想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい

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第六話 言えない本音

Chapter19

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―怜二―
三浦から提出された出張報告書のチェックをしながら、そっと様子を窺う。
俺の視線に気づいているのか無視しているのか、三浦はPC画面から一切目線を上げない。名木ちゃんと一緒に昼休憩から帰ってきてから、どうも様子が変だった。
小さくため息をついて、報告書の不備に赤ペンで印をつけていく。
「佐伯さん、会議資料の確認お願いします。」
「ああ…ありがと、名木ちゃん。」
「総務に行って来ますね。」
「うん。」
名木ちゃんが席を立ったところで、もう一度三浦を見た。
内線に出ていたが、短い用件だったのかすぐに受話器を置いたので、立ち上がってそばに行く。
「三浦、これ直しといて。」
「あ、はい。」
返事をして俺を見たかと思えば、すぐに目を逸らされた。
俺も特に何も言わず、そのまま席へ戻る。
名木ちゃんが作った会議資料のフォルダを開くが、内容が全く頭に入ってこない。
…やっぱり、この間の事が原因やろか。

あの日の夜、酒に酔ったせいもあって余計なことを話しすぎた。
翌朝目が覚めてから冷静に思い返すと、顔から火が出そうな記憶ばかり鮮明に残っていて。
幸い、二日目は朝から別行動で帰りの新幹線の時間もずれていたから顔を合わせずに済んだものの、週明け初めて顔を合わせた時はさすがに気まずかった。
…なんて思っていたのは俺だけだったのか、三浦は全部忘れたみたいな顔して普通に挨拶してきたのだが。
あれから一週間近く経つのに、何で今になって急に…。

「…い、おい。佐伯。」
「へっ?」
肩をゆすられ、慌ててナベさんの方を向く。
「どうしたんだよ。」
「え、何がですか。」
「何がじゃないだろ、さっきからずっと上の空で。」
ナベさんが俺のPC画面を指さす。
「あ…。」
画面を見ると、ずっと無意識にスクロールし続けていたのかデータの入力の無いページが表示されていて真っ白だった。
「ちょっと来い。」
「え?どこ行くんですか、ナベさん。」
「いいから。」
強引に腕を掴まれて席を立たされ、エレベーター脇の自販機そばにある休憩スペースに連れて行かれた。
「何、怒られるんですか俺。」
「座れ。」
「はい。」
スツールに腰かける。ナベさんも隣に座って内ポケットを探りながら、ここが社内だということを思い出したのか小さく舌打ちした。
「最近はどこも屋内禁煙でやってらんねーな。」
「喫煙OKやったとしても、今吸ったらまずいでしょうが。」
「まあいいわ、そうじゃなくてだな。」
腕を組み、ナベさんがこちらを見る。
「三浦と何かあった?」
「…何か、って…?」
背筋がひやりとする。どう誤魔化したものか悩んでいると、ナベさんがため息をついた。
「出張から帰ってきてから、お前ら変。目合わせないし気まずそう。かと思えば、何か言いたげに見てたりするし。」
「見てるって、俺が?」
「どっちも。…何、三浦が何かやらかしたの?」
「そういうわけじゃ…。」
歯切れの悪い俺を見かねたのか、ナベさんは、何だよおい、と笑いながら肩を抱いてくる。
「何かあったなら、ちゃんと上に報告しないとな~?」
「別にナベさん、上司やないでしょ…。」
苦笑しながら、ナベさんの腕から逃げる。どう話したものか迷っていると、よし、とナベさんが立ち上がった。
「今夜飲みに行こうぜ、佐伯。」
「ええ?ナベさんと、サシで?」
「いいじゃんたまには。予定あんの?」
「別に無いですけど。」
なら決まりな、とナベさんは俺を置いてさっさと営業フロアに戻って行ってしまった。
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