3 / 35
第一話 始まりの予感は桜色
scene3 合コン
しおりを挟む
-透人-
仕事を終え、渡辺さんと佐伯さんと一緒に営業部のフロアを出た。会社の受付前で、渡辺さんが声をかけたという秘書課の女の人達と待ち合わせていた。
「お疲れー。あれ、一人増えた?」
渡辺さんが顔馴染みらしい女の人に声をかける。三人ずつだと聞いていたけれど、待っていたのは四人だった。
「そっか、じゃあもう一人誰か呼ばないとな……」
「あ、なら三浦呼んできましょうか?」
何気なく俺が出した名前に、秘書課の新人らしき若い女の子が色めき立つ。
渡辺さんは顔を顰め、小声で耳打ちしてきた。
「あほか。あいつ連れてきたら女の子達、みんな取られるだろっ」
「……はぁ」
渡辺さん、もしかして誰か狙ってるんだろうか。
「いいや、あいつ呼ぼう。絶対暇してるから」
そう言うと、渡辺さんは誰かに電話をかけ始めた。
連れて行かれたのは、会社近くのお洒落なイタリアンバルだった。
「名木ちゃん、何飲むん?」
佐伯さんがメニューを広げて見せてくれる。渡辺さんは女の子達の相手に忙しそうだ。
「えっと、知らないお酒ばっかり……」
「普段飲まへんの?」
「あんまり得意じゃなくて」
「なら、とりあえずビール頼んどくか?」
俺は何にしようなあ、と佐伯さんはメニューを手に取って眺め始める。
その時、個室の戸がカラリと音を立てて開いた。渡辺さんが顔を上げる。
「お、来たか桃瀬」
気づいた渡辺さんが声をかける。
「やほー、裕斗。久しぶり。あ、遅れてごめんなさい」
よく通る声が聞こえて、俺も顔を上げた。
……最初に目に入ってきたのは、柔らかそうな桜色の髪の毛だった。それと、透けるような色白の肌。右の目じりの、涙ぼくろ。
一重なのにぱっちりとした目が、俺を見た。
何故だか心がざわついて、思わず目を逸らしてしまう。
「もう始めてた?」
桃瀬と呼ばれた彼は、空いていた俺の隣の席に座った。
「まだだよ、飲み物選んでるとこ」
渡辺さんが答える。自分の注文するものを決めた佐伯さんが、桃瀬さんにメニューを回した。
「俺、酒飲めないからなー。オレンジジュース」
「よし、じゃあ注文しよ」
渡辺さんが呼び出しボタンを押す。
注文した飲み物が届いたところで、乾杯して合コンがスタートした。
「俺、裕斗以外みんな初めましてなんだけど。皆さんは顔見知りなの?」
桃瀬さんが問いかける。大声で喋ってるわけじゃないのによく通る、心地よくて聞きやすい声だった。
「まちまちだよなー。女の子達は、新人さんが二人だっけ?こっちも、その子が新入りでさ」
渡辺さんが俺を手で指し示す。
「今日は名木ちゃんのお疲れ様会も兼ねてんねんな」
佐伯さんが俺に笑いかけてくれる。
「名木ちゃんていうの?」
桃瀬さんが俺を見る。
「えっと……渡辺さんがそう呼ぶので、営業部に広がってしまって」
「何でー?嫌?」
渡辺さんが不満げな声を発するので慌てて否定する。
「そうじゃなく……!」
「名木ちゃんて呼びやすいですね」
「かわいい」
「あ、そうですか?」
女の子達が笑ってくれるので、曖昧に笑って合わせておく。
「とりあえず、順番に自己紹介でもする?」
渡辺さんの仕切りで、女の子達と交互に自己紹介が進んでいく。
桃瀬さんは自分の名前と、渡辺さんとは高校の友達ってことしか言わなかった。そんな特徴的な髪色で、どこでどんな仕事をしているのかとか、色々気になったけれど、渡辺さんは女の子を会話の中心にしようとするので、そっちに合わせるしかない。
「名木ちゃん、どんどん飲みな。今日はナベさんが奢ってくれる言うてたで」
ようやくビールを飲み終わりそうというところで、佐伯さんがメニューを手渡してくれる。
「佐伯、適当に頼んでやれよ。思いっきり強いやつ!」
渡辺さんが向こう側の席から、無責任な事を言ってくる。
「あかんて。名木ちゃん、あんま酒得意やない言うたで」
「何言ってんだよ、酒なんか飲んでれば強くなるって」
佐伯さんがせっかく庇ってくれるのに、渡辺さんは無茶苦茶な事を言って勝手に何か注文しようとする。
「やめたりて」
「大丈夫です、せっかくだから何か飲んでみます」
空気が悪くなるのが嫌で咄嗟にそう言ってしまう。
「ほんまに?ええ子やな、名木ちゃん。まあ明日休みやしな、たまにはハメ外してみや」
そんなこんなで運ばれてきた、茶色く透き通ったお酒に口をつける。
鼻腔を突き抜ける強いアルコール臭のせいか、一気に目眩がするような酔いが回った。
渡辺さんに促されるまま、何か喋った気がする。
煽られて無理に飲み干して、また違う味のお酒を飲んだ気もする。
ー不意に記憶が、ふつりと途切れた。
仕事を終え、渡辺さんと佐伯さんと一緒に営業部のフロアを出た。会社の受付前で、渡辺さんが声をかけたという秘書課の女の人達と待ち合わせていた。
「お疲れー。あれ、一人増えた?」
渡辺さんが顔馴染みらしい女の人に声をかける。三人ずつだと聞いていたけれど、待っていたのは四人だった。
「そっか、じゃあもう一人誰か呼ばないとな……」
「あ、なら三浦呼んできましょうか?」
