけたんじゃなくて、最初は人に連れてきてもらったんだけど。」
「彼女?」
聞くと、少し間があって、うん、と小さく頷きが返ってきた。
「ふうん。いいね。」
「あ、えっとそれで…どうだった?出張は。」
慌てたように話題を逸らされる。
「あー…まあ、普通。」
「何それ。何してきたの?」
「京都の取引先に挨拶行って…大阪に移動して。また挨拶回りして。」
「うわ、大変そう。疲れるね。」
「で、夜は取引先の社長交えて飲み会になって…」
―記憶が、フラッシュバックする。
店に忘れたスマホを取って戻ってきたら、佐伯さんに知らない男が絡んでいた。
格好はきちんとしていたし、大阪の知り合いなのかと思って声をかけるタイミングを見計らっていたら、不意に会話が耳に飛び込んできた。
『戻らへん、ミサキさんとこには』
『大阪戻って来るなら、やり直そう―』
会話の内容の意味に理解が追い付く暇もなく、男が佐伯さんに顔を近づけて囁く姿が見えた。体を強張らせた佐伯さんの様子に気づいた瞬間、自分でも驚くような速さで俺は、男から佐伯さんを引き離してしまった。
「…三浦?」
心配そうな名木ちゃんの声で我に返る。
「あ…ごめん、どこまで話したんだっけ。」
「飲み会行って、それから?」
「…終わって、ホテル戻って、…寝た。」
「へえ。佐伯さんと、どこか飲みに行ったりしなかったの?」
無邪気に聞かれて、ホテルの部屋での出来事を思い出してしまう。
「飲ん…だよ、部屋で。」
「部屋で?コンビニでお酒でも買ったの?」
「いや、部屋の冷蔵庫の。」
「まじ?高いのに。」
ほんとだよな、と呟いて水を口に含む。
もしかして、飲まないとやってられなかったんだろうか。それ程、あの御崎という男との再会は佐伯さんを動揺させたのか。
…それとも。
「名木ちゃん。」
「うん。」
「佐伯さんの事、どう思う。」
サンドイッチを食べていた名木ちゃんの手が止まる。
「どう、って?すごい抽象的な質問だね。」
「うん。…で、どう?」
ええー…と、名木ちゃんが困った表情になる。
「優しい人だな、とは思うよ。」
「そうだよね。」
「けど。」
「けど?」
「ちょっと掴めないっていうか、壁を感じる事もある。」
「…どんな風に?」
「んー、上手く言えないけど。でも会社の先輩後輩なんて、そんなもんじゃないのかなあ。でも三浦といる時は楽しそうだよね。」
何でもない事のように言われ、どきりとする。
「…ほんとに?」
「うん。なんか、佐伯さんの素が出てる気がする。仲良いもんね、二人。」
「そうかな。」
「お弁当作ってもらったりしてるんでしょ?」
「いや最近はそんなに。」
「でも、そんな事するの三浦にだけだよね。佐伯さん、よっぽど三浦のこと気に入ってるのかな。」
「なら良いけど。」
プレートに残ったサラダをフォークでかき集める。食べながら、口元が緩むのを誤魔化した。
佐伯さんにとって、俺は”特別”だと思って良いんだろうか。
誰にでも優しいけれど、俺には色んな表情を見せてくれるし。
手料理も、何度か食べさせてもらっているし。
酒の勢いもあったかもしれないけれど、プライベートな事まで話してくれた。
佐伯さんは、俺の事をどう思ってるんだろう。
俺は、…佐伯さんの事。
「けどさ、寂しくなるよね。」
サンドイッチをかじりながら、不意に名木ちゃんが言う。
「寂しいって?」
「…え、三浦まさか聞いてないの?」
「何を。」
「あれ?その為に出張行ってきたんだよね?」
「だから、何。」
苛立ち混じりの声で問う。名木ちゃんは、困惑した様子で口を開いた。
「佐伯さん、来年から大阪に異動だよ。」
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