何気なく俺が出した名前に、秘書課の新人らしき若い女の子が色めき立つ。
渡辺さんは顔を顰め、小声で耳打ちしてきた。
「あほか。あいつ連れてきたら女の子達、みんな取られるだろっ」
「……はぁ」
渡辺さん、もしかして誰か狙ってるんだろうか。
「いいや、あいつ呼ぼう。絶対暇してるから」
そう言うと、渡辺さんは誰かに電話をかけ始めた。
連れて行かれたのは、会社近くのお洒落なイタリアンバルだった。
「名木ちゃん、何飲むん?」
佐伯さんがメニューを広げて見せてくれる。渡辺さんは女の子達の相手に忙しそうだ。
「えっと、知らないお酒ばっかり……」
「普段飲まへんの?」
「あんまり得意じゃなくて」
「なら、とりあえずビール頼んどくか?」
俺は何にしようなあ、と佐伯さんはメニューを手に取って眺め始める。
その時、個室の戸がカラリと音を立てて開いた。渡辺さんが顔を上げる。
「お、来たか桃瀬」
気づいた渡辺さんが声をかける。
「やほー、裕斗。久しぶり。あ、遅れてごめんなさい」
よく通る声が聞こえて、俺も顔を上げた。
……最初に目に入ってきたのは、柔らかそうな桜色の髪の毛だった。それと、透けるような色白の肌。右の目じりの、涙ぼくろ。
一重なのにぱっちりとした目が、俺を見た。
何故だか心がざわついて、思わず目を逸らしてしまう。
「もう始めてた?」
桃瀬と呼ばれた彼は、空いていた俺の隣の席に座った。
「まだだよ、飲み物選んでるとこ」
渡辺さんが答える。自分の注文するものを決めた佐伯さんが、桃瀬さんにメニューを回した。
「俺、酒飲めないからなー。オレンジジュース」
「よし、じゃあ注文しよ」
渡辺さんが呼び出しボタンを押す。
注文した飲み物が届いたところで、乾杯して合コンがスタートした。
「俺、裕斗以外みんな初めましてなんだけど。皆さんは顔見知りなの?」
桃瀬さんが問いかける。大声で喋ってるわけじゃないのによく通る、心地よくて聞きやすい声だった。
「まちまちだよなー。女の子達は、新人さんが二人だっけ?こっちも、その子が新入りでさ」
渡辺さんが俺を手で指し示す。
「今日は名木ちゃんのお疲れ様会も兼ねてんねんな」
佐伯さんが俺に笑いかけてくれる。
「名木ちゃんていうの?」
桃瀬さんが俺を見る。
「えっと……渡辺さんがそう呼ぶので、営業部に広がってしまって」
「何でー?嫌?」
渡辺さんが不満げな声を発するので慌てて否定する。
「そうじゃなく……!」
「名木ちゃんて呼びやすいですね」
「かわいい」
「あ、そうですか?」
女の子達が笑ってくれるので、曖昧に笑って合わせておく。
「とりあえず、順番に自己紹介でもする?」
渡辺さんの仕切りで、女の子達と交互に自己紹介が進んでいく。
桃瀬さんは自分の名前と、渡辺さんとは高校の友達ってことしか言わなかった。そんな特徴的な髪色で、どこでどんな仕事をしているのかとか、色々気になったけれど、渡辺さんは女の子を会話の中心にしようとするので、そっちに合わせるしかない。
「名木ちゃん、どんどん飲みな。今日はナベさんが奢ってくれる言うてたで」
ようやくビールを飲み終わりそうというところで、佐伯さんがメニューを手渡してくれる。
「佐伯、適当に頼んでやれよ。思いっきり強いやつ!」
渡辺さんが向こう側の席から、無責任な事を言ってくる。
「あかんて。名木ちゃん、あんま酒得意やない言うたで」
「何言ってんだよ、酒なんか飲んでれば強くなるって」
佐伯さんがせっかく庇ってくれるのに、渡辺さんは無茶苦茶な事を言って勝手に何か注文しようとする。
「やめたりて」
「大丈夫です、せっかくだから何か飲んでみます」
空気が悪くなるのが嫌で咄嗟にそう言ってしまう。
「ほんまに?ええ子やな、名木ちゃん。まあ明日休みやしな、たまにはハメ外してみや」
そんなこんなで運ばれてきた、茶色く透き通ったお酒に口をつける。
鼻腔を突き抜ける強いアルコール臭のせいか、一気に目眩がするような酔いが回った。
渡辺さんに促されるまま、何か喋った気がする。
煽られて無理に飲み干して、また違う味のお酒を飲んだ気もする。
ー不意に記憶が、ふつりと途切れた。
12
あなたにおすすめの小説
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
僕を守るのは、イケメン先輩!?
刃
BL
僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
今日は少し、遠回りして帰ろう【完】
新羽梅衣
BL
「どうしようもない」
そんな言葉がお似合いの、この感情。
捨ててしまいたいと何度も思って、
結局それができずに、
大事にだいじにしまいこんでいる。
だからどうかせめて、バレないで。
君さえも、気づかないでいてほしい。
・
・
真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。
愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる